第20話
修正等完了しましたので投稿します。楽しんでいってね。
突き出し海岸へと向かう街道の途中で再開したユウヒとバンスト、彼らは互いに驚きしばしキョトンとした表情を浮かべるも、すぐに異変の多さに気が付きバンストが頭を抱え始めた。
「早々に見つかったのは良いが、また問題になりそうだな」
警戒し合うエルフとドワーフを後目に、バンストはユウヒが操る乗り物やそこに載せられた大荷物に馬上から目を向け、さらに想定外な荷物とドワーフに目を向けるがすぐに視線を逸らして溜息混じりに呟く。
「む? でかすぎたか? なるべくコンパクトに作ったつもりなんだが……」
バンストの反応に荷運び一号の大きさを気にするユウヒであるが、問題はそこではなく、それを物語るようにバンストはもう一度溜息を洩らす。
「でかい以前の問題だね、まぁ大きさは馬車と変わらないから大丈夫だと思うけど」
「門で確実に止められる」
どうやら荷運び一号事態に問題があるらしく、呆れた表情のアダの背中から顔を出すチルは、確実に門で止められると言って興味深そうに荷運び一号を見詰める。
「悪いことしちゃいないんだ、問題ないだろう」
一方、ドワーフのオーヤンは悪い事はやってないのだからと気にした様子はなく、その言葉にアダが視線を向けると、瞬間何故か軽く眼を付け合う二人。
「ドワーフの国なら警備が付いて真っすぐマスターギルドに連れてかれるっす! そんで根掘り葉掘り穴があくまで質問攻めっす!」
「それはそれで嫌だな」
無言で眼を付け合う二人を後目に、ユウヒの座る運転席の後ろから顔を出すカリナン曰く、ドワーフの国へ荷運び一号で訪れようものなら兵士や機械工に囲まれ厳戒態勢でマスターギルドと言う場所まで連れていかれ、好奇心と向上心で目をぎらつかせたドワーフに取り囲まれることとなると言う。
「これは、機械なんですか?」
どっちも嫌だなと肩を落としため息を洩らすユウヒに、アダの後ろで馬に揺らされるチルは不思議そうな表情でユウヒに問いかける。今もガタゴトと音を鳴らしゆっくりと進む見た目機械にしか見えない荷運び一号なのだが、チルは何とも言えない違和感を覚えているようだ。
「機械以外ないっす!」
「半々だな、動力は魔力を消費する魔道具だから」
「やっぱり」
チルの質問に自信満々で答えるカリナンであるが、その答えでは合格点は貰えそうにない。なぜならブラックボックスとなって調べられない未知の動力は、ユウヒの魔法によって作られた魔道具、魔力を燃料に動いているからだ。その魔力の流れが違和感としてチルの目には映っていた様で、ユウヒの言葉に納得して目を輝かせるチル。
「これは魔道具なのか!? それではレリックボディと変わらんではないか……」
「それって何なの?」
魔法使いの作った魔道具、それは金貨が大量に動くような価値あるもので、おいそれと目にすることが出来ない品である。そんな物が目の前で動いていれば、魔法士であるチルが目を輝かさないわけもなく、大抵の魔法士は似たような反応を示すだろう。
一方でブラックボックスの正体をいきなり聞かされたオーヤンは目を血走らせて見開き、勢いよく荷車の上で立ち上がりユウヒに迫る。突然の動きにカリナンがよけきれず背中を蹴飛ばされる中、肩を強く掴まれ振り回されるユウヒは血走った目のオーヤンに小首を傾げて見せる。
「確かドワーフの秘密兵器と公言してる大型鎧じゃなかったかね?」
「秘密とは?」
レリックボディがなんであるかの質問に逸早く答えたのはアダ、ドワーフの国で秘密兵器として公言している大型鎧ではないかと言う彼女に、ユウヒは至極当然とも言える疑問を口にした。矛盾した言い回しに眉を寄せるユウヒにアダは呆れた様に肩を竦めて見せ、そのまま視線をオーヤンに向ける。
「わかっとらんのう! 秘密と付けた方が浪漫あるじゃろがい!」
「それはわからんでもない」
「えぇ? わかんないねぇ」
呆れた表情を馬鹿にされたと認識したオーヤンは、荷車の上で胸を張るとロマンだと叫び、その言葉に全く理解できないアダであるが、予想外にユウヒが理解を示したことで少しショックを受けた様な声を洩らし、ドヤ顔を浮かべるオーヤンを殺意の籠った目で睨む。
「レリックボディは発掘品の中でも動力を内蔵した機械の総称じゃよ、機械鎧はそれを組みこんどってな、いくつか種類がある」
