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ワールズダスト ~砂の海と星屑の記憶~  作者: Hekuto


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第27話

 修正等完了しましたので投稿します。楽しんでいってね。





 城塞都市スルビルの朝は城壁の風通しが開く音から始まり、重い音や軽い開け閉めの音が聞こえてくると街の各所で人々が目を覚まし始める。


「おはようございます……」


 三度の拡張によって広がった街の中には拡張の名残である大通りが円を描き、その一角にある宿の部屋の中から眠そうなユウヒが姿を現す。


「あらぁん、ユウヒちゃんおはよ! 昨日は遅かったけど大丈夫?」


 夜遅くにベッドが恋しくなり宿に戻ったユウヒ、遅くにも関わらず嬉々として世話したミーフェアは、眠気眼でふらふらと歩いてくるポンチョに苦笑を漏らして元気よく朝の挨拶を交わす。


「ええ、アイデアが湧いて予定外のものまで作ってしまったので、まぁよくある事なんで大丈夫ですよ」


 本来ならこれほどふらふらになる予定はなかったユウヒは、思い付きにテンションが上がり余計な物を作った様で、よくある事だと言う彼の表情は体調の割に気分がよさそうだ。


「無理しないのよ?」


「ありがとうございます」


 目の前でふらふらと揺れる姿から感じる雰囲気に問題なさそうだと肩を竦めたミーフェアは、緑木のカップをしっかりと手を包み込む様に手渡し、受け取ったユウヒはカップの中で揺れるきれいな水を一気に煽る。


「帰って来たら一番に顔見せてねぇん?」


 乾燥した砂漠の国で飲む朝一の水は体に染み渡るのか、美味しそうにそしてあっと言う間に飲み干すユウヒは、少し目の覚めた目でミーフェアの顔を見上げた。彼女の顔には随分と複雑な心配が滲んでおり、不思議そうに眉を上げるユウヒは宙を見上げて少し悩む。


「それはちょっと約束できないですね?」


「あら、誰か一番に顔見せたい娘がいるの!? だれだれ?」


 社交辞令なのか素なのか、一番に顔を見せてほしいと言うミーフェアは悩むユウヒに眉を寄せるも、約束できないと笑みを浮かべるユウヒから色恋の匂いを感じたのか鼻息を荒くするが、


「いやぁ、一番最初は門番の人じゃないですか」


「……確かにそうね?」


 まったくそんな気配などなく、単純に門番より早く顔を見せる事は不可能だと揶揄い交じりに笑うユウヒ。一瞬キョトンとした表情を浮かべるミーフェアは、すぐに揶揄われている事に気が付くと困った様に笑う。


「お土産」


 そんな二人のやり取りを隠れてみていた獣人少女は、我慢できなくなったのか足音を消して近付くとユウヒのポンチョを抓んで引っ張り、開口一番欲望を洩らす。


「間違えた、いってらっしゃい」


「んん?」


 しかし本当に言いたかったことは違ったらしく、すぐにいってらっしゃいと訂正する獣人少女に、ユウヒは何と返答したらいいのか困惑した様に微笑み、ミーフェア呆れ顔で溜息を洩らした。


「もう、この子達ったら」


「あぁうん、何かあったらな? 期待はしない方が良いぞ」


 呆れて溜息を吐きながらも強く怒れないと言った様子で少女の頭を撫でるミーフェア、彼女の言葉に顔を上げたユウヒは、じっと見つめてくる獣人少女をもう一度見下ろすと期待しない方が良いと言って心のメモ帳にお土産の項目を強く書き込む。


「ふふふ」


「それじゃ行ってきます」


 そんなユウヒの心の内を見透かしたように笑うミーフェアは、覇気のない笑みを浮かべ宿の入り口を出て行くユウヒに手を振り、その背中とポンチョに隠されたお尻が見えなくなるまで、宿先に出て見送り続けたのであった。





 宿を出たユウヒは真っ直ぐと冒険者組合へと向かい、早朝の人の多い時間から少し過ぎた組合の風通しが良いドアを押し開く。


「ふぁ……あ、来たわね」


「眠そうですね?」


 ユウヒが入って来てすぐに受付とテーブルから視線が飛んで来る。受付の向こうからは顔見知りとなったマリヤンが小さく手を振っており、ユウヒが手を振って応えると嬉しそうに微笑み、テーブルにはアダとチルとカリナンが座っているが、アダはずいぶんと眠たそうだ。


