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ワールズダスト ~砂の海と星屑の記憶~  作者: Hekuto


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第60話

 修正等完了しましたので投稿します。楽しんでいってね。




 日暮れ前のスタールの街の中、人が少なくなって寂しくなっていた観光の街に今日は少しだけ人が多く感じられた。


「どうだった?」


「それらしい影は無いですね」


 その理由は、鎧を着た騎士や冒険者が街のあちこちを歩き回っているからである。若干物々しい空気を生み出す彼らであるが、しかしあまりに寂れた街にはそのくらいの空気を許容する余裕があった。事実彼らは町の商店で買い物をするため、一般市民から歓迎されている。


「そうか……」


「盗賊の噂はいくつか聞けましたけどね」


 また最近になって盗賊の被害が出ているらしく、そう言った面からも武力を持っている者達の駐留は歓迎されるものだ。何かを探している彼らの耳にも盗賊の噂は聞こえているらしく、そんな噂を彼らに流すほどに住民は不安になっている。


「その顔は良くない話なのですね」


「ええまぁ」


 男性騎士然とした彼らの話しに困ったような表情を浮かべるのはこちらも女性騎士然とした人物、どうやら彼らの上官なのか彼女の質問に周囲の男性は腰を低くして答えた。と言うより、よく見れば彼らは三叉路オアシスに居た騎士であり、女性は魔法使いの報告で荒れていた女性である。


「お、居た居た! 盗賊の噂聞いて来たぞ!」


「……」


 そんな騎士達が集まっているのはカフェのオープンテラス、そろそろ酒場に変わろうとする店先に集まる騎士の集団に、今度は冒険者の一団が合流するようだ。よく見れば彼女達も騎士風の布と金属の鎧を身に纏ったユウヒと面識がある冒険者達、元気よく手を振る女性冒険者の後ろで疲れた表情を見せるおじさん冒険者は、ユウヒが大量のウィードを吹き飛ばすために使った風魔法の余波で座り込んでいた冒険者である。


「まったく、そんな話より魔法使いの話を仕入れてきなさいよね」


 冒険者の女性が現れるとそれまで真面目に引き締めていた表情を柔らかく崩し、ニコニコとした女性冒険者に不満を洩らす騎士の女性。


「そうは言いますがね? 詐欺師の話くらいしか出てこなかったんですから」


 どうやら女性同士は非常に仲が良いらしく、不満を言いながらもじゃれつく二人の側で、困った様に頭を掻きながら報告を行うおじさん冒険者。彼の言葉に周囲の男性騎士は労うような表情を浮かべ、女性陣は僅か不満な表情を浮かべる。


「本当にスタールに居るの?」


「そのはずなんだけど」


 それだけで彼ら騎士と冒険者の関係が窺い知れると言うもので、報告は終わったと移動する冒険者達は、すぐに騎士の輪に入ってオープンテラスの一画を占領するのであった。





 ここ最近の客不足が嘘のようにオープンテラスが賑わうカフェがいつもより早く酒場に変わっている頃、ガスター所の重厚な石造りの会議室では大きな声が響き渡っていた。


「いったいどんな違反をしたというのかね?」


「そいつは依頼とは言え狩る必要以上の討伐を行ったのです! それは許されない!」


 丁寧で静かな声による質問に対して返ってくるのは、会議室のどこに居てもしっかり聴こえるような大声。その大声によると、ユウヒは冒険者組合から発行されている魔物の討伐依頼数を超過する量を狩っており、その事が違反であると言う。


「ふむ?」


「いくら危険な魔物であっても殺し過ぎれば生態系に異常が出てしまいます! そんなことは冒険者にとって常識、それを事もあろうかこの男は必要以上に狩って他の冒険者の妨害をしていたのです!」


 現在冒険者組合で発行している討伐対象については、ガスターもある程度は把握している。それは今日の事情聴取の予習のようなものであり、その中には殺しすぎる事で環境に変化を与えるような魔物は居なかったと記憶しているガスターは、ゲーコックの言葉に疑問を覚え小首を傾げた。


