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第139話

 修正等完了しましたので投稿します。楽しんでいってね。



 突然瓦礫が大きなゴーレムに変わり、運搬車を運んでいたドワーフ達が、しりもちついて驚いてから小一時間後、休憩場の軍司令室ではユウヒに関する報告がされていた。


「旅のゴーレム使いか……幸運だったな」


 一通りのユウヒに関する説明を聞いた休憩場の司令は、窓の外に見える崩れた壁を見ながら幸運だったと言って息を吐く。


 現在、麦1休憩場で真面な重機は一台だけ。しかも休憩場内にあるので、損傷のひどい外側の修繕には使えないと来た。出来ることと言えば、門から流れ込む様にして場内を塞いでいる瓦礫の撤去くらい。それも巨大ロボの作業効率と比較して、十分の一も出せれば良いと言えるほどである


「はい、すでに人が通れる程度には道も確保できています。想定以上の早さです」


「この短時間でそれだけ進められるという事は、上級の魔法士だろう。あまり無礼の無いように頼むぞ」


 それに比べて、ユウヒのゴーレムによる作業効率は巨大ロボを凌ぐほどである。


 すでに人が通れる程度には道が復旧しているという報告に、被害状況と照らし合わせる司令は驚きを隠せない。ユウヒに対する評価はうなぎのぼりである。それでも、彼が魔法使いだという事実にはたどり着かない。


 それだけ、ユウヒの思惑通りにゴーレムが目立ってくれているという事だろう。


「わかりました。まぁ、馬鹿な奴はゴーレムを恐れて近付きませんが……」


 そんなゴーレムは全高3メートル、背の低いドワーフからしてみれば十分恐れるに値する大きさである。しかも魔法の産物、魔法の使えないドワーフからしてみれば未知の恐怖の塊であった。


 だが一方で、魔法に対する憧れが勝つ者もおり、いろいろな意味でゴーレムには注目が集まっている。


「……仕事が無ければ近くで見たいところだ」


 休憩場司令は、どちらかと言えば好奇心が強いタイプのようで、窓の外に目を向けたままそわそわと足が揺れている。


「大きさなら小型機兵並ですよ。あんなのを一人で複数操るんですから、魔法は恐ろしい」


 機兵とはドワーフ国における戦闘用の遺物の総称であり、その中でも小型と言うのは4メートル前後のロボットである。運用には専門的な教育が必要であるものの、今回の騒動の原因となった大型機兵に比べれば比較的ドワーフの軍でも多く利用されるのが小型機兵。


 その運用には、一機につき最低一人の搭乗者を必要とし、整備のための人員も含めれば非常に多くの兵士を必要とする。そのためか、一人で複数のゴーレムを操る魔法、ひいてはユウヒと言うゴーレム使いは彼らにとって十分な脅威である。


「厄介事が続いている。余計な厄介の種にならぬよう重ねて頼むぞ」


「了解でさぁ」


 良好な関係を気付けているうちは非常に心強いものの、一転して敵対しようものなら厄介極まりない。3メートルのゴーレムとは言え、ハンマーでも装備して振り回すだけで、普通の兵士は風に吹かれる枯葉のように散ってしまうだろう。


 良好な関係を維持するよう念押しする麦1休憩場司令は、大型機兵で喧嘩する兵士と違って真面な軍人であるようだ。





 幸運とも、厄介事の種ともみられるユウヒは、


「そこ脆くなってるから一人は支えてあげて」


 大きな外壁が崩れて埋まった門前で、現場監督のように指示を出していた。


「ごむ!」


「ごむごむ」


 指示を受けて機敏に動くのは3体のゴーレム。その体は崩れた外壁に使われていた岩によって造られ、簡易と言うだけあってか、人の形をしているが所々歪である。しかし作業するのには何ら支障がなさそうなのは、流石は魔力に物言わせるユウヒ謹製と言ったところだろうか。


