第40話
修正等完了しましたので投稿します。楽しんでいってね。
朝も早くから冒険者組合でお金を稼ぐための手続きを行ったユウヒの姿は、スタールから北に向かった草原の中にあった。
「さっさと狩って調査して帰らないと宿をとる時間が無くなるな」
綺麗な街道と荒れた街道の分かれ道で木の棒を拾い魔法で転がしたユウヒは、荒れた街道を軽い足取りで歩き目的の獲物を探す。ユウヒは手にバッグから取り出した白木の依頼板を持っており、よく見ると文字のほかに丸くてごちゃごちゃした魔物の絵が描かれている。
<……!>
「お? 案内してくれるのか、ありがとな」
ユウヒが手に持つ白木の板にはいつの間にか集まって来た精霊達が群がっており、何か納得した様に瞬く彼女達は宙に浮かぶと道を示した。どうやら魔物の場所まで案内してくれるようで、ユウヒ自身魔法で探せなくも無いのだが、彼女達の善意に笑みを浮かべるとお礼を口にして歩き始める。
<……>
「まぁ俺も魔法で調べられるんだけど、選んでくれたからには狩りやすいって事でいいのかな?」
少し進んでは振り返り、凄く進んでは急いでユウヒの下に戻るなど、楽し気に道を示す精霊達を追いかけ歩くユウヒは、苦笑を洩らしながら呟く姿から彼女達の案内の先に何があるのか楽しみにしている様だ。
「うーん、良さそうだね」
そんな彼の視界には周囲の状況を調べる【探知】の結果が映し出され、器用に生物の反応を避ける様に道を示す精霊に笑みを浮かべると、視界の表示を減らして長い杖を振り肩に掛ける。
「先ずは、あっちだね」
ユウヒの向かう先には人の手が入れられた形跡のある林が広がっており、その奥の暗い場所を示す精霊達の瞬きに、彼は気合を入れ直し木の枝に気を付けながら林の奥へと分け入っていく。
路銀の為に冒険者組合で依頼を受けたユウヒの一方で、置いて行かれたモンスターバイクは倉庫の中で静かに佇んでいた。
「なにやってんだ?」
そんな暗く静かな倉庫に一筋の光が差し込む、どうやら兵士が入り口の引き戸を少し開けた様だがそれ以上何か変化が起きることは無く、そんな兵士の不審な動きに気が付いたのは、ユウヒがスタールを訪れた時に対応していたツンツン頭の男性。
「あ、あの冒険者さんの遺物確認です」
「なら普通に確認しろよ、傍から見ると怪しいぞお前」
どうやら彼はベテラン兵士で階級もそれなりに高いらしく、声を掛けられた兵士は背筋を伸ばすと何をしていたか答えるが、その声は上ずっており、ツンツン頭の男性が言う様に傍から見て実に不審であった。
「いやだって、異物っすよ? 怖いじゃないですか」
何故そんな不審な行動に出ていたかと言うと、ユウヒの遺物に畏れての行動である。魔法技術に長けたトルソラリス王国の人間にとって遺物はあまり縁の無い存在であり、実際に動く大型遺物など一生出会うことなく人生を終える者も多い。それ故によくわからないと言う理由で恐れる者は多く兵士であっても珍しいことではない。
「まぁ言わんとすることは、分らんでもないが」
「でしょ? でかいですねー」
それはベテランであるツンツン頭の男性も否定できない事実であり、大きな引き戸を押し開くと彼らの目の前に巨大な金属の塊が姿を現し、朝の明るい日の光を浴びる黒いボディは星空の様な輝きを見せる。
「ん、異常はないな」
「だいじょぶそうです」
左右に分かれて倉庫に入る二人は、ぐるりと一周して元の位置に戻ると互いに異常が無い事を確認して頷き合う。何となくおかしなところが無いと言う程度の確認であるが、遺物に詳しく無ければ五感で感じる程度の判断しか出来ないのはしょうがない。
「いつだったか来た遺物は油が漏れるわ臭いわで大変だったからな」
「臭いんですか? この異物は匂いとかしないですね」
ツンツン頭の男性曰く、以前訪れた遺物はずいぶんと酷いありさまだったらしく、異常だと思っても遺物使いにとっては普通の事だと言われ、ずいぶん困ったとため息交じりに話す。一方でユウヒのモンスターバイクは匂いらしい匂いはせず、鼻を鳴らし匂いを嗅ぐ兵士の鼻には草原の様な草の香りすら感じられた。
「あれは臭かった」
「そんなにですか? どんな匂いなんです?」
