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ワールズダスト ~砂の海と星屑の記憶~  作者: Hekuto


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第134話

 修正等完了しましたので投稿します。楽しんでいってね。



 アウカラと言う魔物に食指が動いたユウヒ。


「……あまり気にしてなかったけど、魔物が少ないな? トルソラリスだとちらほら気配を感じてたのに」


 しかし、彼はまだアウカラと遭遇していない様だ。


<……>


 それもまぁ仕方ない、と言える事情がユウヒにはある。


 魔物とは、魔力との親和性が高いことで変質した動植物だ。それ故に魔力に対する感度は人よりずっと鋭敏で、圧倒的に巨大な魔力を感じようものなら、大半の魔物は身を潜めてしまう。


「近付いてこないのはまぁ、向こうでもいっしょだったけどさ……それにしても少ない気がする」


 精霊のどこか呆れていそうにも思える声に、悩まし気な表情で唸るユウヒ。創作物などでよく見られる魔力の隠蔽であるが、それは魔力に鈍感な人間にだから通用する技術である。ユウヒも普段ほぼ魔力を外に漏らしていないので、普通の人なら気が付かないし、魔法士であっても少し違和感を覚える程度、しかし魔物は違う。


<……?>


「そうだね、小さい反応はあるけど、みんな逃げちゃうね」


 ユウヒが魔法に使う魔力は質・量ともに尋常ではなく、その残滓だけでも魔物にとって警戒するのに十分な理由になる。


 それにしても違和感があると呟くユウヒは、実際に出会ってはいないものの、トルソラリス王国でも魔物の気配はいくつも感じていたのだ。そのどれもがユウヒの纏う魔力の残滓に怯え隠れていた。しかし、ドワーフ国の魔物は直ぐに逃げてしまい、ユウヒの通った後には魔物の空白地帯が出来てしまうほどだ。


<!!>


「……バイクが怖いのか、それでたまに近付いてくるのがウィードぐらいなのね。……こっちのウィードは大人しいな?」


 原因は精霊曰く、バイクだという。弱そうな人間が魔力を纏っているだけなら、魔物も勘違いかと思って様子を見るが、そこに強そうな地竜に見えるバイクが合わさる事で、魔物たちの意識を潜伏から逃走に切り替えてしまうようだ。


 近づいてくる魔物と言えば、知恵のある魔物とは違う生存戦略をとっているウィードのような魔物ばかり。そんな風任せに移動するウィードと言う魔物も、ユウヒを見ても特に攻撃してくることなく通り過ぎていく。


<……!>


「え? 向こうで見たウィードが凶暴すぎただけ? なんでだろうね?」


 しかし、ウィードと言う魔物はそれが普通なのだと精霊は言う。どうやら今までユウヒが見て来たような、積極的に襲い掛かってくるウィードは、同じ種類の魔物の中でも異常な生態をしていた様だ。目の前を風にのって転がっていく、葉に艶のあるウィードを見送るユウヒは、不思議そうに首を傾げるが、精霊も一緒に首を傾げ、明確な答えをくれる者は誰もいない。


 それから小一時間、たまにすれ違う馬車や多足歩行の遺物から興味深げな視線をぶつけられながら走るユウヒは眉を顰める。


「んーもう少しで5麦だけど、魔物いないね? 6麦の人が魔物出たから気をつけろって言ってたけど、居ないよなぁ」


 昨日泊った休憩場の門番から注意を促されたユウヒは、今日こそアウカラに出会えると期待していた様で、余計に残念な気持ちが漏れだしているようだ。


<……>


 しかし、そもそも街道には魔物があまり寄り付かない様になっている。


「魔物避けの草? あー街道の脇に群生してるや? あれ魔物避けなのか、調べてなかった」


 その理由の一つが魔物避けの草、主に動物系の魔物に対して忌避効果のある匂いを放つ草であり、街道沿いの茂みなどに群生させてある。背の低い笹のようにも見えるそれらの草は、ドワーフ達が定期的に世話して維持されている。


「普通は魔物避けの草が臭くて近付かないものなのね」


 右目の瞳を金色に輝かせるユウヒは、じっと茂みを睨む様に見詰めると、視界に浮かび上がってくる魔物避けの草の情報を読み取り、感心したように頷く。


 彼が理解した様に、本来なら動物系の魔物は街道に近付いてこないものなのだ。それが最近になって姿を現すようになったという事は、ユウヒにはその深刻さが解らなかったが、ドワーフ達にとっては十分な異常と言える。


「こりゃ、アウカラ狩る前に麦街道走破しそうだな」


 だが、ユウヒは魔物避けの草と言う植物の情報を見たことで、アウカラ狩りを諦めてしまう。アウカラを狩って良いのかも、事前に問題ないとドワーフ兵士からお墨付きをもらっているユウヒであるが、その草の効果は魔物対策に十分だと感じさせるものがあった様だ。


