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第122話

 修正等完了しましたので投稿します。楽しんでいってね。



 空が裂け、現れたのは猛烈な低気圧による局所的な嵐。


<!?!?>


 強烈な風によって本来物理的な影響をあまり受けることがない精霊も吹き飛ばされ、強烈な上昇気流に乗って嵐の目に向かって昇っていく。


 台風程度ならその目は風が緩み晴れ渡るが、この嵐の目は破滅的な力で大地を蹂躙していた。大地を負い隠す砂はもはや見る影もなく、空高く吹き飛ばされて岩盤が剥き出しになっている。またその岩盤の上には大小さまざまな岩が堆積、物によっては家より大きな岩もあったが、その事如くが宙に舞い上がりこちらも姿を消してしまった。


<……!! ……!!>


「……ちょっとやり過ぎたかも」


 古戦場に突如現れた嵐の中心、そこには剥き出しの岩盤だけで何も残らない筈であるが、何重にも施された防護の中でユウヒとバイク、そして彼にしがみつき震える精霊だけがなんとかその場にとどまっている。


 ちょっとやり過ぎたなどと呟き、地面から少し浮いた大楯の上に立つユウヒ。足元の砂が吹き飛ばされるままにバイクと共に岩盤層まで落ちたユウヒは、横転したバイクを横目に空を見上げた。


≪!!!≫


 しがみついている精霊達の叫び声をバックミュージックに、空を見上げるユウヒの視界では、気温の急激な上昇と異常な気圧の低下によって水の分厚い壁が沸騰して泡立ち、さらにその先では巨石が発泡スチロールの様にくるくると風に舞って砕けて散っていく。その光景はまさにミキサー、よく見ると精霊も一緒に吹き飛ばされているが、ユウヒに彼女達を助ける術はない。





 そんなとてつもない嵐が古戦場で発生したのと同時刻、古戦場に一番近い休憩場の外壁の上では、異常な暑さが緩んできたことで汗をぬぐいほっと兵士達が息を吐いていた。


 外壁の上には屋根があり、風も通るので比較的マシな環境であるが、蜜蝋も溶けるような気温の中での立哨は兵士に大きな負担をかける。中には立哨中に頭痛を起こして救護所に搬送される者も居た。


「うっ……耳鳴り?」


 故に突然耳鳴りが鳴り出した男性兵士も、そう言った暑さによる体調不良かもしれないと身をかがめたのだが、それは大きな勘違いである。


「なんだ、なんだあれ……」


「……竜巻?」


 なぜならその耳鳴りの原因は急激な気圧低下によるものであり、その気圧低下は馬車で数日程の距離で発生した異常な嵐の所為だったからだ。それだけ距離が離れていても、遠くの古戦場のさらに遠くから立ち上る嵐はよく見え、その姿は一見竜巻の様に見えたが、よく見れば遠近感が狂うほどに巨大な嵐の柱である。


「でかすぎる……」


「空が、消えてうお!?」


 突然の揺れ、それは足元が揺れたわけではない、空気全体が揺さぶられるような衝撃、突然の事でふらつく兵士は倒れないように外壁の襟にしがみつき、突然暗くなった空に目を見開く。


「なんだこの揺れは! ……なんだ、あれは」


 突然の揺れは休憩場全体を襲っており、異常事態に飛び出してきた兵士は目の前の惨状に目を見開き、空高く舞う砂で暗くなった空を見上げ、その視界の端に入り込んだ巨大な竜巻に声を失い、全てが終わるまで彼らは唯々戸惑うしかなかった。





 一方、こちらはユウヒの魔法を挟んで休憩場のずっと反対側、森林山脈の向こう側に広がる隣国上空、休憩場よりも遠い場所でも嵐によって異常事態が発生しているようだ。


「緊急圧力弁作動……客室与圧系統にも異常発生!」


 異常の発生源は人や貨物を載せて空を旅する飛行船の操舵室、その直上にある浮力を得るために軽いガスを詰めておく気嚢の制御弁である。嵐による影響は遠く離れた隣国の上空の気圧も急激に下げてしまい、内部圧との圧力差によって気嚢を破裂寸前にまで追いやった様だ。


「なんだ!? 舵が効かねぇ、西に流されるぞ!」


 さらには破滅的な低気圧の発生によって猛烈な横風を受ける飛行船は、搭載するエンジンの出力不足によってじわじわと西に流されていく。必死に舵を切ってプロペラの向きを変えても、外から聞こえてくるのは大きな風切り音とプロペラが軋む音だけである。


「……あれはなんだ、おい森林山脈の向こうを見ろ!」


「森林山脈? ……なんだありゃ、砂嵐?」


 そんな彼らが見たのは森林山脈の向こう側から立ち上る砂嵐、濛々と吹き上がった砂ぼこりによって覆い隠された太陽は怪しく赤く輝いていた。


「いや、巨大な竜巻だ!」


 しかしよく見ればその砂ぼこりの中心には輪郭がはっきりした竜巻が見え、その事に気が付いた男は双眼鏡から目を離して叫び、その叫びに操舵室に居合わせた面々は息を飲む。

 