臭い物など出来る事なら一生経験したくない物であるが、怖いものに興味を引かれるような感覚なのか、眉間に皺を寄せるツンツン頭の男性に若い兵士は興味深そうに問いかける。
「少しマシなスケルトンウィードくらいだな」
「そっちも臭いと聞いたことがありますけど、想像が出来ないです」
どんな匂いなのか、答えはスケルトンウィードと言う魔物を基準にしたものであるが、スタールの周辺では滅多に見ない魔物であり、若い男性は噂程度で匂いの想像が出来ないらしく、眉を左右非対称に歪めると困った様に呟く。
「そうか、最近増えてるらしいから壁外見回りをスケジュールに入れといてやろう」
「えええ!?」
ベテラン兵士の例え話に不安そうな表情を浮かべる若い兵士は、知っていないといけない知識なのかと顔色を悪くするが、知っていなくても怒られるような程度の話ではなかったらしく、しかし最近スタールの周辺でも見られるようになったと言う事で、経験の為に気を利かせる上司に、若い男性兵士はコロコロと変わる表情に驚愕の感情を張り付けるのであった。
ベテランの兵士も嫌な顔をし、若い兵士が驚愕の表情を浮かべるスケルトンウィード、それはユウヒが探す今日の獲物と同じ名前である。
「におうな……」
精霊に導かれ、日の光が筋となって所々照らす林の奥へと歩を進めるユウヒ。彼が歩く場所は偶にスタールの人間が薪を集める為に来る林であり、薬草や木の実の採取の為に草木は刈られ、最近の水不足でより寂しい地面となっている。
「んー腐った卵の様な肉の様な汚物の様な」
そんな林の中で小さく呟いたユウヒの鼻には、草木の香りを押しのけて腐った卵のような匂いが届いていた。
「スケルトンウィードって、もしかしなくても臭い系か?」
<……>
精霊に導きに従い歩けば歩くほど強くなる匂い、すでにその臭いは明らかな異臭となっており、全てを察して遠い目をしたユウヒは視線を前方から動かさずに呟く。誰に聞いているのか分からないユウヒの問いかけであるが、周囲の精霊は焦りを含んだ気配のまま明らかにその光量を落とす。
「臭いんだな?」
<…………>
ユウヒの視界になるべく映らぬよう、隠れるように光量を落とした精霊達を見渡し、確信を持ってもう一度問いかけるユウヒ。その問いかけに応える精霊はいないが、その無言がすべてを語っていた。
「遭遇したら即時燃やしたいところだけど、乾いた林で火は厳禁だよな」
<!?>
首に巻いたままの砂避けマスクをそっと持ち上げ口と鼻を隠すユウヒは、フードの奥からじっと正面を見たまま汚物は熱消毒だと言わんばかりに魔力を体の奥から汲み上げるも、ここで火の魔法など使えば森林火災待った無しである。
「あと、討伐照明に瘤とやらを採るからそれを考えてやらないといけないのか」
乾いた林が燃えてしまうなど精霊にとっても困る事態であり、特に焦る緑の精霊達を他所にユウヒは悩まし気にごちり、討伐の証拠である瘤の採取も考えて使用する魔法を選定していく。
「とか言ってる間に何か来たな」
頭の中でいくつかの魔法をピックアップしていたユウヒであるが、その考えがまとまるより早く【探知】の魔法が視界に注意を促す文字を映し出す。
<!>
「当たりか、臭いな……普通なら風下から近付くものじゃないのかな」
林の奥から勢いよく転がり飛び跳ね現れたのは骨を身に纏った草と蔦の塊、風によってまっすぐユウヒへと流れてくる異臭、知性を感じない魔物に呆れ顔のユウヒは、杖を一振りすると後退る精霊達の前に歩み出て魔力を練り上げる。
「そんなに頭良くないのか」
「ギシシシシシ!!」
ただ愚直に最短距離で接近してくる魔物に眉を顰めるユウヒは、様子を見る為に身構えると魔物の進路から外れる様に横へと走り出す。
「でかいしくさい!!」
「ギヂヂヂ!!」
草の塊がどうやってユウヒを補足しているのかは不明だが、魔物は明らかにユウヒを目指して動いており、精霊達が団子の様に塊り震える先からユウヒへと、蔦を伸ばして軌道を修正する魔物は、周囲の木々に蔦を巻き付け急激に曲がる度に、鼻が曲がりそうな臭いを撒き散らす。
「急所は中心の核、心臓みたいなものか」
フードの奥でユウヒの瞳は金色に輝き、スケルトンウィードから逃げながら魔物の急所を探り当てる。スケルトンウィードの心臓とも言える核は草の中心、最も守りの厚い場所に隠してあるが、それを知ったユウヒに焦りはない。
