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第39話

 修正等完了しましたので投稿します。楽しんでいってね。





 砂の海の夜は寒い、大地から勢いよく熱が奪われ日によっては氷点下まで下がることもある。今の時期はそう言った寒すぎる日は中々珍しく、宿舎のベッドに身を沈めていたユウヒが目覚めた朝も少し肌寒さを感じる程度であった。


「ふぁ……なんだか騒がしいな」


 そんな早朝の肌寒い時間、抜けきれぬ社畜の癖故に自然と目を覚ましたユウヒの耳には、早朝に似つかわしくない騒がしさが聞こえてくる。命の危険を感じる騒がしさと言った様子では無いものの、理不尽なハプニングに対して迷惑そうに働く人間の慣れ親しんだ気配を感じて起き上がるユウヒ。


「おはようございます」


「あ、おはようございます!」


 手早く魔法で顔を洗ったユウヒは、少ない荷物を持つと精霊の気配を感じないことに首を傾げながら借りた部屋から出る。宿舎は部屋から出るとすぐに外であり、丁度通りかかった兵士と目が合い挨拶を交わすユウヒ。


「何かあったんですか?」


「ええ、また穴が開いて怪我人が出たんです」


 初めて会う兵士は、簡易宿舎から出てきたユウヒを見て何か思い当たったらしく、キョトンとした表情に笑みを浮かべ、ユウヒの問いかけに困った様に笑いながら怪我人が出たと言って両手で持つ荷物を抱えなおす。


「あな?」


 また穴が開いたと言う言葉に小首を傾げるユウヒは、目の粗い袋を何枚も抱える兵士を不思議そうに見詰める。


「あ、実は少し前から突然地面に穴が開く怪現象が起きてまして、小さな穴ではあるんですけど子供が落ちたら苦労するくらいの穴で、間違って落ちて怪我する人が多いんですけど、今朝は酔っ払いが帰り道で落ちたらしくて」


 それなりに丈夫そうな布の服の上から、胸や膝などに革製の防具を身に着けた兵士は、何か思い出したように顔を上げると、姿勢を正しながら詳しく説明を始める。


 親切な兵士が笑みを浮かべ、頷くユウヒにする説明曰く、スタールの街では少し前から割と大きな穴が地面に突然現れると言う可笑しな現象が起きており、さらにその穴に気付かず落ちて怪我をする人間が続出しているそうだ。今回は酔っ払いとのことでどうにも救助が大変だったようで、兵士の苦笑からは疲れが見える。


「大丈夫だったんですか?」


「治療院に担ぎ込まれたとしか、まぁ死人は出てないんですけど明け方の騒ぎだったので今まで忙しかったですね」


 幸いなことに死人こそ出ていないが、今日の様に日も昇らない時間に問題が起きると街の兵士の忙しさは日中の比ではない。大体が仮眠しているところを叩き起こされ、まだ外は暗いために灯りを多く用意しなくてはならず、さらに治療院に担ぎ込むために頭を下げてお願いに行かないといけないのだ、身体的にも精神的にも疲れる仕事である。


「お疲れ様です」


「あはは、ありがとう」


 そんな苦労をした上にまだまだ仕事が残っていそうな兵士に目を向けるユウヒは、社畜時代を思い出し心の底から労いの言葉が溢れてくるのだった。どうやら兵士にもユウヒの気持ちは伝わったらしく、朝日に照らされた顔を少し赤くして嬉しそうに微笑むと、会釈を残してまた駆け出していく。


「穴か……おっと、組合に行かないと」


 まだ若い短髪の女性兵士を見送ったユウヒは、彼女が言っていた穴について違和感を覚えるも、自分も今日は頑張らないといけないと気合を入れ直し冒険者組合を探すために歩きだす。





 それから数十分後、兵士に組合の場所を聞けばよかったと若干後悔しているユウヒは、回り道をする様に冒険者組合にやってきていた、


「しつれいしまぁす……」


 トルソラリス王国において、早朝の冒険者組合と言うものは基本的に人でごった返す事が多い。


「なんだか広いけど人が少ないな? 依頼はどこかな?」


 しかし、そっと組合の扉を開き入り口から顔を覗かせるユウヒは、これまでにそんな冒険者組合に遭遇したことは無く、スタールの冒険者組合はさらに人が少なく感じたようで、広い組合のホールで仲間同士集まる冒険者を見渡しながら歩を進める彼は、きょろきょろと依頼の張り出しを探す。


<……!>


「ん? あっちか」


 広々としたロビーをどこか心細そうに歩くユウヒ、そんな彼の目の前に元気よく飛び出してきたのは風の精霊。彼女はユウヒの視線を誘うとその視線を一点に誘導する。どうやら彼女は依頼の張られた掲示板を教えている様で、ユウヒがその誘導を理解すると精霊は嬉しそうに輝き掲示板に飛んでいく。