「馬鹿な、この風はあれが原因か!? どれだけ離れてると思っているのだ!」


 状況的に考えて、現在進行形で飛行船を襲う異常事態は森林山脈の向こうに見える巨大な竜巻が原因としか思えない。しかし同時に、陸路なら十日以上はかかるであろう距離で発生した竜巻が、気嚢を破裂させかねない気圧低下や舵が効かなくなるほどの風を生むとは考えられなかった。


 それは空を仕事場にする者であればあるほど、またベテランであるほどに信じる事が出来ない。


「…………!? 高度を下げろ、持ってかれるぞ!」


 だが、誰も経験したことがない異常事態を前にして最も早く次なる危機を察知出来たのもベテランの船員。何を見たのか、呆けていた船員に活を入れるように叫んだ初老の男は、傾く船内で圧力調整バルブにしがみつくと、飛行船の高度を下げるために気嚢からガスを抜き始め、その行動に他の船員も各気嚢に繋がるバルブをしがみつくようにして回し始めるのであった。





 船員が必死にバルブを回す大型飛行船からさらにさらに遠く、次元の壁を越えた先にあるアミールの仕事部屋では、部屋の主が僅かに血の気の引いた顔を顰めて机の前に持ってきた大型モニターを睨んでいる。


「局所的かつ強烈な竜巻が発生、大気の広範囲に影響を及ぼしています」


「これは、魔法ですね」


 仕事部屋に突然響いた警報音、すぐに原因の映像を映し出せばそれは高高度衛星からの映像。様々な要因で直接地上を監視できない場所は、位置固定された高高度衛星からの映像がメインとなる。しかし、今回はそんな衛星の映像が十分活躍していた。なぜならそのくらい離れた場所から出ないと異常の全貌を把握できないからだ。


 映し出されたのは古戦場を中心とした砂の海の広域図、異常の中心地である古戦場の一角は巨大な赤茶色の竜巻で見えなくなっているが、古戦場を中心に遠く離れた場所まで異常を知らせる赤い警告文が点滅している。


「はい、竜巻の中心から高純度の活性化魔力を検知、測定の結果ユウヒ様の魔力と一致しています」


「いったい何を……」


 世界の管理をしているアミールとサポ子さん、当然すぐにユウヒの魔法が原因であることも判明し、その膨大な魔力の反応もさることながら何のためにこれほど巨力な魔法を使っているのか、怒りや驚きと言った感情よりも先に心配が立つアミールは、モニターを操作して巨大な竜巻の様に見える嵐を拡大していく。


「竜巻外縁部にて時速790㎞の最大風速を確認」


 拡大していくと竜巻の場所ごとの情報が詳細な情報が文字として出力され、真っ赤な文字で最大風速が表示された。時速にして790㎞と言う異常な数値を目にしたアミールの顔からは、更に血の気が引いて行く。


「周辺への被害は?」


「中心地の地形に対する破壊的影響が考えられますが、現在周辺に生体反応は見られ……ユウヒ様の反応を竜巻内部に確認、一時的と思われますが通信が可能になっています」


「!? ユウヒさん! 聞こえますか! ユウヒさん!」


 彼女は神である。故にこの程度の風速など目じゃない様な異常を体験したこともあるので恐ろしいわけではない。またモニターに表示される情報から世界に致命的なダメージは観測できないので焦る必要はない。


 しかし彼女の表情は優れず、思わず机の上のマグカップを倒してしまうほど焦り、埃をかぶっていた通信回線を開く。


 彼女の血の気を引かせていた原因は全てユウヒの安否、竜巻の強さを表すEFスケールの最高値であるレベル5、その倍以上の竜巻の中心地に居て普通の人間が真面な状態であるわけがない。いくらユウヒが魔法を使えても、彼女にとっては守るべき弱い人であるのだ。





 そんな風に女神から想われているユウヒは、その顔から血の気を引かせ真っ白になっていた。


「あっ、スゥー……」


 なぜなら彼はやらかした自覚があるのだ。そこに届くアミールからの不思議通信、彼の目の前には冒険者カードを中継して通話用の空中モニターが開いており、そのモニターいっぱいにアミールの真剣な顔が映っている。


 怒られると思ってもおかしくはない。


「ユウヒさん! 聞こえています!?」


「や、やあアミール、久しぶり……」


「何があったんですか!?」


 返事を返さざるを得ない状況で背筋の震えるユウヒ。しかし何と反応するのが正解か分からず、努めて軽い何時もの調子で返事を返すも、その震えた声に対してアミールは心配十割の表情と声をぶつけてくる。


 ユウヒは申し訳なさで思わず視線を逸らしてしまう。


「ごめんなさい、ちょっとやり過ぎました」


 そしてすぐに謝罪、魔法の選定を間違った故に想定を超える嵐を生み出したユウヒは、怒られることを覚悟で謝り、チラリとアミールに視線を向けるもそこにはフワフワの金髪を僅かに揺らして驚く女神が居た。


