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ワールズダスト ~砂の海と星屑の記憶~  作者: Hekuto


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第109話

 修正等完了しましたので投稿します。楽しんでいってね。



 王都の中にあって建物と壁で閉ざされた地域スラム街、その中でも旧スラム街はより内側にある事で風の通りが悪く、日によっては異臭が籠る事がある。


 そんな風通しの悪いスラムの、さらに風通しの悪そうな建物の奥では、煙の中で複数の男達がしかめっ面を浮かべて密談していた。


「その情報はどれだけ正しい」


「それを調べるための計画を練るのが今日の会議だと言っただろ」


 タバコをくゆらせた男の問いに呆れた表情で返事を返すのは、スラムの広場でユウヒの脅威に汗を流していた男、ユウヒより見た目強面の人間しかいないこの場では全く怯えた様子も無く、どこか周囲を下に見るような顔で水を飲んでいる。


「だが事前にどの程度かわからなければ動けない」


 言いたい事は分かる。そう顔を顰めて冷えた水を飲み干した男は口を開く。


「少なくともあの魔物の正体が精霊の変質した姿なのは確かだろう」


「信じられん」


「信じなくても手伝ってもらう」


 何を調べるのか不明であるが、現状判明している事実の情報源はユウヒであろう。魔法使いからの話しであるが故に、ほぼ疑うことなく話す男に、周囲は否定的な表情と言うよりは面倒だと言いたげに顔を顰めている。


「なぜ我々が」


 この一言に彼等の考えの全てが込められていた。


 ここに集まった人間は旧スラムの武力集団を纏める人間達であり、特に徒党を組んで行動しているわけではない。むしろ寝首を掻いて来てもおかしくない相手だろう。


 それでも時には協力しなければいけない時もあり、まさにそれが今であると考えている男は、顔の皺を深めるように顰めると大きく溜息を吐く。その溜息一つで周囲に立っている厳つい男達は殺気立つ。


「スラムで生きていくためだろうが」


「教会に喧嘩を売るつもりか」


「向こうが喧嘩を売って来たかの調査だ。偶発的な事故であっても警戒網の構築は必要だ」


 どうやら男の提案は教会の調査の様だが、大半の人間は教会相手に下手な手は打ちたくないと言いたげに顔を顰め、それだけで教会の影響力が一般人に対してどれだけ大きいかが分かる。国と比較すれば見劣りする教会と言う組織も、一般人やスラムの人間からすると相手にしたくない厄介な者達の様だ。


 それでも、厄介だからこそ今のうちに手を打つ必要があるという言葉に、男達は視線を逸らしたり酒を飲み始めたりと否定的である。


「……滅多に起きるような事態じゃないだろ、起きた時に考えればいい」


「広場の惨状は見てないのか? 魔法使いが居なければ、スラムは無くなっていたのだぞ」


「魔法使いでないと対処できない様なやつを相手にしていられるか」


 酒を飲み煙をふかす男達の反論も分からないことはない。彼らスラムを根城にする者達は基本的に警戒心が人一番高い、悪く言えば臆病な人間だ。危険から逃げるのは動物的本能であろう。


「……話にならんな」


 しかし時には噛みつくなり、危険を冒してでも敵の様子を調べないと、本当の危険が今どこにいるのかすらわからない。その危険の兆候に備えようというボスの言葉は彼らに届かない様で、それは所詮この場に居合わせた人間に上下関係が無いからであった。





 スラムに溜まる者達も、圧倒的権力者から命令されれば機敏に動くであろうが、権力者とは嫌われるか胡麻を擦られるかに二分されるものである。


「おうさまとかいだんですか」


 そしてユウヒは権力者と言うのがあまり好きではない。権力者と書いて面倒事と読んでいる節すらありそうなユウヒは、酷く嫌そうな表情で抑揚のない声を口から垂れ流していた。


「そう嫌そうな顔をするでない……気持ちは分かるが」


「分からないでほしいのだけど……」


 そんなユウヒの正面にはリステラン伯爵夫妻、頼みながらもユウヒの気持ちを理解している夫に対して、妻は理解してほしく無さそうだ。貴族としてイトベティエの言葉は当然と言えば当然なのだが、同時に一般人から見た貴族や王家などそんなものだという意識も彼女にはあり、何とも言えない表情で溜息を洩らしている。


 尚、夫はフトモモを妻に抓られ苦笑いしながらもどこか嬉しそうだ。


「今日だってどれだけ胃が痛かったか……しかしユウヒ殿、悪い事ばかりではないのだ。私的な会談故、あほな貴族が同席することもない」


「んー……」


 ユウヒの気持ちを理解しているブレンブの言葉に悩まし気に唸るユウヒ。


 ブレンブもまた懸命に妥協点を模索して来たようで、抓られた場所を撫でる彼の顔はげっそりとしており、輪郭こそいつもと変わらない曲線であるが、数キロ痩せたような印象をユウヒに感じさせた。


