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ワールズダスト ~砂の海と星屑の記憶~  作者: Hekuto


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第10話

 修正等完了しましたので投稿します。楽しんでいってね。





 早朝から起きた一騒動の後、顔を洗いに行ったかと思うと荷物を持って居なくなったユウヒを心配していたシャラハは、いつの間にか戻って来ていた彼を見つけると出発準備を放り出し小走りで走り寄っていた。


「それで是非本店にも寄ってほしいと言われて……」


「それはご苦労様です」


 逃げられたかと不安を覚えていた彼女は、ユウヒの話を一通り聞いて心の中で胸をなでおろすと、商人を相手にしてきたという彼の話に苦笑を洩らす。彼女も商人と言う相手には色々と経験をしているのか、押しの強い商人と出会ってしまった事に同情すると共に、魔法使いであるユウヒと伝手を持とうとする商人に対して僅かに感心する。


「商人はまぁ大体そんなもんだよな、なんというか利益に対する嗅覚がな」


「そうでなきゃ稼げないだろうさ」


 シャラハは感心しているが、一方でバンストにとって商人なんてものはそんなものだと、どこまでも利益に敏感で追い求めるものだと、アダもその意見には同意らしく出発の準備を終えたらしい馬と一緒に歩いて来た。


「あの、ユウヒさん……その杖はもしや」


 その後ろからはチルも姿を現し、砂岩のベッドがあったはずの何もない場所から目を離すと、すっかり準備を終えたユウヒに駆け寄り、彼が手に持つ長い杖をキラキラとした目で見上げる。


「ん? こっちの魔法使いは長い杖を持ってるものだと言うからね、昨日の夜に作ったんだよ」


「はぁ!?」


 昨夜の質問攻めの際、チルから聞いた砂の海におけるステレオタイプな魔法使いの話から杖を作ろうと思い立ったユウヒは見事有り合わせで杖を作り上げ、今もポンチョとバッグのほかに新たな装備として杖を手に持っている。身長より長いその杖に曲がりは無く見様によっては槍のようにも見え、その杖を作ったという言葉にバンストは驚きの声を上げた。


「その、商人から買ったものではないのですか?」


 商人の話をしていたことは離れた場所で耳を澄ませていたチルも知っており、その事からユウヒの持つ杖を買ったばかりの物だと思っていたらしく、同じく買ってきたと思っていたらしいバンストに見詰められるユウヒは、彼女の問いかけに頷くと頬を指先で掻きながら困った様に眉を寄せる。


「自分で使う物は自分で作りたいんだよね」


 自身で使う物にこだわるあまり自作に走るという性格のユウヒ、友人たちからは悪癖とも言われるその性質によって彼のパソコンはネジ一本からこだわった一品であり、ゲーム内でもレディメイドを使ったためしがない。


「わかります! でも、職人の技術に比べると全然なので私の杖は買った物ですが」


「ふぅん? まぁ信頼のおける物なら何でもいいと思うけどね」


「元々作るのが好きってのもあるんだけどね」


 そんな悪癖と言われる自信の性格が他人に受け入れられると思っていなかったユウヒは、肯定的な言葉に思わず表情を明るくすると、キラキラとした表情で見上げてくるチルの話に何度も頷き、アダの言葉にも理解を示す様に無言で頷く。信頼のおける装備も重要だと腰の肩掛けバッグ撫でるユウヒは、出来たばかりの杖を見やすい様にチルの前に差し出す。


「木の根でしょうか? それにしては真っすぐな……」


 差し出された杖を見詰めるチル、彼女の見詰める杖の柄は真っ直ぐであるが表面に捻じったような螺旋模様が浅く掘られており、見た目は枯れた木の根や蔦のようである。しかしそんな材質で紐を引っ張った様に真っ直ぐなものなど早々あるものではない、そこに違和感を覚えるチルは小さく首を傾げた。


「これかい? ワームの外皮だよ」


「……え!?」


 その答えはすぐに頭上から降って来て、答えを教えてくれたユウヒの顔を見上げたチルは、予想もしなかった材料に遅れて驚きの声を洩らす。


「外皮ってぇと、高級革鎧の表面装甲とかだよな? それが杖になるのか?」


「聞いたことないよ」


 ワームの外皮はその特性から加工が比較的容易な割に耐久性が高く、布鎧や革鎧の表面装甲に用いることで矢の貫通を防ぎ槍の一撃を逸らすことが出来る。その為価格はそれなりに高くはなるが費用対効果の高い装備としてベテランに好まれるが、それで杖を作るなど冒険者としての歴が長いバンストもアダも聞いたことが無いようだ。


