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ワールズダスト ~砂の海と星屑の記憶~  作者: Hekuto


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第46話

 修正等完了しましたので投稿します。楽しんでいってね。





 短時間での思わぬ再会と明日の予定が決まったユウヒは、宿の女将からの好意で大盛りにしてもらった晩御飯を完食して、現在は自室のベッドに倒れ込む様に仰向けで沈み込んでいた。


「ふぅ……確かに食事の質があまり良くなかったな」


 宿舎と違い十分に柔らかくお日様の匂いがするベッドの上でぼーっと天井を見上げるユウヒは、ご飯をお腹いっぱいまで食べて満足はしたものの、その食材には思う所があるようだ。


「新鮮な食材が少なかった」


 柔らかいパンや温かいスープはユウヒ自身が作った物よりずっと美味しかったようだが、使われている食材は多くが保存のきく物ばかり、水棲の食材が多く取り扱われるとあちこちで聞いていた割には、魚がスープに入っていただけであった。


「美味しかったけど、早く水不足が解決したらなぁ……」


 それらは水不足が原因であり、街を見て回ったユウヒは枯れた川や池を思い出して溜息を洩らす。珍しいものとの出会いに喜びを感じるユウヒであるが、食事に関してはまだ砂の海を泳ぐ魚ぐらいしか出会っておらず、そこに不満を感じている様だ。


「しかし薬不足か、素材と万が一に備えていくつか用意してみるか……」


 一方で魔物との出会いは刺激が多く、しかし危険も伴うものであり、今のところ大きな怪我はしていないが今後の事を考えると、備えは必要であろう。現代社会には無い異世界のとんでも薬品はユウヒも作る事が出来る為、その材料である薬草採取は十分彼の利益にもなる。


「何が作れるかな、楽しみだ」


 勝手に採取して良いものか知らないユウヒは、これまで率先して採取を行ってこなかったが、その辺の事情を女将さんから詳しく聞いた事で、この先の薬草採取や薬品調合に目を輝かせ笑みを浮かべ目を閉じた。


「あ、作っても入れ物が必要か、錠剤なら袋でもいいけど液体になったら瓶が必要だな……そとは砂がおおいし、ガラス瓶もつくれるな」


 しかしすぐに目を開くと入れ物について考え始める。ゲームの様にポーションを作るとガラス瓶も一緒に出来るわけではないユウヒの魔法、実際にはガラス瓶の材料も用意することで同時進行で作れるのであろうが、ユウヒもまだ合成魔法をそこまで使いこなせていない。


「うーん、良い素材があると……いいなぁ……すー」


 薬品や口に入れる物を作る時は特に集中する為に余裕が無く、どんなに強力な魔法が使えるとは言えユウヒも元社畜とは言えまだ人の内、どこかの超常の者達とは違いその体力には限界がある。明日の予定をぶつぶつと呟きながらゆっくり目を閉じるユウヒは、まだ残る長距離移動や今日の思わぬ戦闘の疲れからそのまま寝息を立て始めてしまう。


<……>

<!>


 部屋の照明もベッドサイドのオイルランプも点けたまま、布団も掛けずにカーゴパンツにTシャツと言うラフな格好で眠りにつくユウヒに精霊達はそっと近付く。精霊が触れるユウヒの体は浮かび上がり、靴が脱げるとそのままベッドの真ん中に下ろされ、掛布団がふわりとその上に舞い降りる。


<!!>

<?>

<………!>


 風の精霊が起こした小さな風でランプは火を落とし部屋は暗くなり、扉からは鍵のかかる音が聞こえてきた。一般人から見れば霊障のような事が起きる暗い部屋の中で精霊達は何やら相談を始め、賑やかに笑い舞い踊る足元でユウヒは深い睡眠に落ちて行く。


≪~~~~♪≫


 一頻り騒いだ精霊達は声を揃えて輝くと一斉に部屋から出て行き、室内に静寂が戻るのであった。





 ユウヒが早めの就寝に着いた頃、スルビルのサルベリス家邸宅の奥にある一室。


「……ふん、若造が」


 サルベリス家ランシュードの執務室で家の主が手紙を手に悪態を洩らし、その姿に執事の男性が困った様に微笑んでいる。


「いかがいたしますか?」


「今は保留だな、断っても良いがどうにも周辺の領の動きが怪しい」


 いったいどんな内容が書かれた手紙なのか、綺麗で格式ばった封書を机に放り投げるランシュードは椅子の背に体を預けると、微笑み問いかけてくる執事に目を向け大きく唸るような溜息を洩らし保留と口にする。


「保留ですか、正直断っても良いと思いますが」


 ランシュードの返答は執事にとって意外だったらしく、眉を上げる彼は断るものだと思っていたのか、主人の表情を窺うように見詰めた。


「ははは! 正直者だな……今回の水不足は例年のものと比べると明らかに異常だ。だがその割に被害が出ているのはごく一部となればより怪しい、その中にあってサンザバール領はむしろ好景気だと言うではないか」


