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ワールズダスト ~砂の海と星屑の記憶~  作者: Hekuto


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第56話

 修正等完了しましたので投稿します。楽しんでいってね。





 森に足を踏み入れたユウヒが精霊と一緒にちょっと危ない木の実を探している頃、冒険者組合のロビーに置かれた大きなテーブルには、組合に居る人々のほとんど全員が集まり大きな輪を作っていた。


「なるほど、それで君たちは街の外を嫌って宿に帰って来たところを襲撃したのか」


「はい……」


 すでに様々なメモが書かれたテーブルの上の大きな白木の板、書いて削ってを繰り返しているが思ったより表面はなめらかで、使い慣れた感じがそこから伝わる。


 そんな白木の板を前に話していたのは、昨夜ユウヒを宿で襲撃した女性冒険者の三人、代表して話しているのは革鎧を着た前衛職の女性で、彼女曰く、街の外での襲撃は最近増えている魔物と言う不安要素があった為、疲れて帰って来たところを狙うという意味で宿を選んだのだという。


「どう考えても、問題しかない行動だけど」


 小さく背中を丸めて話す彼女の言葉に、周囲の冒険者達は責める事の出来ない様な何とも言えない表情で視線を交わし、問題しかないと言ってメモを板に書き込む職員を見詰める視線には苛立ちと、しかし声に出して言えない不満を飲み込むような表情で目を逸らす。


「でも、組合長代理からの許可は出てたから」


 職員の言葉に、フードを被った小柄な女性が皮鎧の女性の隣で呟き、その言葉に周囲の冒険者達は頷く。


「証拠は?」


「直接聞いたぐらいで、それ以外は……」


 冒険者たちの反応の原因は男性職員の物言いにあるようで、どこか責めるような口調で問う男性を見詰める冒険者たちの視線には不満しかない。何故なら本来指示した側である冒険者組合職員の認識不足がその言葉の端々から感じられ、その事を証明する様に男性職員に目を向ける受付嬢の視線は冷めている。どうやらこの職員の男性は、冒険者と接する仕事をあまりしてこなかった人間の様だ。


「それに関しては、職員も聞いていました」


「ふむ、ならこれは問題ないな」


 どこか疑うような視線を小柄な女性冒険者に向ける男性職員、その視線に怯えた様子を見せる女性冒険者に受付嬢が助け舟を出す。実際に彼女達はゲーコックが指示を出す姿も言葉も聞いており、何だったら指示内容と時間をメモにとってもいる。


 ちらりと受付嬢に目を向けた男性職員は、すぐに書き板に書き込みながら小さく呟き、彼の後ろでは溜息を洩らす褐色の受付嬢が眉間に皺を寄せていた。


「問題ないの?」


「問題あるけど、彼が言った以上は君たちの意思で行ったわけじゃないからね」


 冒険者たちのフラストレーションが蓄積している事に全く気が付いていない男性職員は、小さな声に顔を上げてため息を洩らすと、問題はあるがその問題があるのはゲーコックであって質問に答えた冒険者の女性達には無いと言外に語り、その言葉にほっと息を吐く姿に笑みを浮かべる周囲の冒険者達は、男性職員に何とも言えないジト目を向ける。


「いや、あいつらはどうかな……」


「彼らはもう捕まっているからね……しかし増員しても捕まるか」


 だがその一方で、女性冒険者が抜けた分の増員までしてユウヒを襲った男性冒険者達に関しては少し話が違ってくるようで、皮鎧の女性冒険者の悩まし気な呟きに肩を竦める男性職員は、何か言いたげな目で周囲の冒険者を見渡す。


 何が言いたいか、いくら学より力な冒険者達もそんなことすぐわかる。要は他所から流れてきた冒険者一人に対して返り討ちに合うスタールの冒険者は情けない、そう言いたいのだと理解する冒険者達の手は自らの得物に伸びて行く。


 しかしその動きはすぐに止まる。


「いや、あれは人増やしても勝てないよ」


 何故なら革鎧の女性冒険者が呆れや諦めの混ざる疲れた声で呟いたからだ。その声には弱いと言われた事に対する憤りなどは感じられず、背後の小柄な二人の冒険者も頷く姿に周囲の冒険者達は興味を引かれた様である。


