第48話
修正等完了しましたので投稿します。楽しんでいってね。
爽やかな朝の日の光に目を細め、気持ちよくその日の予定を終わらせるために外に出たユウヒ。しかし出鼻を挫く様な冒険者組合の対応と、冒険者組合から感じるブラック臭に笑みを浮かべた彼は、怒れる女将と商工組合を訪れ小一時間、商工組合について基本的な決まりなどを聞き終えた上で職人とレイバーと言うものについて説明してもらうところの様だ。
「職人と言うのはそのまま物作りに携わる方ですね。ただ職人登録はある程度実績が必要ですので、証明するものが必要で登録にも時間がかかります」
「実績か……」
職人は物作りを行う人々の事であり、商工組合で発行される証明書も同様の内容を保証するものである。だが職人として組合に登録するには実績が必要になって来るらしく、実績を証明するものと言われてユウヒがパッと思いつくのはモンスターバイクであるが、同時に信じてはもらえないだろうと彼は小さく呟き眉を寄せる。
「ユウヒさんは何か作れたりしないのかい?」
「作れますけど実績の証明となるとすぐには」
「私もあまりお勧めしません。色々と決まりごとが多いので、それに比べるとレイバーはだいぶ緩いですからちっさな子供でもすぐになれます」
レイバーと職人を比べると職人の方が明らかに待遇の面が良いらしく、女将もそちらを薦めたい様だが、実績証明と言われて小さく唸るユウヒ。職員もユウヒ達の状況を理解した上で職人登録はお勧めしないという。
「レイバーか……」
一方でレイバーと言うものは小さな子供でも簡単になれるらしく、しかも登録後すぐに使える資格の様だが、その内容が今一想像できないユウヒはなぜか頭の中でロボットの姿を想像してしまうも、朧げなうちに危険だと感じて頭の中から追い出す。
「元々レイバーと言う制度は王家主導で作られたもので、貧困層の救済と言う意味が大きく冒険者以上に間口が広いんですよ」
「へぇ」
トルソラリス王国によって広く認められた仕事の一つであるレイバー、戦争の影響によって生まれた膨大な貧困層を救うために作られた制度であり、誰でもなれると言う謳い文句でそれは冒険者よりさらに間口が広く、戦う力のない子供でも出来る仕事が中心になっている。
「まぁその分基本報酬も安ければ上限もだいぶ厳しく設定されています。逆に何かあった場合などの補償に関しては手厚いですけどね」
「そんなに安いのか」
この制度は子供だけでなく、戦争により手足を失った被災者や戦えなくなった兵士などの受け皿になるもなる仕事で、最低限のお金がもらえるとあり貧困層自体は無くなっていないが犯罪発生率と死亡率の低下には大きく貢献した。一方で報酬は非常に少ないため、稼げる仕事に就くための飛び石の様に使われることが多く、国の思惑もそう言ったものであるため転げ落ちないように補助も手厚い。
「最低報酬が冒険者報酬の2割程度だと思ってください」
「おぅ……」
そんなレイバーの標準的な賃金は、冒険者の依頼量の2割程度と途轍もなく安く、これは早く技術を身に着け次の仕事に就く原動力ともなっているのだが、初めて聞けばユウヒの様に驚くのも無理はない。
「ただまぁ依頼内容はずいぶん簡単に設定されていますので、冒険者なら失敗扱いな結果でも一応の報酬が出たりします。薬草採取に関して言うと萎びていても構いません。使おうと思えば使えるので」
だがレイバーの仕事はどんな結果でも報告さえすれば一応の報酬は出ると言うのが大きく、冒険者が薬草採取の依頼を受けたら最低でも指定された量の薬草は採取してこなくてはならず、少なければ報酬は支払われず、量があっても萎びていたりすれば報酬は大きく下げられ、場合によっては無報酬となる。
「品質面か」
「そうですね、採取物の状態に対する条件も緩いですし、冒険者組合なら束単位からの買い取りですけど、レイバーなら薬草一本からでも特に問題はありません」
一方でレイバーが受ける薬草採取の依頼は葉っぱ一枚からでも報酬が出るし、萎びていても買い取ってもらえる為、外に出て採取してこなくてもそこらに落ちているゴミのような薬草を一枚拾ってきても構わなければ、予め摘んでおいたものを持って来ても構わない。
「だから小さな子供でもって事か」
「何でも良いので大量に採ってくれば、まぁ最悪一食のご飯代くらいにはなるって事です。王都近辺ですとスラムの子供が山のように草を詰んで持ってくるそうで、その仕分けは低ランク職人の小遣い稼ぎにもなってるんです」
