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ワールズダスト ~砂の海と星屑の記憶~  作者: Hekuto


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第144話

 修正等完了しましたので投稿します。楽しんでいってね。



 明るい日の光が歪んだ窓に反射して室内に模様を映し出す。そんな部屋に置かれたふかふかのベッドの上で寝ていたユウヒが勢いよく起き上がる。


「ふわぁ……ねむい」


 ぼさぼさの頭で窓を見詰めていた彼は、ふかふかの掛布団をどかすと、そのまま温い床を素足である浮いて窓を開ける。窓を開けて外を見渡すユウヒはとても眠たそうで、高く昇った日の光に目を細める。


「久しぶりに寝過ごしたな、流石に頑張り過ぎた」


 眉に皺を寄せて目を細めるユウヒが宿に戻ったのは日付が変わる少し前、鹵獲品の量も多ければ、軍で用意された晩御飯も随分と量が多かったためだ。ニンニクのような香辛料をたっぷりと使った肉料理の山を思い出すユウヒは、まだ熱を感じるような胃の感覚にお腹を摩る。


「最後には頭痛が痛くなってたし、眼精疲労かな? 右目の力はまだまだ使いこなせてないよなぁ……」


 食休めも兼ねて残っていた鹵獲品を鑑定し、その鑑定が全て終わるころには頭痛まで起こしていたユウヒ。


 そんな飯は食えども酒は飲まず、そのくせまたすぐ鑑定作業を始めるユウヒ姿に、ドワーフの軍人たちは皆一様に感心した顔を浮かべていた。その時点で、ユウヒの印象は完全にストイックな高位魔法士で固まってしまい、軍人も職人も随分と好意的に彼を受け入れたようだ。


 だがユウヒは只の元社畜である。一度始めたものは、終わらせておかないと気持ち悪くなる悲しき生き物なのだ。


「ふん! ……何も見えない」


 鑑定すること自体も、調べるほどに次から次に知らないことを知る事が出来るため、好んで使っている節があり、それは現代人らしい情報中毒者の症状とも言える。


 今もお礼にともらった呪われてない黒石を手に取り、右目を強く輝かせると、無数の文字で埋まった視界に苦笑を浮かべた。


「くれるって言うから貰ったけど、微量の不活性魔力を被膜状に固定化して活性化魔力と反発するんじゃ、ゴーレムの核にはならないな」


 真面に文字を読み取れるまで右目の力を弱めると、黒石の正しい情報が浮かび上がってくる。ドワーフ達の認識では黒石自体が魔法に反発すると言うものであったが、正確には黒石表面に発生する不活性魔力の被膜による効果がそう見えるだけのようだ。


 その時点でゴーレム核には使えないことが分かり、他の使い道は無いかとユウヒは楽しそうに悩まし気な表情を浮かべる。


<?>


「まぁ、何かに使えるかもしれないから仕舞っておこうかね」


 黒石の影からぬるりと現れる闇の精霊の、要らない物だったのかという問いかけに、ユウヒは首を横に振る。ユウヒはどちらかというと捨てられないタイプの人間なのだ。部屋は片付いているが、大体は母親の明華が勝手に入って物色ついでに片付けるからである。


 そんな昼前に起きたユウヒは、やりかけだったバイクの整備にいそしみ小一時間、岩ボディも、元の外装も外され内骨格だけになったバイクの中で立ち上がる。


「よっこらしょ……うん、小さな歪みがあっただけで特に問題はなさそうだ」


 バイクとは言うものの、その構造は魔道具を用いることによって非常にシンプルで頑丈。ユウヒは小さな歪みがあっただけと言っているが、寧ろ歪みが出るくらいに酷使しているとも言える。


「単純な構造だからよかったのか、元になったあの遺物コンテナの金属が良かったのか」


 そもそもの材料となった物が、遥か古代の超文明によって造られ、現代にいたるまで錆び一つなく形をとどめて来た金属である。ユウヒによる加工が加えられたからと、そう簡単に破壊できるものでは無い。というより、本来なら加工も難しい素材であり、ユウヒの使う魔法の異常性が伺える。


 ならばその素材を使って武器を造ればいいじゃないかと、ユウヒもそう考えたことはあるのだが、


「うーん、強度は良いんだけど魔力との親和性が皆無と言うのがなぁ?」


 ユウヒが求めるのは魔法の補助もできて、さらに丈夫で壊れない長柄の武器である。魔法に関する反応を一切受け付けない素材である超文明の金属は、彼の求める要件を満たさないのだ。


