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第64話

 修正等完了しましたので投稿します。楽しんでいってね。





 森の中をまるで障害物などないかのように突き進む濃い緑色の塊り、その塊りが突き進む先にある樹々はまるで進路を開ける様に撓んでいる。事実として撓んでいた。


「今回は荷物が増えたから薬草が少なくなっちゃったな」


<……>


 その塊りはユウヒ、撓んでいた理由は彼の進路を妨害しないように樹々の精霊が気を使っていたからであり、彼が通り過ぎれば樹は元の形に戻る。


 魔法の力を使って走りながら少し残念そうに呟くユウヒが背負う籠の中は、いくつかの箱が収められており、その分だけ薬草が少なくなっていた。そんな残念そうなユウヒの耳元で楽しそうな空色の精霊が囁く。


「バイクで行けばもっと持ってこられるけど、森の中までは乗っていけないからね」


 どうやらユウヒが乗っているバイクを使えば良いと提案したようだが、樹々が犇めく森の奥にモンスターバイクで乗り付ける事など出来ない。なんだったら林に入る前の段階で足止めされてしまうだろう。ただ、精霊に願えば林も森も一直線に開けた道を作れそうではあるが、そんな明らか自然に悪影響がありそうな事を願うようなユウヒではない。


<!>


「森用の乗り物か、それは流石に無理じゃないかな? 昔どっかの戦場でバイクみたいなトラック見たことあるけど、ああ言うのでもちょっと森の奥は無理だよね」


 無理を通せば必ずどこかで歪が生まれ面倒な事が起きる。ユウヒの勘がいつも伝える極上の警笛は、今まで彼の歩く道を危険から守ってきた。そんな彼が歩いて来た道には、親について行った戦場と言うものもあり、精霊が森専用の乗り物を作ろうと提案すると、その時に見た小回りの利く乗り物を思い出すが、それでも流石に森の奥までは入れなさそうだと肩を竦めるユウヒ。


「あ、ドローンとかなら空から行けるけど、ちょっとすぐには作れないよね」


 しかしふと空を見上げると、そこに見える鳥の影に別の物を思い出し明るい声を上げるユウヒ、彼が思い浮かべたのは空を自由に飛び小型の物資を運ぶ事が出来るドローンである。彼の頭の中に思い出されたドローンはやや物騒な物をぶら下げてはいるものの、そんなに悪い発想ではないであろう、ただ問題があるとすれば作る難度がバイクや車に比べて跳ね上がるくらいであった。


「空飛ぶ荷運び機械とか見たことある?」


 一から作るのは大変でも、元からある物を改良するのであれば話は別だろうと精霊達に問いかけるユウヒ。


<??>

<???>

<???????>


「無いかー」


 しかし返ってくるのは困惑の感情、何分小さな精霊達には経験が足りず、最近はユウヒの言葉で歴史を調べる精霊も増えたが知識はそれほど多くはない。勝手気ままに気が向くまま、世界の調整を行う精霊が無駄な知識を覚えようとするには、外からの強い刺激がないといけない様だ。


「それにしても魔物が居ないね?」


 そんな強い刺激代表のユウヒは、森と林の中間地点を過ぎて不思議そうに呟く。彼の視界に映る魔法のレーダーには魔物の姿がほとんど映っておらず、居ても進路から外れる様に動き、いつもの森とは違って見えていた。


<…………>


「え? 魔力に怯えてる……よし、ここからはあるいていこうかな」


 しかしその原因は、不思議そうに呟くユウヒである。


 強力な身体能力強化と空飛ぶ魔法を併用して跳ねて滑るように森の中を突き進むユウヒ、その体からは大きな魔力が洩れており、魔力を源として生きる魔物にとってはあまりに刺激が強く、まるで巨大で強力な魔物が突き進んでいる様に感じられる為、怯えてユウヒの進路から慌てて逃げてしまうようだ。


<……>


「うむ、あまり怯えさせるのも良くないよな」


 精霊の指摘に急停止するユウヒは、ふわりと大地に足を着けると開放していた魔力を沈めて歩き始める。時すでに遅し、そう言いたげに瞬く精霊から目を逸らすユウヒは、すっかり静かになった林の中で小さくごちるのであった。


<!!>


「どうした? 違和感?」


 少しだけしょんぼりとしたユウヒを慰めるように舞う精霊達、しかし突然彼女達は動きを止めると同じ方向を警戒した様に見詰める。何事かあったのはユウヒもすぐに気が付き、違和感を訴える精霊達を見上げると彼女達と同じ方向に目を向けた。


<!>


「変な感じがする? なんだろう、んー俺はそんなに変な感じは……でも良い感じもしないな」


 ほぼ北側の空を見上げるユウヒと精霊達、ざわつく精霊達の感じるものが解らないユウヒであるが、しかしじっと北の空を見詰めているとあまり良い予感はしない様だ。一体何が起きているのか分からないが何時までの外に居て良いとも思えないユウヒは踵を返す。


