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第32話

 修正等完了しましたので投稿します。楽しんでいってね。





 空の一部が薄っすらと明るくなり始める空の下、僅かに朝露の感触を感じるフードを捲ったユウヒは、目を擦るとゆっくり起き上がる。


「おはようございます」


<……!>


 まだ少し寝惚けた声で朝の挨拶を口にすると、闇色の光球が嬉しそうに返事を返す。どうやら今起きているのは闇の精霊くらいなもののようで、それ以外は起き上がったユウヒの体からコロコロ零れ落ちていく。


「早起きさんは少ないのかな?」


 精霊に睡眠が必要かどうかわからないユウヒは、しかし精霊も睡眠をとることは可能だという事を頭の中でにメモすると、周囲に目を向け少ない休憩所の利用者の動きを確認する。


 どうやらまだ動き出している人はいない様で、静かに魔法でベッドなどを片付けるユウヒは、少しずつ起き始める精霊に微笑みながら荷物をバイクの格納部分に押し込む。


「それじゃ今日は領境は越えたいね? まぁスタールまで行っても良いわけだけど、安全第一で行こう」


<……!!>


 荷物から手作り保存食を一本取り出すと口に咥え、周囲の安全を指差し確認してからバイクに攀じ登るユウヒ。ベーグルより少し噛み千切りやすい食感の甘じょっぱい保存食を一欠けら飲み込んだユウヒは、今日の予定を口にしてバイクの上に座る闇色の精霊に笑いかけ、自己主張が他の精霊より大人しい彼女達の反応に居心地の良さを感じるとバイクを静かに発進させる。





 ゆっくりと静かに、まだ暗いオアシスの中を走るユウヒは、輪郭が朝日で浮き出た門と壁に向けて走る。大きく太いタイヤの静穏性は高いようで、砂を踏む音も静かで寝ている者達はその動きに気が付かない様だ。


「ん? あんたか、その遺物はずいぶんと静かなんだな」


 そんなバイクの動きに気が付いたのは門番、オアシスに到着した際に飛び出てきた男性である。ゆっくりと門に近付いてきた影に少し驚くとすぐにユウヒの姿を確認して息を吐き、門に差し掛かると気軽に声を掛けて来た。


「おはようございます。ええ、静穏性は高いですから、特にまだ寝てる人も多そうなんでそっと来ました」


 人が歩く程度の速さでバイクを走らせていたユウヒは、彼の前で停まると少し小さめの声で挨拶して少し嬉しそうにバイクの性能について話すと、周囲を見渡しまだ眠る人が多いからと苦笑を漏らす。


「そりゃ助かる。たまにだが横暴な奴がいてな、うるさいと武器を抜くならまだいいがいきなり切り殺しに来るやつもいるからな」


 何故なら門番をしている人間も仮眠なのか居眠りなのか、地面に座り込んでいたからだ。目の前の男性の苦笑いを見るに許された居眠りらしく、そんな眠りを妨害されれば暴れる客もいるからとユウヒの配慮に笑みを浮かべる男性。


「そらまた、ずいぶんと治安が悪い」


「そんなのは大抵サンザバール辺りから来た貴族だけどな」


「あー……」


 武器を抜いたり有無を言わさず切りかかる様な人間は大半が貴族らしく、どうにも選民意識が高い傾向にあるらしいこの国の貴族でも、サンザバールを利用する貴族は特に質が悪いと肩を竦める男性に、ユウヒは何とも言えない表情でテンションを下げる。


「まぁそんな遺物に乗ってる奴に食って掛かるのはそうとうな馬鹿ぐらいだ、それでも一定数はいるから気を付けな」


 しかし質の悪い貴族もやっている事は弱い者いじめらしく、見るからに強力な武力を前にすると尻込みするらしく、男性はそれでも食って掛かるのは一部の本当の馬鹿ぐらいだと言って注意を促す。


「はい、それじゃ通って良いですか?」


「ああ、出るときゃ特に何もないよ」


 貴族やら、利権者やらのやらかしにいくつか覚えのあるユウヒは素直に頷くと、放していた手をハンドルに戻す。


「それじゃまた」


「おう」


 オアシスの利用時には本来門前で手続きが必要であるが、出て行く時には必要ないようだ。ユウヒの言葉に手を上げて返事を返す男性は、ゆっくりと進み始めるバイクを見上げながら顎を扱く。


