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ワールズダスト ~砂の海と星屑の記憶~  作者: Hekuto


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第59話

 修正等完了しましたので投稿します。楽しんでいってね。



 ユウヒが泊まる宿のロビーには、朝から数人の警備兵がやって来ていた。代表者はツンツン頭の兵士の様で、女将と何やらカウンター越しに話しており、残りの兵士は周囲を見回している。


「ユウヒさんなら朝から出ていったよ?」


「なに? ……だから昨日のうちに来ときゃよかったんだ」


 そんな男性兵士の目的はユウヒ、取次ぎを女将に依頼するも返ってきた返事はもう宿には居ないと言うもので、何となくそうではないかと思っていたらしい男性は、見てわかるほど落胆すると愚痴を洩らし、片手で頭を乱暴に掻き出す。


「何かあったのかい?」


 ユウヒに用件があって訪れたのであろう馴染の兵士に女将は小首を傾げ、その顔に僅かな訝しい感情を滲ませる。


「冒険者組合との一件でな、ちょっと代官所に来てほしいそうだ」


 カウンターに肘を着く兵士は、女将に目を向けると少し悩むもすぐに理由を話し始め、自分も頼まれただけであまり詳しくは知らないと言外に答えて肩を竦めて見せた。


「……変な事するんじゃないだろうね」


 男性兵士の返事を聞いた瞬間、女将の目を釣り上がりじっと男性兵士を睨み付ける。


「こっちも色々と把握している。ただ確認の為に襲われた際の話を聞くだけだろ……まぁ縁を結びたいという思惑もありそうだが、これは聞かなかったことにしてくれ、悪いことにはならんだろ」


 女将にとってユウヒは恩人であり、そんな彼が代官所でどんな目に合うか、考えただけで怒りの感情が高まっていく。男性兵士は困った様に体を引くと、手で今にも飛び掛かってきそうな女将を制しながら悪いことにはならないと話す。


「そうかい、よくわかんないけど顔見たら言っておくよ」


「助かる。一応帰って来たところで話をするつもりだがな」


 女将はユウヒをすごい冒険者程度にしか思っていないが、男性兵士にとっては、それはそれは恐ろしい魔法使いである。当然それは代官所の人間も知っており、ツンツン頭の男性兵士が危険な相手じゃないと言ったところで気を抜くことは無いだろう。





 女将に心配され、男性兵士には別の心配をされているユウヒは、森の奥の聖域に建つ室内薬草園で大きく天井を仰ぎ見て、


「へっくしょん!!」


 盛大にクシャミを洩らしていた。


<!?>

<!!>


「おっとすまん、誰か噂したみたいだ」


 腰辺りまである花壇に植えられた薬草の様子を見ていたユウヒの放ったクシャミは、薬草と戯れていた精霊達を吹き飛ばしてしまい、一部は花壇の脇を流れる水路に落水してしまう。


 制御出来ないくしゃみによって引き起こされた惨劇に謝罪するユウヒ、そんな彼を見上げる精霊達は何が起きたのか理解していない様子で瞬くが、ユウヒの謝罪でようやく状況を理解したのか、精霊達はユウヒの側に飛んで来て色とりどりに瞬く。


<?>


「ありがと」


 温かな太陽のような光を身に宿す精霊はユウヒの鼻先を心配そうに撫で、ユウヒのお礼と笑みに嬉しそうに燐光を散らす。


「こっちの薬草はもう収穫してもよさそうだな」


 そんなユウヒの周囲に広がる花壇の中には、森の外の状況からは考えられない様な青々とした薬草が生い茂り、精霊達が種を植えた瞬間から芽を出したかと思うと早送りを見ているような速さで大きくなっていく。


「胃薬の薬はこっちの根っこだったか……根っこが盛り上がって外に出てしまってるな」


<!>


 屋内薬草園に備え付けられた艶のある石の玉からは、ユウヒが偶に使う植物成長魔法である【グロー】の力が振り撒かれ、こちらもユウヒが作った魔道具である花壇の中にその力が収束していっている。水もまた普通の水とは違い、強力な魔道具を通って精製された水の中には豊富な活性化魔力が含まれ、普通の人なら飲むだけで体に魔力を満たせてしまう。


