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ワールズダスト ~砂の海と星屑の記憶~  作者: Hekuto


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第44話

 修正等完了しましたので投稿します。楽しんでいってね。





 スタール近郊の街道に開いた大穴を狙った狼型の魔物の襲撃は、ユウヒの参戦によってあっと言う間に終結、スタールから兵士がやって来たのはそれから20分ほど後であった。


「固定完了です」


 大勢の兵士達は、やって来るなり大穴周辺の惨状に目を見開き、すぐに生存者の確認を始めるも死人無し、何が起きたのか詳しく事情聴取をしながら同時に大穴から女性二人を救出すると、簡易ベッドを備えた荷車に女性を乗せ安全の為に緩衝材を挟んで体を固定している。


「それでは治療院まで搬送をはじめます」


 固定完了の声を聞きすぐに荷車に集まる兵士は、搬送の準備を始めた。馬を使えば早いのだが、馬では人ほど繊細な動きが出来ず怪我人の搬送には向かない。


「ああ、わかった私も同行する。お前も来なさい」


「はい!」


 荷車には女性のほかにその夫と、こちらも足を木で固定されて女性兵士に支えられているメイドが乗り込み、安全の為に女性兵士が補助として乗り込む。人が乗る度に揺れる荷車はそれだけ人が乗ってもまだまだ強度に問題はなく、鉄で補強された幅の広い車輪からは安定感を感じる。


「あとは頼んだよ」


「はい! 宿の準備が整い次第治療院に向かいます」


 乗り込んだ荷車の座り心地を気にしていた男性は、足を妻に叩かれると少し戸惑いながら残る兵士に声を掛け、男性兵士は胸に拳を当てると返事を返す。どうやら彼らは治療院で合流する様で、これから兵士達は馬車や荷車に載せられたまま大穴に落ちた荷物の回収を行うようだ。


「うむ、それではユウヒ殿、お礼は後で必ずいたします」


「え? まぁ気にしなくてもいんだけどわかりました」


 一方、荷車の近くでスタールの兵士と話していたユウヒは、突然かけられた声に驚き振り返ると、お礼など考えていなかったのか小首を傾げながらふわっとした返事を返す。本当に通り道で起きた事故だからと言う理由だけで彼らを助けたユウヒ、そのあまりの下心の無さに男性は眉を上げ、その妻は楽しそうに笑い、兵士達は困惑の混ざった複雑な笑みを浮かべている。


「ユウヒ殿、土はこのくらいで構わないでしょうか?」


「ずいぶん早く集まりましたね?」


 この場に居合わせる人間にとって良い意味で異質なユウヒは、先ほどまで話していたスタールの兵士に問われ、馬に引かれて到着した荷車に載せられた大量の土に目を向けた。


「最近似たような事故が多いので、予め砂や土を集めてあったんですよ……ただ、また集めておかないといけないようです」


 先頭を歩く馬の後からも続々と停車する荷車とそれを引く馬に手綱を持つ兵士達、荷車の上にはそれぞれ軽トラ一台分ほどの土が山になっており、停車の勢いで一部が地面に零れている。


「大変ですね……それじゃさっさとやっちゃいますか」


 スタールでは最近頻発する陥没をすぐに埋めてしまうため、予めあちこちから土を集めていた様で、砂や石ころ交じりの土に目を向けるユウヒは、兵士の言葉から大穴の為に搔き集めて来たのであろうと、気遣わし気な苦笑を浮かべ肩に掛けていた杖を手に取り大穴の縁へと歩き始めた。


「お願いします!」


 ユウヒが大穴の縁から中を覗いている間に、荷車から馬が外されて大穴から離れた場所に集められる。打合せ通りに動き出す現場を見渡したユウヒは、杖を地面に突き刺して目を閉じると、これから使う魔法をしっかり頭の中で描いて行く。


「意のままに踊れ【土流操作】」


 ユウヒから杖へ、杖から地面に浸透して行く魔力はユウヒの言葉によってその効果を示す。荷車から地面に下ろされた土が動き出し、ユウヒによって作られた鋭い壁は崩れて行く。


