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第2話

 修正等完了しましたので投稿させてもらいます。





 期待と不安で僅かに眉が上がるユウヒの目の前でカーテンが一気に上へと巻き上げられ、ユウヒの為に用意された足が披露される光景に、アミールは満足気に微笑み、サポ子さんは不安そうな感情を体の揺れで表す。


「どうですか? お好きなものを使ってください!」


「ぉおう……」


 そこに並ぶのは真新しい乗り物の数々、様々なレギュレーションを通過し選び抜かれたそれらは全てユウヒの為に用意された足である。砂漠と言う過酷な環境を快適に移動するために用意された乗り物は、どれも素人が乗っても十全に扱えるサポートがなされた銘品ばかり、もしこの場に育兎が居たならばその無駄性能に頭を抱えること請け合いである。


「……」


 ユウヒの目に映るのは小さなキックボードの様な乗り物から複数のバイクや車、果てはキャンピングカーサイズの装輪車両、厳選したとは言え若干のやり過ぎ感が否めないラインナップを前に、若干引き気味のユウヒの顔を覗き込むサポ子さんは不安に体を揺らした。


「先輩に頼もうかとも思ったのですが、あまり変なものを寄こされても困るので私が作らせていただきました!」


「え!? これ全部作ったの?」


 万が一これでドン引きしようものならアミールの評価に問題が生じる、そんなサポ子さんの心配をよそにアミールは嬉しそうに自作だと語り、度重なる驚きでユウヒの思考は少しずつ麻痺していく。


「はい! 頑張りました!」


「すごいなぁ」


 世界のどこかで世界の修復の後片付けに忙しくする管理神がクシャミを放っていることなど知らないユウヒは、驚きに驚きが積み重なり機能不全を起こす頭で純粋に感心し、アミールに対する印象を修正していく。


「そ、そうですか? 喜んでもらえたらと思って……」


「うん、ありがとう……でもこれを持ってくのかぁ」


 美しい女神さまから、物作りまで出来ると言うユウヒにとって上方修正となる称賛の声にもじもじと照れて身を捩るアミールであるが、ユウヒの困ったような呟きによって瞬時に表情が素に戻る。実はあまり多く用意するとユウヒが困ってしまうと言うのはサポ子さんから指摘されていた事でもあり、それ故厳選に厳選を繰り返したのが目の前のラインナップなのだ。


「ユウヒ様、アミール様に気を使う必要はありません。ご自分が必要だと思うものを選んでください」


「サポ子さん!?」


 理論上全てもっていくことも可能であるが一人旅に荷物が多いのは邪魔になる。危険な場所に向かわせるからと心配からあれもこれもと用意するのはまるで母親の如く、色々と用意した物にユウヒがどう感じているかという部分に盲目となるアミールは、サポ子さんの言葉に驚いた声を洩らす。


「ユウヒ様の心音及び、発汗作用などから判断するに、用意してもらった物を全部使わないと言けないと言う事が強いプレッシャーとなっているご様子、理論上可能でも流石にこの状況で無理させるのは……いい結果を産まないでしょう」


 アミールの頭の中には、用意したすべてを効率よく持ち運ぶための説明を行う準備が整っていたことで大きな驚きとなったようだが、体を寄せてきたサポ子さんの説明によりその表情はじわじわと蒼くなっていく。


「え!? あ、気に入った物だけで良いですからね!」


「え? あ、うん……そうするよ。ちょっと見て回るね」


 高性能すぎる神の頭脳は、乙女のエッセンスを加える事で明後日の方向へと妄想が広がり、どんな想像に至ったのか慌てた様子のアミールは、一歩ユウヒに踏み出し近付くと大きな声で方向修正を行う。サポ子さんの説明でほっと息を吐いていたユウヒは、驚き背中を揺らすと、なぜか必死な様子が伺えるアミールの顔を不思議そうに見上げ苦笑を洩らし、見て回ると言って歩き出す彼の後ろ姿に金の女神は胸をなでおろす。


「どうぞどうぞ! ……サポ子さん」


「言った通りでしたでしょ? もしアレらも見せていたら、流石にドン引きされてますよ」


 少しわざとらしくも感じる声でユウヒを見送るアミールは、すぐにサポ子さんを呼び寄せると安心した笑みを浮かべる。どうやらユウヒの表情からサポ子さんの予測が正しいことを悟ったらしいアミールに、彼女の仕事をサポートする為に作られた存在はどこか呆れたような調子で話す。


