表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ワールズダスト ~砂の海と星屑の記憶~  作者: Hekuto


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

36/149

第36話

 修正等完了しましたので投稿します。楽しんでいってね。





 石造りの塀から日の光が入り込む三叉路オアシス、薄く煙る霧に乱反射した光はユウヒの目にも優しく差し込む。


「ふぁ……ねむい」


 眩しそうに顔を顰めたユウヒは目を擦りながら目を開けると、眩しそうに目を細め欠伸を噛み殺す。明るく照らされる周囲と違い、まだ朝陽は湖まで届いておらず、ユウヒが泊まった無料エリアはオアシスの中でも割と高い所にあるようだ。


「ねむ、中途半端な寝かたの所為かな? スタールで真面な宿に泊まれればいいけど」


 まだ暗いオアシスの水面に少し反射する日の光に視線を落とすユウヒは、起き抜けの重い眠気に大きく息を吸って吐くと目頭を指で揉みながら不満気にごちる。昨夜の一騒動によるストレスも抜けぬまま朝を迎えたユウヒは、まだ見ぬスタールに真面な寝床を求め立ち上がった。


「……水か、顔洗いに行くか」


 足の筋肉に必要以上に力を込めて立ち上がるユウヒは、視線の先にある湖にゆっくり差し込む日の光に目を細めると、そこで楽し気に舞う水の精霊に誘われるように歩き始める。





 そんなユウヒの姿をバイクの影から観察する影が一つ二つ。


「……行きました」


 どうやらオアシスの警備兵の様だが、装備した鎧はどこか騎士然とした男性兵士の金属鎧と似た意匠が見てとれた。それもそのはず彼らは騎士然とした兵士の部下であり、上司の指示で明るくなってから再度昨日の騒動跡を調査に来たのである。


「こっちだったな」


「この辺りですね」


 彼らが上司の指示を受けたのは、ユウヒが炎剣を突き刺した砂地の詳細な調査。大体の位置を覚えていた彼らは砂地に膝をついて地面に目を凝らす。そしてすぐに地面の変化に気が付き目を見開く二人。


「ああ、これは……?」


「うわ、この砂石に……いやガラスになってます!」


 ユウヒが炎剣を突き刺した砂地は炎剣の熱で溶けたのかガラス化しており、歪であるが角の無いガラスの塊から砂を払う若い兵士は、驚きの声を上げて年上の兵士に目を向ける。彼の手には軽く持ち上げられないほどの塊が砂の中から顔を出しており、その表面に兵士二人の顔を歪に映していた。


「小さいガラスなら焚火でもできるが、これは……」


 砂地で焚火を行うと稀にその熱で砂が小さなガラスになることがある。しかしそれは小さく濁りもある脆いガラスであるが、今目の前で砂地から顔を出すガラスの塊はずいぶんと大きく、また濁ってはいるが透明な部分もありそれほど脆くも無い様に見えた。


「うわぁすごい大きさですね。持って帰ったら売れませんかね?」


 二人は砂を掃って地面からガラスを取りだすと、そのあまりの大きさと美しさに目を輝かせる。砂の海には原料となる砂は捨てるほどある為ガラスは一般でも見られる素材であるが、だからと言ってガラス製品がたくさんあるわけでもなく、兵士たちが取り出した歪なガラスの塊は、それだけで芸術的でもあり、売ればそれなりの価格になるのは肌で感じられた。


「それは……何の問題も無いな、とりあえず持って帰って隊長に見せよう」


「了解です」


 目を金貨の様に丸く見開く二人は、二人でやっと抱えられる大きさのガラスを外套で包むとふらつきながらその場を後にするのであった





 一方、そんな硝子の塊を生成していると思いもしてないユウヒは、【探知】の視界でバイクの影に隠れていた二人が離れて行くのを確認すると、湖のほとりでキラキラと朝陽を反射する水面に目を向ける。


「……何かの調査かな?」


 特に敵意も感じない相手だったので放置していたユウヒは、彼らの動きから昨夜の騒ぎの追加調査だと判断したようだ。


「うーん、程よい冷たさ」


 周囲の気配を確認したユウヒは、魔法で湖から水の塊を一つ浮き上がらせると、そのまま顔を無造作に突っ込み、数秒ほど顔を水に入れていたユウヒは勢いよく顔を上げて気持ちよさそうに深く息を吸い込む。