「……冒険者にしてはやけに礼儀正しいじゃねぇか、みんなあんななら……それはそれでどうなんだ?」


 冒険者だという遺物使いを見送る彼は、妙に腰が低く礼儀正しいユウヒに良い印象を感じたようだが、冒険者がすべて礼儀正しい世の中を思い浮かべると、そのあまりの違和感に眉を顰め、隣で目を覚ます同僚に溜息を洩らすのであった。





 一方、ゆっくりとバイクを加速させたユウヒは、程よい風が体を通り抜ける速度で留めると、朝の湿り気を帯びた冷たい空気を肺いっぱいに吸い込んでいた。


「砂埃が無いって素晴らしいね! 魔法でガードしても完全に防げてなかったし」


 草地は北に行けば行くほど濃くなり、砂も少なく朝の風が緩やかな時間は空気がとても綺麗なようで、久しぶりに感じる美味い空気によってユウヒは解放感に浸っていた。


「あと緑が多少なりあるのは目にも精神的にも優しい気がする」


 今まで見て来た砂の海の光景はほとんど茶色ばかりであり、数少ないサボテンも実にとげとげしく、水不足もあってその緑もどこかくすんで見えていた。一方で今は走っている街道は枯れてはいても緑が多く、背の低い草地の奥にはイネ科のひょろりとした草も見てとれる。


「少し寄り道してどんな植物が生えてるか見てみようかな? 何か変わった物が……うん?」


 殺風景な光景から生命の息吹を感じる光景へと少しずつ変化して行く道にユウヒの気持ちは明るくなっていく。しかしそんな彼の視界に突然『注意』の文字が躍った。


「何か近付いてくるな、少しスピード落とすか」


 朝掛け直すのがルーティーンとなっている【探知】の魔法が前方から近づいてくる何かを捉えたらしく、安全の為にユウヒはバイクのスピードを緩める。朝一なら街道を通る人も少ないだろうと思っていたらしいユウヒは、不思議そうな表情で視界の表示に目を向けた。


「兵士っぽい?」


 注視することで魔法はその対象をより詳細に調べ始め、ユウヒはすぐにそれが爬虫類の様な鱗を持った馬に乗る兵士だと認識する。


「止まれ!」


「おん?」


 見た目から兵士っぽいと言う曖昧な判断だが、それほど間違っていない様で、目の前から現れた二人の兵士の片割れが大きく叫ぶ。


「止まれと言っている! 止まれ!」


 しかし止まれと言って急停車できるわけも無く、スピードを緩めるユウヒの脇を通り過ぎた馬に乗る兵士は、慌てて方向転換してユウヒを追いかける。


「どうしました?」


「貴様どこから来た!」


 馬に乗っても尚見上げる必要のあるユウヒを睨む兵士は、その気怠そうな表情に苛立ちを覚えた様で語気を荒げながら、手綱を持つ手とは反対の手を腰に佩いた剣の柄に添えた。


「サルベリスからです」


「サルベリス? 嘘をつくな! この街道は今サルベリスと繋がっていない」


 明らかに相手に対する威嚇の意味を込めた行動であるが、まったく効果を示さないユウヒに苛立ちを深める彼は、ユウヒの返答に対して僅かに笑みを浮かべてさらに語気を荒くし問い詰める。


「え? 繋がってましたよ?」


 これほどに威嚇されている理由がわからないユウヒは、バイクの存在が影響しているのかと首を傾げながら返答して行くが、どうにも彼の行動は逆効果なのか、男性兵士は工事現場のヘルメットの様な兜の下の顔を赤くしていく。


「封鎖されているから繋がっていない、どこから来た? 貴様ドワーフか?」


 彼曰く、サルベリスと繋がる街道は封鎖されていて繋がっていない事になっているらしく、ユウヒがそれ以外の場所から来たことを隠している事が前提となっている様だ。


「だからサルベリスからだって」


「嘘をつくな!」


 どこをどう見たらずんぐりむっくりなドワーフと見間違えるのかと、溜息を洩らすユウヒに、男性兵士は歯を剥き出し叫ぶと剣の柄を掴む手に力を入れてゆっくりと刃を見せる。


「んー……」


「おいなんだって?」


 そのあまりに稚拙な行動にどうしたものかとユウヒが頭を悩ませていると、大回りでゆっくりと近づいていたもう一人の兵士が同僚に声を掛けた。


「それが、先ほどから嘘ばかりで話になりません。捕縛しますか?」


「うそ?」


 どうやらユウヒが急に走り出さないように警戒して大回りしていた男性兵士は、先に誰何してきた男性の上司であるらしく、丁寧な言葉使いで話す男性兵士の捕縛と言う言葉に肩眉を上げてユウヒを見上げる。