「ふむ、その放浪冒険者はそんなに強いのかね? むしろ怪しいのはその男の様な気もするが」


「良い人でしたよ? 勧誘は袖にされましたけど」


 放浪冒険者ユウヒについてこの場で一番詳しいのは、彼を必死に勧誘していた受付嬢、彼女は男性職員からの質問に対して軽い調子で良い人だと答えた。なにせ柄の悪い人間がどうしても多くなる冒険者界隈、丁寧な受け答えが出来て特に怒鳴る事もない人間は総じて良い人となる。


「その彼にも話を聞く必要があるか」


 しかしその答えに顔を顰める男性職員にとっては、ユウヒが怪しく見えて仕方ない様だ。故に今行っている事情聴取をユウヒにもと呟く彼だが、その言葉にフードを被った小柄な女性冒険者の二人は顔を蒼くして口を開く。


「止めた方が良い」


「何故だね」


 無口な女性の代わりに声を上げる少しだけ身長の高い女性は、元から白い肌をより不健康に蒼くしながら止めた方が良いと言うが、男性職員は納得できる意見を求めて少し強めの語調で問う。


「……」


「うん」


『?』


 少し悩む様に視線を彷徨わせた彼女は、隣の無口な女性と小さな声で何か囁き合うと小さく頷き、その姿に周囲は興味深げな表情で小首を傾げる。


「これはほぼ間違いないと思うんですけど、あの人、ユウヒさんは魔法使いです」


「は?」


「うそ?」


 覚悟を決めた様な顔で話し始める女性曰く、ユウヒは魔法使いであるという。実際大当たりなのだが周囲の反応は薄く、男性職員は何を言われたのか思考が追い付いていない様子で、受付嬢の二人も目を瞬かせている。


「最初は高位魔法士だと思ったんですけど、あれは……あの魔力は何もかもが私たちの使うものと違います」


 静かになったロビーでどこからか唾を飲む音が聞こえてくる中、再度口を開いた女性はフードの奥から少し震えるような声で話す。彼女は宿襲撃時に杖を持っていた通り魔法士であり、襲撃当初はユウヒが高位の魔法士だと思って随分な覚悟を決めていたようだが、事が進めば進むほどに相手の能力を理解して行った、いやしてしまった様だ。


「あと」


「あと?」


 そんな説明をする女性の隣で、無口であまりしゃべらない子供にも見える小柄な女性がか細く呟く。あまりに静かなロビーだったことでその声は周囲にも良く聞こえ、受付嬢の返事に銀の瞳を上げた女性は喉を慣らす様に咳き込む。


「精霊がざわついていた」


 普段より大きな声を出すために咳き込んだ女性曰く、ユウヒの周囲で精霊がざわついていたという。精霊と魔法使いは切っても切れない関係にある為、精霊が関わってくると信憑性はより増す。


「君は精霊が見えるのかね?」


「この子は気配だけで、それ以外は無理みたいです」


「気配だけでもすごいじゃないですか」


 驚いた様に立ち上がり問いかけてくる男性職員に、銀の瞳の女性冒険者は怯え革鎧の女性の後ろに隠れてしまう。その状況に革鎧の女性は眉間に深い皺を寄せて職員を睨み付け、怯えて後退る男性に目を向ける魔法士の女性冒険者曰く、怯えて隠れてしまった女性は精霊の気配だけわかるそうだ。


「普通は声なんてわからない、でもすごく精霊がざわつくと偶に聞こえる。……あれは怒りの感情だったとおもう」


 皮鎧の女性の背中に隠れて、その背中に顔を押し付けたまま話す銀の瞳の女性は、少しくぐもった声で説明を始める。どうやら普段はよくわからない精霊の気配だが、感情が高ぶった精霊の強い意思を聞き取る能力はあるらしく、宿で感じた精霊の声は怒りの声だったようだ。


「あんな街中で精霊が怒るなんてこと普通だと無いんです。たぶんあの人の魔力に集まって来て呼応したのか」


「単純に、契約者の危機に反応した」


 少し不安そうに呟く仲間の背中を摩る小柄な女性は、女性魔法士の言葉を引き継ぐように精霊について説明する。魔法士になるには高度な学問を修める必要があり、精霊に関する事も同時に学ぶものである様だ。


