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ワールズダスト ~砂の海と星屑の記憶~  作者: Hekuto


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16/149

第16話

 修正等完了しましたので投稿します。楽しんでいってね。





 砂の海が最も明るく照らし出される時間帯、白い肌に黒々とした髭を蓄えたドワーフ男性と、赤みがかった茶髪に褐色の肌のドワーフ女性に遭遇したユウヒは、二人に見上げられながら首を傾げていた。


「あれはわしが先に見つけた! だからわしの物! それがドワーフの常識だわかったか!!」


「ほう?」


 ドワーフ男性曰く、波打ち際に打ち上げられ大岩に寄りかかる遺物は自分たちが先に見つけたのだからその権利はこちらにあり、それがドワーフの常識であるという。その言葉にユウヒは首を反対側に傾げて不思議そうな声を洩らす。


「いやいや、それならその人の方が先に見つけてたじゃないですか! すいませんっす!!」


 一方で、見た目的に少女と言っても違和感の無い女性ドワーフは、血色の悪い顔で男性ドワーフの言葉を否定してユウヒに向かって何度も頭を下げており、その視線はチラチラと長い杖に向けられており余計に顔色を悪くしていく。


「ふむ? どういう状況? 二人は冒険者なの?」


 大きな声を上げて浜提の上から現れた二人の言葉に、今一つ状況の解らないユウヒ。どうやら遺物が目的であるようだが、それが個人的な理由なのかどこからか依頼を受けたのか、詳しく聞きたいユウヒの問いかけに男性ドワーフは不機嫌そうな表情を浮かべた。


「なんじゃと!? わしはドワーフの国一の機械技師オーヤン・ビンビン様じゃ!」


「すいませんすいません! 全然一とかじゃないで気にしないでくださいっす!」


「なんじゃと!?」


 目を大きく見開き口を大きく開き叫ぶように話すドワーフの男性は、オーヤン・ビンビンと言うらしく、ドワーフの国で一番の機械技師……と言うわけではないらしい。何度も腰を直角に曲げて頭を下げ続ける女性ドワーフは、機械技師であることは否定しないがそれ以外は全否定するかのような様子で、その言葉に驚き振り返るオーヤンは突然の裏切りに声を荒げる。


「なるほど理解」


「理解が早いっす!?」


「ならば話は早い! あれはわしの物! ちょっとでも触れてみろ頭かち割ってやるからな!!」


 二人のやり取りで何を理解したのか一つ頷くユウヒ。彼の言葉に驚くドワーフの女性が顔を見上げる前で、当然と言いたげな表情を浮かべるオーヤンはユウヒを威嚇するように睨むと勢いよく遺物に向かって走って行く。その後ろ姿はとても足を怪我している様には見えない。


「ちょっとおやびん! ……それでつかぬ事をお聞きしますがその、あなた様はどう言った感じの? あ! 自分は機械工見習いのカリナンっす!」


 慌てて振り返り手を伸ばすドワーフ女性はカリナンの言う名前で、機械工見習いだと言う。所々隙間のある服からは褐色の肌が見え隠れし、頭には大きなキャスケットの様な作りの帽子を被り降ろされたシコロの先からは肩を覆うように髪が下ろされている。


「カリナンさんですか、私は冒険者のユウヒと言います。今日はこちらの遺物の調査に参りました」


「かっんぜんに終わったっす!?」


「そうなの?」


 名を名乗られたのならばと、笑みを浮かべるユウヒが自己紹介するとすぐに頭を抱え膝から崩れ落ちるカリナン。その姿に思わず手を伸ばすユウヒであるが、彼女の言葉に手を止めると不思議そうに目を瞬かせた。


「よその国で冒険者の依頼横取りとか、ボコボコにされても文句言えねっすよ……あの、何とか穏便に」


「穏便かぁ……」


 どうやら彼女の中での冒険者は、遺物収集依頼を横取りしに来た相手に容赦することは無いらしく、横取りしようものならボコボコにされても文句は言えない様だ。言ってしまえばこれもドワーフと言う種族の常識であり、冒険者の共通する性質とは言えず、だが一般的な冒険者も依頼を横取りされて笑っていられるものではない。


