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ワールズダスト ~砂の海と星屑の記憶~  作者: Hekuto


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第121話

 修正等完了しましたので投稿します。楽しんでいってね。



「街道から逸れてから二日、今日中に予定地に到着するはずだけど、まさかこんなに荷物が増えるとは思わないじゃん?」


<…………>


 古戦場に入ってから、ユウヒの朝のルーティーンに組み込まれてしまった石拾い。すでに回収した高級素材の数は数百個に達しており、バイクの内部収納は結構な容量があったはずなのにいっぱいになって、バイクの後部座席には大きな風呂敷がロープでくくり付けられている。


 連日早朝から大量に手に入る死霊の涙を前に、流石の精霊も呆れた様に瞬いており、当初こそレアな物を前に楽しそうにしていたが、すっかり興味を失ったように死霊の涙の上に腰掛けている精霊達。そんな精霊達は古戦場の状況に溜息を洩らし、同時にユウヒの作った光の石の効果に感心の声を漏らす。


「ほんとね、予想以上に死霊が多いし、予想以上に光の石の効果が強い」


 精霊の囁きに頷くユウヒは、焚火をいつも通り埋めると石灯籠の前に立つ。街道に突然現れる蕪の顔をした石灯篭など怪しさ満点の物体は、使い終われば光の石を抜かれて早々に砂に戻されてしまう。


「これってうまく加工したら街道を安全に出来そうだけど……いや、公共事業になりそうなものに手を出すと碌なことにならないか」


 ユウヒの作った退魔の石と言ってもいい魔道具と、その力を効率的に運用する石灯籠。その存在をアイレウク王が知れば、大量の報酬を手に持って走って来そうであるが、そう言ったものの面倒くささをすでに日本で経験済みのユウヒは思いとどまり、丁寧に石灯籠を砂に戻していく。


「育兎の充電池事業も面倒なことになったらしいし、利権こわいねぇ」


<?>


 日本で出会った異世界の同類の起こした事業は、多方向に喧嘩を売る事となり大変面倒なことになっているらしく、その事をも思い出したユウヒは眉を歪めて溜息を吐く。溜息を洩らして何に呆れているのかと、洩れ聞こえてくるユウヒの思考に耳を傾ける精霊は、人間の考え方が良くわからないと言った様子で瞬いている。


「俺の作った回転盤がコアになってるから他人事でもないんだけど……」


 日本で起きた大規模で多発的な火力発電所の機能停止、それにより困窮した電力事情改善のために育兎が興した充電事業、その根幹の技術には今も旅の足となっているバイクにも使われている反則的な魔道具が利用されており、完全に他人事ではないユウヒ。


 育兎曰く、彼に負担をかけることはないと言う話ではあるが、いつ何が起きるかわからないのが人の世、時に利権が絡むと途端に頭が悪くなるのが国や組織と言うものである。ユウヒ自身その利権の影響で面倒事に巻き込まれている為、心配しない方が無理という話なのだ。


「よいしょっと、朝起きてからの積み込みも考えるともう少し早く起きた方が良いかな? そうなるともっと早く寝る必要が出てくるわけだけど」


 石灯篭を壊し終え、括り付けられた荷物のロープを確認したユウヒはバイクに乗り込み各種スイッチを確認していく。ウォーターアブソーブの起動と効果範囲、それから水の容量を確認するとバイクのアクセルを回してゆっくり走り出す。


「……いや、とりあえず今は目的地でのことを考えよう。今日は現地で作業もしたいし、少し飛ばすか」


<!!>


 すでに古戦場の荒野奥深くまで進入している為走り出した先に道は無く、しかし今日中には目的地である聖域建築予定地に着くようだ。


 少しでも早く危険な古戦場を出たいユウヒが、計画をなるべく前倒しに出来るように気合を入れると、その気合に呼応して背中を押す様な強い風が吹き始め、自然とバイクのスピードが速くなる。


「水の膜と風の後押しと防護と、大楯で踏み台も用意するか」


 砂地をゆっくり走り出しながら、高低差が激しく荒々しい荒野を走破する為に必要な魔法を思い浮かべ、一つ一つ丁寧に魔法を発動させていくユウヒ。


 【水衣】の魔法を唱えれば、バイクの中に搭載された改造宝玉から水が汲み上げられ、バイクとユウヒを包む様に厚い水の膜が作り出され、【風壁】の魔法によって水衣の外側に風を受け流す様な気流が生み出される。風の後押しは口にするだけで風の精霊がユウヒの背中を押し始め、【大楯】は出て来るなり目前の岩場に上がる為の足場になる為に、水中を泳ぐ以下の様に鋭く滑らかな動きで砂地に突き刺さった。


