表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/125

第7話

 修正等完了しましたので投稿します。楽しんでいってね。





 ユウヒがオアシス警護隊長の引き留めによって貴族であるシャハラと対面している頃、貴族の護衛として彼女と共にワームから追いかけられる事となった冒険者たちは、馬車を中心としたキャンプを設営し、寒い砂漠の夜の強い味方である焚火を囲んでいた。


「……なるほど? 怒らせちゃいけない相手って事だな?」


「間違ってはいないけど」


 黒い石の様な塊と緑色の薪を投げ込むバンストは、何の話を聞いていたのかチルに顔を向けると真剣な表情で首を傾げて見せる。どうやらその返答は間違ってはいないが正確とも言い難い微妙な返答であったらしく、バンストの何もわかってなさそうな真剣な表情を見て肩を落とす。


「魔法使いは加護持ちだからね、仲良くしていて損はないってところかね?」


「うーん、まぁそうだけど……魔法使いになるには加護と共に色々な義務も発生するんだ。その義務は大抵この地の為になる事だから、下手に邪魔すると災害の引金になるんだよ」


 緑の細い薪で焚火の中を調整するアダは、何かを思い出す様に焚火から空に舞い上がる火の粉を見上げると、どこか呆れを含んだように呟き、その言葉にチルはどこか釈然としない唸り声を洩らしながら肯定する。どうやらこの地で魔法使いと呼ばれる存在は、加護と言うものと同時に何らかの義務を課せられるようだ。


「魔法使いってのは疫病神か?」


 魔法使いに課せられる義務は大抵、彼らが住むこの砂漠の大地にとって有用な行いであり、それらを邪魔する行為は自ずとその地に住まうものに返ってくるという。それ故に一部ではバンストの言うように疫病神扱いされることもあり、彼の言葉にチルは顔を顰める。


「一応私も魔法使い目指してるんだけど?」


「おっと、わりいわりい……それにしても今まで見てたのが魔法使いじゃなかったとはな」


 砂漠の海と言う地で魔法士となる者が目標とするものの一つが魔法使いであり、そんな目標を悪く言われたら誰だって気分が悪くなると言うものだ。チルの目標の事を思いだしたように両手を上げて降参するバンストは、追加の口撃を遮る様に話し始める。


「リーダーが無知すぎる」


「座学はなぁ……でもアダだって知らなかったぞ?」


 どうやらバンストはこれまでにも魔法使いと言う人物に会ってきた事があるようだが、改めて魔法使いについて説明されると、これまでに会って来た相手がどれも魔法使いに当て嵌まらないと気が付いたらしく、その話を聞かされたらしいチルは疲れたような表情でジト目を浮かべると、言い訳を始めるバンストから視線を外して焚火を見詰め足元の小さな薪の欠片を拾い投げ込む。


「アタシは多少知ってたさ? ただ関わることが無かったからね? 魔女には知り合いも居るけどあまり気にしたことなかったよ」


 魔法使いの逸話や注意事項などをチルから聞かされたバンストから水を向けられたアダは、胸の前まで垂れ下がる長い髪を揺らして顔を上げると、遠回しに無知なバンストとは違うという。彼女の知り合いには魔女がいるらしく、魔法使いほどではないが珍しい知り合いを上げながら頭の後ろを掻く。


「でも何で魔法使いってわかるんだ?」


「魔力量の違いだよ、普通の人間があんな余波が出る魔法を使えば反動で死んでしまう、死なないのが魔法使い。そう言う違いしかないんだよ、方法は何でもいいけど、少なくとも小細工無しの単独で対軍魔法使えるのは魔法使い以外ありえないよ」


「明確な線引きはあるのかい? 魔女は空飛べたら一人前なんだろ?」


 バンストの素朴な疑問にチルは簡単に返す。どうやら魔法士と魔法使いの違いはその身に収める魔力量で決まるようで、確かにそう言う意味で言うとユウヒは魔法使いと言われてもおかしくはないだろう。ユウヒの異常な魔法を知らないチルであるが、その身に感じた魔力の余波だけで十分魔法使いと断定されたユウヒ、そんな魔法使いと言うものの明確な線引きを気にするアダに彼女は難しい表情を浮かべる。