「んーこうして、こうして」


「おおお!」


「すごい」


 右手で地面に杖を突き刺し左手を前にかざすと土の動きは鋭敏になり、唸りながら手を動かすユウヒに従って大穴の底が盛り上がり、次第に土の山は減っていく。その光景を見た兵士達は思わず歓声を上げ、じわじわと競り上がってくる馬車や荷車の状況を確認しようと、馬車の護衛をしていた兵士達が近づいてくる。


「馬車が上がって来たぞ!」


「車輪が駄目になってるな」


 ユウヒがあらかじめ地面に杖で引いていた線で止まる彼らは、目を凝らして馬車の状況を確認して行く、崩落に巻き込まれたことで最初に地面に着いたであろう車輪は半壊し、軸が折れたのか車体の底は地面と接触しているようだ。


「街に持って行って修理するとしていくら掛かるんでしょうか?」


「さぁな、まぁ旦那様の荷物が無事ならたいして心配する必要は無いだろう」


 物が落ちている場所を優先して持ち上げるユウヒの耳には、金銭の心配をする兵士の声が聞こえて来ており、そのやり取りに同意しつつ荷物が無事なら何とでもなると言う言葉に助けた男性と女性が金持ちであることを理解するユウヒ。


「おお、今度は荷物が」


「魔法士ってすごいなぁ」


 その所為か馬車が持ち上がる速度は遅くなり、今度は荷物が優先して大穴の底から持ち上げられ、地面に埋まっていた物も土が移動して行き日の光を浴び始める。


 現在のユウヒは魔法使いではなく魔法士と見られている。それはユウヒが槍を使って魔物を切り裂いていたからで、魔法士の中には魔法の力を補うために武術を取得する者少なくはなく、身のこなしからユウヒもそう言った苦労人の魔法士だと見られている様だ。


「大丈夫ですか? あまり無理はしなくても、ある程度浅くなれば後はこちらでやりますので」


「大丈夫ですよ、これで荷物は全部かな? それじゃ埋めますねー」


 そんな魔法力を補うために武術を収める人間が長時間に渡って魔法を行使するのは大変だろうと、魔法の知識がある女性兵士がユウヒに声をかけるも、笑みを浮かべて答えたユウヒは杖を振って土の上の馬車や荷物をベルトコンベアの様に地上へ押し流し、大きく周囲に声を掛ける。


「おお」


「すごいな」


「これ本当にタダでいいのか?」


「むむむ」


 瞬間、残っていた土や周囲に広がっていた砂が動き出し穴を埋めうねり、小さな窪地を形成して行く。


「こんなものかな? 土が足りないからちょっと均したけど、くぼんじゃったな」


 どうやら大穴を埋めてしまうには土の量が足りなかったらしく、緩く浅くくぼんだ大穴の跡を見渡し頭を掻くユウヒ。驚きの声が漏れるほどの土木作業を魔法士にやってもらって大丈夫かと、どれだけ金銭を求められるのかと顔を蒼くしているスタールの兵士、彼等の様子を窺う馬車護衛の兵士達からは、小さな声で馬車修理以上のお金がかかるんじゃないかと言う声も聞こえてくる。


「あとはこちらで! ありがとうございました!」


「え、あ、うん……それじゃこれで」


 そんな会話の聞こえていないユウヒは、頭の上に心配そうに瞬く風の精霊を乗せながら兵士の声に振り返り、少し焦った表情を浮かべる彼女に戸惑ったような表情を浮かべると小さく笑い杖を肩に掛け歩きだす。


「あの! 宿はどちらに?」


「宿はこれから探すんですよ、宿舎に部屋を借りてるので」


 予定していた以上に時間がかかってしまい少し焦っているユウヒ、なにせ急がないと今日も仮宿舎のお世話にならないといけなくなってしまうのだ。高級ベッドとまではいかなくも真面な寝具で寝たいと考えている彼は、彼女の言葉に半身で顔だけ向けて答える。