「よし、一気に駆け抜けるぞ!」


<!!>


 口を隠す砂避けマスクとゴーグルを片手で調整して準備万端のユウヒは、一声かけるとアクセルを思い切り捻り込み、急激な回転にも負けないエアレスタイヤのグリップ力により前に強く押し出される車体は、大楯を踏んで飛び上がると大岩の上を勢いよく走り去るのだった。





 日は傾き東西の地平線が対照的な色合いを見せ始める時間、ユウヒは精霊が大量に集まった広大な砂地の上に居た。見渡せば地面から突き出した岩がいくつも見え、そんな大小さまざまな岩に囲まれるように広大な砂地が広がる中で空を見上げている。


「やっと到着か、急いで良かったと言うべきか、ままならないと嘆くべきか」


 大きく溜息を吐いて体を伸ばすユウヒ、どうやらここまでの道のりは想定していたよりも過酷な道のりだったようで、バイクの上で寝そべる水の精霊も疲れた様子を見せ、ポンチョの隙間からは闇の精霊が零れ落ちるように姿を現す。


「日が沈む前に出来ることはしておきたいな」


 そんな過酷な道のりを走破して来たのならば、しばらく休憩でも入れればいいものを、先を急ぎたいユウヒは疲れた体に鞭打つように体の奥底から魔力を汲み上げ始める。


<……>


「まさか地震が起きるとは思わなかったよ」


<……>


「地盤沈下? いやいや、地盤沈下にもほどがあるだろ? ちょっとした山がまるごと山体崩壊したレベルだろ」


 そんなユウヒを襲ったのは道中で起きた大規模な地盤沈下、地震と勘違いするほど大きな揺れを伴った地盤沈下は、岩山が平地になるほどの規模であり、巻き込まれたユウヒは魔法を駆使して何とか脱出に成功できたが、普通の人間なら巻き込まれて生き埋めになってもおかしくはないものであった。


 本来そんな危険が迫っていれば、精霊が事前に知らせて危険を回避できるはずだが、今回の地盤沈下は精霊すら気が付けないほど突然かつ大規模な災害で、知らせることが出来なかった土の精霊はユウヒの頭の上で申し訳なさそうに瞬いている。


「流石に死ぬかと思った。魔法連発で何とかなったけど、帰りは安全第一の別ルートにしてくれ」


<……!>


 そんな土の精霊を手で摘まんで下ろすと、手のひらの上に載せて笑いかけるユウヒ。ユウヒの気遣いの感情に淡く光る土の精霊は、ぶるぶると震えたかと思うと元気よく了承の意思を籠めて強く瞬く。


「今日はもうほとんど作業できそうにないな」


 手の平の上から元気よく飛び立つ土の精霊に苦笑を洩らすユウヒは、広大な砂地で輪舞を舞う精霊の動きで聖域を作って欲しい場所を把握、しかしこれから作業を始めてもすぐに夜になってしまうだろう。


 夜になれば死霊が現れ作業の邪魔になるのは確実、精霊が示す範囲を石灯篭でカバーするにも何十個必要になるかわからない範囲であり、可能な作業は限られてくる。


「聖地にしてほしい場所だという事だけど……砂しかないな【フィールドサーチ】……砂の下に岩盤?だいぶ分厚いような?いや何か変な感じがする」


<!!>


「なるほど、その変な感じの岩盤を壊さないといけないわけか、ここがその岩盤までの距離が近くて薄いのね」


 精霊が広大な古戦場でもこの場所を選んだのは、古戦場特有の地質によるものが大きいらしく、ユウヒが魔法で調べた地下にはそこそこ深い場所に妙な岩盤が形成されており、良く調べるとその岩盤は二種類の岩盤で厚い層になっている。


 精霊曰く、上の岩盤層を除去したあとで聖域を作って欲しいのだと言うが、それは日本の近代的な技術を用いたとしても膨大な時間と資本が必要にな工事であり、とてもじゃないが個人に頼む様なお願いではない。


 しかし、今ここにいるのは神にも等しい魔力を持て余し、少し前に箍がいくつか外れた頭のおかしい魔法使いユウヒである。


「結構大変だな」


 今の彼にとっては、そんな大工事も結構大変で済むようだ。


 物事をより簡単に済ませるるためには、それ相応の犠牲がつきものである。今回犠牲になったのは何か、それはユウヒの思考の暴走を抑える箍であった。今彼の頭の中にあるのは、どれだけ短時間で聖域を作るかである。そこに手心と言う言葉は無い。