「魔女はそうみたいだね。明確な線引きと言うか、魔法士と魔法使いの間には途方もない差があるから、微妙な差だと魔法使いとは言われないね」


 どうやら魔法士と魔法使いの間には大きすぎる壁があるらしく、ちょっと魔力が多いだけの魔法士が何を言おうと魔法使いとして認められることは無く、魔女の空を飛べると言う様な分かりやすい線引きは無いようだ。


「ふーん? それじゃ自称魔法使いって多いんじゃねぇか? 得なんだろ?」


「結構いるよ、そうやって人を騙してる詐欺師も多い。でも魔法士だったら誰だって見分けつくから騙されるのは魔法を学んでない人ぐらいかな」


 そんな魔法使いはその圧倒的な能力からどの勢力でも引く手数多であり、それ故に魔法使い詐欺も少なくはない。しかしその詐欺が成立するのは魔法士以外の相手だけであり、魔法を使うために修練を一通り行って来た者にはすぐ分かるといってバンストを見るチル。


「……俺じゃん!? え、じゃあお前らが俺を騙してそいつの事を魔法使いって言ってることだって!?」


 チルの視線にキョトンとした表情を浮かべるバンストは、ハッと顔を強張らせると目の前の二人に懐疑的な視線を向け始める。


「だって?」


「……ないです、はい」


 しかし、彼の疑いの言葉が最後まで吐かれることは無く、褐色の肌を焚火の光で薄っすら赤くするアダの眉間に寄った皺の本数を数える間もなく、彼女の問いに返事を返して小さく縮こまるバンスト。


「何のうまみがあるのさ……」


「いやだって、強いやつって威張り散らすもんだろ?」


 上下関係が一発で分かる様な光景に呆れた表情を浮かべるチルは、縮こまるバンストに目を向けてなんでそう思ったのかと、言外に疑問を投げかける。そんな問いかけに答えるバンストは、答えになってない返事を返し、その事から彼がよく考えないで脊髄反射の如く疑問を呈したことが解り、チルは溜息を洩らし、アダは肩をすくめると、焚火に突っ込んだままで火の点いてしまった細い緑色の薪を焚火に投げ込む。


「さっきも言ったけどね? 魔法使いになるには殆ど精霊との契約が必須なんだよ、精霊は負の感情が嫌いだからそう言う心根の人には近付きもしないんだ。まぁ……それ以外の方法で魔法使いになった人は問題起こしてる人もいるけどね」


 この地で魔法使いになるには精霊との契約が必須であるらしく、その契約によって絶大な力を手に入れる魔法使いの義務とは、精霊からの依頼の様なものである。心根の腐った様な人間を好まず純粋な心を好む精霊は、心が良くない方に偏れば問答無用で契約を解除する為、一部の例外を除き精霊と契約する物に悪人はいないと言うのが魔法士の中での常識の様だ。


「ほら!」


「あれは精霊と契約してるよ、さっきちらっと見て来たけど……化け物だね」


 一方でそんな精霊に頼らないで魔法使いになった者は多数の問題を起こしている様だが、鬼の首を取ったように声を上げるバンストを見たアダ曰く、緑の空飛ぶ救世主ことユウヒは確実に精霊と契約しているという。


「「え?」」


 その表現が化け物と言う事に思わず声を揃えて驚くチルとバンスト。二人からじっと見詰められるアダは、気まずそうに視線を逸らすと頬を掻く、どうやらユウヒの姿を思い出して思わず口が滑ってしまったようだ。





 冒険者達による魔法使いと言う存在の再認識の会により、何とも言えない空気で満たされた場所にシャラハに連れられたユウヒは現れる。警護隊にユウヒの引き留めを依頼した彼女はまだ用事があると言う事でその場を後にし、残された冒険者たちとユウヒは自己紹介すらせずに妙な沈黙を作り出していた。