「絡めて切って凍らせる!」
「ギャアギイイイ!!」
これまでのウィード系の魔物と変わらない弱点と、明らかに大きな体、しかし鈍足と言うわけでもない機敏な動きで飛び掛かってくるスケルトンウィードの攻撃を【飛翔】の力で跳んで避けるユウヒは、声に出して魔法の方向性を決めると地面に降り立ち杖を前に構える。
「っ―――【マルチプル】【アイスニードル】」
「ギャガッ!?」
ユウヒが地面に降り立つとすぐに飛び掛かってくるスケルトンウィードであるが、ユウヒの魔法が少しだけ早かった。蔦を使って宙に舞い上がりながら飛び掛かって来たスケルトンウィードは、ユウヒの魔法によって地面から無数に飛び出してきた氷の棘に絡まり身動きが出来なくなる。
「其の命を捧げよ【氷の断頭台】」
「―――ッ!?」
核こそ傷付けずに済んだ魔物であるが、捕らわれた時点ですべては終わっていた。通常の魔法士であれば魔法を連続で使うにも魔法と魔法の間にある程度の間が出来てしまうが、ユウヒにそんなことは関係なく、魔力と妄想によって生み出される魔法は即座に発動、突然空中に現れた鋭利な刃を持つ氷の分厚い板は、急加速してスケルトンウィードを綺麗に両断してしまう。
「くっさいなぁ【消臭】」
スケルトンウィードを地面ごと両断した瞬間、あふれ出る魔物の体液からは強烈な腐臭が吹き出し、氷によって一部凍結しても臭いは消えない。その臭いが自分の体にも付着している様に感じたユウヒは、新しい魔法で消臭を試みる。
「……多少マシかな?」
ユウヒの新しい【消臭】魔法により、胸の前に上げた両手の間から霧が吹き出す。勢いよく周囲に噴出した霧によって悪臭は消えて行くが、気持ちの所為かまだ匂いが残っているように感じるユウヒは自分の体の匂いを嗅いで首を傾げた。
<……!>
「ほんとか?」
ユウヒに表情を見詰める精霊達は、何かひらめいた様に彼の体に纏わりつき、大きく息を吸うようにやんわりと光り問題ないと意思を振りまく。
「さてとこぶこぶ……今ほど長い杖でよかったと思ったことは無いな、それで瘤はどこー? お、これか」
【消臭】の魔法により周囲の悪臭は随分とマシになり、真っ二つになり転がるスケルトンウィードを長い杖の先でつつきながら討伐の証拠部位を探すユウヒ。ドロドロの汚泥を垂れ流すスケルトンウィードをつつくユウヒは、長い杖の有用性に妙な感動を覚えながら、ビーチボールほどの大きさの中心部に大きな瘤を見つける。
「んー【アイスブレード】」
瘤はソフトボールほどの大きさがあり、そのまま成長して行くとスケルトンウィードの種となるようだ。金色の瞳でスケルトンウィードを調べながら唸るユウヒは、杖の穂先に魔力を集めると鋭い氷の刃を生み出して勢いよく振り下ろす。
「杖も改良したいな、刃物部分が欲しい所……それって杖枠じゃなくなってないか?」
<……?>
抵抗なくあっさりと瘤を切り落とした氷の刃は役目を終えるとすぐに霧散する。そんな杖をなんとなしに振り回し始めるユウヒは、何やら物足りなさそうな表情を浮かべ呟くが、彼の想像はどんどん杖と言うカテゴリーから離れて行き、彼の呟きに精霊達はどうでも良さそうに瞬く。
「まぁ製作者が杖って言ったら杖だよな? 素材探さないと」
精霊達の様子にあまり深く考えないことにしたユウヒは、軽く丈夫な中空の杖を振ると散らばったスケルトンウィードの残骸を杖先で再度漁り始める。
「んー牙かぁ良い感じだけどちょっと小さいなぁ」
スケルトンウィードを構成するのは大量の蔦、肉や血を啜り腐敗させドロドロにする中心の核や口、そしてその名の由来となった大量の骨。
捕まえた獲物を腐らせ食べたスケルトンウィードは、残った骨を細い蔦で体に固定し鎧とする。この骨が意外と厄介で、槍や剣の軌道を逸らし、矢を弾き多少の魔法なら防いでしまう。その防御力を生かし跳びつけば後は口の鋭い牙で噛みつき獲物を捕獲するのだ。
「ナイフにもちょっと小さいなぁ? 矢じりくらいかな」
主に弓矢の矢じりなどに利用される真っ直ぐと伸びた牙にはギザギザの溝があり、のこぎりで切ったような傷を付けると、腐った血肉由来の感染症を引き起こす為、襲われ深手を負うと高い確率で長期の療養が必要になり手当てが遅ければ最悪命を落とす事となる。
