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ワールズダスト ~砂の海と星屑の記憶~  作者: Hekuto


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137/149

第137話

 修正等完了しましたので投稿します。楽しんでいってね。



「ドワーフの二人は駄目だったみたいだな」


 夜中に一雨振った事で、少しの湿り気と清々しい空気で満たされる麦街道。日が昇り始めたばかりで、風が通ると少し寒くすら感じる街道を、ユウヒはバイクで走りながらぽつりとつぶやく。


 朝も早くから宿を引き払ったユウヒは、散歩中のセシーと偶然会って別れの挨拶を交わしたのだが、その際に聞いたドワーフ達の状態を思い出した様だ。


<……>


「酒が好きだからと言って、強いわけでは無いのかな? ……まぁ地球でもそんなもんだよな」


 ドワーフは酒好きであるが、誰もが酒に強いというわけではない。それでも平均的な酒への耐性で言えば十分強いのだが、飲む量が半端ないので、ドワーフの中でもそこまで酒に強いわけではないヒャルムとスレントは完全に二日酔いになっているそうだ。


 酒が好きと、酒に強いは常に共存するわけではない。自らの交友関係でも似たようなものだと小さく溜息を洩らすユウヒは、ドワーフ達の事を思い出すきっかけとなった酒気を払うように大きく息を吸って吐くと、風を求めて少しバイクのスピードを上げる。


<……?>


「たまにはああやって騒ぐのはきらいじゃないよ? 色々話も聞けて楽しかったし」


<……?>


「今まで聞いたのと同じように魔物が増えてる話とか、ドワーフ国内に侵入している帝国兵の話とか」


 肩に座る水の精霊の声に苦笑を漏らすユウヒ。


 昨日の酒盛りが嫌だったのかという問いかけに、眉を少し上げたユウヒは前を向いたまま面白い話が聞けたので楽しかったというが、その内容はとても楽しそうには思えない内容ばかり。


「安全のためにもそう言う情報は助かるよね」


 楽しいというならもっと別の話があるだろうに、危険な情報ばかり上がるのは、ユウヒがその事を気にしているからであろう。


 特に魔物や帝国の話は、印象に残るほど厄介な気配を感じたようで、安全の為と口にしながら思わず眉を顰めてしまう。その感情は精霊にも感じ取れたのか、周囲を舞い追従する精霊たちは自然とユウヒの近くに寄ってくる。


<!!>


「それは心強い……あとは遺跡封鎖の話が気になったね」


 何かあっても守ってあげると語気を強める精霊に目を向け、少し驚くようなそれでいて可笑しそうに笑うユウヒは、遺跡の封鎖も気になるという。


 超古代文明の遺物が多数発掘される遺跡。その遺跡が多く眠る事で、ドワーフが住み着いたのがドワーフ国の始まりである。元は小さな集落が点在するだけだったものが、大きく横に広がって、国にまでなったのは遺跡によるものが大きいのだが、そんな遺跡が最近あちこちで封鎖されている様だ。


「魔物が増えた原因だとか言ってたけど、あり得るの?」


<……!>

<……>


「あり得るのかぁ……封鎖の原因とかは分からない? 鉱山もいくつか魔物被害で封鎖しているらしいけど」


 魔物が増えてからか、それとも別の要因で封鎖された遺跡で魔物が増えているのか、その辺りの因果関係は、現地に住むドワーフの間でも良くわかっていない様で、通りすがりの精霊に聞いたとて、可能性はある程度の情報しか集まらない。


<?>

<……?>


「現地精霊に聞かないと分からないか」


 封鎖されているのは、冒険者にかかわりのある遺跡だけではなく、鉱山もまた封鎖されていっている。それは、昨日の酒盛りの席で酔っ払い二人が愚痴っていた話で、又聞きの又聞きで信憑性は薄い。


 精霊に聞いても、彼女達にとっては人の行う鉱山封鎖など気にするものでもない為、その場に居合わせた精霊は何も知らないという。


<!!>


 そんな少し残念そうなユウヒの言葉に、精霊は色めき立つ。


「あぁいや、どうしても知りたいわけじゃないから、必要な時に頼むよ」


 任せろと言わんばかり輝く土の精霊は、ユウヒの言葉に気勢をそがれた様にキョトンとした意思を漏らすと、跳び上がっていた体を綿毛のようにゆっくりとバイクの上に下ろす。その姿は少し残念そうだ。


<♪>


 しかし、頼って貰える余地をユウヒの言葉尻から感じた赤茶色の精霊は、機嫌よさげに瞬いている。


「でもまぁ、何か起きてるんだろうね。魔物が先か封鎖の原因が先か……なんだか嫌な予感がして来た」


 バイクの上でわちゃわちゃと翅を休める精霊たちから視線を前に戻したユウヒは、昨日聞いた話を頭の中でまとめていくが、考えれば考えるほどに彼の勘が悪い予感を訴え出す。彼自身、自分の勘が母親譲りに異常な勘だという事は認識しているので、表情がついつい険しくなってしまう。