「夜に知り合いが訪ねてきてねぇ……貴方も随分眠そうじゃない?」


「ええ、昨日は夜まで倉庫に居たので寝るのが遅くなって」


 昨夜の魔女はずいぶんと長居した様で、眠たそうに欠伸を噛み殺し顔を上げるアダは、視線の先でいつもより疲れた表情のユウヒを見つけ、その目元の隈に小首を傾げる。どうやらユウヒも夜遅くまで作業を続けた所為でまだ寝足りないようだ。


「ユウヒさん気を付けて」


「うんありがとう」


 そんな状態で長距離を移動しようとしているユウヒに、チルは心配そうに眉を寄せると短く声を掛け、ユウヒの返事に満足そうな鼻息を洩らす。


「オーヤンとバンストはいないんだな?」


 女性人ばかりが待っていた冒険者ギルドの多目的に使われるエリア、人待ちやちょっとした宴にも使われる場所にはなぜかオーヤンとバンストの姿がない。本来の予定なら彼らも居るはずなのだが、元々町を出る際に付き合ってもらうようにお願いされていたアダは、ユウヒの視線に肩を竦めて呆れた表情を浮かべる。


「二人は飲みすぎて寝てるっす!」


「おはようカリナン」


「おはようっす!」


 どうやら二人は昨夜飲みすぎてまだ夢の中に居るらしく、朝から干し肉と酒で一杯やっていたカリナンは、口の中の干し肉を酒で飲み干し喋れるようになったらしく、元気な声で説明するとユウヒの挨拶に元気に応えた。


「それじゃ倉庫から足を出すかな」


「楽しみっす!」


 ユウヒがアダにお願いしたのは、スルビルに入る時にも起きた騒動に対する対策だ。問題は無いと思うユウヒであるが、作った物が物であるためあらかじめアダに街を出る際の付き添いをお願いしていたのである。そんな問題がありそうな足であるバイクを出すために、倉庫にゆっくり向かうユウヒを追いかけるカリナンは、楽しみな気持ちが歩く姿にも表れているのか小さく跳ねるようにユウヒの隣を歩く。


「あ、おはようございます」


「おはよう、どうしたの?」


 その後ろを可笑しそうに笑うアダと小さく笑うチルが続き、一行が倉庫前まで来ると、いつの間にか受付から姿を消していたマリヤンがさっきは出来なかった朝の挨拶をユウヒと交わす。彼女の隣にはいくつかの木箱が置かれ、中には掃除道具などが入れてある。


「ユウヒさんが荷物出した後に掃除する様に言われて、妙なものが残っていたらすぐ隠しておくようにと組合長が……」


 どうやら組合長のデニスからの指示で、ユウヒが使った後の倉庫掃除と言う名の証拠隠滅作業にやって来たマリヤン。その言葉には悪意は無く、胸を張って話す彼女の瞳には好奇心の光が揺れている。


「変なものは置いてないと思うけど?」


 魔法使いが作った遺物級の乗り物を最初に見れる嬉しさが隠しきれていないマリヤンに、ユウヒは困った様に頭を掻きながら、倉庫の大きな引き戸を片手で人一人が余裕で通れるくらい開く。


 その瞬間、


「ほんとうですかわわわ!?」


「見えないっす!」


「みゃ!?」


「ちょっと押すんじゃないよ」


 四人の女性は全く同じタイミングで入り口から倉庫内に入ろうとして詰まってしまう。その姿まるで互いの摩擦と重量でがっちり組み合った石橋の如く、ここが火事の現場であればそのまま焼けてしまってもおかしくない四人のやり取りに、突然奇声が聞こえてきて驚いたユウヒは、背後の様子に力が抜けた様に背中を丸める。


「はは、あれが新しい足だよ」


 中途半端に開けていた重い引き戸を引っ張って入り口を広くするユウヒは、ふらふらと目を回すチルの肩を支えながら新たな旅の相棒を指差す。


「ふ、ふぉおおおおお!?」


「ふしぎ」


 ユウヒが指差した先には光沢のある黒いボディの巨大なバイクが鎮座しており、折り畳むことで一体化できるサイドカーが展開されていた。太いエアレスタイヤにバイクと言うにはあまりに巨大な車体は、乗れば視界は広く大きな馬に乗っているのと変わらない、正直頭の悪いモンスターバイクである。


「あら、良い色じゃない? まるで夜空みたいに不思議な黒ね」


「酸化被膜でこんな感じになったんだよね、綺麗だしそのままで良いかと思って塗装はしてないよ」


 遺物のコンテナに使われていた合金を加工して作ったバイクは、自然と保護膜が発生して黒い中にまるで星空の様な模様が浮かび上がっていた。この反応はユウヒがノリノリで金属ボディを鏡面に仕上げた事で発生したもので、予期したものではない完全な偶然である。


