第72話
修正等完了しましたので投稿します。楽しんでいってね。
休憩しながら視界を宝玉の説明文で埋めるユウヒは、小一時間ほど経過した現在その個数を数える事を諦めていた。
「結構な数が集まったな」
<!>
いったい幾つ流れ着いたのか、丸い宝玉はあちこちに転がってしまうからと精霊が拾ってきた流木の囲いの中には丁寧に積まれた宝玉の山が出来ており、ユウヒを挟んで反対側には同じように積まれた宝玉の山がもう一つ出来てる。
「まだありそうだって? どんだけ……まぁこれだけの水量を用意するならもっと必要か」
綺麗な球体の物もあれば真っ二つに割れてしまった宝玉もあり、一つ一つ調べるユウヒは調べ終わった宝玉を精霊に渡しながら呆れた様に呟く。
二つの山はすでにユウヒの背の高さに迫りそうな高さであり、それだけ拾ってきてもまだありそうだと囁く精霊は、ピカピカと輝きやる気に満ちている。どうやら水の中かを探して拾い集める事が楽しくなってきたようだ。
「それにしても、これで水を周囲から奪ってたんだな」
精霊達の楽しそうな姿に小さく息を吐き少し困った様に微笑むユウヒは、同時に今回は当たりではなかったと小さく肩を落として右の山から拾った宝玉を見詰める。
「でも聞く限り使い方を間違っていたみたいだな、本来は大きな機械の中の1パーツに過ぎないのに魔法か魔道具か何かで無理矢理動かしてたのかな」
手に取ったのは宇宙軍仕様の宝玉の様で、虫食い文字が視界を埋めた。
宝玉を調べながら精霊達からこれまでの経緯を説明してもらったユウヒは、情報をすり合わせて何が起きたのかを推測して行く。
<……!>
「あ、両方なの? ふーん、これタンクパーツで吸水機能はあっても本来補助、メインとなるのは別の機械みたいだな」
水の精霊曰く、一番多く利用されていたのはスタールより大きな北の街、位置関係からサンザバール領の領都だと理解したユウヒは、今回の元凶はそこで問題ないだろうと考え、彼等の利用方法に何らかの問題があったのではないかと呆れながら宝玉を見詰める。
「ただ、機能制限されているだけだから解除しちゃうと普通に外部機器無しに機能するの何故?」
調べる中で、帝国仕様の宝玉が宇宙軍仕様の宝玉の劣化コピー品だと判明するが、コピー元の宇宙軍仕様品に関してもおかしなところを見つけて首を傾げるユウヒ。どうやら元々、宝玉単体でも外部機器無しに機能すると言うどこか矛盾したシステムが組まれていたようだ。
「元は別の何かをベースに作られたんだろうか? その辺は読み取れないな」
明らかに本来想定されたものとは矛盾、というよりオーバースペックな宝玉であるが、何故その様な仕様となったかは、金の右目があったとしても宝玉だけで理解出来るものではない。
「内部空間の拡張、水の転送収集、あとは給水機能か……壊れたのは内部空間の拡張部分だな」
そんな宝玉が何故今回の災害の原因になったかと言えば、際限なく吸収した水の圧力が空間拡張と言う機能を破壊したためであり、分りやすく言えば水風船に水を入れすぎた様な物である。
「拡張された空間が縮んで無理やり水を押し出した結果がこの水ってことね。流石は魔法と機械のハイブリットな宇宙文明の遺産だね」
ユウヒが手に持つ宇宙軍仕様の宝玉は、小さな宝玉内に拡張された広大な水タンクを有しており、そのタンクが決壊したことで大量の水を噴き出す結果となった。その空間を作り出しているのは、魔法技術と機械によって魔力を制御した結果生み出されており、その芸術的な構造にユウヒは目を輝かせる。
「いくつかは拝借するとして、あとは代官に投げとくか」
以前地球で視た育兎の道具にも似た作りをしている宝玉に創作意欲を駆り立てられたユウヒは、損傷の少ないものをいくつかそっとバッグに仕舞い込む。これだけ量があればそのくらいいだろうと自分を納得させるユウヒは、また一つ宝玉を手に取って眉間に皺を寄せる。
