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第74話

 修正等完了しましたので投稿します。楽しんでいってね。





 日が落ち始め普段より多くの燭台に火が灯され始めた代官所、避難民の心労をやわらげる意味でも普段より明るい代官所には、魔法の光と火の光が混ざって不規則に揺れている。


「以上がこれまでの報告となります」


 そんな代官所でも高所に位置するのはガスターの執務室、広めの部屋には大きなテーブルとその上に広げられた書き板の山、今も新しい書き板を手にした職員の男性が一通りの説明を終えたようだ。


「うーむ、何時までこの状況が続くかわからんが、衛生環境についてはもう少し注意してくれ、避難所での病気蔓延は一番困る。特に今は治療院もいっぱいだからな」


「分かりました。もう少し清掃の頻度を増やします」


 どんな報告を受けたのか、衛生面に注意するようにと指示を出すガスターの表情は優れない。外部からの補給が絶望的な現状ではその顔色も仕方ないものであるが、不思議と両手は机の上に置かれており、いつもなら押さえているお腹にも無駄な力が入っておらず楽そうだ。


「うむ、保存食はまぁ問題ないとして……これ何時まで続くんだ?」


「私に聞かれましても……学者も匙を投げましたから」


 机の上で組まれていた手を解くガスター、窓に目を向けると呆れにも似た溜息を洩らして街の様子に思わず呟く。篝火が焚かれた街の中は、進入してきた水によっていつもと違う揺らめくような光を反射している。


「ユウヒ殿のおかげで街が比較的無事とは言え、独力での復興には時間が掛かるな」


「何もかも足りませんな」


 街の被害は甚大とは言え、外に比べればまだマシである。だからと言って簡単に復興できる状態かと言えば、とてもじゃないがそんなこと軽々しく口に出来る状態ではない。もとより干ばつによって様々な資源が枯渇していた様な状況、そこ大量の水が流れ込んできて洪水を起こすなど泣きっ面に蜂も良い所である。


「水に関しては警備隊の魔道具を出してもらえる。食料は保存食で食いつなぐとして、問題は住居か、支援するにも資材が元々枯渇していたからな」


 唯一救いがあるとするなら、今まで待ち望んでいた水が捨てるほど手に入ると言う事ぐらいだ。スタールの警備兵は戦争が起きた時の備えに様々な物資が保管されており、その中には飲み水を作る為のろ過装置の様な魔道具も存在する。


「手が足りませんな、商人も動けないでしょうし」


 一方で全く足りない物資が建材で、一部はリサイクルも可能であるが、スタールは石やレンガ、土と言った材料で建てられる家が多く、陥没対策に多くの資材を使っていた事で土や石などの在庫は無く、また煉瓦も今から作っていては時間が掛かり、石を切り出すにも街の外には出れず、このままでは長い避難所生活は避けられそうにない。


「飛行商団が来てくれたりせんだろうか?」


「こんな辺境にですか?」


「そこまで辺境じゃないだろ?」


 そんな緊急時でも迅速に駆けつけてくれる商人が砂の海に存在するのだが、スタールには先ず来ないであろう商団の名は飛行商団。トルソラリス王国の東に連なる森林山脈、その山を越えた先に広がるドワーフやエルフの住む砂漠、さらにその奥の獣人などが多く住む地域などを主な活動場所としている彼らは、空を飛ぶ船に乗り各地を回る行商集団である。


「うま味が無いですよ、あと発着所もありません。大体にして彼らの主要な巡回エリアはドワーフ王国と砂エルフの砂漠ですよ? こっちは飛行限界点の影響で砂海に出て随分遠回りが必要ですし」


「森林山脈が無ければな」


 彼らがスタールに来れない理由はいくつかあるが、最も大きい理由が飛行限界点と言われる高度にあり、森林山脈はどこもその飛行限界点を越える高さの為に通過できず、また谷は狭く座礁の危険がある為一度砂海に出ないとトルソラリス王国に入国する事も出来ないのだ。誰が考えても利益の事を考えるなら空路を使わず海路で貿易を行った方がずっとましな状況で、態々不便なスタールまで真っ直ぐ空路を使ってやってくる物好きなど居るわけがない。