「よし、あと二匹……切りよく全部で五匹にするか、お金欲しいし」
<!>
そんな冒険者だけでなく幅広い人々に厄介者扱いを受けるスケルトンウィードであるが、現在のユウヒにとっては金を呼ぶ魔物でしかなく、厄介で嫌われ者なだけあって報酬も良いのだ。スケルトンウィード3匹の討伐と書かれている依頼板にも、超過討伐による追加報酬が約束されていた。
「あっちか、ところでこれって放置していていいのかな? 埋めとく?」
<……、……!>
臭くて面倒な相手である為、さっさと終わらせたいユウヒは、精霊の導きに従い林の奥に目を向けるが、歩きだした足をすぐに止めるとスケルトンウィードの残骸に目を向ける。残骸を放置していいのか、特に依頼板には何も記載されていないが、これほど臭い物体をそのままと言うのもどうなのかと精霊達に問いかけるユウヒ。
「なるほど? 細かくして埋めたら肥料になると、確かに堆肥とか臭いもんな」
人間の考えはよく解らない精霊であるが、彼女達、特に土の精霊達からは埋めてほしいと言う声が上がっている様で、昔見た牛糞堆肥の山を思い出したユウヒは納得した様に頷き杖を構える。
「とりあえず穴を、んー【ディグ】」
先ずは埋めるための穴が必要だと、魔力を杖に込めて地面に突き刺し魔法のキーワードを口にするユウヒ。唸り短く魔法を放つユウヒの目の前には、スコップで掘れば1時間はかかりそうな穴があっと言う間に出来上がり、掻き出された土は傍で小さな山を作っている。
「こんなものだろ、あとはよいしょ! おいしょ」
穴の大きさに満足したユウヒは、スケルトンウィードの蔦を一本掴むと引き摺り穴に落とし、もう半分も同じように穴の中に引き摺り落とす。
「んで細かくするんだな? 何かいい魔法はあったかな? 氷はなんか細菌とか醗酵してくれそうなものが死にそうだし、サイクロでもいいけど飛び散りそうだし」
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後は粉々に切り刻めば終了であるが、手作業でやっていては日が暮れる為、魔法でどうにかしようと考えるユウヒは、過去に使ってきた魔法を思い浮かべるもしっくりくるものがない様だ。そうなれば次に考えるのは、クロモリと言うゲーム内で使用していた魔法を元にした新たな妄想魔法。
「うーん……あ! あれを使ってみよう」
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妄想力が要となるユウヒの魔法、一体どんな魔法を思い浮かべたのか寄せていた眉を大きく持ち上げ笑みを浮かべるユウヒは杖を構えて真剣な表情を浮かべる。
「安全の為に妄想をしっかりしないとな……」
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全てはユウヒの思い浮べる世界次第、間違って制御を失えばその魔力量故に大きな被害を生み出しかねない。
「深く深く光も届かぬ闇の井戸、極小、瞬き一瞬、事象の彼方で砕け散れ【グラヴィティクラシャー】」
故に深く妄想し、より強固な妄想にするため方向性を言葉で補強して行く。ユウヒの体の奥底でグルグルと掻き混ぜられ練り上げられた膨大な魔力は、ユウヒの妄想とキーワードにより世界に顕現する。
それは黒、いかなる光も逃さぬ黒、超重力の井戸の奥に引き込まれた残骸は引きちぎられ、瞬きの様な一瞬の出来事でなければ今頃、蔦や牙は素粒子サイズまで押しつぶされていたであろう。しかし超重力が発生したのは一瞬、バラバラに引きちぎられた残骸は穴の3割ほどを埋めるに至った。しかしそれは紛れもなく超小型のブラックホールである。
<!?>
その日、スタールの近隣で発生した膨大な魔力の片鱗がほんの一瞬だけ大気を震わせ、精霊達が慌てふためき、魔力に敏感な者達が悪寒を感じ、アミールが警報に驚き、地表付近での極小ブラックホール発生の表示に顔を蒼くするのであった。
いかがでしたでしょうか?
気を抜けばやらかすユウヒは、今日も世界に波紋(物理)を振りまき歩き続ける。そんなお話を次回もお楽しみに。
それでは、今日はこの辺で、皆さんの反応が貰えたら良いなと思いつつ、ごきげんよー