王都に住むスラムの子供などは、冒険者から萎びた薬草を一枚譲ってもらい報酬を得ていたり、薬草の判別が出来ないものなどはとりあえず大量に草を刈って来て納品する者さえ居る。
とても仕事とは思えない行為であるが、王家を中心として作られたこの制度はそこからでも価値を見出す事で現在まで続いている歴史ある政策であり、近隣諸国が参考にする貧困対策の一つとなっているのだ。
「なるほどなぁ色々な救済になるわけか」
「我々も多少苦労こそすれ、国からの補助もあって損はしませんから……」
貧困層にも弱者にも優しいレイバーと言う一連の政策に感慨深げに頷くユウヒは、笑みを浮かべる職員の男性に目を向けると、冒険者組合で折れてしまったやる気が少し湧いてくる様な気がした。
「冒険者の俺がやると一方的にこっちが損するって事か」
しかし、レイバーと言う仕事で十分な利益を得られるのは元がぎりぎりの生活を送る人々であって、冒険者として依頼を達成できる人間にとっては利益などあってない様なものである。説明する間も度々言い淀んだりユウヒの様子を確認する様な目配せを見せていた職員の男性は、ユウヒの言葉に眉を寄せ、それは女将も同じようで顔色を悪くしていた。
「はい……こちらとしてはありがたいんですがね? 最近魔物やら穴やらと可笑しなことが続いてレイバーも壁の外には出ないんですよ」
「……」
依頼主、組合と言う二者は何の不都合も無いが、それに対してユウヒはレイバーとして働いても傍から見てこれと言った利点が無い。特に現在のスタールは陥没事故が多発しており、レイバーのほぼすべてがその穴埋め作業に従事しており、危険な外に出てまで薬草を採取する者はいない為、ユウヒの目的を考慮すると組合と依頼主しか得をしない状況だ。
「まぁとりあえず登録して採取してきますよ」
「本気ですか?」
それでも尚、ユウヒはレイバーとして登録する事に前向きであり、彼の言葉に説明を行っていた男性職員は目を見開き驚き、ここまで連れて来たが思惑が外れた女将も同様に驚き、周囲で聞き耳を立てる人々も驚いているのか周囲に妙なざわめきが広がる。
「冒険者として採取が許可出来ないと言うなら仕方ないですよ、薬草は必要なわけですし? まぁこっちは採取できて色々出来れば得もしますから」
普通であればありえないユウヒの言動であるが、普通ではない冒険者組合の対応を考えれば選択肢はあまりない。特にユウヒは今すぐにでも薬草を採取し、自分の欲求を叶えたいという考えがある為、その頭の中では報酬は二の次となっているのだ。
「色々ですか?」
「お薬はあって困りませんから、レイバーの登録ってすぐできますよね?」
ユウヒにとっては様々な選択の結果前向きな言動となっているのだが、その考えが読めない職員と女将は困惑顔で見詰め合い、そんな二人を他所にユウヒはどんどん話を進めて行く。
「は、はい。こちらの羊皮紙に記入とサインを頂ければすぐに証明書を発行できますから、それで後は問題ありませんが……」
「いいのかい?」
しっかりとした羊皮紙で出来た書類を取り出す職員の説明に頷いたユウヒは、カウンターに備え付けの羽ペンを手に取り、慣れない手つきで差し出されたインク壺の中をペン先で突くと、僅かに光る金色の右目と【探知】の指示に従い書類を書き進めて行く。
不安そうに問いかけてくる女将の声に耳を傾けながら間違った場所を横線で修正を入れたユウヒは、インクを補充する流れで隣の不安そうな顔に目を向ける。
「せっかく助けたんですから早く良くなってもらいたいですし、と言っても薬草が生えてるかわからないですけど」
女将は、冒険者であるユウヒなら報酬面で優遇されるだろうと言う、なんとも勝手な考えが成り立たなかったことと、ユウヒの善意に申し訳なさそうに肩を縮こませているが、ユウヒも善意だけで書類を書き進めているわけではない。せっかく助けた人間が悪い状況に陥る姿を見たくないと言うのは事実であるが、隠された本心の方が彼にとっては重要である。
「見たことない文字ですね」
「駄目ですか?」
傍から見れば善意の塊のようなユウヒに対して、感動した様に目を潤ませる女将や感心した笑みを浮かべる職員たち、そんな風に周囲の好感度が勝手に高まっているなど思いもしないユウヒは、書きなれた日本語で書かれた書類に目を向け小首を傾げる男性職員に不安そうな表情を浮かべた。
「いえ、問題ありません。すぐレイバー証を作ってきますね」
ユウヒの視界に映し出された指示は何通りか存在し、異世界の文字を使う指示もあれば日本語で書く指示もあり、どれを選べばいいか迷ったユウヒは書きなれた日本語で書類に名前をサインしたらしく、少し心配だったが特に問題はないようで男性職員は書類を手にカウンターの向こう側にある作業スペースに引っ込む。
