第103話
修正等完了しましたので投稿します。楽しんでいってね。
冒険者組合に依頼完了報告を行ったユウヒが持ってきた半木が、その内容でちょっとした騒動を起こしている頃、
「ユウヒ殿が?」
「はい、依頼の関係で作った物だと馬車庫の遺物と一緒に置いております」
王都リステラン伯爵邸でもちょっとした問題を起こしていた。
その問題の原因は、出かける時には持っていなかった木製の便利カートに載せても持ち帰った謎の短い柱。精霊用メディカルポッドと命名した重い柱は、万が一のことを考えてウォーターアブソーブを起動させたバイクの側に置かれた様だ。
「詳しくは話してくれなかったのですか?」
「いえその、私では話が難しく理解が出来ないと言いますか……精霊のめでぃかるぽっどと言われてましたが、精霊の治療だとかで必要とかで」
「……また魔道具か」
しかしその謎の柱がどういったものか、ユウヒの説明を受けてもメイドには理解出来なかったようで、報告を受けたブレンブは自らの知識からユウヒの持ち込んだと物を魔道具だと推察する。
ユウヒが作って精霊と言う言葉が入っている時点で、悩むまでも無くブレンブにはそうとしか考えられなかったと言うのが正しい。
「ユウヒ様の魔道具ですから、ただの置物と言うわけじゃないでしょうね」
ブレンブの隣に座るイトベティエも同様に魔道具と考えている様で、精霊絡みでユウヒが持って帰って来たと聞いてブレンブの言葉に頷くその表情は好奇心で輝いている。
「……そのめでなんとかについて聞く必要があるか」
「そうですね」
ソファーに仲良く腰掛けるリステラン夫妻、自らの膝に置かれた手の動きに顔を上げるブレンブは、深刻そうな声とは違う嬉しそうな表情を浮かべる妻の姿に小さく呆れ顔を浮かべると、ため息交じりにユウヒと話す必要があると呟く。
そんな呟きに返事を返すいつもより声色の高い妻に、何とも言えない表情でもう一つ溜息を洩らす。危機感より好奇心、そんな表情にときめく自分に少し呆れてしまったようだ。
「ほーん、そらまた酷い話だな」
リステラン伯爵家に帰って来て早々に問題を引き起こしているユウヒは、与えられた自室で精霊に囲まれていた。
尋問と言いつつ特に無理に聞くことの無いユウヒであるが、精霊達はそんな彼から向けられる生暖かい視線に、申し訳なさそうな様子で身じろぎしながらスラムの精霊について説明しているようだ。
その説明により精霊の暴走理由について詳細を知ったユウヒは、表面上いつもと変わらない様子で精霊と話しているが、内心では精霊暴走の原因となった者達に対して暗い感情が湧き出しており、精霊達の様子がおかしいのはその事も関係していた。
「ん?」
そんなユウヒの暗い感情の所為か、それとも風の精霊の噂の所為か、ユウヒの下に高速で近ずく影があった。ユウヒもその気配に気が付いたのか、キョトンとした顔で天井を見上げる。
<!?!?!?>
「おお、お? あー君は井戸ダイバーな水の精霊か、やっぱり他の子より大きいよね」
天井から勢いよく現れたのは、砂の海で見る一般的な精霊より一回り大きな水の精霊、彼女は以前ユウヒの魔力の補助を受けて、活性魔力の乏しい地下水脈を調査する為に井戸へと飛び込んだ水の精霊。
<っ!……!?>
他の精霊と同じように暇な時間にユウヒの下を訪れていた彼女は、慌てた様に瞬いて何かをユウヒへと伝える。
「え? あぁ助けた子ならメディカルポッド(笑)で寝てると思うよ? どのくらいで治るか分からないけど、寝たら少しは良くなるんじゃないかな? その場にあった物で作ったから品質は何とも言えないけど」
<……>
ほっと息を吐く水の精霊は、ユウヒの手に誘導されて彼の膝の上に着地した。
どうやら彼女は今回保護された水の精霊が心配で飛んで来たらしく、風の精霊にどういう説明をされたのか、ずいぶん焦った様子であったが、今は恨めし気に瞬き後から現れた風の精霊にジト目を幻視する意思をぶつけている。
「心配だったんだね。それにしても教会ってのは怖い所だね? 近付かないようにした方がいんじゃない?」
二人の精霊のやり取りに苦笑を洩らすユウヒは、背中に隠れる風の精霊と水の精霊を見下ろしながら困った様に呟く。
どうやら今回の精霊暴走事件には教会と言う者達が関与している様で、砂の海において教会と言えば、大体の者は白き光の精霊教会を思い浮かべ、ユウヒが聞いたのも同様の教会である。