「ん?」


<……?>


 手で掬うのも面倒だと言った様子で顔を水につけるユウヒであったが、その空飛ぶ水球の上に気配を感じると視線を少し上げる。そこにはユウヒの魔法に巻き込まれたのか、それとも好奇心で舞い降りたのか、水球の天辺に座る水の精霊が一人、光の玉の様な体から小さな羽を生やし不思議そうにユウヒを見詰めていた。


「やぁおはよう」


<……!>


 不思議そうな感情を浮かべていた水の精霊は、ユウヒの呼びかけに明るい感情を振りまき嬉しそうに点滅する。精霊は好奇心の塊で無邪気な性格をしており人が好きである。


「気持ちの良い水をありがとね」


<……♪>


 しかし人と直接交流できない彼女達は交流可能な人に様々な恩恵を与え、それがこの砂の海と言う地では魔法使いとなるのだ。それでもユウヒほど精霊との相性が良い人もいないだろう。


「今日はどうしようかね? 普通に行こうかゆっくり行こうか」


 超常的な存在に愛されるのは良くも悪くも様々なイベントを人生に用意してくれる。そんな不確定な未来の予定を決めるユウヒは、これまでの事を思い浮かべて思わずため息が漏れ、その姿に精霊は心配そうに瞬く。


「んー……急ぐわけでもないが、何かあると嫌だし真面なところで寝たいし……ちょい早で行くか」


 すっかり明るくなったオアシスの湖のほとりで、水の精霊が清浄さを保っていた水球を地面に落とすユウヒは、真面なベッドを求めて少し急ぎ足でスタールに向かう事にしたようだ。


「そうと決まればさっさと片付けて行こう」


<……!>


 今日の方針を決めたユウヒは大きく体を空に向かって伸ばすと、上げた腕を広げて気合を入れる。その後ろでは楽しそうに笑う水の精霊がユウヒの背中にエールを送るのであった。





 そんな出発も早々に出鼻を挫かれるのはお約束か、


「ちょっとまってくれ!」


「え?」


 魔法で作ったベッドも椅子もテーブルもすっかり砂に戻し、不自然にあいた砂地の穴に足を取られて頭をバイクで打ちつつ、長い杖を荷物入れに突っ込んだユウヒは、三叉路オアシスの西側出口で呼び止められ、ゆっくりと走らせていたバイクを急停止させる。


「すまんな、少し教えて欲しいのだが」


「なんでしょう?」


 急停止と言っても余りに大きなバイクだからか急には止まれず、地面に跡を付けながら停まるバイクを追いかけ走って来るのは騎士然とした男性兵士、今は頭の兜も外して無精ひげの生えた顔を晒している。少し疲れた表情の金髪に青い瞳の男性兵士は、不思議そうに振り返るユウヒに声を掛けると、返事を返してバイクから降りてくる彼ににほっとした表情を浮かべた。


「君の行先はスタールと聞いたのだが、それは今も同じなのかな?」


「はい、スタールに行く予定です」


 何があったのか疲れが見える男性兵士に心配そうな視線を向けるユウヒは、苦笑交じりに話し出す男性に小さく頷きながら返事を返す。


「スタールに行く理由を聞いていいかな?」


 道の幅が広い三叉路には馬車や徒歩などの人間が思い思いに歩いており、ユウヒのバイクが珍しいのか、それとも兵士に呼び止められた人間が気になるのかたくさんの視線が集まる。そんな中でユウヒを呼び止めて男性兵士が聞きたかったのは、彼がスタールに行く理由であった。


「あれ? あーいや大丈夫ですよ、今サルベリスで水不足が深刻らしくて、その原因調査です」


「なるほど、原因がスタールにあると?」


「スタールの辺りが気になるだけで、そこに原因があるとかはわからないですね? とりあえず調べてみないと」


 男性兵士が真剣な表情で問いかけてくる様子に小首を傾げたユウヒは、しかし隠す事でもないからと気にせず返答する。水不足の原因について悩むユウヒに水の精霊が指し示した場所、それはスタールではなくスタールの近くであり、その調査の拠点として選ばれたのがスタールであった。