 だが、その気持ちの切り替えがフラグだったようで、


<!!>


「アウカラが居た? 向こうで冒険者が戦ってるの?」


 前から飛び込んできてユウヒの顔に張り付いた風の精霊が、アウカラ出現を知らせる。


<!>


 風の精霊曰く、少し飛んだ先の街道上で冒険者がアウカラと戦っているという。風の精霊の少しは人間にとって割と遠い、ユウヒの今いる場所であるなら、麦5休憩所からそれほど離れていない場所であろう。


「あーでも、戦ってるなら横取りはご法度だよね?」


 時刻は昼まで一時間といったタイミング、うまく行けばランチのメニューがアウカラになるかもしれない、などと頭の中で餅を描き始める。しかし、そこはゲーム脳を持つユウヒだからと言えば良いのか、ゲームマナーを思い浮かべて考え込む。


 他人が狩っている獲物を横から掻っ攫う行為は、彼がプレイしてきたゲーム内で非常に嫌われる行為であるが、それは砂の海で活動する冒険者にも嫌われる行為である。漁夫の利とは効率を考えれば有効な手段であるが、どう思われるかは別の話なのだ。


<……?>


 捕ってもいない狸の皮を数える様なユウヒに、風の精霊は問題ないんじゃないかと囁く。


「割とピンチっぽい? 多いんだ……なら一頭くらい狩ってもいいのかな?」


 どうやら風の精霊が急いでユウヒにアウカラの所在を伝えた理由は、対峙する冒険者が危機的状況にあったからという理由もあるようだ。


 精霊は世界の循環を担う存在であるが、同時に人の営みに好意を寄せる存在であり、魔物は彼女達の仕事的にもそれほど好意的にはなれないものである。故に、冒険者と魔物が対峙していれば、より優先するのは冒険者の生命なのだ。その命が脅かされていれば、ユウヒに助けを求めるのも道理、しかしその優先度は人が思うより希薄だ。


「……よし、勢いに任せて何とかしよう作戦だな!」


≪!!≫


 その、どこかどうでも良さそうな投げ槍感のある精霊の声に、ユウヒより先に彼のお腹が答える。アウカラが食べたいと、そう言っているように感じたユウヒは、作戦名を宣言し、作戦になってないただの勢いだけの言葉に、精霊たちは元気な声を上げた。


「善は急げ、行くぞ我が愛馬よ!」


 ピンチな冒険者を助けて、なし崩し的にアウカラの肉を分けてもらおうという、欲望で作られた作戦を元に、ユウヒはバイクの出力を最大まで引き上げる。


 さらに、風の精霊によって車体全体を包む様に押される巨大な岩のバイクは、その見た目からは想像もできない速さで突き進む。その加速はレーシングカーも二度見するような速さで、通り過ぎた場所に強烈な風を生み出すのであった。





 麦街道、その石畳の上で硬いもの同士の衝突音が鳴り響く。


「後ろに回り込ませるな! こやつらは小回り効かんから足を狙うんじゃ!」


「わかっとるわい!」


 硬い音を鳴らしていたのは、二人のドワーフが手に持ち振り回す分厚い両手斧、それとぶつかる太く蜷局を巻く様に捻じれた巨大な角。


 とさか付きの兜を被ったドワーフが、魔物の大きな蹄を斧で掠めながら叫ぶと、つるりとした兜を被ったドワーフが怒鳴り、下から切り上げ、勢いをつけて袈裟切りに斧を振るう。しかしその斧は目的である魔物の太い脚を捉える事が出来ず、魔物が振り下ろした角とぶつかり、また大きな音を上げる。


 斧と角、その衝突音の中に鈍い音も紛れている。それは大きな楯と角がぶつかる音であった。


「あいたた・・・掠っただけなのに痛いにゃ」


「無理して前に出るな、お前の足なら十分回り込めるだろ」


 ドワーフ二人で一匹の魔物を相手している一方で、二匹の魔物が交互に隙を埋める様に揮う、その角による猛攻を受けるのは、ドワーフと違う高身長な種族。見た目はユウヒと似た様な人族であるが、その体格は彼より一回り大きく感じられ、背中に庇う女性がより小さく感じられる。


 実際に痛いと不満を漏らす女性は小柄で、ドワーフよりも身長は高いものの、猫背で頭の上の猫耳を撫でる姿からは、見る者に背格好よりも小さな印象を感じさせた。


「今ワタシが出て無きゃアンタが危なかったにゃ」


「役割を考えろ、大楯の前に出るやつがいるか!」


 腰の辺りを押さえる猫耳女性は、どうやら大楯持ちの女性を守る為に前に出た様であるが、いくら気を利かせたとて、盾持ちの前に出る理由にはならないと怒鳴られる。


 大きな角と巨体が特徴の魔物アウカラ、その数三匹。よく見るとすでに首から血を流して倒れたアウカラがいる事から、冒険者四人で四匹のアウカラを相手にしていたようだ。


「ぺちゃくちゃしゃべっとらんで真面目にやらんか!」


「そっちこそもうちょっと早く走れないのかにゃ!」


 チームワークは良いようには見えない。それでも一度にアウカラ四匹相手にして一匹狩れているのならば、腕の良い冒険者と言える。だからと言って現状が良いものかと一般的な冒険者に問えば、確実に “いいえ” という答えが返ってくるだろう。