「いやまぁ元気なんだろうけど元気過ぎないか? これ収穫していいの?」


 そんな中でも成長が遅いのがスタールの代官が切望する胃薬の原料となる根っこである。元々は林のどこにでも生えている草の根で、掘っても掘っても早々無くなることが無い生薬なのだが、現在は長い水不足の影響で地面の上の草は枯れ果て、地面の中で休眠していた根も痩せ細って薬として使うには適さない物しかない。


<!! ……! …………!!>


「掘り起こして子供の根っこ、これかな? これを切り取って埋めて、残りは収穫していいのか」


 森の奥でも似たような状況となっている胃薬になる根は、現在花壇の中で丸々と育っており、掘り起こすまでも無く土の外に飛び出している芋の様な根を引っ張り出すユウヒは、団子の様になった根から小さな子供の根を取り外し分けて行く。


「里芋みたいだな、あれは親の芋じゃなくて子芋や孫芋をたべるんだったか」


 里芋などの種と同じようにも見える根を分けるユウヒは、催促する精霊に小さな根を渡すと、複数の精霊に抱えられた根はまた花壇の土の中に埋められる。どうやらそれだけで根は芽を出し増えて行くようだ。


「薬も作ってみるか、これは粉末にしてミヤツと混ぜるんだったか」


 大きな根の塊を運ぶユウヒは、花壇より少し低い場所にある水桶の中に根を沈めて土を洗う。洗いながら精霊から聞いた胃薬の作り方を思い出すユウヒは、作業机の上に広げられた道具に目を向けながら頭の中で工程を組み立てる。


<!!>


「あ、一度水に溶かして乾かした方が良いのか」


 しかしユウヒの工程には不足した部分があるらしく、精霊が囁き足りない部分を補足していく。精霊達のささやきは多くの魔法使いにひらめきを与え、その事が周囲と魔法使いの実力差をさらに大きなものとしていく。


<!!>


 しかし、それは一般的な魔法使いの話であり、ユウヒの場合は一方的に精霊から恩恵を受けるわけではなく、その証拠に屋内薬草園に精霊が慌てた様に飛び込んでくる。


「え、もうエランが実ったの?」


 精霊曰く、エランの樹が実ったらしく、それはユウヒがエランの実から取り出した種を植えたものである。普通なら絶対にありえないことであるが、聖域となった森の中では実際に起きている。


「本当だ……オカシイナ」


 屋内薬草園の窓に駆け寄り外に目を向けるユウヒは、いつの間にか大きく育ったエランの樹に瑞々しい紫色の実がたくさん実っている事に驚き目を見開き平坦な声で感想を洩らす。


「魔法は一番弱くしていたのに」


 確かにユウヒは植物が育ちやすくなる魔法を使っているのだが、それはかなり弱いもので、即効性より持続性を優先していた。しかし現実は彼の予想の斜め上を行っており、まったく予想していなかったユウヒは目の前の光景に唯々困惑するのだった。


「うーん、実ってるけど昨日採取した分があるからな」


 エランの樹を確認するために外に出て来たユウヒは、改めて樹を見上げて小さく唸る。いくら実っているからと言って大量に持って帰ればどうしてもその入手経路を疑われ、現状でも若干不思議に思われている節があるのだ。


「薬にする分だけ採っておくか」


 あまり面倒なことになるのを好まないユウヒは、最低限薬に使う分をとるだけに収めようと溜息を洩らし、隣で実を揺らすバエランの樹にも目を向け、いつの間にか薬草園に現れるようになった小動物の声に笑みを浮かべるのであった。


 それから数時間後、まだ明るいが気を抜けばすぐに夕日に染まりそうな時間、早めに街に入る人々で少し門前が騒がしくなる中を、森から出て来たユウヒは籠を背負ってスタール外壁に沿って歩いている。


「少し遅くなっちゃったな」


 森の奥に入るために街道から外れて歩くユウヒは、分りやすい目印である外壁に沿って歩き帰ってきたようだが、本来はもっと早く帰ってくるつもりだったようだ。


「まぁその分薬草も揃えられたし良しとしよう」


 遅くなった理由は背中の薬草、気のせいではなく確実に一回り大きくなった蔦編み籠の中には、ずっしりとした重みを感じられるほどにたくさんの薬草が入っている。その籠の中からは普通の人には見えない精霊の光が洩れている辺り、彼女達が中で寛いでいる様だ。