「か、体で払っても良いので暴力だけはやめてほしいっす!」


 穏便にと言われて駆けて行くオーヤンに目を向けるユウヒは、その頭で極めて癖の強い捻じれ揺れる大量の毛髪を見詰め、視線を落とした先にある綺麗なストレートヘアーと見比べる。その視線に気が付いたカリナンは少しは恥ずかしそうに身を捩ると暴力は止めてほしいと言う。


「それはいらないかな」


「なんでぇ!?」


 答えは即答、何がと言っていないが何が要らないのかすぐに理解したカリナンは、即座に驚きの声を上げると、どこか蔑むようなユウヒの視線にたじろぎながらも目に涙を浮かべる。


「俺は良いけど、あの人って強いの?」


 可笑しな反応を見せるカリナンに首を傾げるユウヒは、そんな事よりもと顔を上げると、砂地に足を取られ未だ遺物に向かって走り続けるオーヤンを見ながら強いのか問いかける。


「すんすん……おやびんっすか? いつも女将さんに張っ倒されてるんで、たぶん大したことないと思うっす!」


 指ぬきグローブを付けた手で顔を覆いわざとらしい泣き声を洩らすカリナンは、ユウヒの問いかけに顔を上げると、座り込んだままオーヤンに目を向け割と失礼な言い方で大して強くないと話す。その説明に腕を胸の前で組んだユウヒは一つ溜息を洩らす。


「なら、魔物に気が付いてないんだな」


「へ?」


 どうやらユウヒの視界には魔物を探知した結果が表示されている様で、しかし手出しするなと威嚇された相手を助ける気もないのか静かに様子を窺っており、その姿を見上げていたカリナンはもう一度オーヤンに目を向ける。


「うほー! こりゃ保存状態も最高の遺物ジャボグッ!!?」


 その瞬間、遺物に到達したオーヤンは何者かによって地面ごと宙に引き飛ばされ奇妙な声を残す。


「オヤビーーン!?」


「GAAAAAA!!!」


「ヤドカリだな」


 地面から出て来たのは巨大な蟹の爪、オーヤンが宙を舞い浜提の麓に向かって吹き飛ばされる中現れたのは巨大なヤドカリ、どうやら大岩に見えていたのはヤドカリが背負っていた殻だったようだ。


「おやびーん!」


「はぁ、弱めに【ウィンドボム】」


 大きく弧を描き吹き飛ばされるオーヤンを受け止めるべく慌てて走り出すカリナンであるが、子供と変わらない歩幅では間に合いそうも無く、仕方ないと言った表情を浮かべるユウヒは杖を持ち上げると、その杖先で落下予想地点を指し風の魔法を発動する。


「あばぶ!?」


「にゃー!?」


 ユウヒの魔法により一点に収束した魔力は高密度な空気の塊に変わり、空から降って来たオーヤンを強い風のクッションで受け止めると、余波で走って来たカリナンを煽り転がした。


 魔法によって急激に減速したオーヤンは草地に落下、転がされたカリナンは猫の様な悲鳴を上げているが、両名とも無事なようで、その事を右目と【探知】の魔法で確認したユウヒをその目をそのままヤドカリに向けながら歩きだす。


「ヤドカリかぁ焼くのはちょっと素材が痛みそうだし、凍らせるのも……なに? 可食◎?」


 軽く跳ねるように、緩く大きな波紋を描く砂浜を歩くユウヒは、視界に映るヤドカリの分析結果を読み上げながら対策を練るが、とある一文に目を見開くと嬉しそうな笑みを浮かべる。どうやら中天を過ぎ行く空の下、朝に食べた物はすっかり消化が完了している様だ。