「調査報告では水特需やら樽特需やら、羨ましい限りですな」


 正直な執事の言葉に一瞬目を見開いたランシュードは、大きな声で笑うと小さく息を吐き話し始める。トルソラリス王国では数年に一度は水不足が起きる為、その備えはどの領地でも用意しており、周辺国でも似たようなものであった。しかし今回の水不足は比べ物にならない被害を出している一方で致命的な被害が出ている範囲は妙に狭い。


 被害範囲の調査を進めれば進めるほど妙な事に気が付いて行くランシュードは、サンザバールの名前を出しながらテーブルの上の手紙を睨み、執事も同じように手紙を見詰めながら小さくため息を吐く。


「こうも露骨に動いている割には他の領の動きが鈍い、王家からも慎重にと言われておる……」


 今回の水不足にサンザバール家が何かしらの手を出している事を察しているランシュードは、険しい表情で他領や王家について触れて腕を組む。


「他国からの攻撃と言う事でしょうか」


「濁さずともよい、帝国であろう。だが証拠は何も無いし動いたところでどうもならん」


 どこからかの圧力が国や一部の貴族にかけられているのは確定、もっと言うなら帝国からの攻撃だろうと呟くランシュード。遠い昔から他国の攻撃からトルソラリス王国を守る貴族であるサルベリス家、特に刃を交えたのは帝国であり、彼等の工作に対してはその感が良く働くが、だからと言って証拠がなければ動きようがない。


「現状被害が多いのは帝国に面した国境沿いですからな、露骨なのは先帝の時から変わりませんね」


 勘の良い貴族であれば帝国が動いている事は理解しており、複数の家がランシュードに文を出している。昔から行動が露骨だと言う帝国では代替わりがあったらしく、呆れる執事は何とも言えない表情で執務室の壁に掛けられた大きな古地図に目を向ける。


「面白くない報告ばかりだ……そう言えばユウヒ殿について何か報告はないのか? 絶対面白い話が聞けると思っていたのだが」


 執務机の上に置かれた革張りの箱に目を向けるランシュードは、その箱に山となった書簡に向かってため息交じりに呟く。しかし何か思い出したように背中を背凭れから離すと、執事にキラキラとした子供のような目を向けて問いかける。元々執事がこの場に居るのはユウヒに関する報告の有無を聞き出すためにランシュードが呼んだ為であり、余計な異物を忘れるように問いかける主人に執事は微笑む。


「そうすぐに報告が上がるものではないでしょう」


「それはそうだが、あの子も楽しみにしておるしな?」


 呆れの混じる初老の執事の言葉に眉を寄せるランシュードは背凭れに体重をかけると、詰まらなさそうに口を窄め、部屋で何やら書き物をしているらしい娘を思い楽しそうな笑みを浮かべるのであった。





 また場所は変わりどこかの地下室、魔法のランプで明るく照らされる広い室内には、よくわからない機器がチューブやパイプで繋げられ所狭しと並べられる光景は混沌としており、装置から漏れる青白い光を複数の男達が見詰めていた。


「まったく制御出来ていません」


「制御なんて最初からできてないだろ」


 特に明るい光を放つ窓を見詰めていた男性は、顔を上げると黒い眼鏡を外して振り替えりざまに声を上げ、椅子の上でふんぞり返る様に座る男性は、高そうな服の袖を振って退屈そうに吐き捨てる。


「ですが、本当に昨日からおかしいんですよ」


「もっとわかりやすい報告をしてくれ、何時からどういう風な異常が出てどうなってるのか、それで今後考えられること、まとめて報告書にしてくれ」


 制御が出来ないおかしいと話す男性に、上等な服を着た男性は眉を寄せてわかりやすく話せと言う。何せ彼らが扱っている機器は自由に制御出来たためしがなく、それ故に利用する為には年単位で準備が必要な代物、その事をよく知る男性は椅子に座り直しながら言葉のたらない男性に報告書を出せと指示をする。


「そんな暇ないですよ! 昼頃から急に吸収効率が上がるし移しが一切できないんですから」


「移しなんてまだ当分要らないだろ」


 装置が異常をきたしてそれほど時間が経過していないがその変化は急激であり、報告書を作る暇などないと話す男性に上等な服の男性はしかめっ面を浮かべて呆れた調子で話す。


「あれは定期的にやっているんです。研究所の奴が小まめにやらないと故障の原因になるっていうから」


 移しが何なのか不明であるが、それは定期的に行わなければ故障の原因になるらしく、身振り手振りを交え話す男性に椅子の上の男性は呆れた表情を浮かべ、その様子に周囲の人々は複雑な表情で様子を窺っている。


