第54話
修正等完了しましたので投稿します。楽しんでいってね。
一夜明け、昨夜の騒動の爪痕が残る宿屋のロビー。
「おはようございます」
体が自然と早起きしてしまうユウヒは、気持ちの良いふかふかのベッドのおかげで眠りが深かったのか少し機嫌が良い。起きてすぐに濡らした手拭いで顔を拭いて身嗜みを整えた彼は、ロビーの賑やかな様子を横目にカウンターのサヘラに声を掛ける。
「あ、ユウヒさんおはようございます!」
サヘラは昨日と打って変わって忙しく動き回っており、カウンターの奥で荷物を片付けていた彼女はユウヒに気が付きすっくと立ち上がって満面の笑みで挨拶を返す。
「昨日はすいません、色々巻き込んでしまって」
「なに言ってんだい、元はと言えばあたしが原因なんだから謝らないでおくれよ」
カウンターに小走りで駆けていくサヘラに気が付いたのか、女将も奥から姿を現し、そんな二人にユウヒは申し訳なさそうに頭を下げる。昨夜は色々あって食後すぐに寝てしまったユウヒの謝罪に、女将は声を張るとユウヒには何の落ち度もないと言って肩を落とす。
「……それじゃお互いさまと言う事で」
「そう言う事だね」
ユウヒがレイバーとして薬草採取を行ったことが今回の襲撃に繋がったと考えている女将、彼女の考えはそれほど間違いではないだろうと考えるユウヒの言葉に、二人は同じような苦笑を浮かべて肩を竦め合う。
「今日も薬草採取に行かれるんですよね?」
「ええ、治療院の方からも薬草を頼まれたので少し多めに集めてきます。遅くはならないと思います」
冒険者組合の行動に若干の違和感を感じるユウヒは、そんな考えおくびにも出さず笑みを浮かべると、サヘラの問いかけに楽しそうに応える。昨日ユウヒを訪ねてきた治療士の女性は、治療院として直接ユウヒに薬草の採取依頼に来たようで、すでに商工組合にも話は通してあると言う話を聞くまでも無く特に断る理由もないユウヒは依頼を受ける事にしたのであった。
「無理するんじゃないよ?」
「ありがとうござます。それじゃ」
いつものポンチョのフードを被り、その内側に肩掛けバッグを掛けたユウヒは、ワームの杖を肩に掛けて歩きだし、女将の言葉に笑みを浮かべる。
「いってらっしゃーい」
「……ふぅん?」
サヘラが手を振るとチラリと目を向けたユウヒは小さく振り返す。手を振り返すユウヒに満面の笑みを浮かべる彼女の隣で、母親は意味深な視線を向けるが機嫌の良いサヘラは気が付くことなく、ロビーのソファーに座る男性達からの視線にも気が付くことは無かった。
そんな朝の宿屋の光景を影から見詰める者達、
「行ったな」
小さな声で呟く男は鋭い目つきでユウヒを見詰めている。
「予定通りに」
「了解」
彼が予定通りにと呟くと、影の奥から男の声が聞こえてくるも、その声の主はすぐに軽い足音を鳴らしてどこかへ走り去り、鋭い目つきの男もすぐに逆方向へと歩き去ってしまった。
それからしばらくした狭い道の路地裏、陥没の所為かあちこちで通行規制が行われているスタールの街を、迷いながら外壁の門に向かって歩くユウヒ。
「森の中はどうなってるかな」
長い杖で地面を突きながら歩くユウヒは、森の奥に作り上げた室内庭園の事を考えて空を見上げる。
魔法の力と精霊の力であっと言う間に出来上がった室内薬草園、その存在があるからこそ治療院の依頼もホイホイと受けたユウヒ。普通なら足元を見て値段交渉などするところを、彼の軽い二つ返事による了承には治療士の女性も驚き、自らお願いしているにも拘わらず大丈夫なのかと心配そうに問いかけてしまったほどだ。
「まだ蔦が残っていたはずだし、あれで籠でも作れば薬草持ってくるのも楽かな」