 そんな険しくなる顔を、皺予防の為にも努めてほぐそうと指先で揉み解すユウヒ。しかし何かに気が付いたのか、その手を止めて目を見開く。


「これ、もしかしなくても……ドワーフの国に行っても素材が手に入らないやつじゃないだろうか?」


 勘が良いからと言って、答えが分かっているわけではなく、こっちの方が良いか悪いかと言った感覚的なもの。その感覚だけで物事を考えれば、思わず良くない想像ばかりがはかどる、それが陰に属する人間の生態である。


 もし鉱山の封鎖が、思っているよりも深刻だったらなどと考えてしまうユウヒは、ドワーフ国でも素材が手に入らないという未来を脳裏に思い描いてしまう。


 そして視線は自然と、助けを求めるように、バイクの石ボディの上の精霊へ……。


≪…………≫


 一斉に視線から逃れるように明後日の方向を向く精霊。精霊は嘘をつかない、しかし誤魔化しはする。


「え、ちょっと君たち? 一斉に目線逸らすのやめてよ、精霊のその反応は洒落にならんて」


 悪気はないのだ、しかしユウヒにとって良い情報が全く言えないと悟った精霊の行動は迅速で、その姿にユウヒは狼狽する。


 精霊の言葉はその性質も相まって予言に近い。精霊と交信できるも者達が、高い地位に就きやすいのはその為で、その恩恵は異世界の人間同様にユウヒも理解している。特にユウヒは、一般に精霊と交信できるという人間に比べてより鮮明に言葉を交わせるのだ。


 誤魔化されたことによる心中は穏やかでいられないだろう。


 慌てるユウヒに精霊も慌てる。彼女達も悪気があるわけではない。それを説明するのに、それから数十分を要した。精霊との意思疎通はむずかしい。


「うーん、まぁなるようになるか? 武器無くても困ってはいないからいいけど、安心感は違うんだよなぁ」


 複数の精霊の、しどろもどろな説明を咀嚼したユウヒはバイクの上で唸る。その表情は爽やかな風が嘘のように苦悶に満ちていた。しかし、この場にいる精霊では詳しいことが解らないと理解したユウヒは、深く考える事を止める。


<?>


「あり合わせ? でも良いんだろうけど、すぐ壊れるのもそれはそれで嫌なんだよ」


 見栄えや安心感、万が一の場合に備え、そこに拘りを一掴み添えた程度の理由で武器を求めるユウヒ。あり合わせの武器でもいいと言えば良いのだろうが、ユウヒの魔法に耐えられる杖となると一般に流通することはない。そうなると、高確率で武器は使用するたびに壊れる。


 ユウヒも壊したいわけじゃないのだ。ただユウヒの魔力は神も驚く質と量、数打ちの武器で耐えられるわけがない。そう考えると、ワームの素材を使ったユウヒ謹製の杖? は非常に優秀だったと言える。





 悩みながら街道を走るユウヒは、向かう先から走ってくる何かに目を向ける。


「今度は車タイプか、車輪が付いたロボットより多足歩行型のロボットが多いんだな」


<……!>


 セシーに見送られて以降は何もなく順調に街道を走り続け、泊った宿は変わらず臭く、より外の空気が美味しく感じる道中、塩街道に近付くほどに対向車が増えてくる。


 そのほとんどが馬車であるが、次に多いのが多足歩行型の遺物ロボット。意外なほど軽快に走っていく様々な見た目のロボットに、ユウヒの心の男の子はわくわくを隠せず、珍しい車両タイプを目にして呟く声は何時もよりいくぶん高い。


「街ではもっと遺物を見れるのか、楽しみだな……」


 塩街道は南北にのびるドワーフ国の主要街道で、北はドワーフ国唯一の街に続き、南は触手のように伸びた細い帝国領土を抜けて、多種族文化圏である中央砂漠地帯にまで伸びる。ユウヒが向かっているのは、塩街道を北に進んだ先にあるドワーフ国唯一の街パッフェビュッフェ。そのなんとも美味しそうな名前の街にユウヒは想いを馳せるが、気になる事もあるのか、すれ違う多足の遺物ロボットに目を向ける。