「ユウヒさんのお国では一般的なのでしょうか?」


「そうじゃないけど、まぁ似たようなものはあるのかな? 今回は材料が手元にこれしかなかったからね」


 聞いたことが無いのは、冒険者としての歴こそ浅いが魔法士としてしっかり学んできたチルも同様で、問いかけに対する返事を聞いて一層混乱を深めていく。


「これが、外皮……うーん」


 本来ならワームの外皮は滑らかな事がその価値を示し、熱加工後も凹凸の少ない滑らかで硬い表面が衝撃を逃がすという特性のおかげで防具に珍重されている。貴族や金持ちの間では着色して建材や馬車の外装にも使われており、ユウヒが持ち込んだ外皮も大きければ大きいほど値段は跳ね上がっていたであろう。


「どうぞ」


「いいんですか!?」


 しかし、指先で触った感触こそ滑らかな質感であるが、ユウヒの持つ杖は皺が寄って捻じれ、蔦や根のような姿をしており一目でそれをワームの外皮だと思う者は少ないだろう。そんな杖を興味深く見詰めるチルは、ユウヒに杖を差し出されると驚いた声を上げて杖とユウヒを見比べる。どうやら杖と言うものは早々他人に貸したり手渡す様なものでは無いようだ。


「別に減るものでもないし」


 しかしそこは砂の海の常識に疎いユウヒ、調べられたからと言って何かが減るわけでもないのだからと、気にせずチルに差し出し、おずおずと手を出して杖を手に取ろうとする彼女の手を片手で取ると落とさないようにしっかり握らせた。


「……え? これすご、え? すごい」


「お前頭悪くなってるぞ?」


 思わず羞恥で叫びそうになるチルであるが、杖を握った瞬間驚愕の表情を浮かべ、両手でしっかりとユウヒの杖を握り直すと、目を白黒させて杖を空に掲げたり体に引き寄せて凝視したり、その口から同じ言葉を洩らし続け、普段の姿からは全く想像できないチルの姿に、バンストは頬を引きつらせると頭が悪くなっていると言いながら後退る。


「だって! 魔力の通りがすごく良いし、あの、この先端は?」


 後退ったのは近寄り辛い雰囲気故か、それとも不用意な事を言った事で殴られることを恐れた故の行動か、しかしそんなバンストの事など今はどうでもいいと言った様子のチルは杖を握る手から魔力を流し、変な抵抗や違和感の無い杖の反応に興奮し始めた。


「ワームの牙だよ、同じワームの素材だから相性が良いみたいだ」


 杖の柄を上下に何度も擦って何かの感触を確かめ、勢いよく見上げてくるチルの姿に苦笑を洩らすユウヒは、彼女が何を気にしているのか理解している様だ。そんな魔法士や魔法使いにしか分からない何かがある杖の先端は、スローターワームの円形に並ぶ歯の中でも特に硬い歯を削りだし、しっかりと杖に接続されびくともしない。


「なるほど、確かにグリーントレントの素材でそろえた杖は高いけど性能が良いと……知り合いに自慢された覚えがあります」


「あーそれはわかる気がするねぇ」


「そんなもんか」


 どうやらスローターワームから採れる素材だけを使った杖は、相性の良さから何かしらの相乗効果を得た様で、ユウヒの言葉に納得するチル曰く、彼女は知り合いに同じように素材を揃えた杖を自慢されたことがあるらしい。どんな記憶なのか悔し気に歪められる彼女の顔を見下ろすアダは、彼女も何か覚えがあるのか小さく何度も頷き、一方でバンストには良くわからない世界の様だ。


「あの、わたくしも……」


「はいはい」


 そんな話を側で静かに聞いていたシャラハは、我慢の限界を超えたのか少し恥ずかしそうに声を出すと何かを求めるように手を持ち上げる。彼女が何を言わんとしているのかすぐに理解したユウヒは、チルから杖を受け取るとそのままシャラハに杖を握らせる。