色々と箍が緩んでいるユウヒでも、やりすぎたと言う気持ちが自然と湧いてくる森の薬草園。屋内も屋外もユウヒの魔力に当てられており、一夜明けてどうなっているか少し不安を覚えるユウヒ。しかしそこは少しだけ、すぐにそんな感情忘れてしまうと、残っていた魔物の素材を思い出し笑みを浮かべる。
そして徐に左手に魔力を籠め始めた。
「死ねや!!」
「【小盾】」
その一撃は直上、屋根の上からの奇襲。しかし奇襲にしてはお粗末で、明るい太陽に照らされ視界の端の民家の壁で動く影の主は、両手で持った両刃の剣を振り下ろす際に殺気に満ちた声を上げ、ユウヒの左手に握られた【小盾】はその一撃を難なく受け止めた。
「がら空きだぜ!!」
その瞬間、路地裏の細い道をさらに邪魔するように置かれた木のコンテナが吹き飛び、中から大柄な男が手に斧を持って現れ、左手の盾で剣を受け止め杖を小脇に挟むユウヒに横凪の一撃を放つ。よく見ればその男は昨夜ユウヒが殴り飛ばした男であり、今日は真新しい両刃の剣ではなく、使い込まれた斧を持っている。
「空いてないけどね?」
「くそ! なんて力だ」
左の盾で剣を受け止め隙がある様に見えるユウヒであるが、斧による横凪の重い一撃をワームの杖で受け止め、長物にも拘らず懐に入って来た斧を器用に受け止められた感触に大柄な男は悪態を洩らす。
必殺の一撃、そう思わせるほどの迫力の裏でユウヒに本命の一撃が迫る。
「シッ!」
それは屋根の上からの狙撃、引き絞られた弓が解き放たれ、番えた矢が一直線にユウヒの首筋へと突き進む。小さく息が漏れる音に押されるように空気を切り裂く鋭利な一撃は、
「おっと、危ないな」
ユウヒに届くと思われたが突然目標を失い石畳の地面に当たってどこかへ跳ね跳んでいく。
「後ろに目でもついてんのかよ!」
「目がどんだけ付いてようが関係ねえ! 裏道で長物なって使えないだろうからな!」
息を殺した必殺の一撃を、ただ身を捩るだけで避けられた男は、民家の屋根の上で悪態を洩らしながら小指で握っていた次の矢を番え、その言葉に大柄な男は腰に差した二本目の斧を掴むとユウヒめがけて抜き放つ。
「槍なんて振り回してる自分を恨めよ!」
体を捻る動きに合わせて後ろに飛び退くユウヒは、剣と斧の攻撃から解放されるもすぐに背中が石造りの建物の壁にぶつかり、その隙を逃すまいと剣の突きと斧の振り下ろしが迫る。
「おっと! 確かに狭い場所だとこれはやりづらいか、街中じゃなかったら周囲事吹っ飛ばしてるの、に!」
突き込まれる剣めがけて【小盾】を投げつけ、その反動で横に飛び退くユウヒは、避け切れない斧の刃を杖で受け流し、さらに距離をとる様にステップを踏む。ユウヒが持つ魔法使いらしさのある杖は長く、その有効距離を開けるには路地裏の細道は狭すぎる。
「おらおらおらおら!!」
一方で片手斧はより相手との距離を近くして攻撃する事が出来、ユウヒがこの場で襲われたのは彼らの作戦通りの様だ。
「はいはい、危ないから斧振り回すのやめなって……斧もありかな?」
二刀流の如く片手斧を乱れ打つ大柄な男に対してユウヒは防戦一方、下手に振り回せば周囲の壁に引っかかり致命的な隙を見せてしまう為、杖の中心辺りを持つ彼は小さく最小の動きで斧の攻撃を捌きながら後ろに下がり続ける。
魔法によって身体能力の上がっているユウヒは、状況とは裏腹に余裕があるらしく、狭い場所でも力強く振り抜き連撃も出来る斧に関心を持ち、いつもより少しやる気を感じる顔に楽し気な表情を浮かべていた。
「くそ! ひょりい癖に力があるな」
「おい! 盾持ってるなんて聞いてねぇぞ」
大柄な男のひょろいと言う言葉に僅かな精神的ダメージを食らうユウヒ。その一方で剣を持つ男は鼻から血を流しながら声を荒げていた。