「いっぱいになれば止まるんだろ? それからでいい、移し作業が無い分効率が上がるのは良い事じゃないか、替えはまだあるだろ」


「良くないですよ、やっぱり帝国製の宝玉なんて信用するべきじゃないんです」


 何かがいっぱいになると勝手に止まると言う装置、机の上からバレーボールほどの大きさのガラス玉を手に取る上等な服の男性に声を荒げる装置の前の男性、どうやらガラス玉は宝玉と呼ばれるもので、宝玉に目を向ける男性の言葉から装置の根幹であるらしいそれは帝国で作られた物らしい。


「ならどこから宝玉を手に入れると言うんだ?」


「そりゃ遺跡から……」


 元々彼らが使っていた宝玉は遺跡から出土された超古代の遺物であった。しかし声から覇気が抜けて行く男性を見てわかる様に、帝国から手に入れる以外に手が無くなるくらいには貴重な物の様だ。


「どこの遺跡だ、調査に入れる遺跡はもう無い。サンザバール所有の遺跡も調べ尽くした」


「調べ尽くしたって、調べられないだけじゃないですか」


 この地下室があるのはサンザバール領であるらしく、調査できる遺跡もサンザバール領内の遺跡だけの様で、調べ尽くしたと呆れた様に話す上等な服の男性に対して、弱々しくかみつく男性。


「それを調べ尽くしたと言うのだ、今までどれだけ被害を出したと思っている」


 調べ尽くしたと言う言葉は、遺跡の隅々を調べたと言う意味ではなく、安全に調査できる範囲がもう無いと言う意味の様で、椅子の背凭れに体重を預けながら話す男性は、被害と言う言葉を苦み走った顔で口にした。


「犯罪奴隷を使えばいいじゃないですか」


「おまえは……はぁぁ、そんなだから学術院を追放されるんだよ」


「関係ないでしょそんなこと!」


 遺跡調査とはいったいどれほどの被害が出る行為なのか、顔を顰めたままの男性に、装置の前の男性は呆れた様に犯罪奴隷を使えば良いと口にする。犯罪奴隷ならいくら死んでも構わないと言いたげな男性の口調に、怒りで叫びそうになるのを飲み込んで盛大な溜息と共に呆れを吐き出した男性、彼の言葉に向かって装置の前の男性は手を横に切る様に振り抜き声を荒げた。


「はぁ……お前の言った通りに犯罪奴隷を使ったところで今ある遺跡からは何も持ち帰れん」


 男性の怒りに触れるような発言だったのか、しかしその言葉を改める気もない椅子に座る男性は、背凭れにより体重を預け預けながら呆れた様に無理なものは無理だと言う。


「なんでですか、人海戦術は有効なはずだ」


「はぁ、無理なもんは無理だ、入れば死ぬのが今の遺跡だ」


「わけわかんないですよ!」


 彼らが必要とする宝玉は遺跡から手に入るものであるが、現状どんなに手を尽くしたところで意味はなく、遺跡の現状を知る男性は、何も知らぬ男性を心底呆れた様に冷めた目で見詰め、周囲で働く男達の中にもその現状を知る者がいるらしく、一人声を荒げ続ける男性に対して呆れた表情を浮かべながら、言う事を聞かない宝玉の制御に苦心するのであった。





 サンザバールのどこかの地下で夜通し行われた何かの作業、そんな怪しげな集団の事など知りもしないユウヒは、久しぶりの柔らかいベッドの上で目を覚ます。


「わけがわからないよ……」


 そして目覚めて開口一番で困惑を口にする。


 目を開ければ木目が綺麗に並ぶ木製の天井が目に入り、少し視線をずらすとガラスの窓から歪んだ光が差し込み始めていた。


≪……≫


 いつもより少し遅く起きたユウヒが彷徨わせていた視線をお腹の方に向けると、掛けた覚えのない掛布団の上に大量の精霊を見つける。寒い日の猿のように集まって団子になっている精霊達を寝惚けた目で見詰めるユウヒは、何かいつもと違う感覚を覚えたが考えるのを止めると掛布団から手を出し、冷気に晒した手を大きく広げ伸び始めた。


「気持ちよさそうに寝やがって、包んでやる」


 ユウヒの呼吸に合わせて上下する精霊達に起きる気配はなく、だからと言って寝続ける気のないユウヒは、掛布団を持ち上げると風呂敷にで包む様に精霊を布団で捕獲してお腹の上からどける。


「んー今日も良い天気だな……雲一つない、暑くなりそうだ」


 それでも尚、起きる気配のない精霊達を見詰めるユウヒは、ゆるゆると立ち上がってもう一度大きく背筋を伸ばすと、窓越しの歪んだ街に目を向け好奇心に満ちた明るい笑みを浮かべるのであった。



 いかがでしたでしょうか?


 不穏な気配など感じぬ晴天を見上げるユウヒの明日はどこへ、次回もお楽しみに。


 それでは、今日はこの辺で、皆さんの反応が貰えたら良いなと思いつつ、ごきげんよー

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