「これが魔法使いの杖……」


「いや、この辺の魔法使いが使うかわからないけど、それに有り合わせだからなぁ」


 魔法使いの杖と言うものを初めて握ったのか、どこか感慨深げな声を洩らすシャラハであるが、ユウヒは特殊過ぎる魔法使いであり自身もそれは理解しているので、参考にされても困るといった調子で呟くと頭を掻く。何せ有り合わせで作った杖の為、作った本人も納得はしているが満足していないのだ。


「それで作れるのはすごいですわ。何か魔法の補助など力は込められているのでしょうか?」


「シャラハ様、あまりそう言う事は聞かない方が……」


 褒められて悪い気はしないが、彼の中にある職人魂がその感情を抑制してしまう。そんな作品である杖にはいったいどんな特別な力が宿っているのか、多少なりとも魔法の知識に触れた者なら気になる様で、しかしそれはおいそれと聞いて良いものではない。


「そうなんですの?」


「魔法使いは技術を秘匿するものなんで、装備も余りひけらかすやつぁ居ませんぜ? 傭兵なんかも似たようなもので」


 店売りの既製品や量産品であれば店主が公言していようが、魔法使いが自ら拘って作る品物は秘匿技術の塊、おいそれと聞いて良いようなもので無いと言うジェギソンの言葉に、驚いた表情を浮かべるシャラハは顔色を悪くするとユウヒに目を向ける。


「魔法士でも杖の性能を教えるのは嫌がる人が多いです」


 小首を傾げるユウヒの側で頷くチルは、魔法士でも杖の性能を教える事を嫌がる者は少なくないという。その言葉で益々顔色を悪くするシャラハであるが、そこは砂の海の常識が通用しないユウヒ。


「へぇー? まぁこれは収束と耐久性がメインだけど、どっちかと言うと魔法より殴る用かな?」


「「「え?」」」


 大して関心も無い声を洩らすと、何でもない事のように杖の性能を説明する。素材に眠っていた収束と言う特性を引き出す事に成功したユウヒは、魔法の為に作ったというよりも殴る為にも使える実に乱暴な杖を作ったという。そんなユウヒの説明に、その性能以前に何でもない事のように話す彼の姿に驚くのはチルとシャラハとジェギソン。


「やっぱり、ユウヒ殿は戦士なんだね?」


 一方で面白そうに笑みを浮かべるバンストの隣では納得した様にアダが頷き呟く、どうやら彼女はユウヒを観察する中でその動きの中に確かな戦士の気配を感じていたようだ。


「前の獲物は槍でしたけど、ちょっと前に色々あってドカンと木っ端微塵に」


「槍が木端微塵とか、何があったんだよ……」


 バンストも魔法使いユウヒと言うものに違和感を感じていた様で、槍を使っていたという言葉に興味深そうな表情を浮かべるが、木っ端微塵と言う説明に驚くと思わず顔を顰める。


「人なら一瞬で黒焦げになる様な攻撃受けちゃって、避けたは良いものの荷物の大半がね……」


「そらぁ……災難だったな」


 長いものから短めの物まで多々ある槍だが、その槍が木っ端微塵になるような事態が想像できなかったバンスト、しかし魔法使いの戦いを知らないので否定はできないと、心の中で考えを改めた瞬間聞かされる恐ろしい攻撃内容。彼が絞り出した声は僅かに震えている。


「ユウヒさんは近接魔法士の様なタイプと言う事ですか?」


「んーオールラウンダーちょい近接寄りかなぁ?」


 シャラハから杖を受け取るユウヒは、じっと好奇心の炎が消えない瞳で見上げてくるチルの質問に少し悩むと、これまでの事を思い出し何でもできる近接戦闘型だと説明した。実際のところゲームの中も現在も戦う時はソロで戦う事が多く、また彼の戦闘についてくる事が出来る仲間は非常に少ない事もその理由だろう。


「オールラウンダーか、大体が器用貧乏な奴が多いが魔法使いまでなりゃ話は別だな」


「スローターを退けられる万能魔法使いなんて国がほっておかないだろうねぇ」


「面倒事は勘弁してほしいね。こっちも目的がある旅だからな」


 人は嫌いじゃないが一人でいる事の方を好むユウヒは大体の事を一人でせざるを得ない、そんな理由を知らないバンストは楽しそうに笑いながら話し、アダも国が放っておかないだろうと言ってユウヒに気遣わし気な目を向ける。実際にユウヒがその気になれば囲い込みたい人間など五万と居ようが、今のユウヒにはそのどれも邪魔なだけで、彼の言葉にシャラハは困ったように微笑んでいた。