<!!>
「聖域を占拠してるのか、ならこの辺にも小さな聖域作ろうか」
その教会は精霊達にとって重要な聖域を占拠しており、その力を使って様々な奇跡を起こして信者を集めているようだ。精霊信仰が多い砂の海と言う地であるが、それ故に一つの精霊を崇めることは少なく。またどの精霊を崇めているのか不明瞭な白き光の精霊教会は、各地に拠点を置きながらも、国の政に直接口出し出来るほどの規模でもない。
しかし起こす奇跡は本物であり、王家に食い込めずとも貴族には一定の影響力を持っている為、何かと面倒な宗教施設と言う事もあって、占有地はちょっとした治外法権が適応されている。
≪!!≫
だがユウヒにとってその影響力など意味はなく、精霊にとって困った存在である教会に何か配慮する必要はない。ユウヒの思い付きに精霊は歓声を上げた。
「条件は活性化魔力の集中と豊かさと守りってところだろ? 人が来なさそうなところに小さな休憩所みたいに作れば行けるんじゃないかな? スタールの森にも作ったし、もう一つも二つも変わらないよね……」
予期せずスタールの森に聖域を作ってしまったユウヒは、今更一つも二つも変わらないとどこか投げやりに呟くが、その目は遠い場所を見詰めている。要は現実逃避、しかし精霊にとって重要な場所であると言う事は、世界にとっても必要な場所であることは事実。
<……>
「……君らにとってもこの砂の海の状況はどう考えても良くないだろ? アミールが不安定過ぎる環境だって言ってたし。精霊の皆には頑張ってもらいたいけど、先ずは頑張れるパワーが無いとね」
キラキラと輝く精霊達に目を向けるユウヒは、黄金の髪を靡かせる女神の姿を思い浮かべ、その一助になるなら多少の苦労など苦労にうちには入らないと言った笑みで膝の上の精霊を撫でる。
同時に、社畜時代に頑張れなくなった同僚や後輩達の姿も脳裏を通り過ぎていく。精霊達の現状に、かつての後輩たちを重ねて見ている彼には、頑張りたくても頑張れないと言う不幸が良く理解出来るようだ。
「それに、環境が安定化して行けばアミールとも連絡できるかもしれない。連絡が取れる場所もあるとは聞いてるけど、まったく出来そうにないからなぁ……無いなら作るしかないじゃん?」
また精霊の活動の活性化によって砂の海が安定化して行けば、未だ一度も連絡が取れていないアミールと話が出来るようになる可能性が出てくる。ユウヒ任せの危険物調査であるが、相談できる相手が居るのと居ないのとではその精度は格段に変わるのは当然で、気持ちも幾分楽になると言うものだ。
そう言ったいくつもの思惑もあって、聖域を作る事を決めたユウヒの耳に扉をノックする音が聞こえた。
「……はぁい?」
来客の知らせに思考の海から顔を上げたユウヒは、ノックに対して返事を返すとベッドから立ち上がる。
ユウヒの部屋に訪れたのはリステラン伯爵家のメイド、魔道具の件について話を聞きたいブレンブはユウヒをお茶に誘ったようだ。昼食には遅く、しか夕食にはまだ早い時間、貴族は大抵、休憩や小腹を満たすためにお茶の席を設ける。
ユウヒが呼ばれたお茶の席にも、すっとした香りのお茶や甘い果物の砂糖漬けなどが並べられているが、席を囲む人間の雰囲気はそれほど良いものではない。
「……うーむ」
「……それは、事実なのでしょうか? 確かに王都の教会施設には精霊が集まると言う話は知っていますが」
原因はユウヒから聞かされた思わぬ事件の真相、メディカルポッドと言う謎の魔道具について聞きたかっただけであったリステラン伯爵夫妻は、その魔道具を作る原因となった暴走精霊の話に思わず顔を見合わせる。
「しかし精霊を捕獲しているなど」
教会では精霊を捕獲してその力を利用している。それが精霊暴走の原因、そう聞かされてすんなり納得できる人間など、トルソラリス王国にはいないだろう。何せ相手は精霊、人の力でどうにかできる相手ではない。
「王都には数人の魔法使いが滞在していますが、彼等からもそんな話は……」
「なるほど、そのへんどうなの?」
魔法使いであればそう言った事も可能かもしれないが、教会の人間は大半が一般人であり、魔法使いが所属しているわけではないので精霊から自由を奪えるとは思えない。