「「「…………」」」


「……」


 焚火を挟んで見詰め合うユウヒと冒険者、傍から見るとまるで陰キャコミュ障が集まった合コン会場の様な空気の中、乾いた音を鳴らす焚火の音に混ざって遠くから地面を踏みしめる軽い音と重い音が聞こえてくる。


「あの、どういう状況でしょうか?」


 少し言葉を交わしただけで全く会話も動きも無い四人、その姿はシャラハがその場を離れた時から変わっておらず、焚火を挟んで椅子代わりの岩に座る四人を見渡した彼女は不思議そうに声をかけ、焚火の傍には追加の薪であろうか緑色の木の束がジェギソンの手によって少し荒っぽく下ろされた。


「いやその……魔法使いって初めてらしくて」


 荒っぽいジェギソンの動きを見咎める様に見詰めるシャラハは、振り返り困った様に笑うユウヒの言葉に目を見開き、護衛の冒険者たちに目を向け視線で問いかける。


「私はそうじゃないけど……」


「アタシも初めてだけど、どっちかと言うと精霊がね……」


 岩に座るチルはフードを被ったままもじもじと膝を擦り合わせながら恥ずかしそうに呟き、その隣ではバンストが無言で首を横に振って見せていた。一方でアダは耳元の黒く長い髪を掻き上げながら困った様に呟くと、ユウヒに向ける目を細める。


 どこか眩しそうに見えるアダの顔に目を向けたユウヒは、彼女の褐色の肌と同じ色の長い耳に目を向け思わず眉を上げると、何かに気が付いたように口を開く。


「ん? あぁエルフの人か、それじゃ騒がしいのかな? こっちの精霊は小さい子ばかりであまりしゃべらないけど、いっぱい寄って来るからな」


 金色の右目が僅かに瞬くと全て理解した様に話し始めるユウヒ、アダと言う褐色肌の女性はエルフ族であるらしく、その特性を知るユウヒは視界に躍る文字で現状を再確認しながら申し訳なさそうに頭を掻く。


「え? え?」


 下ろしていたポンチョのフードを、両手で掴み埃を落とす様に振るうユウヒの言葉と、その行動を驚いたように見つめるアダ。二人にしかわからない言動に周囲は疑問の表情を浮かべ、チルは二人の顔を見比べながら知識欲と困惑で目を輝かせる。


「こんなにたくさんの精霊なんて里でしか見ないよ、見たことない精霊もいるし……」


 アミールがよく知らずに与えた力で、精霊たらしと言われそうなほど精霊に好かれる体質となったユウヒは、精霊がほとんどいないと聞かされていた砂の海でもその本領を発揮している様で、呆れるアダの見詰める先では、フードの中に納まっていた精霊たちが一斉に飛び立ちユウヒの周りを飛び交っていた精霊と一緒になって楽しそうに踊り始めている。


「ふむ、ほれ解散解散、また今度遊んでやるからな? 良い子は寝る時間だぞー」


≪………!≫


 見た目はカラフルな光る球にしか見えない小さな精霊たちは、明確な言葉を話すことが出来ないのか、微弱な思念の波を放つと不満そうにユウヒから離れていく。呆れた様にその光景を見詰めるアダは、口をゆっくり開くとユウヒに目を向けた。


「……あんた、ほんとうに人かい?」


「まだ人は止めてないよ? ちょっと仲良しなだけさ」


 そしてその薄いピンクの唇が動き、するりと零れ出てきた言葉は実に辛辣である。地味にショックを受けつつも慣れた様に苦笑を浮かべるユウヒは、空に舞い上がり離れていく精霊を見上げ、ただ仲が良いだけだと話す。


「そう言う問題かねぇ?」


「なんだ、何が起きたんだ?」


 ユウヒの言葉に思わず頭を押さえるアダは、故郷の地でも見れないような神秘的な光に目を向け溜息混じりに呟く。エルフや一部の種族は生まれつき精霊を見ることが出来る者が多く、アダも同様に見ることが出来るがそれ以外の人々には何が起きているのか分からず、周囲を見回すバンストは代表する様にアダとチルを見比べながら何が起きているのか問いかける。


