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第138話

 修正等完了しましたので投稿します。楽しんでいってね。



 地平線に向かってゆっくり日が傾く麦1休憩場の門前に、巨影が二つ落ちている。


「いい加減落ち着け! この馬鹿もんが!」


 その影の元は、ドワーフ国の国軍が保有する遺物兵器、全高30メートルを超える巨体が、その巨体に見合った楯を構えて叫ぶ。正確には二足歩行のロボット内部に乗ったパイロットの声が、ロボットに搭載された拡声器によって大きくなっているだけだが、怒鳴っているせいか、スピーカーから聞こえてくるその声は割れている。


「誰が馬鹿だ! 上官だからって毎回馬鹿馬鹿うるせえんだよ!」


 そんな音割れに対して、こちらも音割れしているのが楯と一緒に巨大な斧も構える巨大ロボ。休憩場で唯一の出入り口である門を背にして叫ぶ彼は、叫ぶたびに手に持った楯や斧を振り回し、その場で地団太を踏む。


 どうやら日常的に馬鹿と言われることが気に喰わないらしい彼に、地面や20メートルはある外壁の上から見上げるドワーフの兵士達は、何とも言えない表情を浮かべている。その表情からは、気持ちはわかるが巨大な遺物を使ってまで暴れて主張することでもないだろうという、呆れの感情が見てとれた。


 自分の気持ちの主張に、ドワーフ国の精鋭である機甲部隊の機兵を使うドワーフは、声やしゃべり方からずいぶん若いようで、それに対して楯を構えて説教する操縦者の声はしわがれ、年齢の差を感じる。


「馬鹿に馬鹿と言って何が悪い! このお!!」


「がっ!? ……くそが! お前より俺の方が機兵をうまく使えるんだああああ!!」


 そんなしわがれた声のドワーフが楯で相手を抑え込もうと動くが、若さゆえの体力か、それとも手加減を忘れたことによる暴挙か、上体を崩しながら手に持った斧を勢いよく薙ぎ払う。


 薙ぎ払われた斧は、抑え込もうとした楯をはじき、その勢いのまま休憩場の外壁を削っていく。さらに反対の手に持っている楯も一緒に振り回すことで、無理にバランスをとる機体は、そのまま二度三度と不格好に回転を続けて周囲を斧で切り刻み、楯をぶちかます。


 その姿はまるで独楽のようで、技名をつけるならダブルラリアット。廻れば廻るほどに勢いが付き止められなくなる。巨大な質量が勢いよく回ればそれだけで周囲の人間には脅威、周囲のドワーフ達は一斉に逃げ始め、逃げ出した場所に斧と楯がぶつかり、無数の瓦礫を周囲にばら撒く。


「ぬぐっ!? 何がうまく使えるだ! 力任せに振り回しおってえええ!!」


 勢いよく飛んでくる瓦礫を楯で防ぐしわがれた声のドワーフは、明らかに制御を失い回る事しか維持できなくなった相手に悪態を吐くと、タイミングよく楯を相手の足の間に突き入れる。


 それだけで回転していた機体に急制動がかかる。しかしその代償は大きい。


「な!? うわああああ!?」


 突然の急停止によって、巨大ロボの関節と言う関節に強烈な負荷が加わり、肘、肩、手首から火花が漏れ、勢いよく曲がった首は折れ曲がったまま動かなくなる。体に巻き付く様にして止まった腕からは、巨大な斧と楯が手放され、勢いよく外壁に突き刺さった。


「しまった!?」


 さらに腰や捻じれた足の関節部からも大量の火花が出始めたかと思うと、不自然なほど勢いよく、機体は休憩場の門付近へと倒れ込む。いや、倒れ込むというよりは突き刺さると言った方が正しいかもしれない。


