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ワールズダスト ~砂の海と星屑の記憶~  作者: Hekuto


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第25話

 修正等完了しましたので投稿します。楽しんでいってね。





 バンストに案内してもらい材木市場を一回りしたユウヒは、購入した木を載せた荷車を引いて冒険者組合に戻って来ていた。


「ここ本当に使っていいんですか?」


「ああ、貸しを少しでも返さないとな」


 いったいどんな乗り物を作るつもりなのか、大小様々な木を載せた荷車を引っ張るユウヒは組合の奥に案内されると、一際大きな倉庫の中に通される。そこには預けていた金属の資材が並べられ、床は丈夫な石造りで壁も木と煉瓦で立派な作りをしており、どうやらこの倉庫を乗り物製作に使って良いと言う事らしい。


「これだけでも十分ですけどね?」


 それもこれもレリック物損の貸しを返すための様だが、あまり気にしてないユウヒは倉庫の中に買って来た木材を並べながら小首を傾げデニスに目を向ける。


「そうはいかん! 今回の魔法使い殿の働きはデカすぎる上にアレの件もある……正直今回の報酬減額は大きいんだ」


「そうなんですか?」


 しかしそこは律義な男デニス、このくらいじゃ足りないと声を荒げるが、実際に全く足りないと言うのが彼ら組合員共通の認識であった。特に報酬の減額交渉をノータイムで了承したユウヒには組合の財務を預かる者達から称賛の声が上がった。


「実は、ここだけの話にしてもらうとありがたいんだが」


「はい」


「この組合の維持が厳しく、あの依頼があのまま残り続ければ何れ潰れかねなかったのだ」


 何しろ馬鹿正直にユウヒへ報酬を払った場合首が回らなくなり、組合はその営業を停止せざるを得ない状況に追い込まれてしまうからだ。もしユウヒが報酬を得るような行動を起こす事がなく、いつまでも依頼が塩漬けとなっても同様の状況だったようだ。


「拒否できないんです?」


「依頼をか? まぁ普通なら断れるが、貴族からの依頼は難しくてな」


 一般人から寄せられた依頼であれば達成不可能だったと言う説明だけで済むところであるが、それが貴族からの依頼ならそうも行かないと言う。


「貴族の、サルベリス家からって事ですか?」


 貴族からの依頼と言うのは強制ではないが冒険者組合としては断り辛く、特に組合を置いている地域の領主ともなれば早々断れるようなものではなく、半強制と言って良い。


「いや、あれはたしかサンザバールの貴族から……今のは聞かなかったことで」


 しかし、ユウヒが達成した遺物の回収の依頼元は、組合長のデニス曰く、サンザバールの貴族なのだと言う。通常の経緯で受ける事になったとは思えない依頼には、実際に面倒な経緯があるようで、つい口を滑らせたデニスはばつの悪そうな表情でユウヒを見て小さく頭を下げる。


「はいはい、聞いてませんよ……ふむしかしサンザバールの貴族から」


「魔法使い殿も何かキナ臭く思うか……」


 大きな組織ともなれば大なり小なり綱渡りが必要であろう、それが経営難の最中ともなれば尚更だ。そう言った綱渡りを社会人経験の中や両親の仕事関係で見て来たユウヒは、苦笑交じりに頷くと、ここでも出てきたサンザバールに対してより強い疑念を増し表情が険しくなっていき、デニスは小さく唸りその疑念に同意する様に頷く。


「調査先の候補なんですよね……」


「まさか噂を信じているのか? 流石に仲が悪いとは言えそんなことは無いと思うんだが、今回の依頼だっていつもの小細工だろうしなぁ」


 デニスの言う噂とは木材市場でも聞いた水吸い上げに関するものであろう。冒険者組合ともなればそう言った話は常に収集されているが、かといって現状が全てサンザバールだけで起きるような事態と思えず、今回の依頼もいつもの小細工程度の意味なのだろうと肩を竦める。