「……早く帰ろうか」


<!!>


 街に向けて歩きだすユウヒは、北の空を気にし続ける精霊達に声を掛け、その声に精霊達は妙に機嫌よく反応すると、瞬きながら纏わりつく様にユウヒを追いかけるのであった。





 足早にスタールへと戻って来たユウヒは、寄り道することなく代官所にやって来ていた。


「ちょっと早かったかな? まあ五分前行動の、五分前行動の、五分前行動って大事だよね」


 まだ鐘の音もならぬうちに代官所に到着してしまったユウヒは、背中の籠を揺らして小さく鼻から息を吐く。なにやら随分とブラックな事を口にしているが、仕事をしていたころはそれが当然であり、疑問にも思わなかった事である。


「あんまり早くても怒られるんだけどさ、理不尽……なんか言ってて悲しくなったし入るか」


 精霊が心配そうに瞬く姿に小首を傾げるユウヒは、昔の事を思い出しているのかいつも以上にやる気の感じられない表情で呟くと、小さく溜息を洩らしながら代官所の門に歩いて行く。


「こんにちはー」


 門番に声を掛けると誰何され、今日の用事を説明すると門番は慌ててどこかと連絡を取り、妙に丁寧な対応で中へと案内されるのであった。



 それから十数分後、お茶とお茶菓子が用意された部屋で待機させられていたユウヒは、また職員に案内されて広めの会議室に姿を現した。


「……」


「……」


「あらあら」


 そこにはすでに数人の人間が座っており、同じタイミングでユウヒとは違う扉から見知った顔も入室して来る。その顔触れを見たスタールの長たちはそれぞれに違った表情を見せ、中でも楽しそうな表情を見せたのは治療院の院長だけであった。


「それでは長会議を始めたいと思います。今回は特別にリステラン伯爵夫妻が臨席しております」


 入室してきた人間が着席したのを確認して頷く代官に目を向けていた秘書男性は、静かに立ち上がると長会議の開会を宣言する。どうやら彼が司会を行う用で、彼によって紹介されたのはユウヒと同じタイミングで入室し、特別に用意された席に座るリステラン伯爵夫妻。


「……」


「ぅっ……」


 何故かニコニコと笑みを浮かべるイトベティエと、対照的に顔から生気が抜けているブレンブ、そんな彼以上に生気が抜けているのは顔色が今にも土気色になりそうなジョー・ゲーコック。


「小会議は何度か行ったと思いますが、改めて今回発生した一連の問題について情報の共有といくつかの議題について提案を行って行こうと思います」


 司会が進行する間も椅子に拘束されたゲーコックは必死に活路を探す様に周囲を見渡すが、イトベティエの視線に気が付くと震えながら目を伏せて足を揺する。


 いったいこの会議で何を聞かされるのか、ある程度内容を知っていても気になるスタールの長達は、自然とその視線をユウヒに向け、そこで特に緊張した様子も無く座る彼の姿に様々な表情を浮かべていた。


「優先度の高いものから解決して行こうと思います。以前から議題に上っていましたが、今日来て頂いたユウヒ殿のスタールにおける活動には何ら問題が無いという結論がでました。よって彼に掛けられた嫌疑は全て棄却されます」


 先ずはと優先されたのはユウヒに掛けられた嫌疑、それらすべてにおいて違法性も無く、また彼が何らかの事件に関与した証拠も見つからないと結論が出され、その言葉に出席した者達の大半が納得するように頷き、一部はほっと息を吐いている。


「異議あり!! 私の報告は間違っていない! その者は卑しくも小銭を稼ぐために違法な手段に出たのだ! 何の能力も無いくせにスタールを食い物にするつもりだのです! 判断を間違えばこの街が危険にさらされる!」


 一方でその判断に納得がいかないのがゲーコック、納得がいかないと言うよりはその判断を下されては不味いと感情だけで声を張り上げた彼は、周囲から注がれる視線など気にする余裕も無くユウヒをこけ下ろす。


「ゲーコック」


「再考をお願いします!」


 一頻り叫んだ彼に目を向けたガスターは、小さく溜息を吐くと静かに語り掛けるが、彼が本題に入るより早く再考を要求するゲーコックの声が室内に響き渡る。


「君の勘違いをいくつか修正しよう」


「かん、ちがい?」


 ガスターは哀れみを多く含んだ表情をゲーコックに向けると静かに話し始め、勘違いの修正と言う言葉に周囲は何とも言えない空気で満たされていく。


「先ず、彼は……ユウヒ殿は魔法使いだ。これは院長も間違いないと保証している。なんだったら正式に王室木簡に判を押しても良いそうだ」


 この場に居る人間にとってユウヒが魔法使いであると言う事はすでに知られた事実である故に、あらためて認識して思わず身構えてしまっても驚く事ではない。しかしそれは事前に聞いていたからであり、今この場で初めて聞いた者にとっては、驚愕すべき事実である。


「まほ……ばかな、ほんもの?」


 これがただ魔法使いとだけ聞いていれば、ゲーコックも即座に批判したところであるが、院長と王室木簡と言うものがくっつくことで批判を口にする余裕は生まれ無くなるようだ。事実あまりの驚きに言葉が覚束ないゲーコックは院長に目を向け、その笑みから全てが事実だと悟り赤くなっていた顔を蒼く変色させる。