大柄な男は昨夜ユウヒの泊まる宿に襲撃を行った男であるが、剣を持つ男と弓を構えている男は見た事のない顔であり、どうやら増員の様だが事前に情報をすり合わせる事は出来ていない様だ。
「でも取り回しが、あとあれってあっちこっち引っかかるんだよな……ところで君ら街中で暴れていいの?」
斧の連撃、その隙を縫うように飛び出てくる剣による突き、さらに大きく後方に飛べば矢が飛んで来て、路地の影からは投げナイフが時折飛び出してくる。連携の取れた暴力の連続に目を細めるユウヒは、視線をふらふらと泳がせながら斧の取り回しの悪さを思い出し唸ると、急に男達に問いかけた。街中で暴れてもいいのかと。
「はは! 問題ないね! 今日はこの辺の警備は抜ける日だからよ!」
「よそ者には理解出来ねぇだるぉがな!!」
街には警備兵が巡回しており、そんな兵士に暴れているところを目撃されればあっと言う間にお尋ね者である。しかし彼らは慣れているのか、警備兵の巡回ルートや時間を把握しているらしく、今しばらくは路地裏に警備兵が来ることは無いという。
ユウヒを本気で殺すために練られた計画、どこからが彼らの計画なのか分からないが、何時までもユウヒが優しく対応する理由はない。理由は無いのだが、一向にユウヒの表情に怒りが見られることは無く、時折視線を虚空に向けるユウヒの手元は、その視線に合わせて僅かに狂う。
「そんなもん!? ……あぁらら」
男達の言葉に軽く返事を返していたユウヒであるが、手元が狂った事で真面に斧の一撃を杖で受けてしまう。強固なワームの杖であるがそこは中空の杖、重い斧の一撃を逸らさずまともに受ければ耐久力に大きなダメージを負い、これまで酷使していたことで弱った杖は潰れるように折れてしまう。
「へへ、ご自慢の槍もそれじゃもうだめだな!」
見た目の所為か何なのか、杖として見られる事が少ないワームの杖、その折れた姿を見てにやつく男に目を向けたユウヒは、折れてしまい地面に転がる先端部分を見下ろしフードの奥で少し悲しそうな表情を浮かべた。
「畳みかけるぞ!」
「本当に大丈夫なのかい? あんま俺も暴れたくないんだけど……」
その姿がひどく弱々しく見えたのか、気分が良くなった大柄な男は気勢を上げるが、その言葉に少し顔を上げたユウヒはぼそぼそと、しかし何故か良く通る声で誰ともなしに問いかける。
「あ?」
「はは、はったりするしかなくなったか、哀れだな」
まるで強がっているような意味の分からない問いかけに、大柄な男達は一瞬疑問の表情を浮かべると失笑を洩らす。槍を折られ、心を折られ、弱々しくなった相手を蔑むような嘲笑、その顔を見上げるユウヒの目は、フードの奥で粘質に揺らぎ仄かな光が瞬き始める。
ユウヒの事をよく知る友人たちがこの場に居たら回れ右して全力で走り出すであろうが、ここに居るのはユウヒの事を知らない人間ばかり、実の父親も焦って宥める段階に入っているユウヒは、路地裏の細道の奥に目を向けると目を細め、その視線を大柄な男に向けた。
「あんだけやられて学習しないな、何もしないならこっちは勝手にやるから! ……大怪我しても知らないよ」
優位に立ったことでより気が大きくなる大柄な男に呆れた表情を浮かべ、なぜか妙に大きな声で宣言するユウヒは、冷たい表情で男達を見詰めると内なる魔力を汲み上げる。
「はあ? 馬鹿じゃねぇの? そんなこと出来るわけねえだろ!?」
一気に汲み上げられた魔力は体中を満たし、溢れる魔力が僅かな燐光を足元に漏らす。フードの奥から聞こえる言葉に不機嫌そうな表情を浮かべた男は、ユウヒが僅かに俯いた隙をついて勢い良く振り上げた斧を振り下ろす。
