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ワールズダスト ~砂の海と星屑の記憶~  作者: Hekuto


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42/149

第42話

 修正等完了しましたので投稿します。楽しんでいってね。





 スタールからほど近い場所にある奇妙な丘、荒れた草原と丘陵の中で頭一つ二つ高い丘は今ではクサチヘビの楽園となっているが、ユウヒのスプラッター魔法に恐怖を感じたのか、彼が歩く周囲からは蛇が慌てた様に逃げている。


「これか」


<!>


 慌てて逃げて行く蛇の姿に苦笑いを浮かべるユウヒは、見通しの良い頂上の先に古い井戸を見つけた。昔はちゃんと整備されていたのであろう石畳の名残を踏みしめながら井戸に近付いたユウヒは、そっとその井戸を覗き込むと傍に寄って来た水の精霊に目を向ける。


「周りは特に可笑しなところはないけど……ここだけ異常に乾燥してるな」


 誰かが頂上の整備をしているのだと思っていたユウヒは、改めて周囲を見渡しその違和感に気が付く。フードを下ろしたユウヒは肌に感じる風から全く湿度を感じられないことに顔を顰める。


「草も完全に枯れてる」


 少し離れれば明らかに空気が変わる井戸の周辺は、人の手によって拓かれていたわけではなく草木が枯れ果て植物が育成できないだけの様だ。綺麗に分け目の出来た茶色と緑の草地を撫でるユウヒは、地面を飛び跳ねる土の精霊が振り撒く困惑の感情に小さく唸る。


「井戸の中は、酷く乾燥してるな……5%か」


 肌に全く湿度を感じないとは言え一切の湿気が無いわけではないようだが、井戸に近付けば近ずくほどに湿度は低くなり、井戸の入り口に関しては5%ほどしかないらしく、目に魔力を灯すユウヒの視界には湿度表示が細かく数字を揺らしていた。


「空気は、ちょっと薄いか」


 精霊に手伝いを頼まれたからには調べなくてはならないだろうと井戸の中を覗き込むユウヒ、傭兵団と言う異常集団と幼少期から付き合いのあるユウヒにとって、井戸の中は人が長時間滞在していい場所ではないことはすぐに理解出来た。


「有毒な空気じゃないから魔法で空気を入れ替えて、湿度も水を投入して少し上げれば……」


 金色に光る瞳が人の目では分からない井戸の詳細で視界を埋めて行く、そのいつもの世界から危険を読み取っていくユウヒは、調査に必要な下準備を考え悩まし気に目を瞑り眉を左右対称に歪める。その様子からユウヒが考えていたよりもずっと面倒な作業になりそうだ。


<……! ……!!>


「え? 危ない? でも中に入らないと調べられないからなぁ」


 そんなユウヒに慌てたのは精霊達、人と違う彼女達もユウヒが井戸の中に入って調べものをすることがどれだけ危険な事かわかるらしく、明らかにユウヒの行動が予想外だといった様子で服のあちこちにしがみ付く。どうやら動き出さないように止めに入っているつもりの様だ。


<……!>


「え? この下、魔力が無いの?」


 目の前に飛び出してきた水の精霊曰く魔力が無いという井戸の底、しかし自前の魔力で魔法を使うユウヒにとって大したことではなく、周囲の魔力に干渉する精霊や魔力が当たり前の世界で生きる生物なら、一度落ちたら帰ってこれない井戸もユウヒにとってはそれほど危険でもない。


<!>


「なるほど、何か知らんが魔力が薄くて精霊が確認に行けないのか」


 故に魔力がある無しでやる気の変わらないユウヒは、必死に押しとどめる精霊を見下ろしながら彼女達の話を一つ一つ理解して行く。


「こんな場所はいくつもあるの? あるのか、そこを調べる手伝いをしてほしい、要は魔力供給が必要って事ね?」


≪……≫


 無邪気な精霊はなにもユウヒに危険な場所へダイブしてほしいわけではなく、魔力が乏しい場所でも長期行動が出来るように魔力の補助をお願いしたかったようだ。何せ使っても使っても減る様子の無いユウヒの魔力、精霊が数時間ほど外部からの魔力供給なしで行動する魔力ぐらい補える。


「そんな恥ずかしがらなくていいのに、精霊の感覚は不思議だねぇ」


 ある程度上位の精霊であれば可能な事も、小さな精霊にとっては困難な事であり、また魔力を要求する行為は精霊の羞恥心を大きく刺激する行動であったため、今まで言えなかったようだ。


