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第111話

 修正等完了しましたので投稿します。楽しんでいってね。



 待てと言われて10分ほど待ったユウヒによる説明会は、ブレンブが思っていた物とは違い滑らかに滑り出し、その後も滞ることなく進んでいた。


 普段から何かと頑固な爺たちは、何かある度に質問し、気に喰わないことがあればしつこく質問して最後には論破してしまう。それがブレンブの知る第二開発室に対する印象であったが、その考えが嘘であったかのように静かで、まるで彼らの様子は授業態度の良い学園の生徒のようである。


 その姿には彼も思わず唸って黙り込んでしまっていた。


「とりあえずこんな感じかな……」


 一方で、説明を終えたユウヒは、倍以上年が離れた相手が声を荒げず説明を聞いてくれたことにほっとし、同時に会社努めの時も下手な中年社員より老人社員の方が話を聞いてくれていたなと思い出し、体力の問題かななどと割と失礼な事を考え思考が明後日の方向に飛ばしている。


「…………!!」


「ふん!」


「っ!?」


 そんなユウヒに視線向けるのは、男達ばかりでなく、離れた席に座っている女性二人からも熱い視線を向けられていた。


 一方は動く獲物を前にした猫のように瞳孔の開いた瞳で、もう一方はどこか値踏みをしながらも理性的な表情を浮かべ、隣で飛び掛かりそうな女性を小突き注意する女性で、貴族の夫人然とした所作で口元を扇で隠す。


 わき腹を押さえる涙目の女性の視線などどこ吹く風と言った様子で、その気配にブレンブはまたお腹を押さえる。


「なるほど、なるほど」


「いや、これだけでは聞いているような災害など起きるわけがないぞ? 連動をどこで起こしておる」


「全部書き写してるんですね」


 話しながら、同時に大きな書き板に図や文字を書きながら説明していたユウヒは、疑問があるらしい老人達の声に耳を傾け、彼等が机の上の書き板に重ねるようにして出した羊皮紙の束に描きこまれたものを興味深そうに見詰め呟く。


 ユウヒは魔道具の専門家ではない、しかし彼の両目に宿った特殊な力と精霊の助言に魔法の力、これらを駆使することで答えがすぐに目の前に現れる。それはユウヒの疑問をすぐに埋めてくれる力であり、魔道具への知識を異常な速度で深めてくれる、まるで高性能な思考連動型AIに様な力だ。


 それ故、羊皮紙に描きこまれた文字が魔法の術式であり、宝玉内部に刻まれ複雑かつ強力な力の制御をしていた物だとすぐに理解する。


「そりゃのぉ? しかし、まだ全貌が見えん……どれだけ多くの術が刻まれておるのか」


「なるほど、まだ読み切れてない部分もありますね」


「ほう! わかるか! そうなのだどうしても調査機器の精度が悪くてな」


 魔法の源である魔力を用いて刻まれた極小の目に見えない文字や図形、そこに魔力が流れる事で、まるでプログラミングされたコンピューターのように動き、世界に干渉するのが魔道具の本質で、その言語もまた様々存在する。


 それらを読み取るには多くの機材と経験、そして根気が必要な作業、数日程度でそれらを全て解読できていれば遺物なんてものはありがたがられるわけがない。寧ろ、たった数日でユウヒからの説明を全て受け入れられる下地となる知識を解読出来たこの老人達が異常なのである。無理矢理外付けチートをぶっこまれたユウヒと違う、リアルチートとも言える老人達。


「……?」


「……」


 そんな老人達の質問に対して、滞ることなく答えるユウヒの姿に驚く女性二人はこそこそと話し合い、その様子を横目で見るブレンブもまた驚く。それは彼の予想をはるかに超える能力を見せつけられた故であり、どこまで評価を上方修正したら良いのかと彼は疲れた様に溜息を洩らす。


「えーっと、これかな?」


「どれじゃ」


 一方ユウヒはどこか楽しそうに老人達と戯れていた。


「この部分です」


 宝玉を分割することでやっと解読できている老人達が取り出した羊皮紙を見詰め、まるでパズルでも解くかのように並べ替え繋げるユウヒ。


 神様から貰った力を自由自在に使っている様で、日々試行錯誤を繰り返すユウヒは孤独である。金色の瞳が全て教えてくれるとは言えその力も十全に扱えているわけではなく、結局は自分の想像から外に飛び出すことは出来ない。そこにキャッチボールが出来そうな相手が現れたのだ、楽しくないわけがない。


「むむむ、これか! これは何の式だ?」


「なんじゃお前わからんのか? ……そこはわしも分からんところじゃ」


「帝国の方はこれ全部この形なんですけど、オリジナルはもっと違うんですよ」


 羊皮紙を書き板の上に少し離して並べ重石を載せ、空いた空間の書き板に足りない術式を書き足していくユウヒ。


 それにより欠けていた部分が補われ完成するのは帝国製の宝玉に刻まれた術式。その内容に目を見開き顔を近づける老人達、さらにそこへ赤いインクで記号や文字を書き足していくと、老人達は興奮した様に鼻息を洩らす。