「噂もあるんですけど、精霊達がこの辺が嫌な感じだとサンザバールを指すんですよね」


「なに?」


 しかしユウヒは魔法使い、詐欺師説が噂話として流れ始めている現状でも組合長としてのデニスは、彼が魔法使いだと言う確信をもっていた。そんな人物から精霊の言葉と言う話を聞けば思わず身構えてしまうのも仕方がない。


「サンザバールの南ちょい東側って何かあります?」


 気のせいか倉庫の中に冷たい空気が流れた気がしたデニスは、ユウヒの説明からあまり縁の無いサンザバールの地理を頭の奥から引き出し、考え事で重くなった気がする頭を顎に手を添えて支える。


「ん? うーん、あ! 確かそこはスタールの街がある辺りだな、大きなオアシスが有名な街だが、あそこも年々水位が下がって来てると聞いたな」


「スタール、とりあえずそこを目指してみようかな」


 悩む事数分、彼の頭の中にはサンザバールの都市であるスタールが鮮明に思い出された。ユウヒが気にする場所には、大きなオアシスを中心とした都市が存在するらしく、比較的有名だからか一度思い出されれば後はするすると情報が出てくるデニスに、ユウヒは一瞬苦笑を浮かべるとその都市を目指してみると言う。


「スタールには王都へ向かう街道を通ってレガーン領の中央街道を通ると近いんだが、今は街道が魔物に塞がれていて危険なんだ。街道馬車も商人馬車も不通だよ、まったく困ったもんだ」


 少し寂しくなり始めた頭を穏やかな色の精霊に撫でられるデニスは、幾分すっきりした表情でスタールへの道のりについて話すが、どうにも簡単にはたどり着け無さそうである。


「まぁ狩ればなんとか?」


「んー、吹き溜まりの辺りは三つの領の境目にあたる。あまり派手に魔物を狩ると他領の冒険者が難癖をつけてくるから気をつけてくれ」


 街道馬車や商人馬車がなんであるか理解してないユウヒは、しかしそれほど嫌な予感を感じないので足が出来れば突っ切ればいいだろうと簡単に話すが、どうにも面倒なのは魔物だけでなく人による面倒もあるようだ。


「難癖?」


「魔物狩りは冒険者の食い扶持だからな、特に今回は軍が動かないから素行の悪い連中も出て来てるらしい」


 サルベリス公爵家が封ぜられる領地を所有するトルソラリス王国の冒険者と言うのは、領地ごと、また組合が設置される都市ごとにテリトリーの様なものが存在する。一般的にそのテリトリーは広くない為、他領との問題が起きる事は少ないが、領境では話が違い特に複数の領地が接する場所では魔物の取り合いなどが起き、時には擦り付け合いすら起こるのだ。


「なんで?」


「発生量は異常だが、ウィードは街を滅ぼす様な魔物じゃないからな、街道が完全に塞がってしまえば別だが、まだ何とかなっているから動かんらしい」


 さらに今回は国軍が動かない為、問題の街道は無法地帯になりかけている。ウィードと言うのはトルソラリス王国で最もポピュラーな魔物の一つであり、種類にもよるが子供でも倒せるため、貧民層の稼ぎにもなり、軍が率先して討伐する様な対象ではない。


「体が大きくなるとお尻も重くなりますからね」


「そうだな、俺は小尻美人が好きだよ!」


 と言うのは建前で、割と処理が面倒なウィードと言う魔物の相手は冒険者や貧民などの下層民がやるべきだと言うのが、誇り高きお上の考えのようだ。ユウヒの言葉の奥にある意味に笑みを浮かべるデニスは、大きな声で小尻が好きだと言って笑い、偶然通りかかった女性職員から冷たい目を向けられているが全く気が付いていない。


「それはきっと機敏に動いてくれそうですね」


「まったくだ! はっはっはっは! デカい尻もたまにはいいがな!」


 静かな足取りで近づいてくる女性職員に苦笑を浮かべながら話すユウヒに、デニスは上機嫌に笑い声を上げるた。このあとデニスには後頭部を書類で叩かれる未来が待っているのだが、それはどうでもいい話である。