「GA?」


「よかろう……新しい家探し中に悪いが、倒させてもらう【ウィンドボム】」


「Gya!? GAGAGAAAA!!」


 足取りがより軽くなるユウヒは、手に持った身長より長い杖をくるりと回しながら魔力を練ると、先ほどよりも強力な空気の塊をヤドカリの眼前に収束させ爆発させる。まるで工業用のコンプレッサーが爆発したかのような衝撃に、ユウヒからヤドカリ認定された魔物は驚きの声を上げ、すぐに態勢を整えると頭頂部の固い殻に覆われた長い目でユウヒを睨む。


「たいして効いてないか、それじゃ次は【サンドニードル】」


 完全に敵対心を向けられるユウヒであるが、さほど恐怖を感じていない様で、軽い調子で効果判定を行うと完全に起き上がったヤドカリの関節に向けて杖を向け、即座に砂の針を生み出す魔法を放つ。


「!? GAAA!!」


 ユウヒの動き以外にも魔法の気配を感じ取っているのか、驚きの声を上げたヤドカリは素早い動きで横歩きを始め、砂地から生えてきた砂の針を固い殻で受ける。砂の針は固い殻を貫通出来ず、寧ろ巨体の重量でへし折られるとそこから砂に戻り、大きく旋回したヤドカリは小さく旋回して向きを変えるとユウヒに向かって突撃して来る。


「速いな!」


 あっと言う間に距離を詰めてくるヤドカリから飛び退くユウヒ、直前までユウヒが居た場所には太く大きなヤドカリの腕が突き刺さり膨大な砂を巻き上げた。高い防御力と加速、さらに優れた旋回性能まで有する魔物の一撃は、まるで車に撥ねられるような威力であり、受ければユウヒとてただでは済まない。


「良い動きだな! 冷凍したら肉質変わるかな? うーん【ショック】」


「!?」


 視界に映る分析結果を見て採取部分が多く残る様に手加減しているユウヒは、さらに攻撃を仕掛けてくるヤドカリに向けて、体の内部に響く様に妄想した【ショック】の魔法を放つ。それは結界から放たれたものや忍者用に調整したものより強力で、一瞬の光の後に異臭を残すとヤドカリを痙攣させその足を鈍らせる。


「うーん、まぁまぁ? 弱点弱点……」


 オーヤンを介抱しながらカリナンが見詰める先で足を止めるユウヒは、効き目が良かった【ショック】による討伐を決めると、背後の二人を気にしつつより多くの魔力を練りながら起き上がるヤドカリを見詰める。どうやら多少の足止めは出来ても戦う力を奪うことまでは出来なかったようだ。


「GAAAAA!!」


「うお!? 跳んだだと!」


 しかしユウヒの攻撃は確実にヤドカリの本能を揺さぶり、怒りと畏怖を感じた魔物に、目の前の小さな生き物をより確実に殺す為の自身最大の攻撃を切り出させた。それはジャンプ、背中に背負った大きな貝を含めたヤドカリは、重さの表記をトン単位にした方が分かりやすいであろう事は見ただけで分かる巨体、それが二階建ての家を越えるほどの高さまで飛び上がれば着地の衝撃は途方もない。


「にげてっすー!!」


 下が砂地とは言え、地面に落下した際の被害は驚くユウヒだけではなく、彼に向かって叫ぶカリナンとオーヤンの居る場所まで及ぶであろう。


 それらを計算に入れたユウヒは、勢いよく杖の石突を地面に突き刺し、


「だがベストポジションである。貫け! 【アイアンピラー】」


「GYa―――!?」


 地面深くまで勢いよく浸透させた魔力によって鉄柱を地面から生み出した。先が鋭く尖った鉄柱は目にも止まらぬ速さで衝撃波と共に空を穿ち、その先で腹を晒していたヤドカリを突き刺す。