「とりあえず魔力の塊を中に入れたらいいのか、それとも直接供給して上げたらいいのか」


 やることが解れば後はどうするか考えるだけ、自分が調べに行かなくていいと言う事で幾分気が楽になるユウヒは、井戸を魔力で満たすか精霊に与えるか二つの選択肢で悩む。どちらも一長一短であるが、その考えは悩むだけ無駄なようだ。


<!!>


「あ、いっぱい振り撒けば良いって事ね、それなら問題ないな」


 何故なら精霊達にとって甘味や嗜好品のようなユウヒの魔力、直接受け取らないという選択肢はなく、ユウヒの目の前で激しく点滅する水の精霊はユウヒの返事に満足気に明るく光るとユウヒから少し距離を取り、魔力を受け取る準備をする。


「むむむむ!」


≪…………≫


 これまでにも何度か魔力を振りまき精霊に与えてきたユウヒ、今回も同じように、しかし活性不活性まとめて魔力の乏しい場所に送り出すのだからより気合を入れて魔力を用意しようと集中するユウヒ。その様子に何か感じ取ったらしい精霊達は彼から離れてあちこちに隠れるようにその様子を見詰め、水の精霊は一人宙に浮き身を固くした。


「燃え上がれ俺の内なる宇宙コスモ! はああああっ!!」


 黄金に輝き燃える自らの体を妄想して拳を天に振り上げたユウヒは気合の言葉と共に魔力を内から引き出す。


≪!!!?≫


 しかしその気合は思わぬ結果を生み出し周囲の精霊を慌てさせる。


「うわ!? ちょっと出すぎ! なんで?」


≪???!!!??!!!≫


 何故ならユウヒによって引き出された内なる魔力を本当に金色の光を生み出し立ち上り、止めどなく噴出する魔力をユウヒの想像以上の勢いで水の精霊に流れ込み、魔力を受け取る精霊は色を失い空中に縫い留められたように動かなくなってしまう。


「びーくーる! びーくーる! おお、制御出来てるな」


<……ィ>


「え?」


 地面に伏せる様にユウヒの魔力を避ける精霊達を気にする余裕もなく、全力で魔力の制御を行うユウヒ。荒ぶる魔力は次第に納まり、空中で緩く球体を作る魔力はすぐに落ち着き、ユウヒが見上げる先であっという間に水の精霊へと吸い込まれていく。


 しかしその魔力が色を失った精霊に吸い込まれると、すぐに精霊から軋むような音と共に僅かに囁く様な声が聞こえた気がしてユウヒは顔を上げる。


<シュゴイイイイィィ!?>


「ええ!?」


 反応は劇的であった。


<……おっきくなっちゃった>


≪!!≫


「お、おう……成長したね」


 突然叫び声が聞こえたと思ったら色を失っていた水の精霊が砕け散り、まばゆい光の中から虹色に輝く人影が姿を現し、あっと言う間にその姿が整っていくと現れたのは青いワンピースを着た少女、周囲の精霊達は一斉に歓声を上げ、ユウヒは引き攣った声を洩らす。


<すごい、すごい! 頑張るね!>


 少女姿の上位精霊の様に成長した水の精霊は、自分の手や足を確認するよにくるくると舞うと、ユウヒに急接近して両手を取って勢いよく上下に振り、またふわりと空に舞い上がる。


「あ、うん……いってらっしゃい」


<いってきます!>


 どこか狂気的な瞳の色をした水の精霊は、テンション高く空中でステップを踏むと小さく手を振り、見送るユウヒに満面の笑顔で大きく手を振って井戸に飛び込む。井戸の縁には小さな精霊達が集まり中を覗き込み、水の精霊に声援を送る。


「……急成長って、体に悪かったりしない?」


 予想外過ぎる精霊の姿に思わず意識を手放しそうになっていたユウヒは、何かに気が付き視線を下げると、石造りの井戸の縁に座る精霊達に問いかけた。


<……>

<……?>

<?>


「経験がないから分からないか、しかしさっきの魔力は何だったんだろう?」


 今の様な精霊の急成長は良いものなのか悪いものなのか、もし体に悪いのであれば詳しい人に相談が必要であるが、精霊達はよくわからないと首を傾げ、しかし悪い感じは全く感じなかったようでどこか楽観的で、それは普段から悲観的な印象のある闇の精霊も同様である。