「や、やりすぎ? 何をしているのですか?」


「その、精霊に頼まれて聖域を造ろうと思って」


「せ、せいいき? え、ちょっとまってください。……どうしてそんなことに」


 怒っては居なさそうだ。しかし困惑しているだけで何時怒られるかわからないと背中が曲がるユウヒの説明に、アミールは更に困惑して見せる。


 そも、聖域なんて物は自然現象の結晶の様に生まれる場所であって、さあ作るぞと意気込んで作れる代物ではない。それは神であっても同様で、神々に作れない理由はその力の根源が違うという事も関係しているのだが、作れたとしても気の遠くなるような時間を必要とするものだ。


 それは精霊も知っている。しかしその知っているはずの精霊がユウヒに頼んだという事が、アミールには信じられなかった。すでに実例があるとは言え、精霊も確信が無ければ頼まないであろう。その確信が何なのか、真剣な表情で思考を彷徨わせた彼女はユウヒを黄金の瞳で見つめる。


「精霊の力が安定したら、アミールとも連絡取りやすくなるかなぁとか……色々良い事あると思って、でもなんだか連絡できちゃったね?」


 見詰められたユウヒは、少し恥ずかしそうに視線を彷徨わせると、精霊の願いを了承した理由を話す。その言葉は真実であり、アミールの心を浮き立たせるには十分な効果があった。


 効果はあったのだが、


「そ、それは嬉しいのですが……いえいえ! 影響範囲がすごい事になってますよ!?」


「やり過ぎちゃった。もう消えるから、その……ごめんね?」


 そのために引き起こされた災害の規模が尋常ではなく、やり過ぎちゃったと言う一言で済ませてはいけない規模である。


 しかしそこは女神アミール、基準は管理神基準であり、ユウヒには甘い裁定を下す乙女だ。


「……いえ、凄い事になってはいるのですが大丈夫です。精霊が周辺に集まって来ていますので、大気の変動こそ大変なことになってますが、世界自体の影響はほぼありません。必要なことであるのならば何ら問題はありません」


 小さく息を吐くと特に怒る事もなく微笑みを浮かべ、心なしかいつもより宙に舞っている黄金の髪を忙しなく揺らしながらモニターに目を向け話し始める。


 ユウヒの魔法の組み合わせによって想定以上に強力な嵐となった【ハイパーケイン】だが、その魔法の効果もあって被害は局所的に収まり、またユウヒを支援するのために集まっていた精霊達が、飛ばされながらも嵐の被害が最小限になる様に注力したため、一国を滅ぼしかねない魔法であったが、人的被害はゼロ、なんだったらそもそも生命が存在しない古戦場である為、死んだ生物もいない。


 被害があったとすれば、地中に隠れていたスケルトンなどの死霊くらいなものだ。世界を管理するアミールにとって、何ら気にするような問題でもない。


「ほんと申し訳ない。まだ危険物も見つからないんだ」


「大丈夫ですよ、少し驚いただけですから」


 そんな事より、思わぬ事態によってユウヒとの通信が開けた事の方がうれしい。その感情を実感し始めたアミールは、申し訳なさそうなユウヒに微笑みかける余裕まで出来ていた。ただ、和やかに話しているが、ユウヒを守る水の壁の向こう側は、生命が生存できない危険な領域に変わってしまっており、とてもじゃないが談笑していい状態ではない。


「す……ありがとう。怪しいのは見つけたんだ。大昔の宇宙軍由来の遺物ってのがあって……あ、効果切れた」


 その異様な空気に、ユウヒの服の裾にしがみつく精霊が少し呆れていると、暗かったユウヒの周囲が明るくなる。空を見上げたユウヒの視界には、水の壁で歪んだ向こう側で千切れ解けるように消えていく嵐の終わりが広がっていた。しかしまだ水の壁を解除できるほど空気は安定していない。


「宇宙軍? それはい―――」


 一方で、ユウヒの話に気になる内容があって問いかけるアミールの言葉は途切れ、通話用の空中モニターも消失してしまう。魔法によって一時的に神の力を退ける何かが妨害されたことで連絡を取る事が可能になったようだが、嵐が消えてしまってはいくら気圧の急激な変化で周囲が荒れていても連絡は出来ない様だ。


「あ、こっちも切れた」


 ごく短い間、しかし久しぶりに見た変わらぬアミールの姿を思い出し笑みを浮かべるユウヒは、やらかして落ち込んでいた気持ちに元氣が戻って来たのか、頭を掻くと外の様子を眺めながら、横転したバイクを起こすために大楯から飛び降りて歩き始めるのであった。



 いかがでしたでしょうか?


 嵐を呼ぶ男ユウヒ、とばっちりを受けた人々に幸あれ。


 目指せ書籍化、応援してもらえたら幸いです。それでは次回もお楽しみに!さようならー

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