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第38話

 修正等完了しましたので投稿します。楽しんでいってね。





 クシャミに襲われながら、背の低い草が茂る草原を乾燥した風と共にバイクで走るユウヒ。人が何度も行き来する事で踏み固められ草の枯れた道を走る道すがら、休憩できそうな場所を探していた彼は、昼食の時間を少し過ぎてバイクを岩場に停めていた。


「乾燥砂魚を砕いて乾燥野菜を砕いて乾燥スープの素を入れて出来上がり」


 乾燥した草地から少し離れた岩場にバイクを停めたユウヒは、魔法で加熱した大きな石の上に金属製の小さな鍋を置いて乾燥した食材とスープの素を袋から取り出し入れている。


「簡単だけど、もっと真面なご飯食べたいな」


 魔法で生み出したお湯が石の熱で程よく温められ、乾燥した食材がスープを吸って広がっていく。その様子を見ながら満足そうに頷くユウヒであるが、もっと真面な食事を摂りたいと小さく呟き空を見上げる。


「かと言って手持ちも心もとない気がするし、冒険者組合にも顔出さないとね」


 ユウヒは視界に映る周囲の寂しい探知結果に背中を丸めると、肩から掛けたままのバッグに手を突っ込み革袋の中の硬貨を弄ぶ。指先で枚数を確認しながら眉を寄せるユウヒは、働くことを決心したようだ。


「……ご飯が欲しくなるな、あと塩味がもう少し欲しいところか」


 しばらく鍋を眺めていた彼は、鍋のスープをカップに移すと音を立てて啜り、目を閉じて鼻から息を吐いて愚痴を洩らす。お湯が多かったのか薄味になったスープを飲み干した彼は、故郷の味が恋しくなり思わず呟く。どうやらサルベリスにはお米の様な食材が無かったようだ。


「このポンチョも高性能だけど流石に汗は掻くし、魔法が無ければ今頃死んでいたな」


 中天を少し過ぎた日の下で岩の影に隠れながら温かいスープを飲むユウヒ。これはアミールから貰った愛用のポンチョがもつ空調機能のおかげであり、唯の服であれば昼間から温かいスープを飲む気にもならなかったであろう。それほどに暑い砂の海の乾いた風に吹かれる草原は、背が低く地面に張り付く様な草木を揺らしている。


「ちょっと昼寝したら出発するか」


 小鍋いっぱいのスープを飲み干したユウヒは、僅かに感じる汗にポンチョをはためかせるとそのまま岩場に横になり、結界の魔道具が付けられたバッグを枕にフードを深く被って隙間から見える青い空に目をゆっくり閉じる。


<……!>


「起こしてくれるの? 助かるよ、三十分くらいで起こしてくれる?」


 深く息を吸って吐くユウヒのお腹の上に精霊達が腰を下ろし瞬く、どうやら目覚まし時計代わりになってくれるようで、自信満々の意思にユウヒは笑みを浮かべ30分ほどで起こしてもらえるように頼む。


<!>


「ありがと、それじゃおやすみぃー……スヤァ」


 精霊に30分と言って分かるかどうか怪しい所であるが、精霊は言葉以外の部分でも意思疎通できるので、任せろとでも言いたげに舞う彼女達は感覚的にユウヒのお願いを理解しているのであろう。


<!?>


 そんな依頼主があっと言う間に寝てしまったことに驚く精霊達は、心配そうに彼の周囲をしばらく舞っていたが、特に問題ないことを確認するとまた胸の上やお腹の上などあちこちに腰を下ろして、ユウヒの呼吸と同じように瞬き始めるのであった。





 一方、ユウヒの目的地であるスタール。


「あーもうすぐで今日の仕事も終わりだな」


 日が深く沈み空が赤く染まり始めたスタールの門前では、街の外を警戒する様に立ち続けた門番が手に持っていた槍を壁に立て掛け、体を伸ばし疲れた様に溜息を洩らしていた。


「今日も平和な一日でしたと……大丈夫かこの街?」


 体を限界まで伸ばして体のこりを解す褐色肌の男性の隣には、毛深い黒毛の獣人男性が今日の感想を呟いて胡乱な表情を浮かべる。彼の平和と言う言葉の裏には、人がほとんど来なかったと言う意味が含まれていた。