「ええ、そのようです。悔しいですが認めざるを得ません」


「今も結構危ないラインでしたよ」


 様々な足を作り厳選に厳選を繰り返した二人であるが、その認識にはズレがあったようで、より一般的な基準に近い意識で厳選を手伝ったサポ子さんに目を向けるアミールは悔しそうに眉を寄せ、今も危なかったと言う言葉に口をへの字に曲げながらユウヒに目を向ける。


「喜んでもらえてはいそうですが」


 目を向けた先では、ユウヒが目を輝かせアミールの用意した足の数々を色々な角度から視ては感嘆の声を洩らしていた。その姿に思わず頬が緩むアミールは、サポ子さんに目を向けると小首を傾げて見せる。


「喜びはするでしょうが、刺激が強すぎて頭が働いてない感じでしょうか」


「ぬぬぬ」


 言外にもっと色々用意した物を見せて良かったのではないか、そう言う感情を視線に含めて問いかけるアミールに、サポ子さんは残念な子を見るような目をわざわざホログラムのウィンドウに浮かべながら体を横に振ると、ユウヒの現状を正確に言い当て、遠回しにこれ以上の刺激は危険だと語り、アミールは悔しそうに唸り声を洩らすのだった。


「すげぇな、これ全部作ったのか……俺にも作れるかなぁ」


 一方、ユウヒは次第に冷静になって行く頭で乗り物を見て歩き、その洗練されたフォルムに感嘆の声を洩らし、同時に自分でも魔法で作れるだろうかと脳内で魔法のシミュレートを行う。


「これは、バス? キャンピングカー? 砂地で走れるのか? いやでもアミールが用意してくれたんだから走れるのか」


 わくわくとした感情を隠すことなく顔に出すユウヒは壁のように感じる乗り物を見上げ、体の角度を変えてその正体を探る。バスともキャンピングカーとも見える壁は、黒い体にユウヒの驚く顔をくっきりと映し、自分と見つめ合ったユウヒは目を瞬かせると背後の乗り物に目を向けた。


「普通の車にバイク、こっちはタイヤが無いな?」


 大きな乗り物の車体に映っていたのはユウヒのほかに複数の車やバイク、ワゴン車からオープンカーまで並ぶ車の隣には小型や大型のバイク、さらにその隣にはタイヤが無いバイクのような物が置かれており、その流線型の車体に首を傾げるユウヒ。


「そちらはホバーバイクですね、魔力を多く含む空気のクッション作る事で地表から少し浮き滑る様に走ります」


「へぇー」


 ユウヒが不思議そうに車体を眺めていると、音も無く近づいて来たサポ子さんが説明を始める。少し距離を開けて話しながら近づいて来たサポ子さん曰く、ユウヒが不思議そうに見詰めていた物はホバーバイクと言って、地面から少し浮いた状態で走る未来からやってきたようなバイクだと言う。


「これだと高空から落ちても怪我一つ無く着陸可能です」


「マジか」


 現代の地球でも空飛ぶバイクの研究は行われているが、それは車体の大半を占める大きなプロペラで飛ぶものであり、目の前のバイクの様に少し重心が低くタイヤが見当たらないような物は存在しない。


 育兎であればきっと製作可能だろうと心の中で考えるユウヒは、高いところからでも着陸可能と言う言葉に未来を感じて目を輝かせる。あまり乗り物の運転が得意と言うわけでもないユウヒにとって、万が一の時に発揮される安全性能は重要であり、大きな決め手となる部分であるが、そんなユウヒとサポ子さんのやり取りにアミールは笑顔を崩して目を見開く。


「あ、そうでした! 実は今回ユウヒさんを直接地上に転送することが出来ないんです」


「え? なんで?」


 どうやら今回のワールズダスト行きは前回の様に安全な移動とはならないようだ。


「先ほど説明した通り砂の海には神性の力に対する妨害膜が張られているので、その内側に転送すると予期せぬ不具合が発生する可能性が高く……ですので、今回は高空からの侵入と言う事になります」


「こ、高高度降下……ヘイホーかぁ」


 HAHOヘイホー、所謂空の上、高高度からのスカイダイブを強要されると知り思わず顔が引きつるユウヒは、長い空の旅を想像して何とも言えない表情を浮かべる。どうやら今回向かう地域に張られた妨害膜はユウヒを地上へ転送する技術にも影響しているようだ。