「強めの【ショック】」


 その一撃はそのまま硬い貝の殻をも貫通すると、鉄柱に手を触れたユウヒのダメ押しによって、空に向かって太陽の光にも負けない光を伴った雷を打ち上げた。


「ま、まほうつかい……」


 目に見えずらい魔法と違い、地面から突き出した鉄柱は太く逞しくドワーフの心を震わせ、その鉄柱から吹き出す雷を見て目の前の人間が魔法士だとは誰も思わない。何故なら砂の海の魔法士はこれほど強力な魔法を一人で使用することは滅多になく、ましてやほぼ詠唱も無く短時間で連発など不可能、結果導き出されるのはカリナンの口から零れ出る魔法使い。


「おーらーい、おーらーい……ほい解除」


 途轍もない衝撃の連続で混乱して放心するカリナンの前で、ユウヒはいつもの緩い調子で串刺しにしたヤドカリを地面に下ろしている。


「ふーむ、荷物が増えたな……」


 巨大にした畳針の様な鉄柱はじわじわと地面の中に沈み、最後には魔力に還りその姿を消してしまう。鉄柱が消えると共に重力に轢かれて砂地に落下するヤドカリからは、鮮やかな青色の血が流れ出し、砂の上に流れる血液はすぐに砂の中へと吸い込まれていく。


「先に調査から始めるか、荷車でも借りてくればよかったかな……まぁ材料はあるし作ればいいか」


 【飛翔】の魔法で長距離を短時間で移動できることから様子見のつもりでいたユウヒは、目の前のヤドカリを持って帰る必要が出て来たことでそれも出来ず、自分の無計画さに少し呆れを感じるも、すぐに気を取り直すと予定を泊まりがけに変更し、目の前に広がるものを見渡し前向きな気持ちで笑みを浮かべる。


「あ、あの!」


「そっちは大丈夫だった?」


 これからの段取りを考えながら長い杖を抱きしめるように抱え胸の前で腕を組むユウヒは、後ろからかけられた声に振り返ると笑みを浮かべたままカリナンに大丈夫かと声を掛け、砂で汚れた彼女をじっと見詰めた。


「えっと、けがはたいしたことないっすです! 気絶したままでっす!」


 金と青の瞳に見詰められるカリナンは、少し震えるような声でオーヤンの容体について答えるが、どうにもユウヒが魔法使いである事を理解したことで無理して敬語を使おうとしているらしく、その喋り方にユウヒは苦笑を浮かべる。


「あー魔法使いは怖いかな?」


「あいえ、その……ちょっと、割と、結構」


 ユウヒの問いかけに本音を隠せないカリナンは、取り繕う事を諦めた様に視線を逸らすと申し訳なさそうに大きく頭を下げぼそぼそと呟き、その呟く言葉にユウヒは小さく笑うと、戦闘で脱げていたフードを被り直す。


「ははは、別に何もしやしないよ? だから普通にしてくれ」


「……何と言うか、すでに失礼が天井越えしてると言うか」


 フードを被れば多少は威圧感も減るかもしれないとフードを被り直すユウヒであるが、そんな配慮など意味を成さないほどにカリナンはユウヒに罪悪感を覚えているらしく、その原因は大半がオーヤンにあると考える彼女は、頭を下げたまま視線を逸らすと、その先で目を覚まさない彼を恨めし気に睨む。


「まぁ、でもカリナンさんは特に何もしてないからいんじゃない?」


「あぁ……おやびん、骨は拾うっす」


 しかし、ユウヒの言葉に顔を上げたカリナンは、魔法使いの言葉を深読みして静かにオーヤンの冥福を祈るのであった。


「何もしないんだけどなぁ」


 尚、この地に住まうドワーフは死後必ず火葬され骨は大半が砂海に撒かれることとなるが、そんな事態にするつもりのないユウヒは、気絶するオーヤンに早く謝るよう声を掛けるカリナンを後目に小さく呟くと、遺物の調査をするため歩き出す。