「へぇこの板が全部依頼か」


 風の精霊に誘導された先には無数の釘が刺された壁があり、その釘には文字や絵の描かれた白木の板が下げられている。どうやらそれらは全て現在出されている依頼のようで、よく見ると周囲でテーブルを囲う冒険者達も手に手に依頼の書かれた板を持ち話し合っているようだ。


「薬草、薬草、薬草、薬草……こっちは魔物の間引き、結構依頼が多いな」


 とりあえず端から順に見て行くユウヒ、人の数と違い依頼はたくさん掛けてあり、草の描かれた板の中に生き物の様な絵が描かれた板が点在している。


「どれがいいかな?」


<……!>

<…‥!!>


 スタール周辺の環境や生物の分布について知らないユウヒは、何を元に選ぶか悩み始めるが、集まって来た精霊達は二枚の板を囲む。どうやら彼女たち精霊おすすめの依頼らしく、ユウヒの為に昨夜から調べていた成果を誇る様に胸を張って示し元氣よく瞬く。


「これとこれ? あぁ調査した方がいい場所方面なのね」


 精霊達が選んだものはどちらも魔物の討伐依頼であり、熟練者が推奨されている。ユウヒにとって何もかもが初めてであるが、事戦闘に関してはそれなりに自信があるので気にした様子も無く、白木の板を手に取るユウヒは精霊達の言葉に納得して受付に足を向ける。


「それにしても薬草の依頼が多かったな」


 一方でユウヒが気になっていたのは掲示板の大半を占めていた薬草採取の依頼、多種多様な薬草採取の依頼が掛けられていたが、どれもそれなりに掛けられて時間が経過した物ばかりであった。


「この依頼やりたいんですけど」


「はい、冒険者証をお願いします」


 薬草の採取を気にしつつ、受付の女性に笑みを浮かべながら木札を渡すユウヒは、冒険者証を取り出すために鞄の奥に手を入れ弄る。


「はい」


「ありがとうございます」


 バッグの奥に入り込んでいた冒険者証を取り出し受付の女性に渡すユウヒは、女性の作業を興味深そうに見詰める。


 女性は巻物の様に筒状に丸められた羊皮紙を一部広げると、木の板に書かれた依頼内容と発行日時、受付日時やユウヒの冒険者証の内容を書き写し、さらに印鑑を押していく。


「スタールの組合はいつもこのくらいの人なんですか?」


「え? あははそんなことないですよぉ、今はほとんどの人が遠征に出てるだけなんでいつもはこの時間大忙しです」


 一つ一つ丁寧に書き写す彼女に、手持ち無沙汰なユウヒは世間話を持ち掛ける。


 ユウヒの質問にキョトンとした表情で顔を上げた受付女性は、すぐに笑い声を洩らすとそんなことは無いと話し始めた。どうやら現在スタール所属の冒険者は大半が遠征に出てしまっており、いつもなら朝の早い時間は冒険者たちが多く非常に忙しい様だ。


「そうなんですねぇ……あと薬草の依頼が多いのはなぜです? サルベリスの冒険者組合ではあまり見なかったんですよね」


 妙に丁寧に書き写している受付の女性に目を向けるユウヒは、何か気になる様な表情で返事を返しロビーを見渡す。そんなユウヒは、気になっていた薬草採取依頼の多さについて問いかけた。なんでも無いような会話から色々は物が見えてくることは多く、違和感を積極的に確認して行くユウヒ。


「サルベリスからいらっしゃったんですか?」


「一時居ただけで前は別の所に居たんですけどね」


 問いかけるユウヒを見上げる女性は、逆に問い返し、ユウヒの返事に目を丸く見開きながら珍しいものを見る様に見上げる。どうやらスタールでサルベリスから来た人間を見る事は珍しい様だ。


「そうなんですか、サルベリスは一部の薬草を栽培しているのもあるんですけど、スタール周辺の水が枯れて来ているのは……分かりますよね?」


「はい」


 サルベリスは領地の特徴によって植物の栽培が盛んであり、有名な野菜や木のほかにも育てるのが難しい薬草なども栽培しており、一方でスタール周辺ではそう言った産業は発展しておらず、さらに現在は水不足な状況であり、どうやらその事が薬草採取の依頼が増えている原因になっている様だ。


「栽培とかしなくてもこの辺りはいくらでも薬草が採れたんですけど、最近は水枯れで薬草が採れなくなって来たんです」


「あーそう言う、だから薬草の依頼が?」


 サンザバール領はトルソラリス王国でも比較的北に位置し、山脈のおかげで豊富な水に恵まれた地域である。背が高く大きな木が育つ環境ではないが、一方で薬草などの有用な植物が多く採れる地域である。