「だ、大丈夫です! 完全自動制御で安全に降下できる準備もしてますから」


「あ、いやまぁヘイホーなら問題ないよ、もし魔法使えなくてもパラとかボンベとかそれ用の装備があればちゃんとできると思う。ヘイロウは怖いけど」


 少し不安そうなユウヒに安全をアピールするアミール、彼女の事を信用していないわけでは無いユウヒは、【飛翔】などの魔法と言う命綱もあってかそれほど恐怖を感じているわけではない様で、しかし二つある降下方式の片方に関しては遠慮したい様だ。


「……ユウヒ様は軍人でしたでしょうか?」


「んー知り合いに無理やり教えてもらった感じかな?」


 HALOヘイロウ高高度から降下し、地表近くまで高速かつ短時間で落下してパラシュートを開く降下方式である。一般人は先ず触れることのない体験をまるで経験した様に、いや事実経験した上で嫌だと話すユウヒにサポ子さんは不思議そうに呟き、ユウヒは過去の思い出に溜息を吐くと知り合いに教えてもらったと話す。


「それはまた、稀有な知り合いがいたものですね」


「まったくだ。でもそれならこのホバーバイクがいいのかな? 乗ったまま降りれる?」


 驚きと呆れ、そんな感情が伝わってきそうなサポ子さんの言葉に頷くユウヒは、余計なことを教えて明華に折檻されることとなった傭兵団の知り合いを思い出しながら小さく笑うと、目の前のホバーバイクの艶やかな車体を撫でてアミールに目を向ける。


「可能ですね。ホバーバイクはおすすめですよ、他の乗り物の場合はどうしてもユウヒさんの着陸後に近場へ投下する事になると思いますので」


 ユウヒと目が合い笑みを浮かべるアミール、おすすめと言ってしまえば厳選した手前全ておすすめなのだが、そんな考えおくびにも出さずに他の乗り物との差を滑らかに説明する。


「それじゃこれで、あとは……この靴は?」


「そちらはサンドシューズですね」


 ホバーバイクを持っていくことに決めたユウヒは、嬉しそうに頷くアミールから視線を外すと近くに置いてあった靴に目を移す。いくつか並ぶ靴の中でも一番シンプルなショートブーツを手に取ったユウヒに、サポ子さんはゆっくりついて行きながらサンドシューズだと説明する。


「サンド、砂用の靴ってこと?」


「はい、砂地への接地の際に力場を発生させ一時的に地面を固める靴です。自動で硬度を最適化してくれますので疲労軽減効果もあります。走る時などは陸上トラックの様な感覚で砂の上を走れます」


 サンドシューズと言っても砂浜などで履く柔らかいゴム底の靴では無く、周りに並ぶ様々な乗り物と同様に女神の作った逸品、ただの靴ではない。どんな構造をしているのか、少しだけ底の厚いその靴は、歩き辛い砂地の上でも難なく歩ける魔法の靴であった。


「へぇ便利だな」


 砂地の多い場所に適した靴の性能に感心するユウヒ、彼はそっと他の靴に目を向けるも手に持った靴に満足するとサポ子さんを見上げる。何故満足したのか、それはほかの靴は彼が持つ靴ほどシンプルでは無く、物によっては羽が付いていたり、車のマフラーの様な筒が付いていたり、明らかにジェット的な部品が付いており、とても選ぶ気にはなれなかったようだ。


「ただ砂地専用ですので、砂以外の場所では自動的に機能が停止します。常に働いている機能は、サイズの自動調整とクリーナとオートメンテナンスくらいなものです」


「超便利じゃん」


 そんなユウヒの仕草をアミールが不思議そうに見詰める前で、サポ子さんは申し訳なさそうにデメリットについても説明するが、一般人であるユウヒには何がそんなに申し訳なさそうなのか理解できないと言った表情で評価を上方修正する。その顔は何だったら帰ってもそのまま使いたいとすら思っていそうだ。


「履いていきますか?」


「履く履く!」


「うふふ」


 おもちゃを買ってもらった少年の様な目でサンドシューズを見詰めるユウヒは、サポ子さんの言葉に元気よく返事を返すとその場で靴を脱いで履き替えはじめ、その無邪気な姿にアミールは思わず笑い声を洩らす。