 精霊達の反応にとりあえず保留することに決めたユウヒは、自らの鳩尾の辺りを摩ると、自分でもわからない魔力の動きに首を傾げるのであった。





 ユウヒが未だよくわからない力に困惑しながら、休憩のための場所を作るために周囲の草を刈り始めた頃、木の香りがする部屋の中で男女が宙に浮いた渦の向こうに目を向け楽しそうな表情を浮かべていた。


「あらあら、だいぶ力を使いこなしてるじゃない」


「おー……暴走一歩手前だったけどな」


 神々も恐れる乙女は、ユウヒの体から吹き出した金色の魔力を見ていたらしく、その光景に成長を感じて喜ぶが、彼女の後ろから渦の奥の映像を覗き込んでいた男性は苦笑を洩らす。どうやらユウヒから吹き出していた魔力は暴走一歩手前だったらしく、慌てて抑えて無ければどうなっていたのだろうか、男性の表情からあまり良い事にはならなさそうだ。


「男の子はあのくらい無鉄砲じゃないとね」


 まるで全肯定する様に楽し気な笑みを浮かべる乙女、その言葉に男性は彼女の表情を頭上から覗き込み、本気で言っている事を理解すると小さく肩を竦める。


「そんなもん? じゃ俺も「だめ」えー?」


「ダーリンは無鉄砲に女の子引っ掛けて来るからダメ」


 しかしその全肯定はユウヒ限定なのか、ダーリンと呼ばれた男性の無鉄砲は許さない様だ。


「え、ええ……そんなことは「ある」ですかぁ」


 歩けば女性を引っ掛けてくるとでも言う女性の言葉に、そんなことは無いと否定の言葉を洩らす男性であるが、その言葉は切って捨てられ、彼はしょんぼりとした表情を浮かべて女性の隣に深く腰を落とす。


「あと狂い兎もほどほどにしてほしいわね、ユウヒ君と一緒の時はまぁまぁ大人しかったけど、また何かやろうとしてるし」


 慰めるように頭を撫でる乙女は男性からジト目を向けられ嬉しそうに微笑むと、渦の映像を切り替えてため息を洩らす。そこには地球でユウヒと大暴れした育兎の姿が映し出されており、少女にしか見えない彼は偉そうな男達に何やら指示を出し、スーツ姿の男性達が蒼い顔で額に汗を流している。


「うさっ子またやらかしてんの?」


「帰国準備みたいだけど、大人しくしてほしいわ」


 何をやっているのか映像だけでは詳しくわからないが、大人しくはしてない様だ。乙女曰く、帰国の準備らしいがいったいどんな準備をしているのか、ユウヒと言う興味の対象が居なくなったことで、兎は妙な方向に加速しているのだった。





 そんなある意味で暴走を止める楔となっていたユウヒは、急成長した水の精霊を見送ってから一時間ほど過ぎてもまだ井戸の側に居た。


「よっと、だいぶ綺麗になったな」


 何もしないのも暇であるし、枯れ草が重なる地面では休もうにも休まらないと、魔法を使い井戸の周辺を綺麗に切り拓いたユウヒの見渡す地面には、煉瓦のようなタイルを敷き詰めてある。


「元々何か建物の中にあったんだな」


 枯草が目立つ井戸周辺だけでなく、緑の草木が生えた場所も広く切り開いたユウヒは、地面に敷き詰められたタイルから外側へと視線を動かすと、低木を切り開いたことで現れた石の柱に目を止めて過去の井戸周辺の姿を思い浮かべた。


「小さな小屋を作ったは良いけど、小屋と言うよりシェルターだな」


 石造りの屋根でもあったのではないかと周囲の瓦礫に目を向けるユウヒは、枯れ草の目立つ井戸周辺から少し離れた程よい湿度の場所に建てた巨大な土管を地面に横倒しにして少し埋めた様な小屋? の中に足を踏み入れる。


「枯草と蛇革のソファーも中々座り心地が良いな」


 小屋の中には木組みに草のクッションを敷き詰めた横になれる程度のソファーが鎮座しており、草のクッションは蛇革で閉じられ非常に高級感があるが、場所が場所なだけあって少し残念な印象が拭えない。