「残っちゃった感じです。遠征も水枯れの影響で魔物の分布が変わってしまったとかで、こっちも大変なのに割が良い仕事があるってみんな……だから困ってるんですよね」


 しかし水枯れで山や草原、森の恵みが取れなくなった結果、冒険者の収入源となっていた依頼が達成不可能になり溜まる結果となっていた。水枯れを切っ掛けにした状況はあちこちに波及し、スタールの観光客激減以外にも様々な問題を生み出している様だ。


「困ってるですか?」


「ええ、ユウヒさん? が選んだ依頼もそうなんですけど、普段見ない様な魔物が増えてまして、対処法を知らない冒険者は忌避するので、いっぱい狩ってくれると助かります」


 その一つがユウヒの受けた依頼にある。水枯れにより生態系に大きな変化が起き、その影響で普段はスタール周辺であまり見ない魔物が見られるようになったようだ。普段スタール周辺に出没する粘性生物や野犬のような魔物、草食系の魔物であれば組合所属の冒険者にとって油断しなければ早々苦労する魔物ではない。


 だが普段見かけない魔物に対しては、蓄積された情報や経験が不足している為、思わぬ怪我や事故に繋がり、そう言った冒険者が増えた結果、狩りやすい獲物が移動した先へと遠征に向かった方が得になると言う状況になっていた。


「まぁほどほどに狩りはしますけど」


「こちらの袋に証拠の部位を入れて来てください。クサチヘビは頭、スケルトンウィードは種瘤が核の周りについてるので切り取ってください」


 そんな状況の中、突然現れた見知らぬ冒険者がそれらの魔物を狩ってくれると言うのだから、日頃からクレーム対応も行う組合の受付嬢としては手放すと言う選択肢はなく、普段以上に所作を意識して、所属冒険者に対する対応より親切になってしまう。


「分かりました」


 妙な圧を感じる受付嬢の笑みに何とも言えない笑みで返し、厚手の袋を受け取るユウヒは、ごわごわとした密度の高い布の袋に興味を引かれるも、何かを感じてすぐにバッグに仕舞い女性に頷いて見せる。


「あと、拠点をこちらに移す登録をしていただければ報酬が3割増えますので、登録して行きますよね?」


「いや、それはいいかな」


 話は終わりと踵を返そうとするユウヒであるが、本題はこれからだと言った様子で話し始める受付嬢。現在スタールの冒険者組合は人手不足、そんな場所に遠方から訪れた冒険者、しかもパーティを組むのが普通の冒険者稼業にも拘らず明らかに一人、どう考えてもベテランな空気を持つ彼を逃がす手はない。


「お得ですよ? みんなしてますよ? しないなんて考えられません」


「どこかに定住する気は無いから」


 即座に断ったがそんな言葉聴こえないと言った様子でスタールへの拠点登録を進める女性、このやり取りはすでにスルビルで経験済みのユウヒは、アミールの依頼がある以上どこかに定住しての活動は足枷になると首を横に振る。


「ですが」


「それじゃまた後で」


「あちょっと!」


 セールストークを始める人間は基本的に相手の言葉など聞きはしない、日本にも通行人に壺や絵画や手鏡を売りつけようとする人間が居り、そんな相手との経験が役に立つと会話を切るユウヒはそのまま足早に組合を後にするのだった。


「フラれたわねぇ」


「いけると思ったのに……」


 残された受付嬢は机に手をついて、立ち上がった状態で片手を伸ばして空気を掴む。何とも言えない空気が流れる中、肩を落とす彼女に同僚の女性が声を掛けて肩を慰めるように叩く。何をどう見て判断したのか、拠点登録の成功を確信していた女性は肩に置かれた同僚の手を払いのけてため息と共に椅子に座る。


「あんたの勘は当たらないでしょ? それにしても後でか、これ今日中に終わらせるつもりかしら?」


 溜息を吐き終えて頬杖をつく同僚に肩を竦める女性は、羊皮紙の巻物を手に取り内容を確認すると、ユウヒの口ぶりの違和感に眉を顰め、確認する様に問いかけた。どうやら彼が選んだ仕事は一日で終わる様な依頼ではない様だ。


「え? ……無理じゃない?」


「そうよね?」


 その認識はユウヒの受付を担当した女性も同様の様で、確認する様に巻物を受け取る彼女は眉を歪に寄せると同僚を見上げて小首を傾げる。一体ユウヒが選んだ、正確には精霊が選んだおすすめ依頼はどういったものなのか、ユウヒは今日中に終わらせられるのだろうか。



 いかがでしたでしょうか?


 精霊おすすめの依頼は一体ユウヒにどんな出会いを与えるのか、次回も楽しんで貰えたら幸いです。


 それでは、今日はこの辺で、皆さんの反応が貰えたら良いなと思いつつ、ごきげんよー

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