「ん?」


 ユウヒもまた良く分からないと言った様子で首を傾げるが、その様子をゲーコックは忌々し気に睨む。実際にユウヒは多めに魔物を狩っているし、蛇に関しては冒険者組合でも驚かれているが、その際にユウヒは感謝されてはいるが注意など受けていないのだ。


「それだけか?」


 ユウヒを殺そうとした理由はその違反だけなのかと訝し気なガスターは問いかけるが、すぐに首を横に大きく振るゲーコック。


「いえいえ! それだけではありません。この男は大変危険な魔物を討伐して森にその死骸を放置しております。その魔物の死骸は周囲に様々な害を及ぼしておるのです」


「害とな?」


 ゲーコック曰く、ユウヒは危険な魔物の死骸を森に置き去りにしており、その事が周辺環境にとって大きな害となっていると言うが、ユウヒに思い当たるものが全くない。ゲーコックに睨まれながら首を傾げるユウヒは、寧ろ魔物の遺体を塵一つ残さず消し去っており、害と言えば超重力によるところが大きいであろう。


「きっと薬草が採れなくなったのもその影響でしょう。なんという無知蒙昧なよそ者か! 恥を知れ!」


「んん?」


「ふむ……」


 しかしその害とは薬草が採れなくなったことだと言うのだからガスターもユウヒも思わず目を合わせて互いに怪訝な表情を浮かべてしまう。何せ薬草が採れなくなったのはユウヒがスタールに訪れる前からの話であり、時系列が合わない。むしろユウヒが薬草採取を行った事で市場に真面な薬草が出回り始めている。


「さらにこの男はあろうことか街道に魔物を追いやったのです! きっと貴族の馬車が魔物に襲われているのはこの男の手によるもの、即刻此奴を死刑にするべきです!!」


 周囲が特に声を上げない事で状況が自分の有利に傾いていると感じたゲーコックは、今がチャンスだとばかりに声のボリュームを上げて話し始め、その顔に黒い笑みが浮かんでいる。どうやら貴族が街道で魔物に襲われたのもユウヒの所為にするつもりらしく、流石にユウヒも呆れ切って考える事を放棄し始めた。


「……そんな男に温情を与えようとしたのか」


「いくら犯罪者だとしても人、悔い改めればとも思ったのですが……私が愚かでした。この罪は自らこの男の首を切り落とす事で償いましょう!」


 しかし、もし本当にユウヒが貴族を襲った下手人だとするならば、そんな人間に温情を与える事など許されるわけがない。ガスターの低くなった声に焦ったゲーコックは、心苦しそうな表情で温情を与えようとしたのは間違いだったと言って自らユウヒを殺すと宣言しユウヒを睨むが、睨まれるユウヒは呆れた表情を浮かべており、彼の感情が伝わっているらしい精霊も彼の肩の上で呆れた様に瞬いている。


「……なんで俺こんなに嫌われてるの?」


 この場に居る人間で一連の話をすべて信じる人間はいない、唯一ゲーコックだけが信じてそうだが、そんな彼を見て思わず呟くユウヒに周囲の人間は頷きそうになる感情をぐっと抑える。


<……? ……!>


「……うん、落ち着こうな?」


 抑えられないのは精霊ぐらいであるが、彼女達の声も怒りと言うよりどこか馬鹿にするような声であり、処す? 処す? と囁く彼女達にユウヒは小さな声で笑いかけるのだった。


「して、今の話について何か言う事はあるか?」


「えーっと」


 小さく笑みを浮かべるユウヒに目を向けたガスターは、ユウヒに反論があるかと、寧ろ反論しかないのではないかと言う感情を表に出さないように問いかけ、気を抜いていたユウヒはどう答えようか悩むと俯き気味に指で顎を支える。


「その男の言い訳など聞く必要はありません!! 耳が汚れまもがー!?」


 その短い間を見て好機と見たゲーコックは、あらんばかりの声を張り上げユウヒの言い訳など聞く必要が無いと言い出すも、そのあまりにうるさい声に指示をされるまでも無く警備兵がゲーコックの大きく開いた口に猿轡を噛ませ、それでも必死に彼は叫びもがく。