しかしその斬撃は音も無く止まる。
「は?」
「……囲め囲め囲め、目覚めを忘れたあの子の様に、地の底で眠るあの子の下へ」
「な、くそ!? 手を離せ!」
なぜなら、その斧はいつの間にか挙げられていたユウヒの左手に摑まれていたからで、小さく呟くユウヒにもう一本の斧が振るわれるが結果は同じ、違うのは右手が使われたことだけで、両手を上げるユウヒの手には斧の刃が握られており、大柄な男が斧を引っ張るも微動だにしない。
両手が塞がる大柄な男とユウヒ、何を遊んでいるんだと言いたげな表情で走り出すのは剣を持った男。
「何やってだ!! な、盾が勝手に!?」
声を荒げ突き立てる剣は、いつの間に現れたのかユウヒの左横腹の辺りを庇う【小盾】によて防がれ、ユウヒの口からは魔力を纏め、練り、形作る為の言葉が囁き続けられる。
「冷たき抱擁は母の愛、冷たき大地の礎へとなれ」
「魔道具か、だが盾一枚じゃ防げないだろ!」
いったいそれが何を意味するのか一向に理解出来ない男達であるが、それでも本能でユウヒを殺すべきことは理解出来ている様で、屋根の上からユウヒの後ろに回って狙いを定める弓使いは躊躇なく矢を放つ。
しかしその矢はまたしても届かない、なぜなのか。
「【乾きし氷柱】」
「氷!? こいつ、魔法士か! くそが逃げるぞ!」
それは氷、ユウヒを中心に地面から吹き上がった霜柱の様な氷は、彼を守り囲む様にして強力な矢をいともたやすく跳ねのけ、大柄な男の斧を氷柱の中に呑み込む。
「お、おう」
「逃がさない」
慌てて凍てつく斧から手を離した大柄な男は、相手が魔法士だと理解するや否や、逃げるために走り出し、【小盾】に攻撃を阻まれていた男も足を縺れさせながらも慌てて走り出すが、時すでに遅く。
「なんだ!? 氷が動いて」
「ひっ!?」
吹き出た氷柱はしなやかに、まるで水の様に形を変えて逃げる男達を絡めとり、細い氷柱の束で作られた奇怪な檻の中へと閉じ込めてしまう。それは大柄な男も剣を持った男も、屋根の上にいた男も隠れていた投げナイフの男も同様で、不格好な姿勢で閉じ込められた彼らの口からは驚きと恐怖で悲鳴が漏れ出る。
彼らから視線を外したユウヒの周りにはすでに氷柱は無く、一歩下がって後ろを振り返ったユウヒは、視線の先、路地裏の入り口に立っているツンツン頭の男性に目を向けた。
「……それで? 街の警備兵は冒険者組合とグルって事で良いの?」
「違う違う! おい! なんでこうなる前に捕縛しなかったんだ!」
ジト目で問いかけるユウヒに慌てて首を横に振る男性は、スタールに着いた初日から世話になっている警備兵。乱暴な言葉遣いと違って細やかな気の利く彼は、ここに到着したばかりなのか、表通りから路地裏の中に目を向ける警備兵に向かって声を荒げる。
「え、あ、その……」
そう、ユウヒが時折気にしていたのは路地裏を囲んでいたスタールの警備兵、大勢で路地裏を囲む割には全く動きを見せない彼らの姿は、傍から見れば路地裏での出来事を外から見えないように封鎖しているかの如く。問われた兵士は焦った様に言葉を濁すばかりで何の説明も出来ず、その時間はユウヒの疑念を深めるだけである。
「すまん! 冒険者組合が怪しい動きをしてると聞いて張り込んでたんだが」
「……」
そんな空気を敏感に感じとったツンツン頭の男性兵士は、大げさな動きで頭を下げて頭の上で両手を合わせると、怪しい動きをする冒険者を見張っていたというが、その怪しい冒険者に該当するのが誰かは言っておらず、ユウヒは疑念の籠った視線を変えない。
「予定では何かあったらすぐ動くはずだったんだが、本当だぞ?」
「……ふぅん?」