「そうは言ってもなぁ水不足で名所もほとんど機能してねぇし飯も質が下がってるからなぁ」


「こんなに人が来ないとか俺初めてだよ」


 人が来なければ何も無いのが門番お仕事、魔物が攻めてくれば別だが、昼間の砂の海で活発に活動する魔物は少なく、昼間は基本的に街に用がある人間しか来ない。そんな昼間も、水不足の影響で名所が機能停止している所為で観光客はほとんど訪れる事もなく、食事の品質も下がっていると言う褐色の男性は楽しみがないのか、空腹のお腹を押さえながら溜息を洩らしている。


「今日通った馬車は8台、うち貴族の馬車は2台ってすごいよな? しかも素通り、記録更新だよ」


「そんな記録更新してほしくねぇよ、可愛い子もこねぇし暇すぎて死にそうだ。何か面白い事ねぇかなぁ」


 一方で黒毛の獣人は可愛い子が来ないと言って気の抜けた声を洩らす。水の街として豊富な湧水と湖、そこから採れる水産物と涼を求め平民から貴族まで多くの人間が訪れる街は、美しい旅行者も多い。


「面白い事って何だよ」


「あー……なんかすごい魔物が出て来るとか」


「こえぇよ、なんでそんなもん来て欲しいんだよ」


 日頃との落差の為かとんでもないことを言い始める同僚に目を向ける褐色の男性は、呆れた様にツッコミを入れると、念のためにその理由を問いかける。


「何か暇を破壊してくれそうじゃん?」


 どうやら褐色の男性は同僚の頭がおかしくなったのではないかと心配した様だが、黒毛の獣人は石突を地面に刺した槍にしがみ付く様に体重を預けると、頭を使っていないのがまるわかりな返事を返しながら埃っぽい草原の向こうを見詰める。


「はぁ、大体が暇で平和でいいじゃねぇか」


「しげきだよ刺激、人生には刺激がひつ……よう?」


「どうした?」


 すっかりやる気をなくした同僚に溜息を洩らす男性は平和が一番だと言うが、黒毛の獣人男性にとっては刺激の無い平和な日常はあまりに退屈なようだが、彼等の下へ遠くから刺激的な足音が聞こえてくる。


「あれなんだ?」


「ん? 馬車の灯り? にしてはつよい……」


 山影によって暗くなり始めた草原の向こうから強い光が姿を現し、それは彼らが目を凝らす間にもどんどん大きくなっている。


「こ、こここっち来るぞ!?」


「どどど、どうする!?」


「知るかよなんだあれ!?」


 黒く何か大きな物から溢れ出る強力な光に目を細める二人、明らかに異常な影に恐怖して声が吃り、先ほどまで暇だ刺激だと言っていた男はどこに行ったのか、思わず後退る獣人の男性は槍を構えながら褐色男性の後ろに隠れ、お尻の尾を股に挟む。


「あれ、鉄か?」


「て、てつ? まさか…‥遺物?」


 山影から抜け出した黒い影は、夕暮れ時の紅い光を反射して光沢のある金属特有の輝きを見せ、同僚の言葉から巨大で動く鉄の塊=遺物へと至った獣人男性は、


「……ドワーフが攻めてきた!?」


 息を飲むとすぐに大きな声で叫ぶ。


「た、隊長大変だ! ドワーフが攻めてきた!」


 その声に反応して褐色の男性も同じようにドワーフが攻めてきた叫ぶと、足をもつらせながら門へと走り込み大きな声で助けを呼ぶ。


「うるっせぇな、隊長は会議で居ねぇよ! あ? なんだありゃ」


 助けを呼ぶ声は門の奥、門番が待機する建物の中に響き渡るが、出て来たのは欠伸を噛み殺す男性が一人、どうやら隊長ではないが二人の門番の上司らしい日焼けした肌と釣り目が特徴の彼は、張りのあるツンツン頭を無造作に掻きむしりながら門から外に出るとうるさい二人に怒鳴り、迫りくる黒い影に気が付くとキョトンとした表情で呟く。