「おお、映画の未来シューズよりずっとすごいな、砂地が楽しみになってきた」


 ユウヒが履くには数センチほど大きいように見えた靴であるが、彼が足を入れた瞬間、足全体を力強くも優しく包み込む様に縮み、そのフィット感に感嘆の声を洩らすユウヒはその場で足踏みやステップを踏み、その姿にアミールは笑みを深めていく。


「それではこちらの靴は私の方でしっかり管理させていただきます」


「おお、ありがと」


 一方、現在身に着けている野戦服と意匠の似たユウヒの靴は寂しそうに床に置かれ、役目を降ろされた靴は不可視の力で宙に浮くとサポ子さんの目の前で固定される。不思議な力で持ち上げられる靴を驚いた様に見詰めるユウヒは、口元に笑みを浮かべると感謝を口にして踵を返す。


「ちょっとその辺歩いて感触確かめてみる」


「どうぞごゆっくり、それでは私はこちらの靴を……アミール様?」


 小さく振り返って話したユウヒが軽い足取りで歩きだすのを見送ったサポ子さんは、自らの体のすぐ前まで持ち上げた靴をどこかに運ぼうと体を回すも、いつの間にか間近に近付いていたアミールによって押しとどめられる。


「これは、私が、仕舞っておきます……ね?」


「は、はい……(変な扉開かないと良いのですが)」


 そして徐に動くアミールの手によって空中に浮かんでいた靴が摑まれ、思わず靴を持ち上げようとしたサポ子さんは、彼女から放たれる言葉の圧と物理的な腕力によってその動きを封じらてしまう。アミールの瞳の奥で怪しく揺れる感情に恐怖を感じたサポ子さんは、そっと靴を動かしていた力を抜くと思わず後退る様にその身を後ろに滑らせるのだった。





 野生の獣も尻尾巻いて逃げかえる様な圧を放つアミールが、妙に上機嫌な笑みを浮かべてユウヒの靴を仕舞っている頃、靴を預けたユウヒは選ばれなかった乗り物が並ぶ部屋の中を歩き回っていた。


「すげぇな履き慣れた靴みたいにぴったりだ。こんな靴があれば靴擦れとおさらばなの……に?」


 何年も履き崩し自分の足にフィットした靴のように感じる新品のサンドシューズ、その履き心地に惚れこみ歩き続けるユウヒ。何だったら似たような靴を何足か作ってもらおうかとすら考え始めた頃、不意に顔を上げたユウヒの視界に妙な壁が入り込んでくる。


「壁に隙間が……まだ奥があるのか、倉庫か!?」


 一見ただの壁であるが、ユウヒの瞳はその違和感を目敏く見つけ、彼が好奇心の赴くままに壁を撫でるとその壁は僅かに横へ動いて行く。横にズレる壁の奥からは大きな空間を感じさせる反響音が聞こえ、ユウヒはその奥を覗き込むと思わず言葉を失った。


「…………ッスゥー」


 壁の向こうには今いる部屋からは想像が出来ないほどの大空間、例えるなら壁の向こうに照明が煌々と灯された明るい地下大神殿を見つけてしまったかのような状況に、思わず言葉を失うユウヒは、その地下に並ぶ無数の人工物に眩暈を感じると大きく静かに擦った息を細く細く吐き心の正常化に集中する。


「何も見てない、装甲車とか戦車とか多連装砲塔とか多脚とか……いやもうあれは陸上戦艦だろ」


 ユウヒの目に映ったのは深く広大な空間に並ぶ装甲車、戦車、そんなものは可愛いものだと言った様相で並ぶ巨大な空母に巨大な車輪がいくつも連なる陸上戦艦、さらにはなぜか列車の様な連結された車両郡、さらに奥は暗く見えないが何かの先端が暗闇から生えていた。


 見てはいけないものを見てしまったと言う意識がユウヒの体を動かし、まるでプロの偵察兵のように音を鳴らさずに身を引いたユウヒは、細心の注意を払いながらそっと壁を元の位置に戻す。瞑想するように目をしっかりと瞑った彼は、深呼吸を繰り返すと全てを忘れたかのようにまた歩き出すのであった。



 いかがでしたでしょうか?


 見てはいけないものを見てしまい思考の安全装置が働かせるユウヒ、アミールたちが隠した物の規模は、どうやらドン引きと言うレベルを超えていたようです。


 それでは、今日はこの辺で、皆さんの反応が貰えたら良いなと思いつつ、ごきげんよー


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[一言] ワールドダスト 陸上戦艦編  マダァ?(・∀・ )っ/凵⌒☆チンチン
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