 その勢いは、機体の質量も相まって周囲に強烈な衝撃を振り撒く。





 その光景は、離れて見ていたユウヒの目にも見えていた。


「あー……門が潰れちゃったなぁ」


 バイクの上に座って見ていたユウヒが思わず呟く通り、制御を失った巨大ロボは妙な動きで外壁に突き刺さると、門も含めた広い範囲の壁を破壊して潰してしまう。機体もまたその上に覆いかぶさるように倒れると、動かなくなってしまう。


 ユウヒの思わず漏らした声に、周囲の人間も一緒に声を漏らす。彼らは大半が行商人や商会の輸送業者で、何があったのかとユウヒが声をかけた人々である。大半がドワーフで少し獣人が混じる程度の、ドワーフ国ではよく見る組み合わせだ。


「これじゃ入れないぞ?」


「おいおい、どうするんだよ」


「どうするっておまえ、どうするんだ? 門の復旧まで外か?」


 しばらくあっけにとられていたものの、倒れ込んだ巨大ロボによる土煙が落ち着いてくると、見物客の驚きも落ち着いてきたのか、現実的な声が漏れ聞こえ始める。


 ドワーフ国の休憩場はセキュリティ強化のために門は一つしかない。さらに外壁は最低でも10メートルという基準があり、麦1休憩場に至っては20メートルもあるのだ。門が壊れたら休憩場の出入りは出来なくなってしまう。


 そうなると、街道から溢れるようにして様子を窺っていた彼らは、休憩場に入りたくても入れず、最悪休憩場の外で夜を明かさなくてはならない。魔物がいつ出てもおかしくない場所での一夜など、真面に寝れるわけもなく、あちこちから不安の声が聞こえ始めていた。


「勘弁してくれよ……。今日は超特急で来たんだ、早く中に入って休みたい」


 また、今の時間は休憩場への入場者が増えるピークより早い時間、それは彼らが急いで休憩場を目指してきた人々であることを示す。


「あほか、今ここにいる連中はみんなそうだろ。なぁ? ゴーレムのあんちゃんもそうだろ?」


 この場にいるのはみんな、そう言うタイミングで騒動に巻き込まれた人々で、馬に跨った行商人のドワーフは、知り合ったばかりだと言うのにユウヒに向かって気さくに話しかけてくる。


「ええまぁ、出来れば早めに休みたいですし、メンテナンスもしておきたいんですが……」


 商人たるものいついかなる相手でも動じてはならない、それがドワーフ商人の心得。ドワーフ国で商人を目指す者は大抵そう言う人種で、ユウヒのゴーレムには少し驚きはしたものの、害意を感じないユウヒに対してすぐに親身になった彼らは、ユウヒの言葉に頷いて見せると、視線を岩のゴーレムバイクに向ける。


「ゴーレムもメンテナンスいるんだな、俺も今日は後ろの関節が片方おかしくてよ、まいるぜ」


 ドワーフにとってゴーレムは未知に近い存在。メンテナンスが必要かどうかも知らないレベルである。そんな彼らは馬や荷馬車に乗る者も居るが、小型の遺物に荷台を引かせるものも多く、バッタ型の遺物に乗るドワーフは自分の遺物の太い後ろ足に目を向けながら溜息を漏らしている。


 どうやら彼が早めに休憩場を目指したのは、不調の遺物を修理するためのようだ。緊急時であれば街道で修理することもあるが、魔物がいつ現れるか分からない危険な外で、大事な遺物の修理をするドワーフは滅多にいない。


 彼の愚痴を切っ掛けに、周囲に広がるのはそれぞれの遺物や荷車の不調を訴える声、声、声。どうやら皆それぞれに不調を抱えているようだ。


「それにしても、なんの喧嘩なんですかねぇ? ……あ、もう一機も倒れた」


 巨大ロボ同士の騒動が一旦の落ち着きを見せたことで、愚痴を漏らし合い始める人々の輪に加わるユウヒは、視界の端で動いた何かに目を向ける。それは倒れた巨大ロボを制圧していた側の巨大ロボ。関節のあちこちから火花が散ったかと思うと、そのまま肩膝をついて倒れてしまう。


