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ワールズダスト ~砂の海と星屑の記憶~  作者: Hekuto


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第45話

 修正等完了しましたので投稿します。楽しんでいってね。





 朝からずっとイベントが尽きず流石に疲れを体のあちこちに感じるユウヒが、宿の女将に案内されてぐるりと宿を回りたどり着いた先には、


「すごく、大きいです」


 宿舎にあった倉庫より大きな建物がいくつも並んでいた。バイクの上から倉庫の並ぶ一角を見上げるユウヒは、誰に聞かれたわけでもないのに大きいと思わず呟いてしまう。


「家は街の端でからね、土地は安いんだ」


「そんなもんですか」


 スタールの街の中でも外れに位置する女将の宿は、外敵の侵入があった場合最初に襲われる。その分だけ土地も広く安いらしくユウヒが見上げる倉庫も大きく広い、バイクを見上げ笑う彼女の言葉に、ユウヒはバイクの上から彼女を見下ろして納得した様に頷く。


「ここならあんたの遺物も大丈夫だよ」


「助かります」


「貴族なんてもっとすごいからね、それに比べりゃ遺物一台なんて可愛いもんさ」


 ユウヒのバイクはとても大きいがそれはバイクとしては大きいと言うだけであり、遺物や貴族の馬車に比べるとそうでもないらしい。


「その割には警戒されましたけど」


 本当の貴族が顕示欲で使う馬車など見たことがないユウヒは、シャラハが使っていた個人用の馬車を思い浮かべて心の中で小首を傾げると、女将の言い分の割にはよく警戒されると顔を顰めて呟く。


「そりゃまぁ、こっちじゃ中々見ないからね? と言っても前に来た遺物乗りと比べりゃね? 随分とお行儀が良い遺物さね」


「なるほど?」


 それもこれもユウヒが跨るモンスターバイクが実に遺物然とした姿の為であり、しかし一方で女将に言わせればユウヒのモンスターバイクはお行儀が良いらしく、その言葉にユウヒは眉を寄せると、この世界の遺物に怖いもの見たさにも似た興味を引かれるのであった。





 それから十数分、三重の鍵を開けて倉庫の大きな引き戸を押し開き、ずいぶんと広い倉庫の中央にバイクを停めたユウヒは、あまりに大きな倉庫に貴族の馬車がどんなものなのか気になりながら歩いて宿に戻っていた。


「広い倉庫だったな」


<!>


 ユウヒの呟きに傍に付いてくる風の精霊も同意する様に瞬き、どこかそわそわした様子を見せる。


「ん? もう出かけるのか?」


 ユウヒと一緒に見た光景をすぐにでも誰かに話したいのか、ユウヒの目の前でひらりと回転して見せる彼女はこれから出かけるようだ。彼女からの意思に眉を上げたユウヒは笑みを浮かべ、宿の入り口に目を向ける。


「気を付けてな」


<!!>


 宿の外で別れる事となった精霊は、手を振り声を掛けられると眩しく輝いて見せ、あっと言う間に空へと舞い上がり、その様子を見届けたユウヒは踵を返すと大きな宿の入口へと歩きだす。


「さて、今日はゆっくり寝れるかな」


 しばらくぶりの真面な宿とあって、精霊を見送ったユウヒはその時以上の笑みを浮かべ宿の扉をそっと開く。


「話が違うじゃないかい!」


「おん?」


 ふかふかのベッドが待ち遠しいユウヒであるが、宿の扉を開いた瞬間その考えは大きな声と共にどこかへ飛んでいく。思わぬ怒声に驚きそっと宿に入って静かに扉を閉めるユウヒの耳には、何やら言い争いのような語気の強い声が聞こえてくる。


「すみません、今日だけでも怪我人が多くて薬が切れてしまったんです」


 ユウヒが気配を消して物陰から顔を出すと、そこには今にも噛みつきそうな表情でいきり立つ女将とその前で申し訳なさそうに頭を下げる肌の見えないロープ姿の女性、ずいぶんと背の高い女性であるがいきり立つ女将の前では身長差があっても小さく見えた。


「それじゃうちの子の治療はどうなるんだい! 骨が折れてるんだよ?」


「骨接ぎ薬の材料も足りず薬師が居ても作れないんです」


 背の高い女性は治療院の関係者の様で、女将の後ろで椅子に座る女性に目を向けるともう一度頭を下げる。彼女の言葉からどうにも折れた骨をつなげる薬が用意できないらしく、困った様に眉を寄せて頭を下げる女性を見上げる椅子に座る女性は、苦笑を浮かべて女将に目を向けた。


「そんな、あんた……」


「お母さん、お薬なくても治るから」


 現代の地球に存在するなら巨万の富を生み出せるであろう薬も、異世界ワールズダストでは普通の家庭ならお金を出せば手に入る薬であるし、薬がなくても骨折なら地球と同じように治す事も出来る。現状では在庫も材料も無いと言う事でお金があっても手に入らないと言う骨接ぎ薬、それなら仕方ないと女将に声を掛けた椅子に座る女性は、話の流れから女将の娘の様だ。