 現場監督のように指示を出すユウヒの肩には土の精霊陣取り、ユウヒのサポートに声を上げていて、瓦礫の周りでは風の精霊が飛び回っている。またユウヒが深く被ったフードの奥では、いつもより強く金色の瞳が輝いていた。


「クレーンでもあれば簡単に運べるんだろうけど、無いんだな」


<!!>


 ユウヒの指示によってゴーレムたちが持ち上げる外壁の残骸は、安全を考慮して一個ずつ、大きなクレーンでもあれば、まとめて運ぶことも可能なのだろうが、そこは無いもの強請りと言うものであろう。


 そもそも、簡易とは言え強力なゴーレムの運搬能力は、ドワーフ十数人分はある。安全を考慮してそれだけの能力を発揮しているのだから、それ以上を求めるのは欲張り以外のなにものでもない。


「いつもより遺物のロボットが少ないとか、国境がどうとか言ってたけど、タイミングが悪かったか」


 その証拠に、精霊と話しながらゴーレムを操るユウヒに集まる視線は、どちらかと言えば好意的なものが多い。


「急げ急げ! 魔法士さんの作業が滞るぞ!」


『うっす!!』


 基本的に働き者が好きで、負けず嫌いの気質があるドワーフ。目の前であっという間に大きな岩が運ばれる光景を目にして奮起しないわけもなく、ユウヒが崩れた外壁の山を解体する速度が速く、作業が自分たちの運搬作業で滞っているともなれば、自然と彼らのやる気も上がると言うものである。


 そんなドワーフの気質など知る由もないユウヒは、休むことなく懸命に働く彼らの姿を見て感心したように頷く。それでユウヒもやる気を入れ直すのだから、好循環と言えなくはないが、まったく休まない時点でワーカーホリックの気質も見え隠れしている。


「魔法士殿、申し訳ないのだが……もう少し手伝ってもらえますか?」


 テンションが上がって危険な表情で働くドワーフを不思議そうにチラ見しながら、ゴーレムに指示を出すユウヒ。そこへドワーフが一人駆け寄ってくると、腰を低くして問いかけてくる。


「大丈夫ですよ? まだ中に入れそうじゃないですし」


「ありがとうございます! 馬車で二台分くらい幅が広がれば後はこっちでやりますんで」


「そうですか」


 見るからに作業員とは違う、小奇麗な革鎧のドワーフ。彼の言葉にユウヒは何でもない様子で頷く。


 ようやく人が並んで歩けるくらいには広がった休憩場の出入り口。あまりにぐちゃぐちゃで、門とは言えなくなった場所には、急ごしらえの支えに変わり果てた門の支柱が突き刺さっている。そこまでは安全圏と言えるのだが、まだ出入口を通っているのは作業員ばかり、危険すぎて一般人の通過は許されて無いようだ。


「……あ! あとお泊りの場所ですけど、もう決まってますか?」


 そんな状態なので、ユウヒもまだ作業を続けるつもりで居たのだが、ここまですんなりと交渉が進むと思っていなかったドワーフは一瞬呆けるも、すぐに頭を振って気を取り直すと、次の交渉へと移る。


 いくら気の短いドワーフと言えど、平均種の魔法士がここまで即座に作業継続を了承してくれるとは思っていなかったようだ。


「いえ、ここは初めてなのでこの作業が終わったら探すつもりです」


「よかった! ならうちの方で予約とっておきますんで、一等良い宿を選んでおきますから期待しててください!」


「……そうですか、なら広めの倉庫宿をお願いします」


 そんなドワーフは、ユウヒの為に宿屋を確保しておくと満面の笑みを浮かべる。その表情をじっと見下ろしたユウヒは、口元に笑みを浮かべてお願いすることにした。


 ユウヒの視線に思わず唾を飲み込んでいたドワーフは、ユウヒの笑みにほっと息を吐く。なぜ彼が見てわかるほど緊張しているのか、それはユウヒが魔法士、という事もあるが、


「わかりました! 最低でも三日は泊まれるようにしておきますので……それでぇその、その宿泊代で今回の報酬には、ならんでしょうか?」


「……」


 これが報酬に関する交渉だったからだ。


 要は復旧作業の報酬を直接的な金銭では無く、休憩場での宿泊無料券で済ませられないか、そう言う交渉を持ち掛けたのである。その内容は、ユウヒの作業量を考えるとあまりに薄給。