「さんかひまく?」


「何すかそれ?」


 そんな酸化被膜であるが、チルもカリナンも知らない言葉であったらしく、滑らかで肌触りの良いボディを撫でる二人はキョトンとした表情で首を傾げた。


「んー金属表面に自然と発生する錆止めかな?」


「へぇ」


 一部の金属が酸素と触れる事で発生する被膜は、金属が直接空気に触れて腐食することを防ぐ効果があり、その簡単な説明に眉を顰めボディを再度撫で始める二人を見ていたアダは、非常に興味深そうな表情を浮かべて、黒いボディに映る自身の顔を見詰める。


「似たような色は遺物で見たことあるっす」


 ベタベタとバイクのボディを触る三人の一方で、マリヤンは恐る恐ると言った表情で遠巻きにバイクを見詰め、思い出したように顔を上げて遺物で似たような金属を見たと叫ぶカリナンに驚き肩を震わせていた。


「ちょっと普通のバイクとは色々違うんだけどな、なかなかうまく纏まったと思うよ」


「しかし、これをほぼ一日で作るなんて……規格外にも程があるね?」


「うん、すごい」


 ちょっとどころじゃないモンスターバイクの出来に満足気な表情を浮かべるユウヒであるが、異世界だろうと地球だろうとその製作速度は異常、規格外の一言に尽きるだろう。これと同じことを出来るとすれば、それはどこかの狂い兎の様な人の道から外れた人間くらいなものである。


「うーん、まぁ魔法のおかげだな」


「……はぁ」


 その可笑しな技術を魔法で再現してしまうユウヒは、どれだけすごい事をしているのかと言う認識が薄いらしく、いつもの覇気の無い顔に困った笑みを張り付け、その姿にアダは小さくため息を吐いて頭を抱えるのだった。


「んほー! ふはー! これ乗ってみたいっす! いいっすよね!」


 一方で、ちょっと目を離した隙にバイクの下に潜り込んでいるカリナンは、うら若き乙女が口にしてはいけない様な奇声を上げながらバイクの下から顔を出し、顔を出した真上にあるユウヒの股に向かって乗ってみたいと要求する。この乗ってみたいと言う要求は、運転するユウヒの隣に乗るでは無く、運転してみたいであり、


「うん、ダメだね」


「なんでっすか!?」


 そんなことをユウヒが許可するわけも無く、満面の笑みを浮かべたユウヒに期待して落とされるカリナンは思わず掴みかかる様に跳ね起き苦情を口にする。


「たぶん怪我するからね、諦めな?」


「こんな、こんな目の前にすごい遺物があるんすよ!?」


 ポンチョを掴み前後に揺するカリナン、相手が誰かなど遺物級の機械を前にして完全に忘れている彼女に、ユウヒは優しく諦めるように諭すも情緒の不安定なカリナンはバイクのボディにしがみ付きながら首を横に振るが、慣れない人がバイクに乗れば怪我するのは当然であり、それがモンスターバイクともなれば大事故にもなりかねない。


「それは違う、これは遺物じゃない」


「確かにそうだね? 遺物は使っていんだろ?」


「おう、ネジの一本まで手作りだな」


 一方で、凄いと思いつつ一歩引いて見ていたチルは、短く的確に指摘する。気になるのはそこなのかと苦笑を浮かべるユウヒも認めるように、目の前のバイクはネジ一本までユウヒが作った物であり、遺物のカテゴリーには本来入らない。


「それはそれですごいっすよね……でもそんなの関係ない! 乗りたいっす!」


「私も……」


 ついでに言うならその中身はどちらかと言うと魔法士や魔法使いが作る魔道具に近く、しかしそんな事関係ないとイヤイヤと首を横に振るカリナンにチルも同意して顔を少し赤くする。


 今のような状況になることを、ユウヒが想像できないわけも無く、すでに代案は用意されていた。


「と思って、こっちに子供用の物を用意しといた」


 それが子供用と言ってユウヒが紹介した乗り物、それは日本でキックボードとして販売されているタイプの乗り物、若干大型化しているがコンパクトなその中にはしっかりユウヒ脅威の技術力と自爆装置が詰まっている。


「「こども……」」


「……くふふふ、ぶふっ! くふふふふ」


 が、子供用と紹介されてカリナンとチルは釈然としない表情を浮かべ、アダは堪え切れなかったのか小さく吹き出すとそのまま顔を手で覆って笑い声を洩らし続け、二人のジト目にさらに笑いだしてしまう。


「うちは子供じゃないっす! 列記とした成人女性っす!」


「私も、成人してる」


 笑いのツボを突かれたアダが笑い続ける姿に目尻を上げるカリナンは、真っ赤になった顔で不満の声を上げ、チルも普段より大きな声で短く不満の声を上げてユウヒを睨むが、頬を膨らませ上目づかいで睨む姿には微笑ましさや可愛さしかない。