「ほう、面白そうだな」
どうやらレリックボディと言うのは、超古代文明の発掘品の中でも動力機器に付けられる名称であり、アダの言った大型鎧、オーヤンが言うには機械鎧はそれらの動力を内蔵した物の様だ。
「そうじゃろそうじゃろ! なんたってむお!?」
明らかにSFの香りを感じる説明に、ユウヒはフードの奥で瞳を輝かせ、その返事により気を良くしたオーヤンは、チラチラとアダに視線を向け挑発しながら胸を張るが、突如飛来した影に襲われオーヤンは荷車の上に突っ伏す。
「おっと? ウィードか、ちょっと風が強くなってきたな」
「急ぎたいけどスピード上げられないかい?」
「出来るけど、何かあるの?」
突然飛来した影は複数の草の塊、ユウヒが遭遇した物とは違う種類の草玉は、凶悪な攻撃こそしてこないが風に乗って衝突してくる威力は人を転倒させるには十分な様で、荷車から落ちそうになるオーヤンがカリナンに引っ張り上げられている間にも飛来し、いくつもバンストとアダに切り払われている。
「風が強くなるとウィード系の魔物が勢いよく転がって来るんだ、最近増えたのか別の街道じゃ魔物が吹き溜まりで溜まってるらしくてな」
魔物が大量発生していることもあり、いつまでもこの場に留まれば追加のウィードに襲われかねないと移動を促すアダに、顔を上げたユウヒは一番遅い速度に入れてあるレバーに手を添えて周囲を窺う。
「なるほど、了解だ少し離れてくれ」
「あいよ!」
ぐるりと周囲を見渡せば視界に入って来るのは開けてはいるが荒い岩の砂漠、そこには風を受けて転がる草の塊がいくつも見受けられ、ユウヒの金の瞳と【探知】の魔法は岩の傾斜で大きく跳ねるウィードの詳細を視界に表示していく。中には危険性の高い個体もいるようで、アダに声をかけたユウヒはハンドルを持つ手に力を入れると、反対の手でスロットルレバーのロックを外す。
「そいじゃ三速いくぞ!」
<……!>
三速、三枚すべての回転盤を起動させると言うユウヒに、ドワーフの二人はキョトンとした表情を浮かべ、ユウヒは頭の上に精霊をのせて前を見据えるとスロットルレバーを勢い良く引く。
「ぬお!? 速い!」
「おわわわわわ!? 揺れるっすぅぅ!」
【1】や【2】とは比べ物にならない加速によって一瞬車輪が空転するが、すぐに金属製の大きな車輪のスパイクが地面に食い込むと急加速、慌てて荷台にしがみ付くオーヤンは冷や汗を流し、荷物に背中を預けたカリナンは勢いよく景色が流れていく光景に目を白黒させながら、荷運び一号の動きに合わせて上下に激しく揺さぶられる。
「やっぱゴムタイヤ作らないとサスじゃ限界だな」
一方揺れることを覚悟していたユウヒは冷静に荷台に伝わる振動を分析、複数のばねによる振動抑制機構の限界を体全体で感じると、総金属製車輪の限界に落胆とも楽し気ともとれる声を洩らす。
「速いな!」
「魔法使いはすごいねぇ」
「……すごい」
人や馬車などに踏み固められた街道を走る荷運び一号、土煙を上げて走るユウヒに並走してくるバンストは少年のような瞳でユウヒに声をかけ、無言で親指を立てるユウヒにアダは呆れ交じりに、チルは小さく呟き尊敬の念を抱くのであった。
そんなこんなで岩石砂漠に延びる荒い街道を異常に硬い金属製の車輪で走ること三十分ほど、荷運び一号は無事スルビルに到着したのだが、予想通り門で止められ現在二名の疲れ切ったドワーフと飄々としたユウヒを乗せたまま門の脇で兵士に囲まれている。
「これが問題の馬車か……荷台だけじゃねぇか」
「そう言ったじゃないですか!」
周囲を囲む兵士は比較的若者が多く、興味深げに周囲を囲む姿からはどこか幼さすら感じ、好奇と不安の視線に取り囲まれるユウヒが苦笑を洩らしていると、大きな門の脇にある出入口から若い兵士を引き連れた初老の兵士が現れ、ユウヒと荷運び一号に目を向けるなり訝し気に首を傾げた。
「いやだがお前、普通頭を疑うだろ」
「それはまぁ、自分も見た時は理解できなかったですけど」
門を守る兵士の中でも偉い人物なのか、周囲の兵士が場所を譲るなり近づいてくると馬の無い馬車と聞かされたらしい彼は顔に皺を寄せながら荷運び一号の周りを観察、愚痴を零しながら一回りするとユウヒの座る座席の前で立ち止まる。
「しかし、そうだなぁ? 別に入場料はいらないんじゃないか?」
「無料で良いんですか?」