「もしかして遺物の?」


「あぁたぶんそうですね。遺物も置ける宿があるといいんだけど」


 ユウヒの言葉に何か思い出した女性兵士は、目を見開くと遺物と口にし、ユウヒは早く行かせてほしいと困った様に苦笑を浮かべて見せた。


「宿、紹介できると思うので宿舎に戻ったら聞いてみてください」


「え? ありがとうございます。組合に寄ってから行かせてもらいます」


 明らかに話を切り上げたがるユウヒに、女性兵士は表情を明るくして紹介と言う提案をし、その言葉に体を女性に振り返らせたユウヒは嬉しそうに口角を上げ笑い、冒険者組合の後に寄らせてもらうと返事を返す。


「分かりました。おい、聞いてたな? 土取りついでに連絡を頼む」


「了解です!」


 ユウヒの笑みにほっとしたような笑みで答えた女性兵士は、ユウヒと話す時とは違う張りがあり鋭い声で近くの兵士に指示を出し、指示を出された男性兵士は胸に拳を当て応えるとすぐに走り出し、荷車を繋ぐ前の鱗馬に飛び乗り駆け出す。なにやら他の兵士が不満を零している姿を横目に、ユウヒはフードを被り直してスタールへの帰路に就くのであった。





 それから数十分後の冒険者組合、そこには受付で苦笑いを浮かべるユウヒの姿があった。


「本当に大丈夫ですか? 登録一つで5割増しですよ?」


「大丈夫です。早く宿とらないといけないんで失礼します」


 予想に反してその日の内に依頼を終えて帰って来たユウヒに迫る受付嬢。どうやら組合への登録による報酬の割増しについての様だが、ユウヒは興味が無いと言った様子で手を振ると組合を後にする。


「ぐぬぬ……」


「そんなに人いないのかねぇ?」


<……>


 背後で唸る受付女性の気配に妙な汗を流すユウヒは、頭に被ったフードの上に座る風の精霊に向けて小さく呟き、精霊の返答に小首を傾げ組合の戸を押し開くと、まだ日の光が残る街の道を疲れた様にゆっくりと歩く。


「それじゃ宿舎に戻るか、良い宿を紹介してもらえると良いけど」


 宿舎に置いているモンスターバイクを回収した後の事を考え歩く街からは、あちこちから夕食の香りが漂い、紹介してもらえる予定の宿での食事を楽しみに思わず笑みが浮かぶユウヒの足取りは、少しずつ速くなっていくのであった。





 駆け出すことは無かったが速歩きで宿舎に戻ったユウヒは、荷物はすべて持っている為、部屋に戻ることなく直接モンスターバイクの置かれた倉庫に向かう。


「お、よう戻ったか!」


「あ、どうも昨日はありがとうございました」


 そこにはスタールの街に入る時に対応してくれた男性兵士が立っており、ユウヒの姿を確認すると手をひらひらと上げて声を掛けてくる。どうやらユウヒが帰ってくるのを仕事のついでに待っていたらしく、少し驚いたような表情で会釈するユウヒに男臭い笑みを浮かべた。


「こっちこそうちの奴らが世話になったな、数日作業が今日中に終わるって聞いて驚いたぜ」


「いえいえ、土もありましたし事前の準備あってこそですよ」


 街道に開いた大穴はスタールの兵士だけだと数日は掛かる大仕事になっていたと話す男性に、ユウヒは本心で謙遜して答える。その返答に呆れた表情を浮かべる男性兵士だが、事実として魔法で生み出した土はすぐに消えてしまう為、埋めるための土が無ければユウヒも街道の補修は出来なかった。


「お前良い奴だな! こっちもちゃんと宿探しておいたぜ」


「へ?」


 そんな返答は男性兵士の琴線に触れたのか、嬉しそうに肩を組むように背中を叩いてくる彼の言葉に、ユウヒは少し不思議な表情を浮かべる。紹介と言う話は聞いていたが、探しておいたと言う言葉のニュアンスに違和感を覚えたようだ。


「宿代まではこっちも余裕がなくて交渉できなかったが、割引ぐらいはお願いできたからよ」


「ありがとうございます!」


 兵士の言葉から、泊めてもらえる宿を探した上に割引交渉までやってもらったことを理解したユウヒは嬉しそうに声を上げ、その言葉にユウヒから体を放した男性兵士は胸を張ってドヤ顔を浮かべる。