「ん? 言い方が悪かったか、初心者向けってところだ」


「初心者……」


 二人の反応に思わずほっこりとした感情で笑みを浮かべるユウヒは、言い方が悪かったと言って初心者向けと言い直すがそれでもカリナンは不満顔である。


「二輪車って無いんだろ? まぁ毛色はだいぶ違うがこれも二輪車と言えば二輪車だからな」


「面白い形だね」


 子供でもちょっと練習すれば乗れる二輪車であるキックボード、それを魔法動力でより快適に走らせられるように作った魔法のキックボードだが、完全な初心者がすぐに乗れるようなものではない。回復したアダが見下ろす異世界では珍しい形の乗り物に乗れなければ、バイクなど乗れないだろう。


「電動キックボード……この場合は魔法のキックボードかな? ここに乗ってこのハンドルを捻ると」


「おおおおお!?」


「……」


 実演する為にキックボードに足を載せたユウヒが、ボードの先からまっすぐ上に伸びるハンドルを捻ると、静かな音と共にキックボードは動き出し、倉庫の中を滑らかに走る姿にカリナンは興奮して大きな声を上げ、隣のチルは目を輝かせ倉庫を走り回るユウヒとキックボードを目で追いかける。


「タイヤを少し大きめに作ったから、ある程度段差にも強いはずだ。ただまぁスピードは控えめだけどな」


 ぐるりと倉庫の中を二周、平地を走り木材の段差を乗り越えデモンストレーションを終えたユウヒはチルの目の前で停まり、キラキラと輝く彼女の目を見詰め手でハンドルを持つように促す。


「これ乗って良いの?」


「おう、その為に作ったからな? まぁ大事に使ってくれ」


 羨ましそうに見詰めるカリナンの視線を気にしつつ、恐る恐ると言った様子でハンドルを手に取るチル、彼女の問いかけに楽しげな表情で笑い応えるユウヒは、大事に使ってくれと言ってカリナンを手招きするともう一台キックボードを取り出す。


「……ん? それってくれるって事かい?」


 子供のように明るい表情を浮かべるカリナンがキックボードを受け取ると、ユウヒの言葉が気になってアダが冗談めかしに問いかける。貸し出しても譲渡する事などないだろうと言う前提での問いかけに、ユウヒはキョトンとした表情で振り返り、


「ん? そりゃまぁ持って行っても邪魔だからな、いらないならシャラハにでもあげてくれ」


 当然そのつもりだと言った様子で小首を傾げた。


「…………」


「ッスゥー……」


 何の気負いも無く当然のように話すユウヒであるが、周囲の反応は全く違う物だった。元々ユウヒの足をちょっと触らせてもらうつもりだったカリナンは驚愕に目を見開き、一瞬のうちに色々考えたチルは細く長く息を吐いて顔を蒼くする。


「あぁ、ユウヒ?」


「ん?」


 また倉庫の掃除の為に箒を手に持っていたマリヤンは、手に持っていた箒を思わず取り落とし笑みのまま固まってしまう。そんな周囲の固まる空気の中で声を絞り出したアダに、ユウヒは不思議そうに周囲を気にしながら振り返る。


「これ、絶対金貨何十枚も必要になる様なもんだよ? もう少し扱いってもんがあるでしょ」


 ユウヒが軽いやり取りで譲渡すると言ったキックボード、これが足で蹴って進むだけの乗り物ならまだしも、完全に遺物と変わらない動力付きとなれば商人は金貨を何十枚と積んで手に入れようとするだろう。さらに貴族や好事家の目にとまれば積み上がる金貨はより高くなるだろう。


「でもなぁ? これしかないし、分解して量産とか考えても自爆装置付きだぞ?」


「ひぇ!?」


 アダの注意にある程度の理解を示すも片眉を上げたユウヒは二台しかないキックボードを指差し、自爆装置付きだと言って肩を竦める。そう言う事じゃない、そう表情が語るアダとチルとカリナンの三人は、自爆装置にちょっとした苦手意識が出来た組合職員であるマリヤンの悲鳴に目を向けると、もう一度ユウヒに目を向けその不思議そうな表情に頭を抱えるのであった。



 いかがでしたでしょうか?


 ちょっと精霊が気になるところまで出かける前に爆弾を置いて行くユウヒ、彼のズレた感覚は何を起こすのか、次回も楽しんで貰えたら幸いです。


 それでは、今日はこの辺で、皆さんの反応が貰えたら良いなと思いつつ、ごきげんよー

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