どこか隙の無い雰囲気のある初老の男性兵士が連れてこられた理由は、門を通る為の通行料金についてであった。スルビルの街に入る為には身分証が無ければならないが、身分証があるなら基本的にお金は掛からず、身分を示すものが無い場合お金を払う必要がある。
「おう、どうやって動いてるか知らねぇが、糞垂れるわけじゃねぇだろ?」
「そうですね、多少魔力を消費するくらいです」
しかし馬車などの動物が付随してくるものに関しては身分証の有無など関係なく料金が発生し、それは馬などの騎獣の種類によって異なるのだが、今回は馬が引かない馬車と言う判定をされた荷運び一号、一通り荷物の検査を受けた後で料金に関して居合せた兵士たちで意見が割れてしまったのだ。
「魔法由来か、俺はてっきりドワーフの作った機械かと思ったぜ、二人も載せてるしな?」
そこでベテランの兵士に判定をしてもらう為に連れてこられたのが、ユウヒを見上げて笑みを浮かべる初老の兵士、ユウヒの返答に驚きながらも好意的な表情を浮かべた彼は、荷台の上でぐったりしているドワーフに目を向けると小首を傾げる。
「おーいユウヒ! 話ついたぞー!」
見慣れないドワーフについても話を聞こうと初老の兵士が口を開こうとした瞬間、遠くから大声を上げて駆け寄って来るのはバンスト、街に入る前に冒険者組合で荷運び一号の受け入れについて了承を貰いに行っていたようだ。
「あん? バンストの知り合いか、ならそのまま通っても良いが、事故起こすなよ」
「一番遅く進ませます」
「そうしてくれ」
息を切らせて走ってくるバンストの姿を確認した初老の兵士は、眉を少し上げると気が抜けた様に肩から力を抜き、通って良いと言う言葉に笑みを浮かべ返事を返すユウヒを見上げると、手を振って見せさっさと移動するように促す。
「良いんですか?」
何がどうしてユウヒを簡単に通すきっかけになったのか、分からないと言った表情を浮かべる若い兵士は、少し不安そうに老兵士に声を掛けると彼の鼻から大きな鼻息が洩れ出る。
「馬鹿野郎、馬車の入場料は馬の垂れる糞の清掃代だぞ? 馬が繋がれてないならただの荷台だろ、俺は荷台から金取ったことは無いぞ……まさかお前ら」
「ととと、取ってないです! なるほど、馬の糞の清掃代だったんですね」
初老の兵士はユウヒが乗る荷運び一号を見た瞬間に料金等の結論が出ていた様で、そのついでに為人を探ろうとしていたようだが、それもバンストの様子を見ればすぐに問題ないと理解出来たのだった。また馬車にかけられる入場料は街中で家畜が垂れ流す糞尿の清掃代であり、水が貴重な砂漠において街を清潔に保つのは、まさに死活問題で基本中の基本である。。
「……はぁ、それぐらい覚えてろ!」
『はい!』
そんな基本も理解できていない兵士たちの呆けた返事に深くため息を吐いた老兵士は、大きく息を吸うと地面が震えるほどの声で注意し、その圧力に周囲の兵士は直立し慌てて返事を返す。
門前で若い兵士たちがベテラン兵士に活を入れられ、その姿を見てにやつく先輩兵士がとばっちりでお叱りを受けている一方、無事街に入れたユウヒは街のあちこちから視線を向けられながら冒険者組合へと徐行運転で向かっていた。
「いやぁよかったな、怪しいからって入場拒否されるんじゃないかと思ったぜ!」
ユウヒと共にスルビルに向かう道すがらずっと荷運び一号が気になっていたバンスト達、借りた馬を街の外で降りた彼らは、徐行運転で街を走る荷運び一号に乗らないと言う選択肢はなく、高速移動する荷運び一号の振動で疲れ切ったドワーフ二人を奥に追いやり乗車していた。
「おやっさんの適当さに助けられたねぇ」
「あの人はどなたで?」
思った以上に静かな乗り心地に驚いていた三人は、無事門を通れたことに安心すると、初老の兵士をおやっさんと呼んで運が良かったと笑う。
「おやっさんはスルビル警備兵の副隊長殿だな。この街の現役兵士じゃ一番の古参でさ、みんな頼りにしてる人なんだ」
若い兵士に連れられ現れたベテランの老兵士は、おやっさんと呼ばれ頼りにされる最古参の兵士であるらしく、それは冒険者達にとっても同様のようだ。
「いろいろ、気にかけてくれる良い人です」
「チルは特に気にかけて貰ってるからね、この間も石砂糖もらってたでしょ」
「え、見てたの? 恥ずかしい……」