 それほどアウカラという魔物は強力な個体で、いくら冒険者のパーティでも同数を相手にすべきではなく、猫耳女性一人の負傷は大きな損失である。


「ドワーフ相手に無茶言うな!」


「足の話は禁句じゃぞ! ぬっ!?」


 尚、売り言葉に買い言葉で叫んだ猫耳女性であるが、ドワーフに足の話は禁句だ。


 その禁句一つで紛争だって起きるのだから、魔物を相手にしているドワーフの二人がつい目を引ん剥いて振り返るのも、仕方ないと言えるが、だからと言ってその隙を逃すほどアウカラも甘くはない。


「「むお――!?」」


 素早く小さく踏み込むアウカラの突進で、二人のドワーフは後ろへ尻餅をつき、背中から倒れると、そのまま後ろに転がって膝を着いてしまう。


「ぐぅっ! ……でも何とかしないと、いくらも持たないよ!」


 自ら後ろに跳ぶことで衝撃を吸収したドワーフの二人。その明確な隙に彼等が立ち上がるより速く、大楯持ちの女性が左手の楯を振ってドワーフを狙うアウカラの視界を塞ぎ、反対の右手に持った厚みのある長い剣で、自分が相手していたアウカラ二匹を牽制して一歩後ろに下がる。


 隙を見せたドワーフに仕掛けたアウカラが、大楯に驚き大きく一歩下がった事で、魔物と冒険者の間で睨み合いの間が生まれた。良い状況ではないのは、冒険者も魔物も変わらない様で、アウカラたちは前足を石畳で鳴らすと荒い息を吐く。


「せめて3匹だったならな、4匹は流石にきつい」


「そんなたられば……後方から何か来る!」


 不平不満が漏れるなかで異変に気が付いたのは、トサカのドワーフ。地面につけていた手先に不自然な振動感じた彼は、声を上げるとともに猫耳女性に目を向けた。


「にゃにゃ!?」


 その視線ですぐに後ろを警戒する猫耳女性の背中を守る様に、二人のドワーフは大楯持ちの女性と肩を並べる様にアウカラの前に進み出た。


 一方、三人に背中を預ける猫耳女性は耳を澄ませ、瞳孔を細く縦に割る。


「なんだ、新手か?」


「ふん!!」


「聞いたことない音にゃ!? それに速い、もう来るにゃ!」


 樹の影で少し暗く見える後方を見詰め、大きな声を上げる猫耳女性の耳に聞きなれない音が入り込み、すぐにその目にも見慣れない何かが見え始める。


 大きさは今相手にしているアウカラよりは小さい、しかしその速度はアウカラの全速力など比較にならないほど速く、迫ってくるそれが何なのか、猫耳女性が頭の中で言語化するよりも速く、それは大地を駆け、上下に波打つ石畳で体を跳ね上げで空へと跳び上がった。


「らぁぁぁあああむアタアアック!!」


「「「「は?」」」」


 そして雄たけび、その場に居合わせた者は魔物も等しくその音に顔を上げた。あったのは漆黒、昼を告げるために空高く昇った日の光を遮り、冒険者達に見せたのは漆黒の腹。


 一方で、魔物たちに見せたのは漆黒の奥で一つ真っ赤に輝く瞳。それが何か理解するよりも早く、双角を持つ恐ろしい岩の顔は、


「ヴェブリゅ――!?!?!?」


 一匹のアウカラの首筋に突き刺さり、その勢いのまま巨体を跳ね上げ、返しの無い滑らかな角から解放されると、そのまま地面に着地した異形に跳ね飛ばされ空を舞う。


 理解不能。それがその場にいた者達共通の認識。


「……せ、せきりゅう?」


 そして漏れ聞こえてくる声は誰の声だったのか、石と石を削り合わせる様な音を鳴らして身を翻す異形。その双角と単眼は一瞬でそれが何かを見た者に理解させた。


「ヴェエエエエエエ!!!」


 静寂――そして聞こえてくるのは、重量物が地面に打ち付けられる生々しい落下音。恐怖で思考が先鋭化された二匹のアウカラは、絶叫と共に走り去る。石畳に足を取られ転倒しながらも全力で走り、樹々が生い茂った街道の外へと消えるのだった。



 いかがでしたでしょうか?


 アウカラは恐怖した。


 目指せ書籍化、応援してもらえたら幸いです。それでは次回もお楽しみに!さようならー

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