 口元に笑みを浮かべて見下ろしてくるユウヒが、次の瞬間怒鳴り声を上げても仕方ないレベルで少ない報酬だ。もしこれがドワーフの鉱山作業員相手の交渉であれば、次の瞬間には作業を放棄してストライキを起こされてもおかしくはない。


「ああ! いえ!! ちゃんと払うつもりではあるんですけど!? その……ですね。急に動かせるお金が」


 おかしくは無いのだが、彼らにもすぐ動かせるお金が無いのだ。そもそも、こんなところに高位の魔法士が居て、作業を積極的に手伝ってもらえるなどと言う甘い勘定はもとよりされて無いのだから、それに伴う報酬の用意もあるわけがない。ユウヒの熟した作業に対する正当な報酬となれば、金貨が必要になってくるのだ。


 交渉役と言う貧乏くじを引いたドワーフが、蒼を通り越して変な色の顔になって慌てるのも致し方ない。


「ああ、気にしないでください。今日明日くらい泊れたらそれでいいです。宿泊費が報酬で構いません」


 だが、そもそもユウヒは金銭的な報酬目当てで手伝ってはいないため、その緊張は無駄以外の何ものでも無かった。彼はただ、早めに休みたかっただけである。


 頭の中に報酬の「ほ」の字も無いユウヒが考えているのは、油漏れを起こす前にバイクのメンテがしたいとか、温かい料理が食べたいとか、また宿は臭いのかなという他愛もないことばかり。


「い、いいんですかい?」


 勢いよく開けようとした重厚な金庫の扉が、実は自動ドアだったような肩透かしを食らったドワーフは、どんな表情を浮かべればいいのか分からなくなったようで、目を白黒させながらユウヒに問いかける。


 その声はとても不安げだ。


「ええ、ゆっくり出来ればそれで構わないです。流石に疲れたので、ゆっくり休みたい」


「ありがとうございます!!」


 口元だけでなく、目も細めて笑う様に話すユウヒに、ドワーフの不安は一気に解消した。


 とてつもない安い報酬の提示によって何を言われるのか、何をされるのか、不安で仕方なかった彼は、緊張の緩急で思わず目を潤ませ、その顔を隠す様に勢い良く頭を下げる。


 ミッションコンプリート、今日の仕事はこれで終わり、そんな感情が彼の頭に溢れていた。しかし、それがフラグだったのか、予想外の事態が発生する。


「ヤヴァイ! くずれるぞー!!」


「おや?」


 突然の大声。それは崩れた外壁の山頂辺りから聞こえてくる。


 ユウヒが見上げた先には、20メートル近い外壁が崩れる原因となった全高30メートルの大型機兵、そこでは壊れて動かなくなった機兵の解体運搬作業が行われていた。


 ユウヒでは手伝えない、ドワーフ国の機密の塊である機兵の解体は、ドワーフ工兵の手で行われていたのだが、足場が不安定な瓦礫の上という事もあってか外壁の残骸を崩してしまったようだ。その崩落は連鎖的に広がり被害を拡大させ、ユウヒが作業中の門前にまで迫って来た。


 その結果――


「わ……わ、わぁ!? 馬鹿馬鹿!! 何してんだお前ら! 魔法士さんのゴーレムが!?」


 大量の岩雪崩により、作業中の簡易ゴーレムは、とてもじゃないが耐えられない質量によって押し潰されてしまったのである。


 その光景に、交渉役のドワーフは悲鳴を上げた。


 それはもう大いに慌てた。せっかく今、彼の歴史上で最大級の交渉を終えたばかりだと言うのに、その交渉を水の泡にするような事故を目の当たりにしたのだ。彼が喜色満面だった顔色を土気色にして震え、ユウヒとゴーレムと作業員の間で勢いよく体ごと顔を動かしても仕方ない。