「おう、これが宿の場所だ。書き板はやるよ」


「なるほど、早速行ってみます」


 そんな張った胸の内ポケットに手を入れた男性は、手のひらサイズの薄い板を取り出しユウヒに手渡す。ユウヒが受け取った薄茶色の板には、宿の名前や兵士の名前にユウヒの名前などが書かれ、簡単な地図も描かれている。これまでにもメモの様に使われる木の板を多数見ているユウヒは、そう言った板の事を書き板と呼ぶことに興味深そうな表情で頷く。


「気を付けてな、街の中でもまた崩落が起きちまってるからよ」


「はーい」


 書き板を渡した男性兵士は、自分の役目は終わったと言った様子で一言残して立ち去り、返って来た返事に後ろ手を振る。その様子を見送ったユウヒは開け放たれた倉庫に足を踏み入れながら、書き板を見詰め視界の表示で目的の場所までの距離を確認するのであった。





 それから数十分ほど、地図相手に精霊と一緒ににらめっこを行ったユウヒは、精霊の先導を受けてモンスターバイクをゆっくり走らせた。


「すいませーん」


「はーーい」


 ずいぶんと回り道する事となったユウヒは、街を歩く人々の視線を受けながらモンスターバイクから飛び降りると、宿の玄関に足を踏み入れ声を上げる。入り口扉は広く大きく、入ってすぐのホールも団体が余裕で休めそうな広さがあり、そのさらに奥から女性の大きな声が聞こえてくる。


「あ、宿を紹介されたんですけど」


「紹介? ああ、ユウヒさんかい?」


「はい」


 宿の前の通りは広く近く、玄関まで小走りでやってきた女性からもモンスターバイクの一部が見えた様で、紹介されたと言うお客が兵士から話のあったユウヒであることを理解したようだ。少し屈む様に玄関の向こうに目を向けた恰幅の良い女性は、返事をするユウヒを見詰め明るい笑みを浮かべた。


「書き板受け取ってないかい?」


「これですか?」


 うんうんと頷く女性は手を出して書き板について問いかける。


「それそれ、街の門番が渡す紹介状代わりなんだよ。うん、大丈夫だね。あ、私がこの宿の女将でカリヘラっていうんだ、困ったことがあったらすぐ言いな?」


 どうやら兵士から貰った宿の場所を書いた書き板は、正式な紹介状の代わりになっているらしく、書き板を受け取り確認する女性はカリヘラと言う宿の女将であった。大人の女性らしい包容力を感じる笑みを浮かべる彼女に安心感を覚えたユウヒは、しかしぎこちなく笑う。


「遺物もあるんですけど」


「ちゃんと聞いてるよ! こっちに持ってきな馬車庫に案内するから」


「あ、はい」


 なぜなら彼の背後には通りに停められた大きなバイクが置かれており、街行く人の視線を集めるそれの扱いで迷惑を掛けないか心配しているからだ。だがそれについてもすでに把握済みだと笑う女将さんは、玄関から一歩出ながらユウヒの腰を叩く。


「ちょっと出るからー!」


「はーい!」


 押されるように大きな玄関から外に出たユウヒは、女将さんにまた腰を叩かれながら手でモンスターバイク動かす様に指示され、女将さんは大きな声でホールの奥に声を掛ける。


「……ん?」


 女将さんの良く通る大きな声は、大きくはあるがそれほどうるさくも感じず、彼女に対する返事であろう幾分高く若々しい声が聞こえてくると、ユウヒは小首を傾げバイクに片足を乗せたまま振り返った。


 何か気にしたようなユウヒの腰を叩き促した女将は、通りの先を歩きながらユウヒに手招きをして見せる。バイクに乗ったユウヒの背中は低く赤い太陽に照らされ燃えている様で、何度も叩かれた背中は日の光とは違う優しい温かみを感じるのであった。



 いかがでしたでしょうか?


 ようやく宿にありつけたユウヒであるが、街の状況は良くない様だ。そんなスタールの宿でユウヒは何が気になるのか、次回も楽しんで貰えたら幸いです。


 それでは、今日はこの辺で、皆さんの反応が貰えたら良いなと思いつつ、ごきげんよー

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