「お前の大声で耳が痛くなる。黙っておれ……はぁ」


 貴族としてあまりに酷い醜態を見せるゲーコックに顔を顰めるガスターは、片耳を抑えると黙って居る様に言い渡し、警備兵に目配せすると小さくため息を洩らしてユウヒに目を向ける。


「まぁ俺は悪いことした覚えはないですね? 依頼も喜んでもらえていましたし、魔物も処理しましたし、薬草は何かする前に枯れていましたし?」


 視線を感じて顔を上げるユウヒは、もがき呻くゲーコックの声で掻き消されないように少し声を張って話し出す。悪いことをした覚えはないと言ってガスターに目を向けるユウヒは、事実として冒険者組合でクサチヘビの討伐数に喜んでもらい、ウィードは残骸も残さず処理し、薬草に至っては最初から枯れたものばかりだと語る。


「しかしお前は薬草を採取してきている様だが?」


 その内容に一つ頷くガスターは、枯れていると言いながら採取できているユウヒと、彼が床に置いている籠に目を向け目を細め問う。


「林はどこも枯れてますけど、森の奥に入れば生えてますよ?」


 何が言いたいのか良く分からないと言った様子で小首傾げたユウヒは、不思議そうな表情を浮かべると事も無げに無理難題を語る。今のスタールに森の奥まで薬草採取に行ける人材は居らず、また警備兵や冒険者総出で向かったとしても恐ろしい損害を生むのは確実だ。


「レイバーなのに危険な森の奥へ入るのか?」


「まぁそこは元々冒険者ですし?」


 そんな場所にレイバー一人で入り込み、大量の薬草を持ち帰るなど普通なら考えられない事であり、冒険者だからと言っても同様である。だからこそ魔法使いであると言う話は信憑性を増していく、何せ彼らは精霊の加護によって強力に守られているからだ。


「そうか、話は分かった。今日は帰っていいだろう、また後々話を聞きたいのだが良いか?」


「その時は事前に連絡してもらえると助かります」


「うむ」


 ストレスで胃がキリキリと痛むのを我慢するガスターに帰って良いと言われてほっとした笑みを浮かべるユウヒ。どうやらまた呼ばれることになりそうだが、事前に連絡さえもらえれば心の準備は出来ると言うものであり、小さく了承の言葉と共に頷くガスターを見るユウヒは、自然と力が入っていた肩から力を抜く。


「むー!! むむーー!!」


 一方でゲーコックはそれどころではないと言った様子で未だに呻くような声を上げており、ガタガタと椅子ごと揺れる彼をロープで抑える兵士は迷惑そうな表情を浮かべている。


「退出を許す」


「あ、はい。失礼します」


「むうーー!! むあーー!!」


 どうやら自分が思っていた様な状況にならなかったことで焦っているらしいゲーコック。チラリとユウヒから視線を向けられると顔を真っ赤にして怒り出し、ガスターから呆れを多分に含んだ視線を向けられると顔を蒼くして飛び跳ねて見せた。


 ガスターの言葉を受けてゲーコックをロープで縛り直した警備兵は、そのまま椅子を傾け椅子の足に着いた車輪を転がし会議室から退出し、我先にと言った様子で退出したユウヒの姿はすでに室内には無い。


「……はぁ、胃が痛い」


 室内に残っているのは代官とその後ろで書記をしていた男性の二人だけ、伸ばしていた背筋を丸くしたガスターは小さくごちる。


「どうだった?」


「何の反応もありませんでした」


 未だに胃薬が手に入らない事で水を飲んでお腹の痛みを誤魔化すガスターは、視線をそのままに短く問いかけ、その問いかけに書記の男性は少し残念そうに返答した。机の中から取り出した機材は、治療院で使っていた薬品の調査機器の様にいくつかのガラス管、それから水晶球からなるものだ。