「ん? 今日は人が多いな」


 自然物や魔力を豊富に含む物は精霊に安らぎを与え、薬草はその両方を備えている。それ以上に安らぎを感じる対象であるユウヒは、精霊達の寝息の様な意思を感じて微笑むのだが、前方に見えてきた門を見て眉を顰めた。


「止まれ!」


「おや?」


 人が多く門前に並んでおり、街に入るには時間が掛かりそうだと眉を顰めたユウヒであるが、その瞬間周囲を監視していた一人の警備兵が声を上げ、キョトンとした表情で声の聞こえた方を振り向くユウヒを指さす姿から呼び止められたのはユウヒのようだ。


 ユウヒの存在を確認した瞬間周囲を監視していた数人の警備兵が駆けてくる。その姿を遠巻きに眺める人々は、街に入る為の列に並んだまま興味深げな表情で事の成り行きを見詰めていた。


「冒険者のユウヒだな?」


「まぁはい、一応……今はレイバーで活動してますけど」


 そんな視線が集まる中、ユウヒを囲む警備兵の一人が誰何する。冒険者のユウヒか問われ頷きはするが、スタールで冒険者として活動する気がもうすでに無い彼は、自らをレイバーだと名乗って警備兵の言葉を修正した。


「聞いた通りだな、悪いが今から代官所まで来てほしい」


 どうやらその修正は正解だったようで、警備兵たちは視線を合わせて頷き合うと僅かに笑みを浮かべ、しかし代表して話していた男性の口からは代官所まで来てほしいと、普通の人が聞いたら尻込みする様な事を言い出す。


「だいかんしょ?」


「うむ、この街の運営を任されている代官が話を聞きたいそうだ。参考人と言うやつだな」


 想定していない事を言われたことで勘の良いユウヒも流石に驚いたのか、それともこの世界に代官所なるものが存在する事に驚いたのかキョトンとした表情を浮かべる。兵士の説明によってゆっくりと表情が戻っていくユウヒは理解した様に頷き、頭の中に浮かんでいた時代劇の風景を振り払う。


「……」


「とって食われるわけではないから安心しろ、何か問題があって捕まえるのなら警備隊が総出で出迎えているさ」


「はぁ?」


 砂利の上に敷かれた御座に正座する必要は無さそうだと、ほっとするユウヒに笑いかける兵士曰く、今回の呼び出しは話を聞きたいだけで何か裁かれるようなものではないと言う。それにしても状況が良く分からないユウヒは、小首を傾げると周囲を囲む警備兵を見渡す。


「場所がわからないだろうから、案内の人間を一人つける」


「ありがとうございます?」


 総勢七名の警備兵に囲まれている時点で捕まえに来ているとしか思えない状況であるが、どの警備兵もどちらかと言えば友好的な表情であり、案内すると言う若い警備兵に至ってはとても腰が低く、所作が異様に丁寧である。


「聞かれたことを素直に応えればいいと思うから、まぁ頑張れ」


「……はい」


 最後にその場で代表して話していた男性から勇気づけるような声を掛けられたユウヒは、苦笑いで返すと背中の籠を背負い直して警備兵用の扉からスタールの街に入るのだった。





 列に並ぶことなくスタールの街に入るユウヒに対して苦情がいくつか出た門前から遠く街の中央区域に建つ代官所。街を運営する為に必要な物が揃う代官所は広く、複数の棟からなる一画には会議などを行う部屋も複数存在する。


「縄をほどけ! 擦れて痛いだろ!!」


 その中でも石造りの丈夫な会議室では男の大声が響き渡り、石造りと言う事もあって音が反響して余計にうるさい。


「やはり猿轡が必要だったのでは?」


「それじゃ意味ないだろ……」


 拘束したまま持ち運びができるように小さな車輪が脚に着いた椅子には、冒険者組合長代理のゲーコックがロープで縛られており、体を揺らし飛び跳ね叫ぶ彼に頭を掻く警備兵。その様子を見ている代官は、秘書の男性の口から洩れる言葉に対して、同意したい気持ちをぐっと抑えてため息交じりに答える。


「ユウヒ殿をお連れしました!」


「うむ、入ってくれ」


 そんなうるさい空間に警備兵が大きな声でユウヒの到着を伝え、少し表情を明るくした代官は喉を慣らすと威厳のある声で入室を許可した。


「ユウヒだと!? くそがふざけんな! おまえのぐえっ!?」


「良い判断だ」


 しかし、ユウヒの名前を聞いたゲーコックは顔を真っ赤にするとそれまでより大きな声で叫び、悪態を吐こうとした瞬間、首に掛けられたロープを後ろから引っ張られ息ごと声が止まる。