「この欠陥品は、特にこっちはこの国にとって重要だろうからね」
代官に投げると言って見詰める宝玉は二種類あるうちの一つである帝国製のコピー宝玉、しかもその性能は劣化も良い所であり、ユウヒの分析によると余計な部分も多く、より深刻な欠陥品となっている様だ。
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「そっくりだけどだいぶ違うよ」
欠陥品と言う言葉に不思議そうに瞬く精霊達、彼女達には宝玉の違いが分からないらしく、透明な丸い水晶に光を当てると非常に細かな虹色光彩が水晶内部に見える宝玉。その見た目だけなら違いなんてないに等しい宇宙軍仕様と帝国仕様の宝玉であるが、その中身はずいぶんと違うようだ。
「物はアルファプロ帝国製で、水の吸収に関しては最初からリミッターが無いのか」
アルファプロ帝国はトルソラリス王国の東側に位置し、長大な足を広げた蜘蛛の様に歪な国土の国である。
そんな国が作り出した宝玉には宇宙軍仕様の様に、水の吸収能力に制限が欠けられていない。これにより扱う側からすると発掘品より扱いやすい様だ。
「空間拡張は発掘品より少ない、破損時の安全対策もオミットされてるから瞬間的に水が放出されるみたいだ」
だが一方で帝国の作った宝玉の空間拡張能力には問題があるようで、宇宙軍仕様より容量が少ない上にコピーの際に抜けたのか、それとも作ることが出来なかったのか、安全対策がなされていなかった。
「もうこれ、水爆弾だよね……しかも量産品か」
発掘品の宝玉には拡張空間が破損した際にゆっくりと空間が収縮するよう、一応の安全対策がなされていたが帝国製にはそれが無く、拡張空間は一瞬で戻り、内部に収められた水は瞬間的に放出されてしまうようだ。水の負荷により多少放出速度は遅れたとしても膨大な質量の放出は爆弾と変わらず、発掘品もまた放出速度は遅くとも最大容量が途方もなく多いため被害はむしろ酷くなるであろう。
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「うん、そうだね……狙ってたんだろうね」
そんな宝玉、特に帝国製の宝玉はバザールだけではなくトルソラリス王国のあちこちに埋められていたと言う。その設置場所もアルファプロ帝国からトルソラリス王国に進行するのに都合がいい場所が多く、風の精霊によると蜘蛛の足の様に細く伸びた帝国と王国の国境沿いには、宝玉をたくさん所持した軍人が多く集まっていると言うのだからキナ臭さが余計に鼻を突く。
「だって、耐用年数がすごく短い。平均で2年も無いとか不良品だろ」
さらにユウヒの視界には彼の意思に従って帝国製の宝玉のデータがまとめ上げられ、そこには調べた宝玉の耐用年数並べられていくが、ほとんどが一年や二年しか保証できない様で、急激に水枯れが発生したタイミングと妙に合致する使用履歴の物が多い。むしろ今まで壊れなかったのが奇跡の様な宝玉が多いようだ。
「悪いけどもっと集めてくれる? 破損部分が多い所為で情報がうまく読み取れないわ」
そんな破損状況の宝玉だと読み取れる部分も少ないようで、山一つ分を解析してもまだまだユウヒにとって必要なデータは集まらないらしく、膝の上でへばった火の精霊達を撫でると、元気いっぱいの水の精霊達に向かってお願いする。
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集めてくるのはやぶさかでないと言いたそうに舞い飛ぶ精霊であるが、一回り大きな水の精霊は不思議そうに首を傾げた。
「ん? 何のためにと言われても、自分用に作っておこうかと思って、水はあって困らないからね」