「なに! ……なるほどなるほど、間違った術が刻まれているわけだな」


「正確には中途半端に繋ぎ合わせた、ですね」


「そうなると話が変わって来るぞ?」


「これかの? いやこっちから指示がここで変わってしまう」


「そことそこですね」


 傍から見たら何をしているのか全く分からないユウヒと老人達のやり取り、書き板に落書きしているだけの様に見えつつも、その内容は異常なほど高度な内容であり、問えばスラスラと返事と共に術式が書き足され、示され、老人達の老いた脳みそは歳を忘れた様に高速で回転していく。


「むむむ、これは……なるほどそう言う事じゃな?」


「ここがこうなると、なるほど……そりゃ爆発もするわい」


 ユウヒが大量に書き込んでいた内容は、今回の災害の根幹にかかわるエラーである。ユウヒは宝玉を直接弄り調べて来たことで、ある程度は帝国がどんな過程で災害を起こしたか予想が出来ていたが、そこにはあえて触れず、ただ事実存在する術式だけを第二室の老人達に提示する。


 ユウヒの知るワールズダストの世界は狭く、老人達のように実際に住んでいる人とは見解が変わってくるのだ。そんな人間から余計な予測を聞かされた所でノイズにしかならない。その事を理解しているユウヒは、間違った構造故に生じた疑問と言う滞りが無くなり、自然と理解を深め始めた老人達から少し離れて笑みを浮かべる。


「……あとは大丈夫ですか?」


「うむ! やはりオリジナルと見比べて行かねばならんな、帝国のひよっこの誤字に騙されるところじゃった」


「んだ……しかしそうなると余計に機器の精度が問題じゃ」


「私から陛下に頼みましょうか?」


「良いのですか!?」


 ユウヒの言葉に嬉しそうな笑みを浮かべ顔を上げた老人達は、ままならぬ状況に渋くなっていく顔を驚きに変え、離れた場所で扇を手にしていた女性へと一斉に目を向けた。


 以前も話したが魔道具関連の機器は高い、そのため何か欲しいとなっても予算の問題で明日発注しておきますなんて言う話にはならない。しかしそれが可能なのがこの国の最高権力者である王様、そんな王様に直接伺いを立てられるのは、貴族の中でも王族に連なる者だけである。


「ええ、そのくらいなら問題ないでしょう」


「もう話は終わったのかな? かな?」


 目を潤ませ拝んでくる老人達を見下ろしながら困った様に微笑む女性は何者なのか、明らかに地位の高そうな女性から一歩後方に離れるユウヒは、精霊達から変な人と呼ばれている女性の問いかけにもう一歩下がり苦笑を洩らす。


 ユウヒはあまり積極的に来られるのが苦手である。逃げるほどではないが、1枚心の壁が出来るくらいには苦手であり、それで失敗したのはパフェであるがそれはまた別の話しである。


「む? そうじゃな……まだ気になるところはあるが」


「まぁ後は調べればよかろう」


「うむ、実に素晴らしい知見が得られたからの、まるで若返ったような気持じゃわい」


 そんな苦手な波動を感じて1枚心の壁を張ったユウヒは、満足そうな老人の言葉を聞いて一仕事終えたと息を吐いて、固くなっていた肩から力を抜く。スムーズに説明していたように見えるユウヒも、それなりに緊張はしていたようだ。


 彼の側ではその心の内を知っていた精霊が労うように瞬く。だがその瞬きは続かず。


「これだけ詳しい人間など早々居らん、どうじゃ一緒にここで研究せぬか? 歓迎するぞい?」


「……」


 老人の言葉で周囲の精霊の瞬きが不自然に揺れる。どうやら老人の提案にユウヒが乗った場合のリスクとリターンを考えているようだ。それは位の高そうな女性も同じようで、口元を扇で隠すと、表に見えている微笑む眼元と違って僅かに口に力が籠る。


 老人にとっては本心であり軽い提案であるが、ユウヒと言う魔法使いの招致は国に大きな富を与えるものだ。老人の提案を推すかどうか思わず考えてしまうのは、貴族社会で生きる者として仕方ないと言うもので、その思案に精霊もさらに瞬きを変える。


「いえ、やらないといけないことがあるので」


「そうかぁ……」


 しかしユウヒの考えは変わらない。アミールに頼まれた危険物はどこにあるか分からないので、少しでも世界を動き回って色々な物を見るつもりのユウヒ。そのついでに異世界でしか見れない物や食べられない物など見て回りたいユウヒにとって、一所に留まると言う選択はない。