「無能ではないと言う事だ。何だったら彼の能力に頼ってば、冒険者組合を取り巻く問題はいくらでも改善しただろう……」


「……?」


 驚愕の表情でガスターを見詰めるゲーコックは、彼の少し呆れを含んだ声に眩暈を感じて項垂れ、周囲から集まっていた視線は自然とゲーコックからユウヒに移動し、様々な感情を含んだ視線の群れを前に思わず目を瞬かせてしまう。


「…………また君の不正については冒険者組合から正式な書類として提出された。その件はまた別日に判決を下す。街道の巡回をやっていなかったり、街道整備もやっていなかったり、林の整備をサボり根こそぎ薬草を採取していた事とかな」


 ガスターの口から若干の願望が洩れた事で秘書が小さく咳払いして話を引き継ぐ、内容はゲーコックが短期間で行ってきた複数の不正。どうやら彼はお金を受け取るだけ受け取って真面に仕事を冒険者に割り振っていなかったようだ。にも関わらず冒険者達から疑問の声が出なかったのは、人手不足で余計な事に気を回せるほど余裕がなかったからであろう。


「そ、そんなことは……っ」


「私も後でその書類見たいわぁ」


「……了解した」


 不真面目な冒険者は逆に妙に割のいい仕事を回されていたことで批判の声は出てこず、ユウヒの件が無ければ、水不足などの状況も相まって発覚はさらに遅れていた可能性が高い。そんな調査報告の書類はどれだけあるのか、暗く重い空気を纏うにこやかな院長の要求に返事の遅れたガスターは秘書に目を向け頷き、秘書はその疲れた顔に苦笑を浮かべる。


「続いて薬草の供給問題についてですが、森の奥での採取は危険であり現実的ではありませんので、現状維持となります」


 ユウヒについての話は終わり、項垂れるゲーコックを他所に話は薬草の供給問題に移行するも、その内容には何の進展も無く会議室のあちこちからため息が漏れた。


「維持できないところが困ったところよね」


 何せ現状維持と言ったところで何も維持できないのだから何の解決にもなっていない。


「多少の改善もユウヒ殿の貢献があってこそですからな、頼り切るわけにも行きませんし」


 ユウヒの持ってくる薬草が唯一状況を改善している現状には頭を抱えるばかりであり、しかしスタールを取り巻く環境はその事を不満に覚える余裕もない。被害の少ない地域からの購入を行うにも資金の限界はあるのだ。


「何か、少しでも良くなる方法はないかしら?」


「え? あー……」


 そこに現れたユウヒは運がいいのか悪いのか、頼られることは嫌いじゃないが今の状況を改善する様な案がすぐに浮かぶわけも無く困った様に唸る。


「意地悪してるわけじゃないの、出来ればでいいの……でも無理なら構わないわ。今の薬草提供だけでもすごく感謝してるから」


『…………』


<……>


 院長の心苦しそうな声に顔を向けるユウヒは周囲からの視線を見渡すと、目の前のテーブルの上で寛ぐ精霊を見詰めて黙して言葉を交わす。ユウヒの思考を呼んだ精霊の返事は良いものではなく、返答する風の精霊も少し申し訳なさそうだ。


「うーん、考えてみますがもう少し待ってください。水の問題については水の精霊が動いているので、その結果を知りたいんですよ」


 ユウヒが問いかけたのは水の精霊からの連絡か、彼女達の動向について。何か情報を得たい時は風の精霊に聞くのが一番であるが、彼女達も自分たちが移動できる場所でなければ何が起きているのか分からず、どうやら水脈を辿っている水の精霊の動向は辿れない様だ。


「なに?」


「精霊が?」


 困ったようなユウヒの精霊発言で会議室にはざわめく。精霊が怒れば国が亡ぶ、精霊が動けば大地が割れる、そんな諺が出来るほどに砂の海と言う地域でも精霊は畏れられる存在である。


「はやく結果報告聞きたいね」


 そんな精霊が水不足に対して行動していると聞いてしまった会議室の面々は、喜べばいいのか、それとも畏れたらいいのかと百面相を浮かべ、苦笑を浮かべるユウヒを見詰める人々は魔法使いの恐ろしさを再認識するのであった。


<……!>


 周囲の状況に我関せずと言った様子で精霊をつつくユウヒに、風の精霊はまったくだと言いたげに瞬くと、水の精霊についての愚痴を囁き、そんな彼女達の話しに耳を傾けながらざわめきが消えるのを待っていた彼は、その後小一時間精霊の愚痴を聞くことになる。



 いかがでしたでしょうか?


 ゲーコックは消沈し、スタールの首脳陣はユウヒの発言に驚きを隠せない。そんな彼らを待ち受ける精霊達の違和感とは、次回もお楽しみに。


 それでは、今日はこの辺で、皆さんの反応が貰えたら良いなと思いつつ、ごきげんよー

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