「とりあえず、出発は明日で問題なさそうだ」


 足の踏み場もないような倉庫の中でふわりと飛び上がるユウヒは、出発の予定を明日に決めたようである。土間から板張りの上までゆっくり飛んで行くユウヒは、バラバラで、とてもじゃないが数日は組み立てるのに必要そうなバイクに向かって手をかざす。


 途端、膨大な魔力がバイクを包み、魔法の力によってバイクが勝手に組み上がっていく。


<?>


「午後は、もうゆっくりしようかな? 買い物って雰囲気でも無いし」


 板張りに座って目の前で組み上がっていくバイクを見詰めるユウヒは、頭の上に落ちて来た精霊の問いかけに少し悩んで答えた。午後の予定について問いかけられたようだが、時はすでに昼もすぎており、お腹もすきすぎて食べに行く元氣も出ない。


<!>

<……>


「妙に慌ただしい感じだし、お店とか屋台もあまり開いてないみたいだし、ご飯はまだ食材があるからねぇ」


 なにしろ休憩場全体が慌ただしい空気で満たされており、出歩けばまた面倒事に巻き込まれそうな雰囲気がしてならないユウヒ。彼の勘がそう告げるのであれば、十中八九面倒事が起きるのであろう。


 散歩に誘う精霊の言葉にも首を横に振ってこたえる彼の勘は、出歩いた先で楽しいこともないと言っているようで、苦しげに鳴く腹の虫を手で摩り宥めるユウヒは、冷たい板張りの床へとうつ伏せ気味に寝転ぶと、虚空を見詰めるような目を魔力の渦に向けて考え込む。


「呪いの鹵獲品とか、暴れる巨大ロボとか、帝国の軍とか、どうにもキナ臭いよな……ロボット物の一般市民はこんな気持ちなんだろうか」


 疲れと空腹と眠気で動く気力が湧かないユウヒは、口から考えている事を垂れ流し、スーパーなロボットが戦うゲームを思い浮かべる。ロボットが戦うアニメでは、詳しく描写されることが少ない一般人。そんな群衆の一人になったような気分に浸るユウヒの前で、明らかに普通ではない音を鳴らしてバイクが組み上がる。


 バイクが最後に魔力の光を放ち組み上がる瞬間の音は、控えめに言ってロボットのドッキング音のそれであった。


「遠くから見てる分には面白いんだけ「ユウヒ殿! ユウヒ殿はおられるか!」……なんだ?」


 どっからどう見ても一般市民枠とは真逆のユウヒが、現実逃避していると、外からドワーフの大きく野太い声が聞こえてくる。声からユウヒに急ぎの用があるようで、虚空を見詰めていたユウヒの目に生気が宿る。


「なるほど、理解しました。それを踏まえてこちらから何か言う事はないので」


 一応組み立ては終わったので問題は無いものの、念のために倉庫の中を見せないよう玄関から外に出てドワーフに応対したユウヒは、営業スマイルを顔に張り付けて受け答えしているが、どこか面倒そうだ。


 見たことがないドワーフの兵士は、良く応対してくれる小綺麗なドワーフよりも立場が上のようで、それでもユウヒに対し丁寧に対応する辺り、彼らの上官はずいぶんユウヒを高く評価している事が伝わる。


「よろしいのですか!? 一応、追加の報酬と破損させてしまったゴーレムコアの慰謝料を用意をする話も出ていまして……すぐには払えんのですが」


「その感じだと、結構時間がかかりそうなんでしょ?」


「ええ、軍の資金から捻出するので……とう、いや五日以内に!」


 報酬と慰謝料が貰えるがその代わり麦1休憩場に拘束されてしまう。両者を天秤にかけた場合、大抵の人間なら麦1休憩場での滞在を選択する。休憩場の中でもトップクラスに環境と設備の充実した麦1に滞在しているだけで、軍からお金がもらえるのだから当然と言えば当然。


 しかしユウヒは、早くドワーフの街を見てみたいがためにその選択を断る。まさか断られると思っていなかった兵士は、焦った様に日付を短くするも、その姿に何か嫌な予感を感じたようで、ユウヒは眉を顰めた。


「無理してならいらないです。明日の朝には出るので」


 少し前の金欠ユウヒなら、滞在期間を伸ばした可能性もあるが、今のユウヒは控えめに言って金持ちである。整備が終わり全体的に性能がアップしたバイクの腹の中には、ちょっとやそっとじゃ使い切れない金貨に、トルソラリス王国銀板まで収められていのだ。


