第35話
修正等完了しましたので投稿します。楽しんでいってね。
サンザバール領三叉路オアシスの無料エリア、そこは夜だと言うのにも関わらず照明で明るく照らされている。本来なら寝静まって静かな時間に煌々と灯りが焚かれ、周囲で休む者達は迷惑そうな者も居れば興味深そうに様子を見る野次馬の姿も見られた。
「なるほど、それで貴方はトラップを仕掛けたと」
「念の為ですね」
兵士は倍に増員されさらに灯りが焚かれ、周囲の休憩する者達に説明をする兵士や貴族の使いに説明する兵士がいる中、未だに砂地の上に転がる兵士の脇で正式に取り調べを受けるユウヒ。羊皮紙に話した内容が書き込まれる様子を横目に、自分に分かる限りで何があったのか説明して行く。
「それで、お前たちはなぜ襲われたんだ?」
「しらねえよ、警備してたら突然」
一方で、一貫して襲われたと主張する四人の兵士は蓑虫男が代表して話している様だが、まったくもって詳しい説明がなされておらず、口ひげを砂で汚す男は問いかける兵士に目も向けていない。
「……」
そんな非協力的な態度で状況が好転すると思えないユウヒは、しかしそこまで頑なに罪を認めない事に何か秘策でもあるのかと少し興味深そうに見詰め、同時に精霊達を諫める様に目を細める。
「この辺りは夜間警備を行っていないな?」
「はい! エリア周りは警邏しますが中まではトラブル防止の為やっていません!」
周囲で精霊達が危険な瞬きを見せているなど知りもしない蓑虫男から視線を外した騎士然とした兵士は、通常の警備状況について周囲に問いかけた。王都から派遣された彼らはこのオアシスの通常業務について疎く、問いかけられた兵士の返事を聞いて、珍しい事でもないのか納得した様に頷く。
「警邏は何時も何人で?」
「はい! 通常2人で、何か問題があれば3人です!」
壁に囲まれた安全なオアシスとは言え危険はどこにでもある。そんな場所を一人で警邏することは無く、常に二人で行動し、目的のある警邏であれば一人増員することもあると話す兵士。これも一般的な対応であり、また人員が豊富とは言えないオアシスの警備上多数で警邏する事は無い。
「4人いるな?」
「た、助けを呼んだんだ」
それは騎士然とした男性兵士も知るところであり、特別な警邏方針が無い事に頷くと芋虫男に目を向け人数の多さを指摘するが、それでもまだ芋虫男は偶然であると苦しそうに呟く。
「そうか、その結果がこれか……そんな言い訳が通ると思っているのか?」
確かに助けを呼んだのなら人数が多くてもおかしくはないが、状況を見る限り助けを呼んだとは到底思えず、眉間に皺を寄せる騎士然とした男性は呆れた様に蓑虫男達に問いかけ、その言葉に芋虫男以外の者達は視線を逸らす。
「な!? 俺達よりその詐欺師を信じるってのかよ! ふざけんな!」
「詐欺師ねぇ?」
「動くな!」
そんな反応を前に小さくため息を洩らすユウヒは、先ほどからずっと詐欺師呼びされている事に首を傾げていたが、何か思い当たったのか芋虫男達が倒れる場所に近付き、槍を構えた兵士に呼び止められるが、彼は止まることなくバイクの荷物入れを開く。
「ちょっと荷物出すだけだよ」
「構わん」
「よいしょっと、あんた等これ見て俺の事を詐欺師って呼んでるの?」
少し動いただけで過剰に反応する兵士を呆れた様に横目で見るユウヒは、騎士然とした兵士の落ち着いた声に笑みを浮かべると、少し困った様に鼻息を洩らす彼から目を離しモンスターバイクの荷物入れを漁る。
中から取り出したのは有り合わせの素材で作ったワームの杖、バイクのボディにぶつけながら取り出した長い杖を砂地に刺し置くユウヒは、芋虫男に目を向け問いかけた。
「槍? いや……杖か?」
芋虫男に問いかけるユウヒを見詰める騎士然とした兵士は、彼が取り出し芋虫男が睨み付ける長物を険しい表情で見詰める。彼が知る槍にしては違和感があり、杖としても見た事の無い種類なのか少し自信がなさそうだ。
「当たり前だろう! そんな長い杖持ってる奴はみんな詐欺師だろうが!」
「そうだそうだ!! 魔法使いなんて王都にしかいねえんだよ!」
「大体そんなみすぼらしい格好で魔法使いのつもりかよ! もっとそれらしくしてから出直せ!!」