「あちゃぁ、まぁあんだけガチンコで殴り合ってたらさもあらんなぁ?」


「こりゃ門の復旧できないんじゃないか? 重機型の遺物も見当たらないしよ」


 ドワーフ国軍が誇る再生遺物である巨大ロボは非常に強力で、帝国に飲み込まれること無く国を維持できているのも、こういった兵器を数多く所有しているからこそである。


 その性能は非常に高く、アウカラ程度の魔物なら物の数に入らない。なんだったらドラゴンとだって戦えると彼らは豪語しているようだ。しかし、同等の相手と殴り合いともなればそうも言ってられず、暴れる同僚を無理して止めた機体も無事ではすまなかったようだ。


 そうなってくると問題になるのが復旧作業。その大きさもあって、ドワーフ達の巨大ロボは重機の代わりにも使われる。


「重機型とかワーカータイプは燃費悪いから、普通のやつはこんなとこまで連れてこないだろ」


 土木工事など専用の遺物もあるにはあるが、運用面から急に持ち出せるかと言えば無理と言われるだろう。そもそもが需要に対して数の少ない遺物、急な需要にこたえられるわけがない。


 そうなると、重機を置いている休憩場から融通してもらうしかなくなるのだが、


「一番近場だと、東の鉱山地区か? 連れて来るのに何日かかるんだ?」


「早くて、十日はかかるよなぁ」


「いんや、それ以上かかるな」


 そう上手くはいかなそうだ。


 集団は騒動の起きた現場近くまで進み、にっちもさっちもいかない様子を、行商ドワーフ達が酒の肴にし始めた頃、ユウヒたちの輪に兵士が走ってくる。


「すまない! 誰かパワー型の遺物持ちはいないか? 見ての通りなんで手伝ってほしい」


 どうやら、本当にどうにもならない状況のようで、足止めされている人間にまで救援要請を求めに来たようだ。その様子に、ユウヒの周りの人々は怒るでもなく顔を見合わせると、困った様にドワーフ兵士を見詰める。


「手伝いたいのはやまやまだけど、むりだな。手伝える手がねぇ、そっちこそ重機型はねぇのかよ」


 基本的に行商人が使うような遺物は、力より速さ、持久力が売りの遺物が多い。燃費の悪いパワー型を使うのは、それに見合った報酬が約束されているような仕事をする者くらいで、この場にそんな人間はいない。


 一方で、休憩場を守る兵士達はどうなのかと言うと、


「そうか、こっちも大半は国境沿いに連れてかれてな、あの二機もようやく街から配属して来たばかりなんだ」


 彼らにもいろいろと問題があるようで、真面なパワー型は壊れた二機の巨大ロボしかないようだ。そんな二機の巨大ロボットを見上げるドワーフ兵士の口からは、思わずため息が洩れてしまい、その姿に周囲の人間は生暖かい視線を向ける。商人たちも無下に怒れないくらいには、軍に関するいろいろなうわさが広まっているようだ。


「街兵士か、なにやってんだか」


 一方で、暴れていた巨大ロボの兵士には、ヘイトが集まり始める。


 街兵士とは、主に首都パッフェビュッフェに勤める兵士の事で、彼らは所謂エリートと呼ばれる人間だ。そう言った人間は、大半が実力半分の捏ね半分と言った感じらしく、あまり一般人からの受けは良くなかった。


 それを抜きにしても、彼らには兵士を手伝う術がない。体を張れば多少の助けにはなるだろうが、それでは焼け石に水と言うものである。


「他当たってくれ」


「そうか……」


「…………手伝いましょうか?」


 そんな中で声を上げる者が居た。


「ん? 君は?」


「ゴーレム使いの冒険者です。お嫌でなければゴーレムで手伝いますが?」


 ユウヒである。


 ドワーフ国ではどちらかと言うと珍しいタイプの人種、そんな彼からの言葉にドワーフの兵士は目を瞬かせる。人種も珍しければその職もドワーフ国では珍しい。


「良いのかよ、あんちゃん。あんたのゴーレムも調子悪いんだろ?」


 ゴーレム使いと言う魔法士だけでも珍しいのに冒険者だ。兵士が思わず訝しんでしまうのも仕方ないが、彼を取り巻く人々に悪い感情はうかがえず、その姿に背筋を伸ばす兵士は、行商人たちの声に耳を傾けながらユウヒを見上げる。