顔を上げた先のジト目に顔を引きつらせる男性は、頭を掻くとユウヒに近付きながら説明を続けるが、やっぱりユウヒの表情は変わらず、体が半分以上壁の向こうに隠れたままの警備兵たちにちらりと視線を向けると、鼻から抜けるような疑念の声を洩らす。
「本当だって! ……俺だって魔法使い相手に不興を買う真似なんてしねぇよ」
その声に大きな声で本当だと叫ぶ男性は、すぐにユウヒの側で声を潜めると、魔法使い相手に喧嘩を売ったりしないと疲れた声で呟く。あまり騒ぎになってはいけないと声を潜める男性に、ユウヒは溜息を洩らし表情を緩めるが、疑念の籠った目をそのままである。
「共謀者がそっちにも居そうだね?」
「必ず調べて示しは付ける。だからここは穏便に、な?」
何故ならユウヒの勘は、彼ら兵士の中に今回の襲撃に加担していた者が居ると言っており、それはツンツン頭の警備兵も同じ意見らしく、しっかり調べる事を約束すると、穏便にと言って困った様に笑う。
「いいけど、次は周囲一帯吹っ飛ばすよ?」
「洒落にならねぇよ」
あまり事を荒立てる気もないユウヒは、肩から力を抜くと頷き、いつものやる気の感じられない表情で次は周囲一帯を吹き飛ばすと言って笑みを浮かべる。普通の人が言えばちょっとした冗談だが、魔法使いが言えば冗談では済まない。事実それをやってのける力がある以上、聞かされた相手はたまったものではなく、ツンツン頭の警備兵も同様で思わず顔の筋肉を引きつらせる。
「ふふ、それにしても気に入ってたんだけどなぁ」
「杖か……」
引き攣った表情を見て笑い声を洩らすユウヒは、足元に転がって来た杖を拾い上げると、疲れと僅かな寂しさを感じる表情で呟き、二つに折れてしまった杖にツンツン頭の警備兵も険しい表情を浮かべた。
「また自作するからいいけどさ」
魔法使いにとって杖は大事なもの、それは魔法士にとっても同様で、その事を知る者から見るとユウヒの言動は実にあっさりとしており、心配していたツンツン頭の兵士は思わずジト目でユウヒを見詰める。
「……ところで」
「ん?」
しかしすぐに表情を戻した彼は、先ほどから気になっていたことについて問いかけようと顔を上に上げ、彼の声にユウヒも顔を上げた。
「これは、何時までこの状態なんだ?」
彼らが顔を上げた先にあるのは、空に向かって捻じれ狂う氷の柱、束になる筋線維の様に力強く生える氷柱、しかしそれは普通の氷ではなく乾いた氷。
「サムイサムイサムイサムイ」
「たすけてくれ! つめたい! いたい!」
「…………」
溶ければ水ではなく気体に変わる氷、より詳しく言えば固体の二酸化炭素が気体に昇華するドライアイスの氷柱、当然氷に閉じ込められるよりもより寒くより冷たい。革鎧を着ていてもしみ込む寒さは冷たいを通り越して痛みまで生じる極低温。
「捕縛するならすぐ元に戻すけど?」
「頼む」
寒さと恐怖で悲鳴と呻き声を上げ、より高い場所に宙吊り姿で閉じ込められる弓使いに至っては白目を剥いて気絶してしまっている。さっさと捕縛してくれと言うユウヒに対して即座に頼むと言って隠れたままの警備兵を手で呼び寄せるツンツン頭の警備兵。
乾いた砂漠の夜は寒いとは言え、ドライアイスの様な冷気を感じることは無く、身の危険を感じるほどの冷たさに、彼は閉じ込められた冒険者たちの無事を祈らずには居られないのであった。
いかがでしたでしょうか?
仏ほど優しくはないユウヒに三度目はないのか、それとも杖を壊されたのが思った以上にショックだったのか、気分もすっきりしたであろうユウヒの物語を次回もお楽しみに。
それでは、今日はこの辺で、皆さんの反応が貰えたら良いなと思いつつ、ごきげんよー