「陛下は好奇心が強いので、どうしても会ってみたいと駄々を捏ね……無理をですね」


「めんどくさいタイプかぁ」


「まぁ……そうだな」


 割と自国の王様に対して辛辣な物言いの夫婦であるが、上位の貴族ほど大体そんな感想を国王に持っているので間違いではない。


 ユウヒも勘の良さから国王の為人を察して溜息を洩らす。なぜならこの手の面倒なタイプは自分の欲求の為に平気で権力を行使する……より前に、自分勝手に独断先行して周囲を振り回し、予期せず無用な被害を生み出すのだ。


 そういう意味ではユウヒも人の事は言えず、ぐるぐると頭の中で考え込む姿に周囲の精霊達はどこか呆れた様に瞬く。しかし彼女達も似たようなものなので五十歩百歩な団栗の背比べと言ったところだ。


「昔からそうなんです」


「先進的故に良い面もあるのだが、最悪城を抜け出してここに来てしまう可能性もあるからな」


 城を抜け出すという言葉に嫌そうな表情を浮かべるユウヒ。


 自由人の気質がある国王であるが、その結果はそう悪いモノではないらしく、国民には少し変わった王様程度に思われているだけで割と人気は高く、高位の貴族からもそれほど悪感情は抱かれていない。


 それでも被害を受けた貴族が多い事も事実であり、敵がいないわけではない。


「それはまた破天荒な王様だ。礼儀なんて知らないし、身の危険には最大限対応させてもらうけど良いよね?」


 そんな王様が突然目の前に現れるよりはまだマシかと眉を顰めるユウヒは、確認するようにブレンブに問いかける。その言葉は良いよねと確認しつつも、ユウヒにとってほぼ決定事項であろう。


「あまり良くは無いが、私的と言ってきているからな、そこまで礼儀を気にする必要もあるまい。況してやユウヒ殿は十分礼儀正しいわけだからな」


「そうかな?」


「ええ、いつも通りで問題ないかと」


 何時でも逃げられる準備をしておかないといけないなどと考えているユウヒであるが、その立ち居振る舞いに問題はないというブレンブ。自信なさげに首を傾げるユウヒであるが、イトベティエも同様に問題ないと話す。


 そもそもユウヒは冒険者である。トルソラリス王国に、冒険者相手に礼節を求める貴族は暴君か馬鹿であるという諺があるくらいには、冒険者は粗暴で当たり前の職業である。そんな諺があるからか、冒険者になる人間はそれなりに礼儀正しくしようとする者も少なくはないが、貴族や王族の礼節とは一般人が考えるそれとはまったく違うものだ。


「あほな貴族がでしゃばると難癖をつけてくるが、陛下なら問題あるまい。貴族文化嫌いだからな、あのお方は」


 揚げ足取りをしていないと死んでしまうような木っ端貴族と違い、国の長である国王は、元々の気質も相まって冒険者相手にそんな礼節を求める事は無い様だ。


「それで、本題の説明は何時になりそうなの?」


 王様と会う事が決定事項となっている事に対して諦めることにしたユウヒは、気持ちを入れ替えるように問いかける。そもそもユウヒがこの場に滞在している理由は宝玉に関する説明の為であり、それさえ完了してしまえばトルソラリス王国の王都に滞在し続ける理由は無いのだ。


 正確にはその後また国からの報酬の受け渡しなどがあるのだが、ユウヒは努めて考えないようにして居る。自主的ストレス管理は社畜の必須技能なのだ。


「陛下との会談後にと言う話になっています。……本当ならもっと早くに説明会を行う予定だったんですが、第二室が粘りまして」


「あちこちから追い出された偏屈が集まる研究室だからな、陛下は面白がっているが扱いが面倒なのだ」


「扱いが……」


 扱いが面倒と言う二人の困ったような表情に既視感を感じるユウヒ。


 彼の頭の中には、両親を前にして表情が歪む日本の某大臣の姿や、引き攣った表情でとある傭兵団と握手を交わす某国のお偉いさんの姿が過ぎ去っていく。また友人たちの影響力の大きさに周囲の人間がドン引きする姿や、自分を前にした大人が引き攣った笑みを浮かべる光景が鮮明に浮かび上がり、自分の立ち位置もそっち側だなと、どこか遠い目で暗い窓の外を見詰めてしまう。