「でも、折角帰って来たのに……」


 どうやらユウヒからはほとんど見えていない椅子に座る女性は、どこかから帰って来たらしく、女将は娘に振り返るとひどく残念そうに肩を落とし、その姿に治療院の女性も申し訳なさそうに目を伏せて口元を隠すフェイスベールを揺らす。


「骨接ぎ薬、そんなものがあるのか」


<!>


 一方で物陰に隠れるユウヒは薬に興味を持ったのか小さな声で呟き、その背後からは同じく身を隠す様に風の精霊が丸い体を現す。


「飲み薬なんだ、材料は近所で揃うの? ……てかどっか行ったんじゃないの?」


<……>


 精霊が言うには骨接ぎ薬とは液体の飲み薬であるらしく、飲めば人体の欠損した骨部分に集まり骨を生成する力を与えるようだ。しかもその材料はスタール周辺で全てそろうと聞いてユウヒはより一層興味を引かれるが、背後の風の精霊がわかれたばかりの個体であることを認識するとジト目を浮かべる。


「声が気になって戻って来たのね、流石風の精霊だ」


<……♪>


 どうやら風の精霊はユウヒが向かう先で口論をする人の声を察知して興味本位99%心配1%の感情で戻って来たらしく、ユウヒからの褒め言葉ではないツッコミを受けて嬉しそうに輝く。


 始めて異世界ワールズダストに降り立ったその日の内に薬を作って大地に還した苦い経験のあるユウヒは、骨接ぎ薬に強い興味を引かれたようで小さく顔を俯かせ考え込み、


「明日その薬草のある場所まで案内してくれるひと~」


 ニヤリと笑みを浮かべたかと思うと物陰に隠れて小さな声を周囲に振り撒く。


≪!!!≫


「どんだけいるんだよ、それじゃ明日の予定は決まったね」


 声量よりも強い意志を持って出した声は、周囲の精霊によく届き、隠れていた精霊達や偶然通りかかった精霊達を呼び寄せ一斉にユウヒの前に姿を現す。一体どこにいたのか大勢現れた精霊に目を見開くユウヒは、苦笑を漏らしながらも嬉しそうに明日の予定が決まったと呟き、精霊達も思わぬ突発イベントに立ち会える嬉しそうに輝く。


「女将さん」


「え? あ、ああちゃんと停められたかい?」


 物陰からそっと現れたユウヒは、未だに感情を制御しきれていない女将に近付くと声を掛け、ユウヒの声にハッとした彼女は困った様に笑うと恥ずかしそうに頬を手で押さえる。


「あれだけ広ければぶつけませんよ、それよりお薬の話ですけど」


「やだ聞いてたのかい、恥ずかしいねぇ」


 笑みで答えるユウヒは薬について触れ、話を聞かれていたことに気が付いた女将は余計に顔を恥ずかしさで赤くして周囲に目を向け、治療院の女性にも申し訳なさそうに微笑む。


「あ、あれ? ユウヒ様?」


 ユウヒが宿の客であることに気が付いた治療院の女性が小さく頭を下げて見せる一方で、椅子に座る女将の娘は椅子の上で驚いた表情を浮かべて声を洩らす。


「あーやっぱりメイドさんだったか」


「あ、この度はありがとうございました!」


 椅子に座っていた女将の娘は、街道の大穴の崩落に巻き込まれて怪我をしたメイドであり、ユウヒともその際に面識がある彼女は、その時は混乱して言えていなかったお礼を口にして立ち上がれない体で大きく頭を下げて見せた。


「なんだい知り合いかい?」


「さっき話した魔法士様だよ、魔物から守ってくれた」


 親娘が話す姿に微笑ましさを感じつつ、ユウヒは僅かに目に光を灯すと女性の怪我を見詰める。ユウヒの視界に浮かび上がる文字群によると、彼女は右足の腓骨を骨折、左足は複数の関節で炎症を起こしており一人では杖なしに歩くことが出来ない様だ。


「え? あ、そう言う繋がりかい。ありがとうね……そんな相手じゃお金とれないよ」


「あはは、偶然通りかかっただけなんで気にしないでください」


 もっとよく見れば他にもあちこち痛めている事がわかるユウヒは、余計な情報まで読み取らないように目から光を消すと、娘を助けた恩人であると知り慌てだす女将に軽く笑って返す。


「そうは言ってもねぇ……」


 いくら偶然だと言って本人が気にしてないとは言え、気持ちが治まらない女将が小さく唸る姿に苦笑を洩らすユウヒは、何か言われる前に本題へと戻るべく口を開く。


「それは良いとして、明日暇なんで薬草採取に行こうと思ってまして、ついでに骨接ぎの材料も探してみましょうか?」


「本当かい!?」


 明日の予定は薬草探し、しばらく精霊の帰りを待たないといけないユウヒにとってはいい暇つぶしであり、その表情の奥には明らかに薬の作成もやってみたいと言う彼の本質的な欲求も垣間見えるが、そんなこと知らない女将にとっては朗報であり、彼の言葉には治療院関係者であろう女性も興味を引かれたのか僅かに体が前に出る。