 寂しくなって防御力が低下した頭を摩るデニスから倉庫のカギを受け取ったユウヒは、それから日が傾くまで倉庫の中で乗り物作りの準備に勤しんだ。


「ふむ……魔法使い殿が動くか」


「予定ではサンザバールのスタールに向かうようです」


 その様子はサルベリスの密偵によって観察されており、デニスとのやり取りもどこで聞いていたのか公爵にしっかり報告されている。スタールに向かうと言う報告に顎を扱くランシュードは、その行動の理由を考え小さく唸った。サンザバールの暗躍は彼も当然把握しており、水不足の一因ではないかと言う疑いも公爵家はすでに想定している。


「詳しくは、わからんか……」


 しかしそこは疑いでしかなく、ユウヒと言う魔法使いがスタールを目指す詳しい理由を知りたいところであるが、報告を行う男性はランシュードの視線に申し訳なさそうに眉を寄せ、その姿に公爵は小さく息を吐く。


「それが、組合長が倉庫から出てすぐに内部の音が聞こえなくなったようで」


「……バレたか」


 しかし思わぬ返答に吐く息を途中で止めてしまい、苦しくなる息を整えると神妙な声で調査を行っていた密偵に問いかけ視線を険しく細めた。


「分かりませんが、今のところ接触はありません」


「ふむ、一度引くことにするか……もしかしたら優しい警告かもしれん」


 いくら丈夫な倉庫とは言え内部の音が全く聞こえなくなることなど有り得ない、それこそ息を潜めていれば別だが倉庫を出入りして何か作業を行う様子はあるのに、倉庫の扉を閉じると無音になると言う。それはどう考えても魔法によるものであり、監視がバレていると見てもおかしくはなく、ユウヒからのやんわりとした警告と判断したランシュードは、これ以上の監視から手を引く事を決める。


「わかりました」


「それとスタールの調査員は一度離れるように」


「いいのですか?」


 また、スタールにも調査員を送っていたらしいランシュードは、そこからも調査員を一時的に引き上げると話し、その言葉に報告を行っていた男性は驚いて聞き返す。


「魔法使いが万が一大きく動けば被害がどうなるかわからん」


 万が一スタールにおいて、魔法使いであるユウヒの逆鱗に触れるような事が行われていれば、過去の事例から相当な被害が出ると予想するランシュードは、どうなるかわからないと言って顔を蒼くする。


「確かに、伝えておきます。あと……」


「他に何かあるのか?」


 すでに物語やおとぎ話のように扱われることが多い魔法使いであるが、その力はかつて国を滅ぼしたともされており、密偵の更なる報告に精神的疲れを隠せない公爵、しかし聞かないわけにはいかないと顔を上げて説明を促す。


「一部でユウヒ殿が魔法使いでは無いと言う噂が流れています」


「無視しておけ、彼は魔法使いだよ……規格外も付けるべきかな」


「そうですね」


 しかしその報告は真面目に聞く必要が無いものの様で、ため息を洩らし肩を落とすランシュードは、手を御座なりに振ってユウヒが魔法使いである事は確実だと、寧ろ規格外も付けるべきだとため息交じりに呟く。


「あ、それから」


「ん?」


 彼の何を調べてそう言う結論に至ったのか、しかしユウヒが規格外なのは確かであり、公爵家の調査能力は優秀なようだ。そんなランシュードにまだ追加の報告があると口を開く男性であるが、その声は先ほどまでの深刻な声とは違い、呆れが混ざったもので公爵も肩眉を上げて不思議そうに小首を傾げる。


「お嬢様がユウヒ殿に付いて行こうとしていたので監視を増やしました」


「……はぁ」


 そして盛大に溜息を吐いて頭を抱えた。どうやらどこかのおてんばお嬢様は暗躍がバレて監視の数を増やされた様である。





 どこかでとあるお嬢様が増えた監視の目について父親に抗議している頃、倉庫で下準備を終えたユウヒは、長時間集中して乗り物を作る為に宿へと荷物を引き上げに来ていた。


「ええぇ! 行っちゃうのぉん?」


「直ぐではないけど、予定が決まりましたので」


 一応部屋は確保してもらうが、今日は帰らないかもしれないと言う説明に心底残念そうな声を上げるミーフェア。今にを抱き着いて来そうな気配に一歩下がるユウヒは苦笑を浮かべながら説明する中、小さな舌打ちの音を耳にする。