「えーっと、失礼します」


 代官に言葉を貰い胸に手を当て背筋を伸ばした警備兵は、苦しくない程度にゲーコックの首紐を張って彼が叫びだすのを牽制し、そんな様子をちらりと横目で見たユウヒは代官に声を掛け小さく頭を下げた。


「よく来た。……貴殿がま、んんん! レイバーとして働いているユウヒだな?」


「えっと、はい」


 未だに状況が飲み込めないユウヒに、代官は威厳を崩さぬように話し出すが言い淀み、レイバーと言い直して問いかける。何が彼をそう言った言葉使いにしているのか不明であるが、ユウヒは言われたことに対して素直に頷く。


「私はこの街を預かる代官のガスターだ。今日は少し確認したいことがあって呼ばせてもらった。まぁ楽にしてくれ」


「はい」


 代官の名前はガスター、スタールを正しく運営する為に領主から任命された者であり、今回街で起きた問題に対して最終的な対応を行わなければならない立場だ。簡単な問題なら部下に丸投げでも良いのだが、今回は起こった事件も関わった人間も問題しかなく、そんな問題の一つであるユウヒは椅子に座るよう促され、柔らかいクッション付きの椅子に浅く座る。


「先ず、君は宿で冒険者から襲撃を受けて、その翌日も街中で同じ冒険者から襲撃を受けたかね?」


「ええ、まぁ……街でも襲ってきたのは宿で襲ってきた男達と知らない男達だけですね」


 商業組合長がまとめた報告書の確認が今日呼び出した理由なのか、ユウヒに起きた問題について問うガスターはユウヒの返答に対して静かに頷き、報告書の内容に修正を入れる。どうやら報告書も完全ではない様だ。


「うむ、では君は冒険者組合でその男から何か強要されたかな?」


「むぐー!!」


 次の質問はゲーコックについての様だが、その男と呼ばれて振り向いた先には猿轡を噛まされたゲーコック、あまりに暴れる為に警備兵が先んじて静かにさせたようだ。そんな男の姿にユウヒは表情を引きつらせると、どこか呆れた表情を見せる代官に目を向け話し始める。


「あー、スタールで冒険者登録か何かしろと言われました。そうしないと薬草の採取をさせないと」


「ほう?」


 嫌な記憶は努めて早く忘れる、そうしなければ心が先に壊れるような社畜時代、また幼少時代を経験してきたユウヒは、忘れかけていた記憶を引っ張り上げながら代官の質問に答えて行く。その返答は代官からしてみれば裏切り行為の様な内容で、ただでさえ薬草が手に入らない現状において、さらに悪化する様な行動は慎むべき行動であった。


「むうん!! むうううん!!」


「何かな?」


 そんなユウヒの返答に対してゲーコックは言いたいことがあるのか激しく暴れ始め、そちらに目を向けた代官は目で警備兵に猿轡を外すように促す。仕事として代官所の椅子に座るガスターは公平でなくてはならない、その為にもゲーコックはこの場所に呼ばれているのだ。


「ぶはっ!? そいつが規約違反を繰り返すから温情を与えただけです! ただでさえ怪しい放浪冒険者が罪を犯さないように組合としての義務を果たしただけなんです!」


 そんなゲーコックは猿轡を外されるや否や唾を吐く勢いでしゃべり始め、その叫ぶような説明を聞く限りユウヒはどうしようもない冒険者であり、危険な冒険者が街で事件を起こさないように手を尽くした結果だと言う。


「……」


「っ……」


 大体の事情を把握している者達はゲーコックが何を言っているのかすぐには理解出来ず閉口し、ユウヒの顔からは表情と言うものが抜け落ちて行く。その表情はただ単に面倒だと言う感情故に表情を作る気もしていないだけなのだが、傍から見ると怒っている様にも見え、代官はそっと自らのお腹を手で押さえるのであった。

 いかがでしたでしょうか?


 代官所を訪れたユウヒは冷めた心で暑くるしい組合長代理の話を聞いているようですが、どんな結果になるのかこの先もお楽しみに。


 それでは、今日はこの辺で、皆さんの反応が貰えたら良いなと思いつつ、ごきげんよー

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[気になる点] 魔法使いを畏れてる割に 扱い雑だよね この世界
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