 それからどれくらい時間が経過したのか、少し空がオレンジ色になり始める中で、ユウヒは調査対象の遺物であるコンテナの中から様々な物品を外に出して並べていた。


「よっこらしょっと」


 頭に被ったフードの奥で右目を輝かせながら大小様々な遺物を分別して行くユウヒは、最後の一個を砂地に並べ終えると年寄りくさい声を洩らし背中を伸ばす。身体強化などの魔法を使っていても、長時間背中を曲げて行う上下運動は彼の腰に少なく無い負担を蓄積させたようだ。


「調度品と消耗品と缶詰に何かの薬品か」


 グーを作った手で疲労を貯めた腰を叩き労るユウヒの目の前には、綺麗に並べられた大小様々な容器の数々、破損が目立つ物も多いが流れ着いて放置されていた割には金属製の容器の腐食は少ない。


 大きめの箱にはビニールの様な緩衝材で包れた調度品、いくつもある同一規格の立方体の箱の中身はさらに小さな円柱の缶詰が綺麗に収められ、ほかにも何かの薬品であろうガラス製の瓶やアンプルが入っているようだ。また消耗品だと言ってユウヒが見詰める一部の中には明らかに銃器の弾薬らしきものが見受けられ、一部腐食しているものもあり安全の為にそれらは少し離れた場所に集められている。


「コンテナはかなり良いものだな、これを使えば荷車の一つや二つ作れるな」


 一方、全ての荷物を外に出したコンテナは非常に大きく広く、側面の大きく開く開口部を閉めれば中に住むことも出来そうなほどで、コンテナを構成する金属を撫でるユウヒはどうやらそのコンテナを材料に荷車を作るつもりの様だ。本来遺物を勝手に利用するのはグレーな行為であるが、今回の依頼にはそれを禁じる文言は書かれていなかった。


「ちょ! おやびん! だめだって!」


「おいおまえ! 俺の遺物にさわんじゃねぇ!!」


 しかし、目を覚ましたドワーフにとってそれは許される事ではないらしく、動きの悪いコンテナの開口部を弄るユウヒに向かってオーヤンの怒声が飛んで来る。その後ろからはカリナンが慌てて追いかけて来ており、ユウヒの顔を見ると自分は悪くないと言った表情で首を横に勢い良く振って見せた。


「目が覚めたのか、怪我は大丈夫か?」


「おやびん! おやびんこの人に助けてもらったっすよ!!」


「あ、あん? たすけ? ん? 俺なんで寝てたんだ?」


 特に怒ることも無く砂まみれの男性ドワーフを少し心配するように見下ろすユウヒは、カリナンに説明を受けながらも首を傾げるオーヤンに右目の光を強める。頭を打ったことによる意識の混濁、記憶障害を疑うユウヒであるが深刻な所見は見られず小さく息を吐く。


「あれに殴られて飛んで行ったんだよ、咄嗟に魔法で衝撃を相殺したんだけど、砂地でよかったな」


 特に大きな怪我も見当たらない砂だらけのドワーフに、頑丈だなと言う感想を思い浮かべるユウヒが指さした先には大岩の様に見える巨大なヤドカリ、ユウヒを見上げたオーヤンはその指先に目を向けると指さす方へと振り替える。


「あ? ありゃ、ハンマーシャグラか!」


「なんですそれ?」


 どうやらオーヤン曰く、巨大ヤドカリはハンマーシャグラと言う名前らしく、その巨体を見た彼はユウヒとヤドカリの間で視線を往復させると困惑した表情を浮かべる。一方驚く彼と違い、カリナンはハンマーシャグラと呼ばれるヤドカリの事を知らないらしく、小首を傾げるとオーヤンの背中を指先でつつく。


「砂海の浅瀬を回遊する魔物だ。砂海の深い所に居るダイガイの貝殻を纏ってちょっとやそっとじゃ倒せない魔物、なんだが……」


「あの貝殻は硬かったな、良い素材になるよ」


 オーヤンの説明に頷き続けるカリナン、そんな彼女の隣でユウヒも興味深そうに話を聞いており、魔法を使った際の衝撃や手応えを思い出す彼は、オーヤンの話に納得するように頷き楽しそうな笑みを浮かべる。