「魔力の圧が消えました……。あ! 初めまして! 魔法士のチルと言います!」


 一方で変化を感じ取ったのはチル、出会った時から圧迫されるような感覚をユウヒから感じていたらしい彼女は、その気配が消えたことで顔を上げると幾分楽になり動けるようになった体で勢いよく立ち上がりユウヒに一歩近づきながら小さな手を差し出す。


「初めまして、ユウヒと言います。別にかしこまったりする必要のある人間じゃないので、普通でお願いします」


 砂の海と言う砂漠の大地にも握手と言う文化はあるらしく、差し出された白い手を握ったユウヒはいつもと変わらない覇気の無い笑みを浮かべて自己紹介を行う。


「おう! 俺はこのパーティのリーダーでバンストだ」


「アタシはアダ、旅エルフだよ」


 ユウヒの手を強く握り返すと嬉しそうに手を離すチル、それと入れ替わるように今度はバンストが手を差し出し同じように強めに握り返し手を離す。話す瞬間に強く握ってぱっと離す不思議な握手に違和感を覚えるユウヒであるが、そんな疑問を口にする暇なくアダからも手を取られ同じように強く握られ挨拶を交わす。


「こちらの三人が旅の護衛をしてくれています。ユウヒさんが見た馬に乗っていたのが彼らです」


 少し長めに手を握るアダの挨拶が終わると、シャラハが三人の冒険者の事を簡単に説明する。空から見た馬に乗っていたのが三人だったと理解したユウヒは、大きく頷きそれぞれに怪我らしい怪我も無い事にほっとした表情を浮かべた。


「あ、そうか俺らの事助けてくれたんだよな? ありがとな!」


「あ、ありがとうございます!」


 シャハラの紹介で改めてユウヒがワームを追い払ってくれたことを思い出したバンストは、岩に座り背筋を伸ばすと頭を大きく下げて礼を述べ、その姿に慌てたチルはそっと下ろそうとしていたお尻を上げて立ち上がると深々と頭を下げる。


「大丈夫だったかい? いくら魔法使いと言ってもあの巨体だ、怪我とか無かったかい? 治療薬ぐらいなら用意できるよ?」


 魔法使いと言う事が大仰なお礼の言葉に繋がっているのか、それともスローターワームと言う存在から守ってもらった故なのか、何ともこそばゆい気持ちで苦笑を洩らすユウヒに、アダは怪我など無かったか問いかけると、足元の皮袋を拾い上げ小さく掲げた。


「あぁ大丈夫ですよ、ちょっと空から粘性のある強酸が降って来て驚いたくらいで」


「ワームの酸は厄介だからなぁ」


 少し乾いた音が鳴る皮袋の中には治療薬が入っているのであろうか、しかし一方的に蹂躙したと言って良いユウヒに怪我らしい怪我は無く、空から降ってきた強酸の雨に驚いて心拍数が上がった以外は、大きなスローターワームの皮を運んで腕の変なところに痣が出来たくらいである。


「お礼の夕食までまだ時間がありますから、家のタープでどうぞゆっくりして行ってください」


「ありがとうございます」


 いつの間にか出来ている謎の痣に老化を感じるユウヒは、その感情を飲み込み微笑むとシャラハに提案されていたお礼の食事に思いを馳せほっと息を吐く。しかし、側面から感じる好奇心に輝く視線の圧に、ゆっくりとは出来ない未来を感じ笑みを困った様に歪めるのであった。



 いかがでしたでしょうか?


 魔法使いが畏れられる砂の海と言う地域で、ユウヒはどんな物語を作りどんな出会いが待っているのか、現地民たちの評価は賛否ありそうであるが、果たして? 次回もお楽しみに。


 それでは、今日はこの辺で、皆さんの反応が貰えたら良いなと思いつつ、ごきげんよー

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