 そんな彼女達の考えは割と間違っておらず、砂の海の一般的な魔法使いの様な契約をしているわけではないが、大事な人が虐められたとあっては精霊の怒りも計り知れないもので、一歩間違えれば大災害に発展していたところである。


「うそ、それって私も恨まれてるの!?」


「わからない」


 そんな危機的状況も、ユウヒが男達を吹っ飛ばしたことにより精霊の溜飲が下がった事で無事回避、寧ろ機嫌の良くなった精霊の影響で、その日の夜は周囲の環境が何時もより少し穏やかになったくらいだ。


 そんな魔法使いを相手にしていたなど思いもしてなかった革鎧の女性は驚き、すぐに顔を蒼くするも、そんな彼女に目を向ける銀の瞳の女性は首を横に振ってわからないという。


「あの人に交渉して聞いてもらうしか、今のところ手はないかな?」


 皮鎧の女性は希望に縋る様に視線を隣に向けるも、見詰められる魔法士の女性も似たようなもので、建設的な意見を口にするがそれも絶望的、何せ彼女達はユウヒを襲った加害者である。恨まれていないわけがないと顔を手で覆って項垂れる革鎧の女性に周囲は気遣わし気な視線を向けた。


「他にあるとしたら?」


「ほかの魔法使いか魔女に依頼する」


「実質無理じゃん!?」


 何か他に方法は無いのか受付嬢が思わず問いかけるも、返ってくる提案はより難題になるばかり、魔法使いなど早々居るわけがなく、魔女なんて特別な伝手でも無ければ貴族でも一生会えない。





 冒険者組合のロビーが事情聴取会場から革鎧の女性冒険者を励ます会に変わっている頃、スタールに所属する各組合は慌ただしくなっており、それは治療院もまた同様の様だ。


「あらあら、これは……急な話ですね」


 スタールの各種施設、商会、組合、それら長の定期的な集まりを長会議と言うのだが、今回は冒険者組合の暴走によって臨時の会議が開かれることになった様で、その為の知らせを配るのは人の足であり、治療院には商工組合の人間がお知らせの手紙を持ってやって来ていた。


「すでにうちの組合長と警備隊長の出席は決まっています。他の組合長に関しては代理の可能性が高いですね」


「それでこの議題のユウヒさんと言う方は何をしたのかしら?」


 どこかおっとりした調子の声で問いかけるのは治療院長、警備隊長と商工組合長が率先して出席すると聞いて少し驚いた様子を見せながらお知らせを読む彼女は、そこに書かれた聞き慣れない名前について不思議そうに問いかける。


「ユウヒ様ですか?」


「あら、知っているの?」


 その問いかけに対して先に反応したのは、院長の側に控えていた女性。ユウヒと言う名前に敏感な反応を見せた彼女は、部下に指示してユウヒに薬草採取を依頼する決定をした女性で、その決定に院長の許可は特に得ていない様だ。


「先ほど話していた薬草を採取してくれると言うのは彼の事です」


「そうなの?」


 どこかふわふわとした印象のある院長、彼女は丁度部下から薬草採取の件で事後報告を受けていたところの様で、報告の途中で緊急の来客を受けた事でユウヒに関しては初耳だったようだ。


「はい、魔法薬も作れる優秀な錬金術師の様だと聞いています」


「あらあら、家に来てくれないかしら?」


 治療院が手に入れた情報からの推測も含まれるが、それほど間違いではないであろうとして暫定的に錬金術師であるとされたユウヒ。そんな人物に対して柔らかい笑みを浮かべる院長は商工組合の人間を前にして引き抜く意思を隠すことなく見せ、その言葉に思わず苦笑いを浮かべる男性商工組合職員。


「そう言ったお話はまた後にしてもらって良いでしょうか? 彼にも出席してもらえるよう頼む事になっているので」


 あまり余計なことは考えてほしくないという思考が自然と声に現れる男性に、院長はきょとんとした表情を浮かべると楽しそうに微笑む。放浪冒険者と言う事もあって一時的な付き合いであろうと考えられるユウヒであるが、彼が持ち込む薬草は現状の商工組合にとって大きな利益となっていた。