彼女はユウヒから膨大で純粋な魔力を受け取った水の精霊、それからずっと水枯れの原因を探していた。そんな彼女は危険な宝玉を調べる事に僅かな不安を感じている様だが、ユウヒの返答には精霊が感じるような不安や危惧は無い。
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「あはは、こんな規模の装置は作らないよ。安全第一品質第二かな? 保管できる量はそんなに多く無くて良いから」
問いかけに対して宝玉を作ると言い出したことで慌てだす精霊であるが、彼女が危惧する様な物を作るつもりはないと笑うユウヒ。彼の頭の中にある装置は嵩張る水を勝手に貯めておいてくれる小さな宝玉であり、魔法で生み出してもいいがそれすらも面倒だと言う怠惰な発想、その発想の延長線上で最も重要視されるのは安全性である。
「この装置のまま作ると常に周囲の水分を収集し続けるから、容量があまりに多いと周辺の水を枯渇させちゃうよ」
帝国製の宝玉を弄りながら話す通り、あまりに膨大な容量を持っていればあっと言う間に周囲が乾ききってしまう危険性があり、その性能を逆に利用したのが今回の異常な水枯れで、そんな事をするつもりのないユウヒにとって拡張空間の容量は大して重要な問題ではない。
「それにしても、枯渇による弱体化とその後の爆発によるとどめとか、ずいぶんと悪辣な国なんだね、このアルファプロ帝国は……それにその国に加担した裏切り者か」
かと言って、拘りを捨てたわけではなさそうな笑みを浮かべるユウヒは、一つ息を吐くと帝国と言う国の悪辣さに冷たい表情を浮かべる。その表情は彼の母親である明華が怒った時に見せるものとよく似ていた。
「俺には関係ないけど、どうするのかな」
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じっと精霊が見詰めるユウヒは、どうでもよさそうに呟きながらも少し寂しそうに溜息を洩らし、彼の中にある複雑な感情に小さな精霊達は心配そうに淡く輝く。
「どこの世も人は争い合うものなのか、逃げた方が良いのかな……」
精霊達の反応に苦笑を漏らすユウヒは、もう一度溜息を洩らすと空を見上げる。その顔にはいつものやる気無さげな表情に僅かな疲れと呆れの感情が浮かんでおり、それは新たな旅を予感させる雰囲気を伴っていた。
一方その頃、王国と帝国の国境になっている緩衝地帯では問題が発生していた。
「第一第二偵察隊、第一突撃隊、第一第二工兵隊通信完全途絶! それを受け第二突撃隊撤退中! 最終通信は、前方より水と言う通信を最後に途絶!」
本来なら人の往来などほぼない筈の谷間には大量のテントが張られており、その中でもひときわ大きく豪華なテントの中で伝令兵士の大きな声が響く。
「何が起きていると言うのだ……」
トルソラリス王国と帝国の間には森林山脈と言われる高地が連なっており、天然の要害となるその山脈にはいくつか狭い谷間が存在する。他国に攻め入るなら空かその谷間しか移動手段は無く、それ故にその谷は本来なら両国が戦争を回避するための緩衝地のはずであるが、万全の装備で布陣する帝国には回避などする気が無い様だ。
しかし、攻め入る準備をしている帝国が狼狽える事態が発生している様で、突然の報告に指揮官と思われる豪華な服装の男性は驚き開いた口が塞がらない。
「大きな揺れがありましたが、最後の通信の水と言うのが気になりますな」
報告を終えた伝令兵は目配せを受けてその場をすぐに退出、指揮官の前には数人の男性が残るだけ、最も上座に近い場所に座るスキンヘッドの男性は、通信内容に触れて難しい表情を浮かべた。
どうやら彼らの布陣する場所にも地震が起こっている様で、その場に居る男性兵士達は視線を交わすと同じ様に難しい表情で唸る。