また、トルソラリス王国には数人の魔法使いが住んでいるのだ。もし精霊に危害を加えられているとするなら、彼らが行動を起こさないわけがない。
<!!><……!><?><……><…………>
「……なるほど、意思疎通の問題かな?」
「意思の疎通……」
しかし残念なことに精霊の声が聞こえても、王都に住む魔法使いにはユウヒの様にその言葉の詳しい意味までは理解出来なかったようだ。砂の海に住む人々からすれば魔法使いと一括りにされても、その能力には個々に大きな違いがある。
より正しくは、ユウヒが左目に受けた精霊の加護、その親和性が異常すぎるだけであるが、その事を正しく理解出来る者はこの場には居ない。ユウヒ自身も全く理解していないが、その原因は半分くらいアミール、ひいてはその先輩の責任である。
「精霊は助けを求めていたようだけど、その内容を理解出来た魔法使いはいない様だ。漠然と助けてほしいと言う事は伝わっていたみたいだけど」
そのうち理解出来る日が来るのか来ないのか、便利だなと言う感想だけで特に気にもしていないユウヒ曰く、精霊は魔法使いに助けを求めて動いてもらってはいたようだが、それでも正しく状況を説明できない事で成果は何も出ていなかったという。
そこに現れたのがユウヒ、これ幸いと精霊は飛びつき願いを達成してもらい拍手喝采。しかし、あまりに都合よく使いすぎではないかと、精霊の間でも今回の行動は問題視されているが、それはまた別の話であって人が知る必要がない問題である。
「そう言えば、魔法使いが何か異変が起きていないか情報を求めていると言う話を聞きました。まさかそれが?」
「ふむ、私も今日会った貴族から変な事は無かったかと聞かれたな、水害がひどすぎてそれ以外は分からんと答えたが」
ユウヒの話を聞いて思い出して見れば今日だけでもそれらしい話を聞いたのを思い出すイトベティエとブレンブ。どうやら何でもない会話の中に改めて考えると違和感のある問いかけがあったようだ。
相手になるべく情報を与えず自分の欲する情報を引き出す。情報を扱って富を得る者ならば当然の話術であり、貴族もまた同様である。元商人であるブレンブもまたそう言った話術を持ち合わせているが、事前の情報が無ければ話の中の違和感に気が付けない様だ。
「暴走のタイミングと俺が王都に着たタイミングが丁度良かったみたいですね」
深刻な表情を浮かべているリステラン伯爵夫妻の一方で、ユウヒは虚空を見詰めて苦笑を浮かべている。
彼の視線の先には精霊達がふわふわと浮いており、申し訳なさそうに点滅している。一方で、ユウヒが魔法使いだと聞かされている使用人たちは、興味深そうにユウヒの一挙手一投足を見詰めていた。
「とりあえずメディカルポッドはしばらくそのままで、品質が良くないので数日で動かなくなるかもしれないですけど」
そんな不思議な魔法使いであるユウヒが作ったメディカルポッドは、その場にあった廃材で作ったため品質はあまり良くない様だ。その辺の廃材で魔道具を作れる時点で、神が扱いに困って仕舞い込んでいた合成魔法と言う力がおかしいのだが、それでも材料が悪すぎて消耗品程度の機能しかないようである。
「作り直すことは?」
「出来ますけど、今無理に精霊を起こすのも申し訳ないですし、停止したら話を聞いてみますよ。精霊達も落ち着いてると言ってますし」
申し訳ないと言っては言っているが、今の状態でメディカルポッドを停止させれば精霊にどんな影響を与えるか分からない。
右目と左目の力と魔法を同時に使う事で、物から欲する情報を手に入れられるユウヒは、今もその力を十全に扱い切れているとは言えない。精霊や魔道具の状態を、読み取れた最低限の情報から予測は出来ても、神の力なんてものは根本的に人が扱えるようなものでは無いのだ。
「そうですか……」
「むむむ」
ユウヒの言葉を完全に理解しているわけではないであろう夫妻も、すぐに状況が改善することが無い事は理解している。そして王へ報告する必要がある事項が増えたことも理解した事で頭を痛めるのであった。
いかがでしたでしょうか?
タイミングが良かったのか、それとも何か別の要因か、運が良い事は確かな王都の人々、しかしそれを理解している者は今のところ誰一人として存在しないだろう。
目指せ書籍化、応援してもらえたら幸いです。それでは次回もお楽しみに!さようならー