 作業員もゴーレムの状況を見て一様に顔を蒼くしている。


 ゴーレムは大型機兵ほどではないにしろ高価なものなのだ。特に魔法が使えないドワーフ達にとっては、遺物以上に金銭的予測が出来ないのがゴーレム、不明の恐怖はあっと言う間に周囲を支配した。


「す、すんません!! 肩の関節が外れちまって!」


 原因は大型機兵の肩関節が突然外れてしまったことによって、本来なら手の先から順番に小さく解体するはずの腕パーツ、それが解体する前にまとめて落下した事、その衝撃によって発生した雪崩は、ユウヒのすぐ目の前にまで拳大の石を転がすに至った。


 当然ユウヒより近くにいた作業中のゴーレムは、突然のことで逃げる暇もなかっただろう。


「あらぁ……」


「……ご」


「……ごむ」


 ゴーレムの元まで、外壁の残骸の上を跳ぶように走るユウヒは、岩雪崩の下から突き出るゴーレムの手足や、僅かに見える顔の奥で光る単眼のようなゴーレムコアに目を向けると、緩く困ったような声を漏らす。


 瓦礫の下からはゴーレムたちの困ったような声が聞こえ、その様子に精霊たちは心配そうに周囲を舞っている。周囲を見渡したユウヒは自然と頭を掻きながら溜息を漏らす。


 埋まったゴーレムたちの周りを見渡せば、馬車一台分くらい開けそうだった通路は人一人分まで狭まっている。不幸中の幸いとして、怪我人はいなさそうだが、その事が余計にゴーレムたちの不運を助長しているようだ。


「すいやせん!! マジですいやせん!!」


 何より不運なのは交渉役のドワーフだろう。


 ユウヒの足元まで瓦礫の岩山を這い上がって来た彼は、土下座するようにその場で頭を下げ、その姿に周囲のドワーフ達も神妙な表情を浮かべて集まり始める。


 そんなドワーフの心配を払拭させてあげようと、ユウヒはポンチョの内側のバッグに手を突っ込むと、見上げてくる交渉役のドワーフに向かって笑みを浮かべた。


「だいじょうぶですよ? 【ゴーレム】」


 呆けるドワーフを後目に、ユウヒは取り出した何かを瓦礫に向かって放り投げ、大きな声で呼びかける。


 投げたのは三つの簡易ゴーレムコア、


「ごむ!!」

「ごむごむ!!」

「ごむーん!!」


 そして瓦礫の中から生えるように姿を現す三体のゴーレム。


 瓦礫が元になっているのでやはり見た目は整わないものの、頑強な肉体を見せつけるようにポージングをキメて叫ぶと、ユウヒに指示されるまでもなく、埋まった仲間の救助を始める。


「ひぇ、増えた……」


 ドワーフは腰を抜かした。


 3メートルサイズなど、自国の小型機兵で見慣れているであろうドワーフの工兵や兵士だとしても、手のひらサイズの石を起点にして、3メートルのゴーレムが突然現れる姿に驚かないわけがなく、次々と岩を持ち上げ、埋まった仲間を引き摺りだすゴーレムに、周囲に集まったドワーフは驚きで間の抜けた声を、呆けるように開いた口から漏らすのであった。


「簡易ゴーレムはまだあるので」


「はぇぇ……」


 総勢六体となったゴーレムを背にして、にっこりと笑うユウヒに、交渉役のドワーフは小さく声を漏らすことしか出来なかった。


「……」


 周囲も似たようなものであるが、一部、誰にも気が付かれないように小さく舌打ちをするドワーフもいたようだ。



 いかがでしたでしょうか?


 ユウヒは妙な視線に小さく溜息を漏らす。


 目指せ書籍化、応援してもらえたら幸いです。それでは次回もお楽しみに!さようならー

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