「手順としては、最初に砂を吹き飛ばして、岩盤を砕いて、新しい地盤を作ると言う土木工事が必要という事だな」


 日本の東京にある有名な某ドームがいくつ必要になるのか分からないほどの砂をどかして、さらにその下の岩盤を掘削する。言葉にすると実に短い内容だが、実際にやろうとすればとんでもなく大変であるが、そんな大変な作業を終わらせるために汲み上げ始めた魔力の量は、すでにとんでもない量になっており、その圧力に周囲の精霊達は慌てて逃げ出し始めた。


「こういう時こそ一号さんが必要なんだけど、呼んだらアミールに怒られる……いや、泣かれそうだから止めとこう」


 魔法を使わずとも、この場に一号さんを筆頭にしたユウヒの娘たちを連れて来て、作業を全て任せてしまえばいいだけであるが、彼女達は現在ユウヒ所有となった巨大な人工衛星を修理して回っているだろう。ユウヒが来てくれと頼めば喜んできてくれる彼女達であるが、彼女達をこの場につれて来るには世界の壁を破壊しなければならず、そんなこと仕出かせば膨大な仕事に潰されてアミールが泣くことになる。


 いくら箍の外れたユウヒでも流石にそんな暴挙は働かない様で、代わりの方法を頭の中で構築していく。


「一号さん達は気に喰わないかもしれないけど、ここは即席ゴーレムに手伝ってもらうとして、先ずは砂の除去だな」


 岩盤の掘削作業は、休みなく働ける即席ゴーレムに夜通し頑張ってもらう事にするユウヒ。もしこの事を一号さん達インダストリアゴーレムの面々が知れば、それはそれは拗ねて大変なことになるだろうが、背に腹は代えられない。


 やろうと思えば異世界ワールズダストに残っている小型機の面々を呼び出すこともできるが、そんな無理をするより即席ゴーレムを魔法で生み出した方が早い。


「……【マルチプル】【水壁】【風壁】【大楯】【小盾】」


 そんな岩盤掘削作業の前段階となるのが膨大な砂の除去、岩盤掘削作業よりも流動性があるサラサラの砂を除去する方が大変である。人の手で掘っても次から次に砂は流れ込んで来て穴を埋め、掘り出した砂も管理しなければまた流れ込んで来て永遠に砂を除去することはできない。


 しかし、ユウヒの頭の中にはすでにその難工事をやり遂げるための魔法があるようで、集中する様に深呼吸を終えたユウヒは次々に魔法を発動させていく。


 マルチプルは魔法を複数化させる補助魔法、水壁はその名の通り分厚い水の壁を作る出す魔法で風壁はバイクで走る時にも使っていたが、補助魔法の影響で何重にも層を作り出している。大楯と小盾も大量に生み出されると、風と水と二種の楯で四重に壁を作ってユウヒを囲う。


 そう、囲っているのだ。これでは砂の除去など出来るわけがない。


「【局所化】【範囲固定】」


 何故なら、砂を除去する魔法はこれからが本番なのだ。


 魔法の効果範囲を小さな範囲に押しとどめる補助魔法である【局所化】、また魔法の効果が動いてズレない様にするための【範囲固定】、より精密な魔法運用の為の魔法は、フレンドリファイヤーが良く起きるクロモリオンラインの中でも良く使われる補助魔法である。


 そしてこれも同様に、しかし滅多に使われることの無い大規模魔法。ゲームの中だからこそ使えると言っても良い魔法であり、まかり間違っても現実で使用してはいけない魔法。


 しかし今のユウヒにその判断は出来ない。何故なら、箍の外れたユウヒの頭の中では目的の達成こそが優先されており、その影響範囲に関しては関心の外、完全な二の次となっているのだ。それでも、局所化と範囲固定の魔法を使ったのは、多少なりとも理性が残っていたからであろう。それがどのように作用するかは別として……。


「ふぅぅっ…………その風は空の裂け目、その涙は天の嘆き、開け、開け、音無き静寂を装いし狂気の目【ハイパーケイン】」


 朗々と言葉を口にし、キーワードを世界に宣言した時点で時すでに遅く、慌てた精霊を猛烈な風が襲う。


<!?>

<!?!?!?>


 精霊の悲鳴が風に掻き消される中、砂の大地に巨大で局所的な嵐が姿を現す。地球上で観測されたことの無い猛烈……いや、破滅的な嵐、それは異世界ワールズダストであっても同様で、人が住める惑星で起きて良い現象ではないそれは、空に黒い眼を開き地表からあらゆるものを吸い上げた。


 この日、理論上にしか存在しない嵐は、ユウヒの膨大な魔力と言う暴力によって、古戦場と言う不毛の地に産み落とされたのであった。



 いかがでしたでしょうか?


 目的のために手段を選ばないのは遺伝か性質か、呼び出された嵐は何を起こすのか……。


 目指せ書籍化、応援してもらえたら幸いです。それでは次回もお楽しみに! さようならー

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