「おめぇがやったのか?」


「調査の邪魔だったからね……あと美味しいらしいし」


 神様印の合成魔法をもってすればどんなに固い殻であろうと難なく加工することが可能であり、その事を楽しみにしているユウヒの呟きにオーヤンはしかめっ面を浮かべ、ニコニコとした笑みを見上げた。その笑みはオーヤンの問いかけに何でもないように頷くと、今度は食欲で笑みを深めて見せた。


「あ? あー……あんな大物狩れるなんて何者だ?」


 言外に倒したのは自分だと返事を返すユウヒを見上げ、頭を強めに掻きむしるオーヤンは、少し前まで噛みついていた時と違って不安が隠せない表情で何者なのか問いかけ、その問いかけにユウヒは何と答えようか考えるように顎を指で扱く。


「魔法使いっす魔法使い! すんごい魔法で串刺しにしたっすよ!」


「なに!? てめ魔法使いだと!?」


「まぁそんなところ、だよ」


 しかし、ユウヒが返事を返すよりも早くカリナンが声を上げ、目を輝かせながら魔法使いユウヒについて話し始める。詳細は全く伝わらないがユウヒが魔法使いである事はオーヤンにも伝わり、目を見開いた彼はユウヒから離れるように後退ると指差し身構え、その拒否反応を含んだオーヤンに対して困った様に肩を竦め苦笑を洩らすユウヒ。


「魔法使いがなんで遺物なんか漁ってやがる!」


「え? 冒険者ギルドの依頼だよ、複数の冒険者が失敗し続けてる調査があるとか言われて頼まれたんだよ」


「冒険者組合が魔法使いに依頼ぃ? そんな金持ちじゃねぇだろあいつら」


 単純に魔法使いに対する恐れだけではなさそうなオーヤンの噛みつく様な問いかけに対して、ユウヒは不思議そうに首を傾げると、冒険者組合から受けた依頼について簡単に説明する。しかしその説明に対してオーヤンは怪訝な表情を隠すことなく眉間に皺を寄せると大きく首を傾げ、彼の言葉にはカリナンも不思議そうに頷いた。


「そうなのか? まぁ俺は更新の為に依頼受けただけだからなっと!」


 どうやらどこの冒険者組合も共通してお金がないのか、それとも魔法使いに対する依頼料が基本的に法外な値段なのか、二人の認識がどちらかわからないユウヒは、しかし大して気にもならないらしくどうでもよさそうに返事を返すと、先ほどから気になっていた動きの悪いコンテナの開閉部を掴み、気合の声と共に開閉部を捥ぎ取ってしまう。


「……おらぁ頭が痛くなってきた」


 ドワーフにとって魔法使いとは、研究に没頭し非力な代わりに絶大な魔法の力で周囲を畏怖させるものである。しかし、目の前の魔法使いは頑丈な遺物のコンテナを力任せに捥ぎ取り、重い金属の装甲を軽々と振り回す。自らの培った常識が崩れて行くオーヤンは思わず頭を抱えるとその場で尻餅を付き、カリナンは顔を蒼くして目を見開き固まる。


「……?」


 実際は魔法の力で開閉部のジョイントを破壊しただけなのだが、それを理解出来ない二人の卒倒する姿にユウヒは不思議そうに首を傾げると、静かになったので良しとしようと無言でうなずきコンテナの調査を再開するのであった。



 いかがでしたでしょうか?


 冒険者たちの失敗の原因である巨大ヤドカリを串刺しにしたユウヒに呆れるドワーフ、彼等のその後はどうなるのか、次回もお楽しみに。


 それでは、今日はこの辺で、皆さんの反応が貰えたら良いなと思いつつ、ごきげんよー

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