 また、報酬を苦労して捻出しないといけない相手から貰うというのも、ユウヒ的にはあまり気分のいいものでは無い。


「それならば、少なくはなりますが司令のポケットマネーで「やめてもろて?」も?」


 そこにポケットマネーからなんて言われれば、尚更気分が悪い。思わず相手が話し終わる前に割って入ったユウヒは、驚く兵士を見詰めながら溜息を漏らす。


「いいよ、なんだか大変そうだし、ポケットマネーから貰うのはご祝儀にお年玉とか、縁起の良い物だけにしたいんだよね」


「縁起ですか……?」


 ユウヒの言葉が理解出来ないと言った様子で驚き目を見開くドワーフの兵士には、日本人の持つ縁起と言う文化があまり理解出来なかったようだ。


「そうそう、ありがとうなら受け取るけど、ごめんなさいは無理してまでいらないかな」


 余裕のある人間からのありがとうの気持ちなら気持ちよく受け取れるが、切羽詰まっている人間から無理やりありがとうの気持ちを貰っても、後味が悪く気分が悪い。ましてや今回は慰謝料まで含まれているのだ。そんなユウヒの説明は、終始ドワーフ兵士には理解出来ないものだったようで、ユウヒに言われた言葉は要約されること無く、司令官まで伝えられることになる。





 その結果、甚く感激した司令官は、無理のない範囲だと言って兵士にお礼の品を持たせることになる。


「律儀な軍人さん達だったな」


<!>


 旅をするうえで食事は大事だろうと、司令官が選んだのは、旅の中でも摂りやすい携行食の包み。加工したパパチャの葉に包まれたそれは、軍でも利用される保存性と栄養に優れた食事である。


「干し肉とパンと酒か……ドワーフらしいチョイスなんだろうか?」


 中身は薄く綺麗な長方形に加工された干し肉に、こちらも同じサイズで四角く加工された不思議な食感のパン。そこに当然のように酒樽が入っているところは、ドワーフらしい。2リットルほど入りそうな細長い樽は、麦1休憩場を出発したユウヒが座る、バイクの座席の後ろで水音を鳴らしている。


「少し味見したら料理に使うかな……」


 酔うほどは飲む気がないユウヒは、料理に使うつもりであるが、ドワーフが聞いたらどう反応するだろうか。少し興味もあるが、どこかの国の人のように、変わった食べ方や飲み方をすると怒り出すかもしれない。


 そう考えたユウヒは、呟きながら少し眉を顰めると、ドワーフに見られない場所で料理することを決める。


<!>


 そんなどうでもいいことで悩むユウヒを微笑まし気に見詰める精霊が、声を上げる。


「お? 交差点だ。ここから北に行けばいいわけだな?」


 見えて来たのは巨大な交差点、十字の交差点と二重の円形で構成された交差点は、三つの街道の接続点であり、国の中央とも言える場所だ。国の中央なら、街の一つもありそうなものであるが、見渡す限りの平地には交差点しかなく、そこには多くの人々が行きかっている。


 当然人が多いという事は遺物も多く、石畳の街道は関節から零れだすオイルで黒く染まって、緑の草原にくっきりと浮かび上がって見えていた。ユウヒと同じく西からきて北を目指す者は、交差点の中央ではなく、その周囲に敷かれた円形の石畳を利用している。


<!!>


「北に行って塩10休憩場があって、その先の塩9が宿泊予定の休憩場か」


 交差点の利用に、暗黙の了解がある事を察したユウヒは、スピードを緩めると、先を行く人に合わせて街道の左に寄り、バイクの上で瞬く精霊たちとこの後の予定について話し合う。


 中央交差点から西が麦街道、東が草街道、そして交差点から南北にのびるのが塩街道。精霊たちから教えられた知識を思い出しながら話すユウヒの目的地は、北の塩9休憩場である。


「麦街道は色々あったけど、塩街道はどうだろうね?」


 新しい街道に入っても街道は街道、それほど変わり映えはしないだろうと、ただ何事もない旅程を願うユウヒの問いかけに、精霊がひそひそと相談を始めた。


<……?>


「人が多いかも? そうか、事故には気を付けないとね」


 団子のように集まっている精霊の中から顔を出した闇の精霊曰く、これまでの麦街道より人が多いとのことである。人の多い道というのは事故も増えるもの、精霊の注意喚起に気持ちを入れ直すユウヒは、周りをよく見て慎重に円形街道に入るのであった。


 その動きは免許取り立てドライバーの様であったとか。



 いかがでしたでしょうか?


 ようやく次の街道へと入ったユウヒ。果たして彼の行く先に平穏はあるのか。


 目指せ書籍化、応援してもらえたら幸いです。それでは次回もお楽しみに!さようならー

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