「でぇも? 噂だと報酬出るまで結構かかるんでしょぅ?」


「それは戻ってきた時に残りを貰う予定で、少し先に貰いましたから」


 間合いを開けられたことで諦めたミーフェアは、どこから聞いたのか冒険者組合で受けた依頼の報酬について問いかけた。大量の遺物にカラシャガの素材にと結構な額が動くため、資金調達で少し待ってもらう事になったユウヒは、乗り物を作る資金だけ少し確保したらしく、後日残りを貰いに戻ってくると言う。


「あら、戻って来てくれるのね! うれし! その時はうちをまた使ってね」


「ええ、お願いします」


「でゅふふふ」


 その際にはまた宿に泊まると言うユウヒの言葉に、乙女が出してはいけないが見た目には合っていそうな笑い声を洩らし、その姿にユウヒはさらに一歩後ろに後退する。そんなユウヒの背中に小さな手が触れた。


「ママ、よだれ」


「あらいけない!」


 現れたのは、頭の上の大きな耳が特徴の従業員少女、見た目は少女だが十分に成人していると言う彼女達は、ユウヒとミーフェアの話し声に集まってきたようだ。指摘されて涎を拭うミーフェアに溜息を洩らす姿は大人びており、見た目とのギャップが不思議な魅力を魅せている。


「どこ行くの?」


「ん? サンザバールのスタールって街だよ」


 成人しているが、子ども扱いされることに抵抗がなさそうな彼女達は、ユウヒがどこに行くのか気になるらしくポンチョを軽く引っ張りながら行先を問いかけた。


「あっちきらい」


「まぁあそこは獣人にやさしくない土地だからねぇ?」


「そうなのか?」


 しかし、これからユウヒが向かう先は彼女たち獣人にとって居心地がいい場所ではないらしく、率直な感想にミーフェアは困った様に微笑みながらユウヒの言葉に頷く。


「あの辺りは見栄っ張りな貴族の観光地なのよ、最近は水も少なくなって観光客も少ないみたいだけどねぇ? 昔から水の枯れない領地って話よん?」


「へぇ」


 サンザバールと言う地域は、その土地柄か生産より観光業を主軸に発展した経緯があり、多くお金を落としていくのは自国や他国の貴族である。一方で文化的にあまり観光地にお金を落とさないらしい獣人は、サンザバールの様な観光地で丁重に扱われることがない。


「観光地」


「お土産」


 そんな背景もあって嫌いだと言う獣人娘達であるが、別に観光地に興味がないわけではなく、特にその土地独自のお土産品には目がない様子だ。


「あんたたちぃ? ユウヒちゃんが優しいからって強請らないの!」


『ちゅー!』


 甘えるような声で呟き、ユウヒのポンチョを小さくつまみ引っ張る彼女達は、女将の幾分低くなった怒声に驚くと蜘蛛の子散らす様に逃げ去り、柱や壁の後ろから顔を出すと涙目で震えるのであった。


「はっはっは、何かあったらね」


「もぅん、甘いんだから」


 多くの獣人は本能的に身軽な事を好む、それ故にお土産と言っても小物を少量しか買わず、観光地にとっての収入源としては下位に見られる。そんな身軽で軽装な砂漠ネズミ種の獣人娘たちは、呆れるミーフェアに笑み浮かべるユウヒの顔を目に焼き付けるのであった。



 いかがでしたでしょうか?


 広い砂の海を動き回る新たな乗り物を作り始めたユウヒ、一体どんなものが出来るのか、そして周囲はどう振り回されるのか、楽しんで貰えたら幸いです。


 それでは、今日はこの辺で、皆さんの反応が貰えたら良いなと思いつつ、ごきげんよー

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