「無かったら国が無くなってますよ」


「うーむ」


 天然の要害にしてトルソラリス王国を様々な面で守り続けている森林山脈は、交易と言う面では王国にとって足枷となる存在なのだった。


 そんな考えても仕方ない事に思わず唸るガスターは、部屋に近付く足音に気が付くと顔を上げる。


「失礼します!」


「「!?」」


 入室して来たのは伝令兵、その姿に若干の怯えにも見えるしかめっ面を浮かべるガスターと報告に来ていた男性。


「あ、いえ! 問題ではありません!」


「……そうか、どうした?」


 その表情から彼らが何を考えているのか察した伝令兵は、苦笑いを浮かべるとすぐに背筋を伸ばして憂いを払う様に声を上げ、その言葉にほっと息を吐くガスターはそっとお腹を摩る。


「ユウヒ殿が来られました!」


「さっきの件かな? わかったお通ししてくれ」


「はい!」


 どうやら伝令の兵士はユウヒの来訪を伝えるために来たようで、なんでそんなことの為に伝令兵が来たのか少し不思議そうに目を瞬かせるガスターは、しかし今はどこも混乱状態であり、手が空いていれば誰しも手伝いに回っている事を思い出してすぐに納得した様に頷いて返事を返す。


「あれですか」


「人払いを頼む、何やら込み入った話になりそうだ」


「はい」


 あれと言って広い部屋の一画を占領する木箱に目を向ける男性に、ガスターは同じく木箱に目を向け頷くと、人払いを行う様に伝える。


 ガスターの要求に頷き退出する男性が、部屋を出る際に一瞥した木箱には大量の水晶が詰め込まれており、その大半は現在代官所の倉庫に搬入中であった。





「しつれいしますー?」


 ほどなくして現れるユウヒは、一人で現れると少し挙動不審に周囲を窺いながら現れる。どうやら人払いによって途中からは一人で行くように促されたようで、初めて入る場所故に部屋を間違っていないか少し不安の様だ。


「ああ、すまないこちらだ。ソファーに座ってくれ」


「いえいえ、妙に丁寧な対応だったのでちょっと」


 その不安の原因を察したガスターはユウヒをソファーに誘導すると、帰って来た返事に思わず苦笑いを浮かべる。何せ相手は魔法使いなので、その事を知っている人間は対応の仕方が分からず変に腰が低くなってしまっているようだ。


「うむ、ここからは外壁やその外が良く見えるからな、一部の職員はユウヒ殿が魔法使いと知っているのでその所為だろう……」


「あーなるほど?」


 さらにそこへ氷壁と言うおとぎ話の世界でしか見たことが無い様な魔法を見せられてしまっては、畏れの限界値が上限突破していてもおかしくはなく、一部の老兵はこっそりユウヒを神の如く拝んでいたのだが、ガスターはその事を心の中に仕舞っておくことにしたようだ。


「体調の方は問題ないだろうか?」


「ええ、特には」


「流石だな……それで話の前になんだが、あの壁はどのくらい持つのかね?」


 そんなガスターは、フードと砂避けを外したユウヒの顔を見詰め、少し不安そうに体調について触れるも、ユウヒは少し不思議そうにするだけで調子の悪そうな様子は見せない。その事に引き攣りそうになる口元を誤魔化す様に微笑むガスターは、肩から力を抜くと窓の外に目を向け問いかける。


「んー氷部分は明日の昼までに三分の一くらいは溶けそうですね。そのあと水があれば三日ぐらい維持して溶ける感じです。それまでには水が引いてくれると良いんですが」


 ユウヒもまた窓の外に目を向け、ここに来る前に確認した状況を思い出しながら話す。


 多少緑の多い地域と言ってもスタール周辺もまだ乾燥した砂漠地帯の一部であり、氷の魔法が使われるには向かない場所であり、特殊な氷に膨大な魔力を用いたとしてもそう長く維持は出来ない。況してやこの地は元々砂の海と言う魔力の流れに問題のある土地である為、長時間維持できる魔法の方がおかしいのである。