特にチルは可愛がられている様で、何かにつけて声を掛けられては甘い物を与えられているらしく。つい最近も石砂糖なるものを貰ったようで、その姿をアダに見られていたと知って彼女を見上げると恥ずかしそうにフードを深く被って俯く。
「見た目の所為で完全に子供扱いだからなぁ」
「種族的には大きい方なのに……」
なにせチルは傍から見れば完全に十代中盤の少女である。しかし彼女も列記とした成人女性であり、姿かたちが幼く見えるのは種族特有のものであり、寧ろ彼女と同じ種族の中でもチルは大柄な方なのだとか、思わず彼女を見詰めるユウヒ。
「……そうなのか、助けてもらったなら何かお礼しないとな」
少し驚いた様に呟くユウヒは、誤魔化す様におやっさんの事に話を持っていく。
「気にしなくていいと思うぞ?」
「あんたはそんなんだから駄目なんだよ、礼なら酒にしときなよ」
呟く声が小さかった事と視線がチルに集中していたことで上手く誤魔化せほっと息を吐くユウヒは、バンストとアダのやり取りに苦笑を洩らしながらお酒の言う案に小さく声を洩らす。
「おやっさんはドワーフの血が少し入ってるらしくて、お酒には目が無いらしい」
「ほう! 酒飲みに悪い奴は居らんな」
どうにも最近お酒に関する話題に事欠かないユウヒは、何やら良からぬことを考えているのか僅かに魔力が体の奥で反応して湧き上がる。そんなユウヒの好奇心に反応する魔力の動きを感じ取ったチルがユウヒを見上げると、荷台の後ろから大きな声が上がり驚いたチルの肩を震わせた。
「それはただの迷信っす」
「なんじゃと!?」
ギアボックスを挟んでユウヒの反対側に座るチルが落ちないように横から腰に手を回すアダは、後ろから這って現れたオーヤンを睨むとドワーフ二人の言い合いに溜息を洩らす。
「酒飲みが良い人なら壺割って言い訳とかしないっす」
「ぅ……」
基本的にドワーフは声が大きい、それは普段からうるさい環境に住んでいる弊害もあるが、根本的にドワーフは声がでかく、しかし攻められれば小さくもなるのか、カリナンの正論に小さく呻くオーヤン。
「ユウヒこっちだ! この奥に入れてくれ」
「了解」
そんなドワーフのやり取りを後目に荷運び一号から飛び降りたバンストは、冒険者組合の脇にある道の前に駆けて行くと大きく手を振って道を示す。どうやらその道は冒険者組合の私道であるらしく、少し柔らかな石畳に刻まれたいくつもの轍を見るに馬車や荷車などを奥に入れる為の道のようだ。
「スムーズに曲がるもんだねぇ」
「これ欲しい」
ユウヒがバンストの示す道に向かってハンドルを切ると荷運び一号の前輪が動きスムーズに曲がっていく。僅かに膨らむ様に曲がった荷運び一号がすんなり細まった道へと入っていく事にアダとチルは驚きの表情を浮かべ、感心するアダの隣でチルは目を輝かせて欲しいと呟く。
「確かに、足は馬に負けるが急ぎじゃないならこっちの方が役立ちそうだ」
何せ彼女らが知る馬車は曲がれるとは言え、急な曲がり角を一発で曲がれる馬車は少なく、大半が御者のテクニック次第である。荷運び一号の前を歩き先導するバンストも、荷運び一号の曲がり方には驚いたようで、チル同様にゆっくり走る荷運び一号に物欲しそうな目を向けていた。
「スローターワームからは逃げられそうにないけどな」
「確かに……」
しかし、荷運び一号はユウヒにとってまだまだ未完成品であり、万が一スローターワームと出くわした時は馬車や馬の方が圧倒的に安全であり、荷運び一号が早々に追い付かれるのは目に見えている。
「後で乗ってみるか?」
「……いいの!?」
一長一短、そんな言葉が思い浮かぶ出来の荷運び一号、しかしこの世界の人間から見ればそれでも優れた乗り物であり、気になるのはしょうがない。魔力の流れを見ているのかユウヒのお尻の下にあるブラックボックスを見詰めるチルは、苦笑交じりで提案するユウヒを驚いた表情で見上げると、花開いたような笑顔を浮かべる。その表情を見たユウヒは、おやっさんが甘くなるのも仕方ない事だと思わず心の中で頷くのであった。
いかがでしたでしょうか?
遺伝子レベルでいがみ合ってそうなエルフとドワーフ、そんな二人を慣れた様子で無視するバンストに先導され冒険者組合に到着したユウヒ。依頼も完了のはずだが果たしてすんなり事は済むのか次回もお楽しみに。
それでは、今日はこの辺で、皆さんの反応が貰えたら良いなと思いつつ、ごきげんよー