「ええ、多少心当たりがあるので」


「助かるよ! 今は冒険者組合があれでしょ? 行商も巡回も全然だし困っていたのよ」


 ユウヒの心当たりである精霊達は、ユウヒの視線に任せろとでも言いたげに舞い上がり、そんな彼女たちの様子に笑みを浮かべるユウヒに、女将は嬉しそうに話し出す。冒険者組合の人員不足にあれと触れる彼女は、最近は行商の巡回も滞っていると話し、その言葉に治療院の女性も大きく何度も頷く。


「最近はどこもそんな感じです。流通がすごく悪くなっていて」


 サルベリス公爵領内でも問題となっていた物流の停滞は、トルソラリス王国全体の問題となっているらしく、スタール在住の女将やローブの女性だけではなく、メイドをしている女将の娘も頷きながらどこも同じような状況だと話す。


「原因は全て水不足から来てるよなぁ」


「はい、偉い学者の人もそうだと言ってまして、私がここに来たのもその関係で奥様の付き添いだったのですが……足手まといに」


 冒険者の異常な流動に物流の停滞、さらに植物資源の枯渇に飢えた魔物の異常行動による脅威、それらは全て水不足から引き起こされたものであろうとは、トルソラリス王国の学者も考えが一致するところの様だ。しかしその肝心の水不足がどこからやって来るものなのかは未だ判明していないようだ。


「事故じゃ仕方ないさ、生きてるだけ上等上等」


「……そうですね。本当にありがとうございます」


 役目を果たせず落ち込むメイドさんに目を向けたユウヒは、大きく息を吸て鼻から吐き出すと、元気づける様に声を掛けるが彼の言葉は本心である。万が一あの場にユウヒが駆け付けなければ、戦う事の出来ないであろう彼女は、けがを負った事もあって死んでいてもおかしくはない。


「ただまぁ水不足で草も枯れてるし、あまり期待はしないでくれよ?」


「それこそしょうがないさね」


 ユウヒの言葉に微笑み目尻を濡らす娘、その姿に目を細める女将は、ユウヒのあまり期待するなと言う言葉に肩をすくめて乾いた笑いを洩らす。実際にユウヒが見て回った草原や林の草木は枯れているものが多く、使える薬草が見つかるかも怪しい。


「まぁ方法は無くないから、何ともなりそうにないならそっちの手を切るさ」


 精霊達は自信に満ちている様だが、ユウヒはそれほど楽観的に考えていない様で、しかし最悪の状況でもなんとかなるだろうとも考えているのは、彼の魔法によるところが大きいであろう。


「……」


「ん? どうしたの?」


 そんな傍から見ると妙な自信がありそうに見えるユウヒを、女将の娘はじっと見つめる。娘の妙な反応が気になった女将は、彼女の前で手を振るとハッとした表情を浮かべる娘に訝しげな表情で問いかけた。


「あ、いえ……奥様がユウヒ様の事を気にしていたので、何かあるのかなと」


「……その奥様ってのは魔法士だったりする?」


 惚れたはれたの気配とはどこか違う女将の娘は、母親の訝し気な視線に顔を赤くすると、奥様と呼ばれていた女性がユウヒの事を気にしていたと言い。ユウヒはくるくる楽し気に舞う精霊達に目を向けながら冴えわたる勘で何かを感じたのか奥様について問う。


「ええ、とても優秀な魔法士です。でもここに来る前から腰と足を怪我してしまって、今は自由に動けないんですよ。その為の付き添いでもあったんですが……私もこの通りなので、しばらくお休みを頂きました」


 ユウヒの勘が訴えた通り奥様と呼ばれる女性は優秀な魔法士であるらしく、スタールに来たのは水不足調査の為もあるが療養の為でもあったようだ。しかし大穴の崩落に巻き込まれたことで元々の怪我の悪化に追加の負傷、そんな主を支えるためにメイドとして付き添っていた女性も怪我を負ってしまったと言う事で、女将の娘は落ち込み背中を丸めてしまう。


「そっか、優秀か……それじゃ早く治ってもらわないとね」


「そのためにも療養施設も充実したスタールに来たのですが……」


 彼女や彼女の背中を摩る女将さんや、その姿を心配そうに見詰める治療院の職員であろう女性を見渡すユウヒは、声を掛けてもますます落ち込む彼女達に眉を寄せると、精霊に目を向け意思だけで頑張ろうと伝える。


「…………」


 ユウヒの意思に振り返り輝く精霊達は、何か話し合いを始めてあちこちに散っていく。彼女達が下準備をしてくれることを理解したユウヒは微笑み、その表情を見た治療院の女性は何かを考える様にユウヒをじっと見つめるのであった。



 いかがでしたでしょうか?


 暇つぶしと言う名の新しい予定が決まったユウヒ、果たして薬草を見つける事が出来るのか、そして大人しくそれだけで終わるのであろうか……次回もお楽しみに。


 それでは、今日はこの辺で、皆さんの反応が貰えたら良いなと思いつつ、ごきげんよー

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