「引かないと?」


「ええ……まだしばらくは水が流れて来るかもとの事で、精霊が調べているようです」


「そうか、まだ安心はできないか……」


 ユウヒの魔法説明に自然と表情が強張るガスターは、話を進めることで誤魔化すが、まだしばらくは水が流れ込んでくると言う説明に肩を落とす。なにせ精霊が言っていると言うのだから、人が調べ考えることよりずっと精度は高いはずなのだ。


「あとで土壁の方は補強しておきますよ、範囲と展開速度を重視したのでちょっと脆くて、石材くらいには固めておきます」


「そんなことが? それは魔法が切れると戻るのだろうか?」


 心の中の甘い希望的観測を早々に破棄したガスターであったが、ユウヒの言葉に何か希望を見出したのか少し身を乗り出す様に問いかける。


「あー、もう一度魔法で土に戻さないと固まったままです。良くないですよね?」


「いやいやいや! その壁を後で石材として切り出してもいいだろうか?」


 それは氷壁の土台として魔法で作られた土壁、その土壁を更に石材の様に固く強化すると言うのだ。もし、もしもその石材が魔法の影響下になくとも維持される物であれば問題の一部が大きく改善される。それもまた甘い甘い希望的観測、本来土壁の魔法は魔法士が魔力を注入することで形と強度を変える魔法なのだから。


「元々外の地面を掘り返して使ったので、穴を埋め直せと言われたら使おうかなと……埋め戻しが必要ないなら使ってもらって構わないですけど?」


 しかしその希望的観測は正しく希望であった。


「街道沿いの穴か、私は直接見てないのだが、報告では素晴らしい溜池だと聞いているのでそのまま使わせてもらえたらと思っている」


「壁の材料兼、遊水地として掘ったので、表面も硬く加工しています。使ってもらえるならそのままにしておきますね。事後報告で申し訳ないですけど」


「いやいや、正直ユウヒ殿の手助けが無ければ街はどうなっていたか……」


 問いに対して返ってくる言葉はすべて希望に満ち溢れていた。


 元々湧水の多いスタールはその大半の水を垂れ流し無駄にしていた為、大きな溜池を作る計画が上がっていたのだが、領主からの支援も無く計画はとん挫していたのだ。そこに突然現れた立派過ぎるユウヒ作の溜池、埋め戻すなんてとんでもない。さらにその溜池を掘り起こした土が石材になると言うのだから逃す人間などスタールに居るわけがなく。


 多少の事後承諾など何の憂いにもならない。この時のガスターは、人目が無ければ小躍りしていたくらいには歓喜声を心で上げていた。


「精霊が言うには高台以外は無くなってたかもしれないそうです。水が吹きだした場所も他領に跨ってかなり広い範囲らしいです」


「……そうか、それではほかの街は?」


 その歓喜の声も続くユウヒの言葉で一瞬のうちに冷え、股間が縮んで持ち上がる様な幻痛を感じる。


「そっちは詳しく分からないですね。一部は壊滅してると聞きましたけど、精霊達もまだあちこち飛び回ってるみたいですから」


「そうか……いや助かりました」


 ユウヒが居なかった場合に起きていただろう未来を思い、じわりと胃が痛くなるガスターは、ユウヒが居なかった街の事もようやく気に出来る余裕が生まれたようだが、事態は彼が考えているよりももっと深刻なようだ。


「いえ、こちらの目的もありましたし……空振りだった気もしますけどね」


 スタールが助かったのは本当に偶然であり、ユウヒの目的と違えていた場合の被害は今より深刻だったかもしれない。


「あれか」


「それです」


 そんな外れくじを引いた気分のユウヒがこの場に訪れた理由は、彼等が見詰める先にある宝玉についてである。一体どんな話を聞かされるのか、話を聞く前から不安でいっぱいのガスターは、懐から真新しい包の薬を取り出すと、ユウヒに一言断りを入れて水差しの置かれた机に向かうのであった。



 いかがでしたでしょうか?


 ユウヒの思い付きは好転しスタールの、ガスターの胃の負担を和らげる。しかし本題がまだ待っており、その事がどう響くか、次回もお楽しみに。


 それでは、今日はこの辺で、皆さんの反応が貰えたら良いなと思いつつ、ごきげんよー

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