「日本で買ったらとんでもない値段しそうだよね」


<?>


 粗大ごみで捨ててあったソファーを、子供が秘密基地に持ち込んだような雰囲気のある小屋の中であるが、実際に肌触りが良く、ユウヒの魔法によって作られた蛇革のソファーは異世界であろうと地球であろうと相当な値が付くだろう。そんな無駄遣いに苦笑を洩らすユウヒに、精霊達は不思議そうな感情を洩らす。


「わからないよなそりゃ、それにしてもみんな元気になったな? やっぱ砂の海って全体的に魔力が薄いのかな?」


 ソファーに座れば正面には井戸が見え、その周囲ではやけに元気な精霊達が楽しそうに舞い踊っている。彼女達はどこか酔ったような雰囲気もあり、それはすべてユウヒが撒き散らした魔力によるものだ。砂の海は魔力が薄い、故に強力な魔法を使う者が少ないのだが、元々魔力のない世界出身のユウヒは、自らの体の内に膨大な魔力が存在することもあって周囲の魔力の濃度に鈍感であった。


「いまいちその辺の感覚がわからないんだよな」


<……>


 精霊達の姿を眺めながらソファーの背凭れに体を預けるユウヒは、愚痴を一人洩らしながら開けた丘の頂上から見える青い空を見上げ呆けていたかと思うと、急に眉を顰めて目を細める。


「ん? 何か聴こえた様な」


 どうやらどこからともなく妙な音が聞こえて来たようで、体を起こして耳を澄ませるユウヒ。彼の耳に聞こえた音はその姿をすぐに現す。


<……ただいま! あ!?>


「おや、おかえり……時間切れかな? でも最初より少し大きくなってるね」


 楽しそうな声を上げて現れたのは急成長して少女の姿となった水の精霊、しかしユウヒを見つけてただいまと笑いかけた瞬間、元の小さな光る球体に戻ってしまう。


<……!>


「何かわかった?」


 水飛沫を伴い小さくなった水の精霊であるが、その姿はほかの精霊より幾分大きく、確かな成長に喜びの感情を振りまく彼女は、ユウヒの問いかけにすぐ答える。


<!!>


<!?>

<…………>


「ほん、原因はここじゃないのか」


 水の精霊が伝えてくる意思に、周囲の精霊は深く考え込んだり驚いたりと様々な反応を示す。どうやら魔力が異常に薄く精霊の目が届かない井戸の奥に水不足の原因は無かったようだ。


「今わかる事はもうないけど、上流に水が吸い上げられてるからそこに何かあると思うんだね?」


<!>


 しかしヒントはあったらしく、水の流れを追えば何か見つかるかもしれないと言う精霊は、ユウヒの確認に明るく輝き答える。


「二班に分かれるの? このへんを調べる班と吸い上げてる場所を探す班か、俺はここにいた方が良いの?」


 大きくなった水の精霊の説明を聞いた精霊達は自然と二つに分かれ、どうやらそれぞれに調査に向かう範囲が違うようだ。精霊達も現在の異常な水枯れには困っており、誰かが頼まずとも世界の為に動き続ける。しかしそんな彼女達にも出来ないことは少なくなく、行き詰まった状況で現れたユウヒは、精霊達にとってカンフル剤と言ってもよい存在であった。


「わかった、帰ってくるの待ってるから……あんまり遅いと俺も動くからね」


<!!>


 ユウヒからの魔力共有による後押しは精霊達にとって非常に心強いもので、ユウヒの優しい笑みに応える精霊達は一際明るく光り応えると一斉に飛んでいってしまう。


「とりあえずなにも出来そうにないし戻ろうか、正直言うと袋の中身が臭いからさっさと手放したいんだよね」


<…………>


 かといってすべての精霊が居なくなったわけではなく、何となく出発のタイミングが遅れた精霊達は、ユウヒの嫌そうな呟きに目を逸らすと、そっとその場を消える様に立ち去るのであった。どうやらユウヒにスケルトンウィードの依頼を薦めた事について、それなりに申し訳なさを感じている様だ。



 いかがでしたでしょうか?


 ユウヒの体から迸る魔力は精霊に一時の夢と成長の兆しを与えた。謎が増える中ユウヒはスタールの街に戻るようである。次回もお楽しみに


 それでは、今日はこの辺で、皆さんの反応が貰えたら良いなと思いつつ、ごきげんよー

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