険しい表情で黙してしまう銀色の鎧を身に纏う騎士然とした男性兵士、その一方で地面に横たわったままの暗い色の外套を身に纏った兵士達は、大きな声でユウヒに罵詈雑言を投げかけ、次第にその声は調子付いて行く。
「それらしいかぁ? 魔法使いに会ったことないからなぁ?」
男達の口汚い言葉に片眉を上げるユウヒは、それらしい格好と言われても砂の海の魔法使いなど見たことも無く、濃い緑のポンチョも気に入っている為変える気も無く、彼等の言葉には呆れの声しか漏れてこない。
「そらみろ詐欺師だ! こいつの言う事は嘘なんだよ! わかったらさっさとそいつ捕縛しろよ!」
「ど、どうします?」
「……頭痛くなってきた」
しかし、その様子がたじろいでいる様に見えたらしい芋虫男はさらに勢い付き、周囲で様子を窺う兵士を睨みながら声を荒げ、その声に周囲の兵士は迷いながら手に持った槍を構え始める。また、その様子に不安がる部下を見た騎士然とした男性は思わず頭を抱え弱気を吐く。
「奇遇ですね、俺も頭痛くなってきて軽率な行動に出そうです」
状況は自分たちの有利に傾いていると判断した四人の兵士は、地面に横たわったまま大きな声を上げ続け、集まって来た野次馬は少し迷惑そうに夕陽を見詰める。
そんな状況でユウヒのフラストレーションが溜まらないわけも無く、食事より睡眠を優先するようなタイプの彼は、いつもの気怠そうな顔に満面の笑みを浮かべ、いや張り付けてワームの杖を砂地から引き抜くとゆっくりと一回転、穂先に練り上げた魔力を凝縮させ始めた。
「これは……」
穂先に魔力が凝縮された杖の一振りは周囲の空気を揺らし、何かに気が付いた騎士然とした男性兵士は部下を後ろに押し隠す様に一歩下がり軽く腰に履いた剣の鞘に手を置く。
次の瞬間、周囲は明るく照らし出される。
「詐欺師の魔法、【フレイムブレード】……見てみる?」
軽い調子で呟くユウヒの言葉に導かれて魔力は赤熱して周囲を照らす。赤々とした炎が噴き出したかと思うとすぐに炎は杖の穂先で棒状に収束、軽く振って蓑虫男達から見えやすい地面に炎を突き刺すと一瞬で周囲の水気が蒸発し熱風を生み出した。
「何をするつもりだ!」
「いやぁ口が緩くならないかなぁと思って、手加減してるうちに話してほしいな?」
「これは、砂が溶けて……」
芋虫男や兵士達から離れた地面を炎の切っ先で突き刺したユウヒに、槍の穂先を突き付け声を荒げる兵士、周囲の兵士も槍を構えるが笑みを浮かべたユウヒは気にした様子も無く明るい声で芋虫男達に話しかけ、その際に少しズレる炎の触れた砂地は赤熱し光沢を帯びている。
「あつい!? やめてくれ!」
「やりました! 盗もうとしました!!」
2メートル以上離れた場所に突き刺さった炎の剣の効果は絶大で、離れているにもかかわらず顔に突き刺さる熱量に汗を流す盗人兵士は身を捩り助けを求め、すぐに自らの行いを自白し始めた。
「俺は君らを襲ったの? やるなら証拠が残らないように消し炭にするところだけど……ねぇ?」
「お、襲ってません!?」
「おまえら裏切るきかよ!」
「こいつに誘われて盗みに入りました!! 殺さないでください!?」
「もうしません! 助けてください!!」
ユウヒが炎の剣先でゆっくりと砂地をなぞると真っ赤に茹った地面は泡立ち、そこから漏れる熱が地面に横たわった男達の肌に突き刺さる。
大きな怪我を負うことは無いがとにかく熱い、離れた場所でそれなのだからユウヒの消し炭と言う言葉の信憑性は疑いようもなく、男達の口はじわりじわりと近づいてくる炎を前に純粋無垢な少年の様に正直になり、未だ諦めない芋虫男を他所に真実が明らかになって行く。
「なるほど? だそうですよ?」
それから数分の間に全てを吐いた芋虫男以外の兵士達、その様子に満足したのか杖から炎を消したユウヒは、持ち上げた杖を肩に掛けながら騎士然とした兵士に目を向け、その仕草に周囲の兵士達が息を飲む。
「あ、あぁすまない。そいつらを捕縛し……トラップを解除してもらえないだろうか」
ユウヒの問いかけに正気を取り戻す男性は、すぐに捕縛を命じるがすでに捕縛してある様なもので、トラップの解除をユウヒに求める。
「はいはい」
「た、たすかった……」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
「…………」