「そうですか、では私も出席しますね。あ、お茶とお菓子も用意してもらえると嬉しいわね」


 それ故、焦りから思わず語気を乱す男性に、くすくすと笑う院長は自ら出席すると言って書類にペンを走らせる。


「分かりました。伝えておきます」


 普段は長会議も代理を立てる治療院の長が、楽しそうに自ら動くと言う事に驚く男性職員、背中に嫌な汗を掻く彼は目の前の年齢不詳な女性に返事を返すと、返事と署名が書かれた書類を受け取りその場を後にした。


「うふふ、楽しみね」


 男性を見送った院長が楽しそうな声で呟く姿はまるで好物を前にした少女の様で、ふわふわとした柔らかな上司の表情に苦笑を漏らす部下は、報告途中であった内容を口にすると、それまでと違う喰いつきを見せる院長に対して困った様に笑うのであった。





 一方、話題に上っていた森を歩くユウヒは真新しい蔦の籠を手にして嬉しそうに笑っていた。


「くふふふ、楽しみだな」


 籠の中にはピンポン玉サイズの実が入っており、紫色をした実は形ごとに大きな葉で作られた袋に分けられている。


「実に良い油だ。こっちは機械油としては使えそうだが、どう頑張っても飲食厳禁だな」


<!>


 どうやら油が採れる実はどれも同じ紫色であるが、形の違いで可食かそうでないかが見分けられるようで、食用可能な油は非常に高品質らしく、右目を金色に輝かせるユウヒは籠を抱えて嬉しそうに微笑むも、隣の食べられない油の実を見ると表情を険しく窄めてしまう。


「腸で吸収できない油だからケツからそのままするりと出るのか、しかも常温で驚くほどサラサラ、こりゃどんなに括約筋が優秀でも止められんわな」


 精霊から聞くだけでは詳しくわからない油も、実物があれば金の瞳で全てを詳らか調べられる。視界の半分を覆ってしまう説明によると、精霊が言っていたような状態になるのは事実のようで、腸で吸収できない油は非常にサラサラしており、どんなに我慢していても立て板を流れる水の様に排出されてしまうと言う内容を見て、思わずお尻に力が入るユウヒ。


「こっちの油は体に良いものが多いし酸化もしにくい、どんな料理にも使えそうだな、ちょっと香りが強いけどオリーブオイルみたいなものか」


 想像して表情の窄むユウヒは気分を入れ替えるように食用の実に目を向ける。そこには理想的な食用油の説明が映し出され、甘い香りが少し強いように書かれているが、ユウヒの感覚ではそれほど気にならないだろうと言った程度の問題の様だ。


「揚げ物が食べたくなってきたな、コロッケかアジフライか……」


 視界の半分以上を埋める油の実の説明をぼーっと見ていたユウヒ、彼はスッと目を閉じると空を見上げ、光を失った目で樹々の隙間に見える遠い青空を見ながら空腹に押し出されるように呟く。


「そろそろ薬草園に戻ろうか、薬草もまとめてお薬も追加して、ついでにみんなが言う便秘解消薬? てのも作るか……作って何に使えるかわからんけど」


「!!」


 上げていた顔を前に戻すと軽いステップで後ろを向くユウヒ、その向きにまっすぐ歩けば森の奥の薬草園にたどり着く。欲しいものは全て揃ったと歩き始めるユウヒは、抱えた籠の中で跳ねる精霊達に声を掛け微笑む。何やらまた精霊の声を聞いておかしなことを考えていそうなユウヒは、魔物の闊歩する森の奥をピクニックに行くような軽い足取りで歩を進めるのであった。



 いかがでしたでしょうか?


 危険な素材を手に入れたユウヒ、そんな彼を待っているであろう面倒くさそうな事態、次回もお楽しみに。


 それでは、今日はこの辺で、皆さんの反応が貰えたら良いなと思いつつ、ごきげんよー

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[一言] 敵対した奴らに、油を飲ませよう(ニッコリ
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