そんな室内の鬱積と空気は次の瞬間勢いよく吹き飛ばされた。
「閣下! すぐに本隊を撤退させてくだされ!」
「む? どういうことだ教授」
その原因はテントの中に飛び込んで来た老人、その後ろからは荷物を持ったとんがり帽子少女が遅れて入室し、ぺこぺこと周囲に頭を下げて見せる。
閣下と呼ばれたのは上座に座る指揮官然とした服装の男性で、突然現れたことに対して怒るでもなく、少し呆れた様に教授と呼ぶ辺り、彼等の関係性にはそれなりの信頼がある様だ。尚、周囲の男性達は呆気にとられ、スキンヘッドの男性は呆れて頭を抱えている。
「最悪の危惧が現実になってしまったのです!」
「最悪?」
最悪の危惧と言う言葉にスキンヘッド男性が目を鋭く細める前で、閣下と呼ばれた男性は訝し気に首を傾げた。最悪と言われて思い浮かぶものがなかった彼の姿に、教授は少し呆れ気味に溜息を洩らすと口を開く。
「量産宝玉の反応が次々と途絶しとる。これは想定された中でも一番厄介な現象ですぞ! すぐに撤退……いえそうですな、ドワーフ共の国境に再展開してくだされ」
「どういうことだ?」
教授と言う男性は帝国製の宝玉に深く関わる人物なのか、離れた場所からでも宝玉の所在がわかるらしく、その反応が次々と消えていると言う事が、ドワーフ国の国境付近に移動しなければならない様な事態に繋がると言う。
「ここから帝国側では低地になってしまいますからな、ドワーフ王国側であれば宝玉を設置しておりませんし高地。被害も最小限になりましょうぞ!」
「被害? いったい宝玉がどうしたのだ?」
「宝玉が連鎖爆発しとります。いずれこの辺りも大量の水に飲まれ我々は、壊滅するでしょう……」
どうやらこの教授は今この場で分かる情報だけで、トルソラリス王国の状況が理解出来るらしく、彼の予想ではもうすぐこの谷にも水が流れ込んでくるようだ。その結果は部隊の壊滅、閣下と呼ばれた男性はあまりの驚きに立ち上がってしまう。
「馬鹿な!? では先遣隊は……」
宝玉の連鎖爆発、どうやらトルソラリス王国で起きている水の爆発は想定される事態であったが、予定して行われたものではない様で、先遣隊と言われる部隊の通信途絶の原因を理解した男性の呟きに教授は静かに首を横に振った。
「すぐにすべての宝玉を廃棄、高地に撤退を」
「何とかならんのか」
静かなテント内で、それまでより声色が柔らかくなった教授の声は良く耳に入り、全ての宝玉の破棄と言う言葉にその場に居合わせた兵士達は思わず唸る。
「無理ですな。内部の刻印は全てコピーされたものですので、一つが爆発したら最後、魔力波の範囲内にある宝玉は刻印の誤作動により同じ暴走を起こしますでしょうな」
「何故そんなことに……」
周囲を見回した指揮官の男性は、教授の説明に力なく座ると頭を抱えて弱々しく呟く。
ユウヒが宝玉を欠陥品と呼び、帝国を悪辣だと評した理由はここにもあったのか、帝国製の宝玉には連鎖爆発が起こるべくして起きたと言っても良い欠陥が潜んでいたようだ。
「何故と言われましても、仕様でしょうなぁ……私は何度も忠言いたしましたぞ? なぁ?」
「!?」
しかしそれらは事前に教授が指摘していた事らしく、それは教授と共にテントに入ってきた少女も知っているようで、突然水を向けられ小さく跳ねた体で周囲を見回す彼女は、周りの兵士からの視線に気が付くとどこか困った様に小さく頷き答える。
それから数分後、少女の頷きに頭を抱えた屈強な男達は、テントから出ると大きな声を張り上げ全軍に撤退の指示を出すのであった。
いかがでしたでしょうか?
トルソラリス王国に起きていた水不足、そして突然の鉄砲水、その原因に近付くユウヒは何を思うのか、そしてスタールの被害は、その他の被害は、次回もお楽しみに。
それでは、今日はこの辺で、皆さんの反応が貰えたら良いなと思いつつ、ごきげんよー