「サルベリスから来たと嘘ばかり、遺物に乗っているならドワーフ国と繋がりのある間者でしょう」


「……」


 部下の言い分を頷きながら聞く男性は、彼の理論を聞き終えるとユウヒを見上げ、目と目が合った相手の困り顔に頭を抱えた。


「……お前馬鹿か、こんな目立つ奴が間者なわけねぇだろ」


「しかしどう見ても!」


 間者とはスパイである。秘密裏に動き敵情の偵察を行ったり時には暗殺を行う為、基本的に目立ってはいけない職業だが、現在のユウヒは非常に目立っていた。目立ちたくないと言いつつも、遊び心が優先される彼の突飛な行動は良く目立ち、その結果生み出されたバイクも良く目立つ。辛うじて彼を擁護するならば、初代相棒のアミール作ホバーバイクよりはまだ目立っていないという所だろうか……。


「どう見てもドワーフじゃないだろ、で? 何かサルベリスから来た証拠になりそうなもんあるか? 何でもいいからさ? 買った物とか貰った物とか」


 しかしどう見ても怪しい、確かにその通りだがとてもドワーフには見えない。それをドワーフ国の関係者で間者だと仕立て上げるのは無理が過ぎると言うもの、街道巡回を行う兵士が良く調べもしないで通行者を引っ立てては悪影響しか及ぼさないと、上司の兵士はユウヒに目を向け何か証拠になりそうな物は無いかと、言外に目の前のお馬鹿な部下を分からせる材料を求めてくる。


「んー……ああ、これでいいかな? 大事なものだから持って行かないでね」


「絶対返すからだいじょう……」


 スルビルで購入した物は大半がバイクの材料であり、食品類もその場のテンションで保存食の材料となって残っていない。あとは何かあるかと思い浮かべたユウヒは、何時も肩にかけている鞄に入れている大事な物を思い出し、大事なものと念を押しながら取り出し馬上の兵士へと渡すが、渡された兵士は思わず言葉を失う。


「隊長?」


「あーおーんー……中を見ても?」


 ユウヒが渡したのはサルベリス公爵から渡された宿の紹介状、スルビルに居たことを証明するものとしてはこれ以上の物は無く、不思議そうに首を傾げる部下の声が聞こえないかのように手紙を見詰め唸る男性兵士は、不安そうな視線をユウヒに向ける。


「ただの紹介状だからいいですよ」


「おう、紹介状、紹介状な……はぁん? ほぉん? わぁ……」


 特に見られて恥ずかしい内容も書かれていなかったと記憶しているユウヒは、軽い口調で許可を出し、許可を出された男性は紹介状と言う言葉に引き攣った笑みを浮かべながら、高級な紙の手紙の中身を確認していく。手紙の最初の部分を不安そうな声を洩らしながら読む彼は、ある一文を読むと顔を蒼くして魂の抜けるような声を洩らした。


「た、たいちょう?」


 手紙の内容を全て確認することなく丁寧に手紙を元の状態に戻す男性兵士、上司の普段見せない様な表情に不安そうな声を洩らす部下であるが、その声は先ほどと同じく届いていないかのようだ。


「何の問題もございません。どうぞ良い旅路を」


「あ、はい……えっとお気遣いありがとうございます」


 最初に話した時のどこかめんどくさそうな雰囲気はどこに行ったのか、真面目な兵士を絵に描いたように背筋を伸ばして引き締められた表情を顔に張り付ける男性は、切れのある動きで手紙を恭しくユウヒに返すと、胸に拳を当てる。どうやら敬礼のようなもののようで、突然対応の変わった兵士にユウヒは戸惑ったように小さく頭を下げた。


「隊長! いいんですか!?」


 ユウヒと隊長の間で問題が解決したらしい一方で、この状況に納得いかないのは最初にユウヒを停めた兵士、何がどう問題無いのかと、問題しかないと言った様子で上司に噛みつく。


「すぅー……馬鹿野郎! 貴族様の身分保障書とかふざけんな! 下手したら俺の首飛ぶわ!」


「へ? いやそんな、偽造とか」


 しかし返ってくるのは大きく息を吸っての怒鳴り声、その怒鳴り声には若干の泣き言も混ざっており、状況の理解出来ない兵士は自信なさげに視線を彷徨わせると、偽造の可能性を提示する。