 魔法使いだと言う確信を持ってユウヒを見ている男性にとって、魔法使いが怪しいと睨む場所はどう考えても重要な場所にしか思えず、じっとユウヒの目を見詰め問いかける男性兵士にユウヒは頭を掻きながら調べてみないとわからないと困った様に笑う。


「……君は学者なのか?」


 魔法使いだと確信しているが、その口ぶりはどこか学者のようでもあり、思わず訝し気な表情で問いかけてしまう男性兵士。砂と皮脂で汚れた髪の兵士が多い中で、サラサラとした髪を風に靡かせる男性兵士が顰める青い目をキョトンとした表情で見返すユウヒ。


「いえいえただの冒険者ですよ、ただメインの依頼に関係するかもしれないと思って首を突っ込んでるだけです」


 少し前にも変わった人間に学者と勘違いされたユウヒは、そんなに学者の様に見えるものなのかと小首を傾げると、現状自信を持って言える職業が冒険者くらいしかない為、冒険者を名乗った上で大した目的があって調べているわけじゃないと苦笑いを浮かべる。


「……君の主目的について詳しく聞いてもいいかな?」


「うーん、そうだなぁ……いや止めておきましょう」


 何やら随分と素性を疑われていると感じているユウヒの一方で、男性兵士は漠然と彼の行動が何か壮大な目的に付随するものの様に感じられ、思わずその主たる目的について問いかけてしまう。魔法使いをあまり刺激してはいけないと思いつつ、しかし問いかけずにいられなかった質問を口にした彼は、ユウヒの返答に少し緊張した表情を浮かべる。


「聞かせられないと?」


「理解してもらえないと思うので」


「理解?」


 ユウヒの主目的とはアミールからの危険物回収と言うお願い、しかし砂の海と言う神を退ける地において神様からの依頼など、狂信者や危険思の持ち主と思われてもおかしくはない。事実ユウヒが神様の話をしただけでトラウマを思い出す者がいるのだから、ユウヒも慎重にならざるを得ない。


「変に勘違いされても困りますし、俺も早く依頼終わらせたいので」


「むぅ、そうか」


 出来る事ならば、ユウヒも現地協力者を探したいとも思っているが、逆効果となるならあきらめざるを得ず、前回の調査も随分と危険なものであったため協力を求め辛いとも思うユウヒ。


「何か問題でもありました?」


「ん? あぁ昨日の盗人がまだ見つからなくてな……すでに兵士ではなく盗賊として扱っている。何かあれば手加減する必要は無い、無いが出来れば捕まえてくれると助かる」


 脳裏に三人の忍者を思い浮かべるも、想像の中の忍者達が全力で首を横に振る姿に落胆すると、なにやら懸念事項が他にもありそうな気配を感じる男性兵士に問いかけるユウヒは、昨夜の逃げた兵士が捕まっていないことに少し驚くと、男性兵士の言葉に何とも言えな表情を浮かべる。


「なるほど、了解です」


 言外に生死問わずと言う兵士の言葉に、日本とは違う異世界の治安の悪さを感じるユウヒであるが、そんなものは地球でも経験済みであり驚くほどのものでもない様で、唯々面倒と言った様子だ。


「あーそれとだな」


「はい?」


 これ以上は特に用事は無さそうだと、バイクのシートに攀じ登るためにタラップを足で踏み開くユウヒ、しかしすぐにまた呼び止められると不思議な表情で振り返り、妙に緊張した様子を見せる男性兵士に首を傾げる。


「……君は、魔法使いだな?」


 ひどく緊張した表情でユウヒを見上げる男性は、目を逸らすことなく真っ直ぐに見詰めると魔法使いなのか問いかけた。


「ええ、まぁこちらの基準で行くと大体そんな感じですね」


 彼の緊張はユウヒにも伝わり、その為かユウヒは努めて軽い調子で答えて笑みを浮かべる。


「そうか、その辺について上に報告を上げても構わないか?」


「え、まぁ隠してませんし? 率先して喧伝するつもりもないだけで」


 それは相手の緊張に気がついての気遣いであり、男性兵士にもその心遣いは伝わったのかユウヒにぎこちない笑みを浮かべると、目を閉じて顔を俯かせた。どうにも男性にとってユウヒが魔法使いであるかどうかは非常に重要な事であり、同時に厄介ごとの種だったようで、ユウヒの返事を受ける表情からは何とも言えない気持ちが透けて見える。