「遺物だ! どわーふが攻めてきでぶ!?」


「うるせぇよ、んなわけあるか」


「で、でも」


 褐色男性に置いて行かれた黒毛の獣人は、助けを求める様にツンツン頭の男性に跳びつこうとするも、頬を強かに叩かれ地面へと墜落し、めんどくさそうに吐き捨てる上司の言葉に頬を押さえながら座り込み、涙目で小さく呟く。


「よく見ろ、人じゃねぇか」


「いやドワーフも人だからぁ」


 呆れた様に二人に目を向けるツンツン頭の男性は黒い影を指さし、上に人が乗っているのだから大げさに騒ぐ前に声を掛けろと言外に注意するも、返ってくる言葉は自信の無い声と泳ぐ視線。


「なんで攻めてきた奴が悠長に手を振って来るんだよ、ちゃんと仕事しろ!」


「えぇ……」


 呆れたツンツン頭の男性は、頭を掻きながら肩を落とすと遺物の上で手を振る人物を指差して二人に怒鳴り、怒鳴られた二人は遺物に目を向けると、大きく手を振る人影に思わず情けない声と表情を浮かべる。


「はぁ、おーい! とまれー!」


「はーい!」


「ほれ、一般人じゃねぇか」


 呆れてため息を洩らし続ける男性が大きな声で遺物に声を掛けると、大きく間延びした返事と共にゆっくり止まり始める遺物。そんな遺物を親指で指さしながら一般人だと言うツンツン頭の男性であるが、一般的に巨大な遺物で現れる人間を一般人とは言わない。


「「いやいやいやいや!!」」


「まったく、殺気無しで攻めてくるやつが居るかよ、しかもあんな堂々と」


 故に門番の二人は全力で首を横に振るのだが、ツンツン頭の男性にとって異常の判断は相手の気配次第のようで、まったく殺気や緊張感の無いユウヒは一般人の枠内の様だ。門に近付き夕暮れの温かな色の光の下に現れたバイクが停車すると、乗っていたユウヒが飛び降り、びくつく門番二人を後目にツンツン頭の男性は手を上げながら誰何の為に歩きだすのであった。





 サンザバール領の南に位置するスタールの街には毎年多種多様な観光客が訪れる。その中には他国の人間も多数存在し、中には異物に跨りやってくる風変わりな者も居る為、ベテランの門番であれば遺物程度で驚くことは無い。


「おう、なるほどな……問題ないがどうするよ? この時間じゃもう宿とれねぇけど、簡易宿舎は遺物付きじゃ割高だぞ?」


 かといってユウヒが乗って来たようなモンスターバイクで来る者は初めてらしく、ツンツン頭の男性はユウヒから一通り説明を受けると黒く不思議な光沢のある金属の塊を見上げ、少し呆れ気味に小さく鼻から息を吐く。


「今日と明日でいくらぐらいになります?」


 どうやらユウヒが到着した時間では宿をとるには遅すぎる様で、そう言った人間の為にスタールには簡易宿舎が備わっており、門番は簡易宿舎の管理も仕事の内なのかユウヒの問いかけに少し悩む様に眉を顰める。


「そうだな、どうせ明日中には宿とるだろ?」


「ちょっと働かないと宿も大変かなと」


「今はどこもスカスカだから安いと思うが、遺物付きじゃな? んーとりあえず小銀3枚で良い、あとはまた明日の夕方くらいに考えよう」


 少し悩み問いかけてくるツンツン頭の男性に、ユウヒは同意するよに頷くも懐具合について触れ、少し驚くよに目を開く男性は腕を組んで考え込むと小銀貨3枚だと言う。


「ありがとうございます」


 どうにもだいぶ安めの値段のようで、ユウヒも男性のニュアンスから何か感じ取ったのか笑みを浮かべてお礼を口にすると、男性は満面の笑みを浮かべて見せた。


「良いって事よ、おいお前ら! 倉庫と宿舎に案内してやれ!」


「は、はい!」


「で、でも門番の仕事……」


 ユウヒの返事は正解だったのか、楽しそうにユウヒの肩を力強く叩く男性は、叩かれるたびに変な声が洩れるユウヒにまた笑うと、今も離れた場所で震える二人の門番に案内するよう声を掛ける。楽しそうなツンツン頭の男性の一方で、声を掛けられた二人は顔を蒼くしており、明らかに一般人の枠内に収まらないユウヒの案内に対して消極的であった。