「サルベリス公爵の家紋間違えるかよ! しかも本人のサイン付き、俺あっち出身だぞ? こんだけ揃って間違えるわけないだろ!」


「こうしゃく……」


 紹介状とは言ってしまえば身分の保証をすると言う書類であり、それが公爵家の家紋と公爵本人のサインが入っていれば価値や信用性は途方も無く、サルベリス出身だと言う隊長は見間違えるわけがないと断言した。


「おま気絶すんなよ!?」


 隊長の断言にようやく状況を理解した兵士は、今までの自分の言動を思い出したのか急激に顔色を悪くしそのままて気を失い、驚いた隊長に手によって無理やり馬の背中に押し付けられ、馬はとても迷惑そうな顔で一つ鳴いた。





 早朝にオアシスを出て半日、レガーン領の中央街道をサンザバール領に向けて走り続けたユウヒ。


「…………予定の50%くらいを進んで時刻は、よくわからんが夜」


<……>


 既に空は暗く星空が広がるが予定していた半分ほどしか進めていない。街道から外れた草原にバイクを停め、土と草のベッドに腰掛けるユウヒの力ない声に周囲の精霊は気遣わし気に瞬く。


「いやぁ良かったねぇ? もう少しで二桁になるところだったよ、職質の回数」


 溜息を洩らしてベッドの上で仰向けになるユウヒが、思ったように道程を進められなかった理由は職質、早朝と同じように何度も止められたユウヒは、その度同じようなやり取りを繰り返し、中には彼の言い分を全く信じず他の巡回兵士により解放されたこともあった。


「おかしくない? 何かあったのかね?」


 レガーン領の街道巡回の頻度がどのくらいなのか知らないユウヒであるが、それでも今日の職質回数は異常だと溜息を洩らすと、何か事件でもあったのかもしれないと諦めた様にもう一度溜息を垂れ流す。


「明日は早めに出て領境まで行こう、そこでも止められそうで鬱だけど」


 なるべく問題を少なくと早朝に出たユウヒであったが、まるで意味がなかったことで明日はもっと早く出るつもりのようだ。寝ころんだまま星空を見上げ、あまり良い未来を感じないと言いながら、温かいご飯を用意する気にもなれないのか、バッグから棒状の保存食を取りだすともそもそと咀嚼する。


「砂漠より生物多いし、野宿が危ないと言われるのもわかるなぁ」


 その視界には星の瞬きや精霊のほかに、生物の存在を示す様に【探知】の魔法が複数の光点を表示していた。オアシスの様に壁があり警備が無ければ野営など出来ないと言われるほど、塀の外には様々な生き物で溢れている。砂漠でも危険と言われるのだ、多少住みやすい草原であればより多くの生物が歩きまわっているであろう。


「結界のほかに何か魔法使っとくかなぁ?」


 勢いよく起き上がるユウヒは、すでに展開している結界の揺らぎに目を向けると他にも対策を施すために魔力を体の奥から汲み上げ始める。


「はぁ、精神的に疲れた……俺に関係の無いクレームの謝罪行脚並みに疲れた」


 十分ほど使い複数のトラップを魔法で設置したユウヒは、安心した様にベッドに倒れ込む。そうなって来ると心に蓄積していた疲れが一気に顕在化してくる。社畜時代の理不尽な出来事を思わず思い出し、その理不尽具合は今日の職質祭りに匹敵するようだ。


「いや、あっちの方が嫌だったな……ならまだ大丈夫か、寝よ」


<…………>


 しかしよく考えると、かつて経験した理不尽な謝罪行脚の方が疲れたなと、思い出補正込みの溜息を洩らすと、ならまだ大丈夫だとよくわからない自己完結で頷き目を閉じる。ゆっくりと深呼吸をする様に息を吸って吐くユウヒの姿をベッドの端から見詰める精霊達は、ユウヒから感じる哀愁を多分に含んだ気配に慈愛の濃い視線を向けるのであった。



 いかがでしたでしょうか?


 古傷の痛みで疲れを誤魔化すユウヒの明日は、次回も楽しんで貰えたら幸いです。


 それでは、今日はこの辺で、皆さんの反応が貰えたら良いなと思いつつ、ごきげんよー

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