「私の知る魔法使いの方々も似た様な感じだ……もしかしたらその事で迷惑をかける可能性もあるが、出来るだけ穏便に済ませてくれると助かる。魔法使いは貴重でな、所在を知ると勧誘や一目見たいと言う者も居るのだ」


 どうやら彼はほかにも魔法使いと接点があるようで、その言い回しから複数の魔法使いと顔見知りのようで、その誰もが自らの存在を喧伝する様な人間ではない様だ。一方で魔法使いの所在を求める人間は非常に多く、その大半が私利私欲のために魔法使いの力を利用したい者であり、そう言った人間は度々問題を起こす。


「あはは、面倒な時は逃げるだけですから……攻撃されなきゃ特に変なことしないですよ」


「……わかった。それではよい旅路を」


 故に大半の魔法使いは自らを喧伝することなく陰に潜む、一部自らを売り込む者も居るがそれはほんの一部であり、魔法使い然とした人間が詐欺師と呼ばれる原因である。ユウヒの様に大半の魔法使いは面倒事からすぐ逃げるのが常であり、笑みを浮かべて目を細めるユウヒの返答に冷や汗を流す男性兵士の脳裏には、魔法使いに喧嘩を売ったことによって引き起こされた災害が過っていた。


「ありがとうございます」


 シートに跨るユウヒは男性兵士にお礼を言って手を振ると、バイクをゆっくり走らせる。


「……うぅむ」


 小さく砂煙を上げながら走り去る巨大な遺物を見詰める男性兵士は、顔にかかる金色の髪を払うでもなく険しい表情で唸り、小さく胃に感じる痛みに溜息を洩らす。


「隊長!」


「ん?」


 そんな男性は隊長と呼ばれて振り返ると、若い兵士が駆けてくる姿を見て微妙に嫌そうな表情を浮かべた。


「総隊長が報告を求めています!」


「……胃が痛くなってきた」


「心中お察しします」


 どうやら彼の上司である総隊長と言う人物が呼んでいるらしく、その理由はつい先ほどまで話し込んでいたユウヒに関する報告のようで、より深く現実を突きつけられた彼の苦渋の表情に、若い兵士は兜の奥に見える口元に苦笑いを浮かべ自らの胸に拳を添える。


「なら代わりに説明してくれないか?」


「……自分は詳細を知りません!」


 胸に手を添えるのは彼らの敬礼のようで、背筋を伸ばし胸に手を添えたままの若い兵士は元気よく遠回しに拒否し、その引き攣った表情を見る限り総隊長への説明は上から下まで共通して面倒な事の様だ。


「ぐぬぬ……はぁ、絶対食いつくんだよなぁ」


「何がですか?」


「確認が取れた、魔法使いだ」


「あ……」


 特に魔法使いに関する説明は非常に厄介なようで、深い溜息を吐く男性兵士の言葉に若い兵士はすべてを察して思わず口から声が洩れ、その様子に肩を落とす男性は顔にかかる金髪の隙間から若い兵士を見詰める。


「おいやめろその目」


 その視線の先には金属製の兜の奥から見下ろす哀れみに満ちた目があり、口は歪に開かれそれはまるで手の施しようがない何かを見るような表情であった。


「心中お察しします!! あいた!?」


「ふん!」


 若い兵士は、男性のツッコミで初めて自らの表情に気が付いたのか、慌てて取り繕うと丸まっていた背を伸ばし直し、首の下あたりに拳を添えて力いっぱい声を上げるがすぐにその頭は強かに叩かれる。金属製の兜を被っていても衝撃は殺しきれず、頭を抱える若い兵士を見下ろし一睨みした金髪の男性は、髪を掻き上げると一人歩き始めた。


「た、隊長!? 待ってください!」


 明らかに気分を害した彼は部下に一発入れた事で留飲を下げたのか、幾分マシになった表情を顰め空を見上げ歩き、そんな一人歩き去る上司に対して怒るでもなく追いかける若い兵士は、無言で歩く上司の隣を謝り歩き、今度は乱暴に頭を撫でられるのであった。



 いかがでしたでしょうか?


 スタールへ向けて今日も走り始めるユウヒの起こす波紋はどんな変化を生むのか、次回もお楽しみに。


 それでは、今日はこの辺で、皆さんの反応が貰えたら良いなと思いつつ、ごきげんよー

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