男性に軽く返事を返すユウヒは、杖を持ち上げると石突で足元の丸く薄い板状の石を突き割った。すると男達を捕縛していた蔦はボロボロと崩れ去りその拘束を解く。拘束が解かれて涙を流す男達、その奥には恐怖で白目をむいて気絶する下半身打撲男が転がっており、周囲の兵士が捕縛の為に動く。
「くそが!」
「まて!」
「あらま……まぁ良いか」
しかし周囲の空気が緩んだ瞬間、芋虫男だった髭の兵士は勢いよく立ち上がり、傍の兵士を突き飛ばすと暗い場所へと逃げる。突然の行動に周囲が慌てる中、ユウヒは特に気にした様子も無く、いつもと変わらぬ気怠そうな表情で肩を竦めた。
「はぁ、すまない。迷惑をかけた」
「こちらこそ、お騒がせしてしまって」
髭の兵士が追いかけられる中、騎士然とした兵士はユウヒに近付くと小さく頭を下げ、頭を下げられたユウヒもまた小さく頭を下げる。先ほどまでと全く違う様子に騎士然とした兵士は戸惑うような表情を浮かべ、ユウヒは不思議そうに小首を傾げた。
「……後はこちらで処罰するが、それで構わないか?」
「お任せします。……ただ」
「む?」
先ほどまでの笑みを浮かべた姿は、笑みは笑みでも明らかな怒気と威嚇が感じられたが、今のユウヒからは全くそのような気配が感じられず、気怠そうな彼の表情を訝しそうな目で見る男性は、後の処理は任せてもらえると言う返事に安心した様に頷くが、
「また襲ってきたりしたら、今みたいな手加減しませんよ?」
「う、うむ……心得た」
チラリと横目で忠告するユウヒから感じる気配に背筋が冷たくなる。気怠そうであるが良く見れば目の奥にはまだ怒りがくすぶっている様で、思わず緊張して動きが悪くなる男性兵士は硬い返事を返しユウヒを見つめ返す。
「……はぁ、寝よ」
<…………>
バイクの中に杖を仕舞うのも億劫なユウヒは、小さくため息を吐くと、込み上げてくる欠伸を噛み殺しながら寝床に歩きだす。そんな様子を見詰めるのは兵士達だけでは無く、精霊達も少し離れた場所から見詰めており、荒ぶるユウヒの熱に当てられた彼女達は興奮した様に舞い上がり、強い風が彼女達の声を流していく。
ユウヒが立ち去るのを見送った兵士たちは、それぞれ複雑な表情を浮かべている。
「あの冒険者の監視はどうします?」
「……」
「隊長?」
ユウヒはどう見ても被害者であるが、同時に強力な力を容赦なく振るう危険な魔法士でもあると、大半の兵士はそう考えている様で、監視の必要性が囁かれ騎士然とした男性兵士にも監視の必要可否が問われた。しかし部下の問いに対する反応は沈黙であり、何やら考え込む上司の様子に訝し気な表情を浮かべる兵士達。
「やめておこう」
しばらく悩んでの返答は不許可、監視することを拒否した男性は部下達を見渡す。
「え?」
「あれは、たぶん魔法使いだ」
「まほ、魔法士ではなくですか?」
騎士然とした男性兵士に見立てでは魔法使いであるとされたユウヒ、兵士達はその言葉に驚くとざわつき、真剣な表情で頷く男性を見詰めると思わずユウヒが立ち去った方向に目を向けて喉を鳴らす。
「私が見る限り、あの炎剣の魔法はかなり手加減していたようだ。それであの威力、魔法士には不可能だ」
男性兵士は身形なりの経験や知識があるのか、ユウヒの魔法に感じた違和感に険しい表情を浮かべた。あまりにも簡単に扱う強力な炎剣の魔法を思い出し、背中に冷たい汗が流れるのを感じる彼は、目を瞑ると深く息を吐く。
「威力ですか?」
「明日、もう今日か……明るくなってから地面を調べてみると良い」
息を吐き下がった目線の先で光る地面に眉を寄せる男性は、未だに良く状況を理解出来ていない部下に目を向けると、明るくなったら地面を調べる様に言い残して歩きだす。
「はぁ? 了解です」
「……(魔法使いがサンザバールに現れるか、やはり何かあるのか?)」
上司の不思議な指示に小首を傾げる兵士たちは彼の後について歩く。部下のカンテラによって照らされる足元に目を向け歩く男性は、銀色の金属鎧の胸を押さえると、不安でざわつく心に自問しながらもう一度溜息を洩らすのであった。
いかがでしたでしょうか?
睡眠を邪魔されイライラユウヒはまた波紋を残す。この先はすんなり進むのか、次回もお楽しみに。
それでは、今日はこの辺で、皆さんの反応が貰えたら良いなと思いつつ、ごきげんよー