「むむ、では魔法使いではないという事か?」


「それはわかりませんが、少なくとも精霊は怒っていないと言う事です。まぁ他の部分も反応を見せなかったので居たのかすらわかりませんが……」


 どうやらその機材は精霊の怒りを計る事が出来るらしく、精霊の気配を感じる事が出来る冒険者からの証言をもとに用意した様であるが、怒り以外にもいくつか感知するはずの魔道具は何の反応も見せず、彼等に精霊の所在を知ることは出来なかった。


「うぅむ、彼も大して怒った様子も無かったからな」


「やはり危害に反応するのでは?」


 その原因はユウヒの感情、社畜時代にも何度か経験がある可笑しな人との遭遇に心が酷く冷えた所為で、彼の感情を読み取った精霊の心も凍り付き、精霊が発散する感情を感知することでその所在を調べる魔道具が機能しなかったのだ。


「お前は私に死ねというのか? 文官ぞ?」


 ユウヒの感情に呼応して精霊が怒っていると言う情報を信じるならば、彼を怒らせなければならないのだが、文官であるガスターがそんなこと出来るわけがない。相手が普通の民間人であるならまだしも、相手は魔法使い、伝説や伝え聞く話を信じるならば街ごと更地にされてしまってもおかしくはないのだ。


「それを言ったらこの場に武官は居りませんが?」


「警備隊に頼むか……」


 だからと武官に頼んだところで結果はそんなに変わりはない、呟きながらもその事実に思い悩むガスターを見詰める部下の男性は溜息を洩らす。今までの経験から悩めば悩むほどに悪い方向へと思考を巡らせる上司、その後ろ姿にジト目を向ける彼は溜息をこらえて立ち上がる。


「普通に聞けばいいのでは」


「……胃薬はまだ届かないのか?」


 魔道具を大事そうに手に取り話す部下の言葉に背中を丸めるガスターは、じくじくと痛むお腹を押さえると、木箱の中に魔道具を片付ける部下に目を向け胃薬について呟く。その言葉は意識せず出た言葉であり、返ってくるであろう返答を予測出来てしまうガスター。


「材料がないと作れないと言われたばかりでは?」


「はぁ……水があればこんなことには」


 振り返って肩を竦める男性の言葉に対して、知ってた言った表情で苦笑を漏らすガスターは、スタールの街で最近よく聞くようになった愚痴を洩らし、その愚痴に何の意味も無い事は理解してるが止める事は出来ないと言った様子で部下と無言で苦笑いを浮かべ合う。


「雨乞いでもします?」


 思わず言いたくなる気持ちが良く分かると言った様子で苦笑する部下は、木箱の蓋を閉じると冗談めかしに雨乞いを提案する。


「もう水が戻って来るなら雨乞いでも何でもするよ、天変地異でも歓迎するね」


 昔から雨乞いと言う儀式はトルソラリス王国にも存在していたが、その儀式が確立されると共に、民間で行われる雨乞いは全て迷信だとされることとなり、魔法使いや魔女、一部の特別な一族以外が雨乞いと言う言葉を口にする時は大抵が冗談の意味で使われた。


 そんな冗談も言いたくなるような状況下であれば、たとえその結果が天変地異の様な事でも受け入れられると笑うガスター、


「天変地異ですか、確かに水が戻って来るなら歓迎ですな」


 そしてガスターの第一秘書の男性。彼もまた、心にもないとは言い切れない感情の発露として天変地異を歓迎する様に笑いながら肯定する。


「「はっはっはっは!!」」


 一瞬の沈黙、互いに見詰め合うガスターと秘書は、同時に笑いだすと鬱屈とした気分を吹き飛ばすかの如く笑いだすのであった。


<…………>


 傍で魔道具を気にしていた精霊が居る事など知らず、木箱の中の魔道具が薄っすらと光を放ち、ガラス管の中の色付き薬品が僅かに揺れる中、空色の光を瞬かせた精霊は興味深そうに頷くと、石造りの会議室の明り取りから外へと飛んでいくのであった。


 いかがでしたでしょうか?


 何やらフラグの音がしないでもないですが、ユウヒは構わず精霊の帰りを待って毎日を過ごす。


 それでは、今日はこの辺で、皆さんの反応が貰えたら良いなと思いつつ、ごきげんよー

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