 暗くなった王都の空には明るい星が僅かに見える。


「陛下との会談もなるべく手短にとは伝えてある。承諾してもらえるかは約束できないがな」


 ユウヒが急に遠い目で窓の外を見詰め始めたことに顔を見合わせるリステラン夫妻は、気休めの言葉を口にするも、笑みを浮かべて返事を返すユウヒの心はどこか遠くに旅立っていた。


 所謂、現実逃避である。





 ユウヒは溜息を洩らす。自らの服装に視線を落とし、その視線を上げてゆっくりと天井へと向ける。


「うーん、圧倒的場違い感」


 床から天井まで見上げる場所に陰った場所は一つも無く、大量の明かりによって明るく照らされた通路は煌びやかに彩られているが、統一感があって下品ではない。少なくともユウヒの目にはそう映るようで、落ち着いた茶と黄とオレンジのモザイクタイル、その上を歩きながら自分の姿との不釣り合い感に思わず呟く。


「ユウヒ殿の服装なら問題ないだろう。それに正式な謁見でもない、服装などそう気にはせん」


「これ以外に服は持ってないからな……臭くは無いな」


 ユウヒが歩いているのは王宮の奥に続く通路であり、多くの人間が利用する大広間などに続く通路とは違い、利用できる人間はそう多くない静かな通路。奥まっている事で外からの光は入らないが、その代わり魔道具によって明るく照らされる通路を先導するのは、いつもより少し着飾ったブレンブである。


 そんな通路を歩くユウヒが服の匂いを気にしている事にブレンブは苦笑を洩らす。


「ふん、宮廷貴族の方が臭いぐらいだ。……いや匂いがしなさすぎるくらいだな」


 水と言うものが貴重なトルソラリス王国、ブレンブほどの家格になれば当然のように家にある入浴施設であるが、下級貴族ともなれば毎日入れるようなものではない。特に土地を持たず王都に住んでいる貴族はどうしても匂いが気になり、結果濃い匂いの香水や香を焚いて体臭を誤魔化すものだ。


 それと違ってユウヒからは臭いらしい匂いを感じられず、今更ながらその事に気が付いたブレンブは訝し気にユウヒを見詰める。


「そうなんだ……臭いって香水とか?」


 思わず鼻を鳴らすブレンブに目を向けながら、自分の体臭を嗅ぐように腕を上げて二の腕で辺りに鼻を埋めるユウヒは、遠い昔に歴史の授業で聞いた内容を思い浮かべながら問いかける。


「宮廷貴族とは言え金のない奴も居る。そうなると正装なぞ何着も持てはせん、そうなると匂いがな……」


「なるほど、体臭消しか」


 お風呂に入れない、それもまた理由であるが貴族は何かと金がかかる生き物。王家から給金を貰う宮廷で働くような貴族もそれほど豪華な生活とはいかない様で、働くための服も拘ればそう多く買える物では無い様だ。


「消臭の妙薬は高いからな、代わりに強い香りを付けているのだ」


「……高いのか」


 消臭の妙薬と言う言葉に目を輝かせるユウヒは、その名前から考えられる物を想像し、高いと言う言葉に表情を引き締める。


 今は多額の報酬で金持ちなユウヒであるが、そんなお金も形あるものであり、何時無くなるか分からない。そんな時の為に売れるものを知っておくことは大事であり、香水が高いと言う言葉をしっかりと心に書き留める。


 急に静かになったユウヒに訝し気な視線を向けていたブレンブが足を止め、その気配にユウヒも顔を上げて目の前に現れた大きな扉に目向けた。


「ここだな、中で待っていてくれすぐに陛下が来られるはず―――」


 目的の部屋、そう話すブレンブが話し終えるより早く、大きな両開きの扉が勢いよく内側に開かれ、中から外の光に照らされた人影が一歩前に進み、左右では慌てた兵士がすっころぶ。


「よく来た! お主がユウヒ殿だな?」


 現れたのはトルソラリス王国の国王、一人は転倒しもう一人の兵士は慌てて国王が前に進み出ないように抑え、よく見ると日の光が入る明るい部屋の中では宰相が頭を抱えて深い溜息を洩らしている。


「陛下!?」


「ん?」


 驚くブレンブの言葉に目を見開くユウヒは、突然現れた人物が何者か察すると、瞬間的に相手を比較的マシな相手だと認識し、同時に面倒なタイプであることを再認識と再評価するのだった。


 周囲から集まる視線に目を丸く開いたまま小さく溜息を洩らすユウヒは、好意的な国王の視線に同じ世界のどこかの王族の姿を思い出す。その姿を思い出したユウヒは、そんなに悪い状況にはならななそうだと感じて営業スマイルを浮かべるのだった。



 いかがでしたでしょうか?


 ユウヒの前に国王が現れた!


 目指せ書籍化、応援してもらえたら幸いです。それでは次回もお楽しみに!さようならー

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