「ありがとうね」
「いえいえ、急遽できた決まりとは言え無駄に法に触れることはしたくないので、冒険者組合が許可できないと言うなら他を頼るしかないですよ」
レイバー証明書と言う物に対する興味から笑みを浮かべているユウヒに、女将さんは頭を下げて礼を言う。頭に血が上った事によって稚拙な行動に走ってしまった自らを恥じるようなその声に、ユウヒは特に気にした様子も無く笑って答え、一方で冒険者組合の思惑を偵察兵の如く調べて耳元で囁く精霊を指先で撫でると、思わず小さくため息が漏れる。
「でも……宿代は安くしてあげるからね?」
「……無理はしなくていいですからね?」
ユウヒの口から洩れる溜息を見詰める女将は、眉間に力強く皺を寄せると両の手を胸の前で握り込んで鼻息を洩らしながら宿代に触れ、その言葉に苦笑いを浮かべて答えるユウヒであるが、内心では懐の寒さから安堵の息を吐くのであった。
レイバーの申請はすぐに終わり、魔法による印刷であっという間に出来上がった硬い木製のレイバー証をバッグに入れたユウヒは、軽い足取りでスタールの街の近くにある林に足を踏み入れる。
「さて、草むしりの時間だよ」
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複数の視線を感じながら街を出たユウヒが、採取用の布袋を穂先に括り付けた杖を肩に担ぎ宣言すると、周囲から集まった精霊が歓声を上げてあちこちを指し示す。
「最悪の場合は魔法を使って不正をします」
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統率のとれない自由な精霊達に苦笑を漏らすユウヒは、魔法による不正も考えているようだ。その理由は足元の枯れて茶色くなった草や、萎びて色が悪くなった草を見たからであり、街道周囲に生えている背の高い草からも生気はあまり感じられず、改めて見回す大地の状況を前にして、ユウヒはとてもじゃないが希望的観測を出来そうになかった。
「植物を育てる魔法があるからね、でも人目が付かない場所じゃないと騒ぎになるかもしれないな」
ユウヒには植物を育てる魔法があるため、生きてる草木や種さえあればいくらでも量産できる。ただ問題は調整が難しく、成長を促す程度なら傍目からは何も変わらないように見えるが、新鮮な大量に薬草を用意するとなれば暴走の危険もあって人目の付く場所では先ず使用できないだろう。
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「なるほど? それじゃ最終目的地をそこにしつつ、道すがら薬草を探していこうか」
それも踏まえて行動しないといけないと言うユウヒの言葉に、精霊達は自信満々に輝くとユウヒを導くために風で背を押して林の奥へと誘う。どうやら彼女達は魔法を使うのに良い場所を知っているらしく、精霊達の声に笑みを浮かべたユウヒは、風に押されたことでずれてしまった肩の杖を担ぎなおす。
「その前に、害あるものと求む物を注視せよ【探知】」
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ゆっくり歩きながら何か思い出したように顔を上げたユウヒは、普通の魔法士が見たら頭を抱えるような魔力を一瞬で汲み出し使い【探知】の魔法を調整した。
「少し魔法の方向性を変えたんだよ、いつもは汎用的に使ってるからね」
寝て起きたら顔を洗ったりするのと同じように自然と使っている【探知】の魔法、普段は浅く広く何でも調べる魔法を、特定の情報収集に特化させたユウヒは、精霊が引っ張る先に複数の反応を確認して小さく頷く。
「全力だと右目と同じで余計な情報で視界が埋まるからまだまだ要訓練だね」
魔法の力を手に入れてから随分と経つ今でも、ユウヒはその力を扱いきれていない。何かの拍子で必要以上に力んでしまうと、【探知】の魔法も金色の右目同様に暴走して視界を塞いでしまう。そんな魔法の使い慣れない感覚を調整しながら歩くユウヒは、風に押されながら薄暗い林の奥へと地面から乾いた音を鳴らしながら足を踏み入れるのであった。
いかがでしたでしょうか?
商工組合職員と女将に勘違いされながらユウヒは自らの欲望を満たすために危険な場所へと気軽に足を踏み入れる。次回もそんなお話をお楽しみください。
それでは、今日はこの辺で、皆さんの反応が貰えたら良いなと思いつつ、ごきげんよー