「今のお前らじゃ役にたたねぇだろ、後は閉めるだけだ俺がやっとくから行ってこい!」


「「はい!」」


 しかし一度恐怖を感じた人間が、そのあと真面に仕事が出来ると思えないツンツン頭の男性は、少し強めの口調で指示を出し、明らかに機嫌が下降している怖い上司に震える二人は勢いよく返事を返し、錆びた機械の様な重くぎこちない動きで歩きだすと、遺物に乗ったユウヒを門の奥へと案内し始めるのであった。





 ロボットダンスを踊ったら上手そうな二人に案内されたユウヒが、簡易宿舎のベッドに寝転がったのはそれから四半時ほど後、それほど柔らかくも無いベッドであるがユウヒは体全体が沈み込んでいくような感覚を覚えていた。


「ふぅ、一心地ついた」


 そのまま寝てもおかしくないユウヒは、瞑っていた目を開くと独り言をつぶやき質素な木製の天井を見上げる。建物のほとんどが石と煉瓦でつくられた簡易宿舎の部屋は狭く、ベッドを置いたら荷物が多少広げられる程度の空間しかない。


≪…………≫


「どうした? そんな静かになって」


 しかし社畜時代に何度となくカプセルホテルのお世話になったユウヒとしては十分な広さであり、それよりも気になっていたのが静かな精霊達、普段もそんなに騒がしく無いがくっ付いてきたり離れたり、自由奔放な彼女達であるが、今はずっとユウヒから少し離れた場所に集まり全く声を出さないでいた。


<……>


 ベッドに横になったまま顔だけ床に向けるユウヒの問いかけにざわつく精霊達、どうやら代表して一際明るい精霊が弱々しく輝き説明を始めるようだ。


「気にしてないよ、寝坊なんて誰にでもあるし気持ち良かったなら仕方ないさ? 俺も自分で起きれなかったんだからさ」


 実はこの精霊達、自信満々に三十分でユウヒを起こすと約束したにも関わらず、程よい日陰の下で眠るユウヒの側に寄り添ったまま寝こけてしまい、数時間ほどユウヒと一緒に寝ていたのである。


 特に気にした様子もないユウヒも目が覚めた当初は驚き、体の周りで寝ている精霊を見回すとすぐに状況を理解、寝る前よりずっと低い場所に居る太陽に目を向けるとすぐに準備を始め、寝惚け眼の精霊達と共に人影の居なくなった街道をバイクで疾走して来たのであった。


<……?>


「そんな事で怒らないよ、もっとひどい人はいくらでもいるからね。それより明日は朝から冒険者組合で仕事探さないと流石に金欠だ」


 笑いかけるユウヒの真意を探る様に見詰める精霊達、多少の寝坊くらい気にしないユウヒは、脳裏に8時間遅刻してきた元勤め先の先輩たちを事を思い出し、それに比べれば可愛いものだと起き上がり床に座り込む精霊達を楽しそうに見詰める。それよりも今はお金だと、軽くなった革袋を思い出し小さくため息を洩らすユウヒ。


「何か手頃な依頼があればいいけど」


<…………>


 起こした体をまたベッドに倒して呻くように呟くユウヒは、しばらくすると寝息を立て始め、荒れた街道を疾走して疲れたユウヒを心配そうにそっと覗き込む精霊達は、何やら相談すると部屋の外へと飛び立ち散っていく。部屋の突き当りにある板を張り合わせた窓の外からは乾いた風の音が聞こえ、精霊の光が無くなった暗い部屋からはユウヒの寝息だけが聞こえてくるのであった。



 いかがでしたでしょうか?


 ようやくスタールに到着のユウヒ、しかしその幸先はあまり良く無さそうで、どんな明日が待っているのか次回もお楽しみに。


 それでは、今日はこの辺で、皆さんの反応が貰えたら良いなと思いつつ、ごきげんよー

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