 彼のその考えは、彼が用意した移動手段であるバイクにも表れている。


「若いうちに出来ることはやっておくもんじゃからな」


「んじゃんじゃ、仕方ない」


 切り替えの早い老人達は勝手に納得すると大きな声で笑う。その豪快な老人達を見詰めるユウヒは、僅かに金色の瞳を瞬かせると、思っていた種族と違う事に小さく眉を上げる。


 会話が途切れたタイミングでまたも動き出す変な人。


「そうかそうか! ならば私とおはなすっ―――!?」


 しかしその動きは即座に隣の女性に止められ、精霊に変な人認定された女性が蹲って震える隣を優雅に一歩前に進み出る女性。


「まったく……。お初にお目にかかりますユウヒ殿、私はハルシャリラ・サルベリスと申します。娘がお世話になった様で、先ずはお礼を言わせていただきます」


「…………シャラハの?」


「ええ、母です」


 彼女の名前はハルシャリラ、ユウヒにとって砂漠の第一異世界人でもあるシャラハの母親であり、ランシュードの妻であり、夫に権威を譲っても尚、王家に重用されている所為で一年の半分を王都で生活しなければならない苦労人である。


 決めていた順番を守らぬ友人を肘鉄一つで沈めた彼女は、何もなかったかのように微笑むと驚くユウヒに対して優雅に笑う。


「シャラハのお姉さんではないんですね……ずいぶん若くてきれいなお母さんで驚きました。あ、初めまして魔法使いらしいユウヒです。シャラハさんにはお世話になりました」


「……ふ、ふふふふ」


 しかしユウヒの口から飛び出た言葉を聞いた瞬間目を見開き、驚いて隠し損ねた口元を歪ませる。


「褒められて嬉しそうじゃな」


 慌てて扇で隠した口元に現れたのは純粋な喜びによる歪み、軽んじられたと怒ったわけではなく、ユウヒの言葉が想定外で嬉しかった故に現れた、心からの笑みと恥ずかしさによる歪みである。


 事実、老人に突っ込まれる彼女が扇で隠す頬は薄っすら桃色に色付いていた。


「王都で此奴を知らぬ者はおらんからな、仕方ないのぅ」


「子供も裸足で逃げ出すでな、下手に褒めたら半殺しじゃろうて」


「おだまり!!」


「ひゅっ! こわやこわや、寿命が縮むわい」


 ハルシャリラはトルソラリス王国で有名な貴族である。若い頃から女王に重用され、その武勇は隣国にも轟くほどで、トルソラリス王国に住んでいて彼女の名と顔を知らない者など、名君と名高い現国王をも知らぬ無礼者と並ぶくらいには少ないだろう。


 しかし、その名声の半分は畏怖であり、今でこそ子供を成して性格が多少丸くはなってはいるが、戦場を駆ける彼女の姿を知っている者は、まず彼女を女性として扱わないし、況してや美しいなどと褒めることはない。それは彼女自身の身から出た錆でもあるのだが、それ故に彼女は夫や子供たち以外から、お世辞ならまだしも純粋に褒められることに慣れていない。


 そこに来て飛びだした何も考えていないユウヒの純粋な驚きの言葉は、彼女の心を揺るがすには十分な威力があったようだ。経歴こそ恐るべきものであるが、その本質は友人と雑談に花開かせる町娘とそう大差はない。


「……」


 顔を赤くしながら周囲からのヤジに声を荒げるハルシャリラの横顔を見詰めるユウヒは、持ち前の鋭すぎる勘を光の速度で回転させると全てを察し、やんわり微笑むと彼女を優しく見詰めて頷く。


 彼の周囲には気の強い女性が多く、同時にハルシャリラの様な境遇の女性も多い。それ故に彼女が内に感じている感情も透けて見えたのか……いや、しかし何か致命的に勘違いしていそうな彼は、鋭く睨まれると肩を震わせた。


 その視線にはまるで獲物を狙う猛禽類の様な鋭さがある。


「ユウヒ殿? そんな全てを理解した様なお顔は良くありませんことよ?」


「おっと?」


 口元を隠す扇が震え、怒りなのか羞恥なのか薄めの褐色の肌に赤みが増し、耳まで色の変わったハルシャリラの言葉に、不利を感じたユウヒは視線を逸らす。


 遠回しにデリカシーがないと言われたユウヒが彼女を直視して会話を再開するまでには、さらに十数分の時間が必要であり、蹲っている女性はその様子を生暖かい目で見詰め、必死に笑い声を堪えるのであった。


 尚、老人達は気にせず大笑いした所為で全員が頭を扇で叩かれたが、それでも笑っていたのはどうでも良い話である。



 いかがでしたでしょうか?


 誰かと思えばシャラハのお母さん、彼女達のやり取りにユウヒの心の壁も少しは薄くなったようです。


 目指せ書籍化、応援してもらえたら幸いです。それでは次回もお楽しみに!さようならー

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