「いえ、まだ簡易ゴーレムがありますので、壊れた壁の石でゴーレム作っていいなら、いくらか手伝えるかなと」


「助かる! 素材にするの問題ない! それにゴーレム偏見なんて俺らにはないから来てくれ!」


 ドワーフも、その職業や階級によってゴーレムへの偏見度合いは変わる。中でも一番偏見が無いのは兵士だろう。何せ彼らは職務上ゴーレムとも肩を並べて戦うのだから、当然と言えば当然である。その次くらいが行商人、商売のタネになるなら何でも仕入れる彼らにゴーレムへの偏見は少ない。


 喜び飛び跳ねたドワーフに先導されてゆっくりとバイクを走らせるユウヒは、良くしてくれた行商人のグループに手を振る。手を振られたら振り返す、その自然なやり取りを終えた彼らは、誰からか分からないが溜息を漏らす。


「ゴーレムは便利だなぁ? 流石魔法だぜ」


「羨ましい限りだな」


 ドワーフにとって魔法は憧れ、その憧れが反転することで、魔法士やゴーレムに対して偏見や敵愾心を持つ者は少なくない。しかし、ユウヒが声をかけた行商人グループにそう言った感情はなく、寧ろ憧れの魔法で仕事する自分の姿は妄想してしまう程度には、ユウヒに好意的であった。





「どうにかなりそうか?」


「……完全に埋まってますね」


 一方、敵視されなければ、基本的に誰にでも友好的なユウヒは、呆れたように呟く。


 目の前には休憩場の大きな門だった壁が立ちふさがる。どう見てもちょっとやそっとで開通できるようには見えず、瓦礫の上にはさらに巨大ロボットが寝そべり関節から火花を散らせている。不用意に人が瓦礫に登って作業すれば、二次災害が起きかねない。


「弱い所にやっちまったからな」


 まるで狙ったかのように斧と楯で壁を壊し、急所に倒れ込んだという巨大ロボットを見上げるユウヒ。


 日本に住む夢見る男の子として、当然ロボット物も履修済みのユウヒ。飄々とした様子であるが内心わくわくが止まらない。止まらないが故に、目の前でボロボロになった巨大ロボには、落胆にも似た感情が湧き出る。


「それじゃ、壊れた壁を素材にゴーレムを作るので、それで瓦礫を運搬しましょう」


 出来れば綺麗な姿で、もっとかっこいいポーズを見たかった。などと言う感情を振り払うように、ドワーフ兵士に笑みを浮かべて見せるユウヒは、ポンチョの中のバッグに手を突っ込む。


 中から取り出したのは、聖域で使ったゴーレムの核を元に、自重でダウングレードした屑石のゴーレム核である。起動試験は終わっているが、実際に何か作業をさせたことがないゴーレムを、今回の作業に使うつもりのようだ。


 魔法使いだと分からないように、ゴーレム使いに扮するユウヒであるが、すでに立派なゴーレム使いである。


「助かる! おい! 運搬車準備してくれ!」


 ゴーレムの核を手に、フードの奥で金色の瞳を輝かせるユウヒは、きょろきょろと瓦礫を見渡しながら、ゴーレムを作るのに良さそうな場所を探す。


 その姿を不思議そうに見ていたドワーフ達が、腰を抜かすほど驚くまであと五分である。



 いかがでしたでしょうか?


 瓦礫がゴーレムに姿を変えて立ち上がり、その3メートルほどの影にドワーフは驚きしりもちをつく。


 目指せ書籍化、応援してもらえたら幸いです。それでは次回もお楽しみに!さようならー

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