 よく見るとロボットの操縦士もユウヒのバイクを見詰めていた。


「……どれも整備不良って感じだよね」


 それは遺物ロボットの見た目である。油垂れの跡や錆、耳に残る不機嫌そうな関節の音、それらはどれも整備不良をうかがわせた。


「右目で見なくても分かるくらい動きが悪かったり、よく見たら石畳も汚い」


 しかし、そもそも遺物とは古代の文明の遺産であるオーパーツ。いくら優れた文明であったからと、遥か未来でも新品同様の姿で出土されるわけではない。むしろ動く状態にまで修理できることが、その品質の良さを意味しており、さらには日常に使われている事からドワーフの技術力の高さを示している。


 一方で、ユウヒは高度で洗練された車両文化を持つ日本出身、その下地となる認識と、ドワーフと言う種族や古代文明への期待、そう言った感情がゆえに、道行く遺物ロボットの姿にはもどかしさを覚えずにいられない様だ。


「ここまでの道でたまにシミみたいな汚れがあったけど、この辺は綺麗な石の方が少ないし、補修跡が目立つね」


 特にユウヒが気になっていたのは石畳、首都に近付けば近づくほどに増える遺物ロボット、そこから漏れるオイルは、明るい灰色の石畳を濃く黒く染めてしまっていた。また補修跡などは明らかに石畳の色が変わっており、そのまだら模様には何とも言えない哀愁が漂う。


<!!>

<……>


「あぁやっぱり、不具合ロボットのオイル漏れなんだね。まぁ日本でも、お漏らししてる車はたまにいるからなぁ」


 精霊たちの言葉に耳を傾けるユウヒは、自分の中で勝手に膨れ上がっていた期待に対して自嘲気味に眉を寄せた。なにせ、そう言った補修跡が目立つと言うのは、日本でも良くある話であり、その原因も同様なのだ。


「俺のバイク漏れてないよね?」


 勝手に期待して勝手に落胆する自分の姿が滑稽に感じられたユウヒは、自分も街道を汚してしまっていないかと気になりだす。


 いくらユウヒのバイクの動力が魔法由来であろうと、その基本となる負担は普通のバイクや車と同様で、ベアリングやサスペンションと言った摩擦が発生する場所には、当然潤滑用にオイルが使われている。


<!>


 ユウヒの問いかけに、周囲の精霊がバイクの後ろを確認して、問題ないと明るく輝く。


「よかった。結構走って来たから、そろそろメンテナンスも必要かな? ……次の休憩場は、麦1だよね」


<!>


「すぐそこか、大きめの倉庫宿で点検しておくかな……?」


 今日の宿泊予定の場所は麦1休憩場。麦街道最後の休憩場であり、麦街道の休憩場でも人の往来が多い場所である。


 精霊曰く、人の往来が多い麦1休憩場はそれに見合った広さがあるらしく、宿泊施設は質も量も兼ね揃えているという。そんなふわっとした精霊たちからの説明に、ユウヒは期待を膨らませてバイクを僅かに加速させる。


 しかし、そんな浮足立ったユウヒの感情も長くは続かなかった。塩街道に近づくほどに、切り開かれていく森は、とうとう樹の一本も無くなり、開けた緩やかな丘陵の先に大きな外壁を持つ休憩場が見え始める。


「なんか騒がしくない?」


 しかし、その休憩場の影は、遠くから見ても分かるくらいに騒がしい。人がたくさんいるとか、活気があるといった雰囲気ではない。それは騒動の気配、その不安になる空気を肌で感じたユウヒがバイクを加速させると、その原因がすぐに見えて来た。


「うわ! すげぇ、二足歩行ロボット初めて見た……でも何ごと?」


 緩やかな丘の上にある休憩場までまだ距離があるのにすぐ目につく巨大な遺物ロボット。これまでの多足歩行型のバッタやクモのような遺物ロボットと違って人の様に立って歩くそれは、まるで騎士のような楯と、重厚な斧を手に持っている。


 人よりずっと大きな、ビル十階分はありそうな巨大ロボットが暴れているのは、休憩場唯一の出入り口である門前。ロボットは二機が対峙して何か言い合いをしては、手に持った斧や楯を振り回していた。


「あの辺、人が集まってるな……入れないのか」


 そんな騒動から逃げて来たのか、それとも近寄れないのか、丘のふもと辺りでは馬車や遺物、多種多様な旅装の人々が、街道から溢れるように集まっていた。いくつもグループに分かれるように集まる人々は、巨大ロボットを見上げては何やら話しているようだ。


「聞いてみよ」


 そこに行けば状況も分かるだろうと、バイクのスピードを緩めたユウヒは、なるべくゆっくりとした足取りで、街道から溢れた集団を驚かせないように、その一角を目指すのであった。



 いかがでしたでしょうか?


 多足も良いですが、二足歩行型ロボットはロマンですよね。私はガチタンも好きです。


 目指せ書籍化、応援してもらえたら幸いです。それでは次回もお楽しみに!さようならー

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