「アタシは何もしないよ、精霊が怒りそうだからね」


 また、ユウヒに悪意を持って手を出そうものなら、彼に嫌われる云々より前に精霊に目を付けられかねない。砂の海と言う精霊には過酷な地であっても、人など足元にも及ばない力を持つのが精霊である。


「お嬢様いけませんよ!」


 その恐ろしさについて、身をもって知ることとなったジェギソンは、物欲しそうな表情でユウヒを見詰めるシャラハに対して強めに注意を促すが、


「ジェギソン? 私を何だと思っているの? どっかのお馬鹿さんみたいに寝込み襲ったりしないわよ」


「うっ……」


 それは藪蛇にしかならなかったらしく、返す言葉で切る伏せられるジェギソンは胸を押さえると苦しげな声を洩らしユウヒに目を向けた。


「一生言われそうだな」


 睨みたくても睨めないと言った絶妙な表情を向けられるユウヒは、かわいそうものを見るような表情で肩を竦め、彼が洩らした言葉で周囲には笑いが広がるのであった。





 一方その頃、とある屋敷の一室では若い男性の前で口ひげを生やした男性が何かの説明を行っていた。早朝の光に照らされる若い男性は、豪奢な椅子に座り険しい表情を浮かべている。


「以上が妨害作戦の結果です」


「結果は良いが、何故スローターを使った? もう少しでシャラハを殺してしまう所ではないか」


 髭を生やした男の説明を聞きながら羊皮紙を睨む若い男性は、手を離せば自然と丸まりそうな羊皮紙を上下に引っ張りながら忌々し気な声で男に問う。


「申し訳ありません。テイマーにもなぜあのような場所にスローターが現れたかわからず、大口用に準備した餌に引き寄せられてしまったようです」


「ちっ! 無能共が……しかしこれでまだまだ時間は稼げるな」


 どうやら彼らの話しぶりから察するに、シャラハを追いかける事となったスローターワームは彼らが用意したものであり、それはシャラハが巨竜山脈の麓に広がる岩砂漠地帯を訪れた理由を妨害する意味があるようだ。しかし彼らはスローターワームほど強力なワームを使うつもりがなかったらしく、またシャラハを殺害する気も無いようである。


「……ただ問題が、スローターを退けた魔法使いが現在シャラハ様とサルベリスに向かっている様で」


「何!? そいつは水の魔法使いか!?」


 何かの時間稼ぎの為にシャラハを襲わせた若い男性は、苦々しい表情を浮かべた男の報告に思わず腰を浮かす。彼らの計画に魔法使い、特に水の魔法使いの存在は絶対にあってはならない存在の様だ。


「いえ、報告によれば土と火ではないかと」


「はぁ……驚かせるな、万が一水の魔法使いであれば全てが無駄になるのだぞ?」


 しかし、何やら色々と調べられているらしいユウヒは、チルの想定と同じように土と火の魔法使いだと思われている様で、その報告を聞いた若い男性は体から力を抜き椅子に全体重を預けるように座り込む。砂の海の住人には多い褐色の肌に癖のある茶色い髪を張り付ける若い男性は、魔法使いと言う言葉を聞き拭き出た汗を拭い男を睨む。


「坊ちゃま、このような回りくどい事せずに婚姻交渉をしてみてはどうなのでしょう?」


「無理だ! 嫌だ! 嫌なのに……あんな金のかかる女出来る事ならば僕だってごめんだ! しかし父上が、ぐぬぬ」


 何が彼にシャラハを襲わせるような暴挙に駆り立てるのか、気遣わし気な表情を浮かべ坊ちゃまと話し出す髭の男に、若い男性は牙を剥き叫ぶように話す。


「……わかりました。引き続きサルベリスへの渇水工作を続けます」


「うむ、頼む……」


 身なりや部屋の様子を見る限りシャラハと同じ貴族であろう男性は、肩で息をしながら椅子に座り直すと、頭を下げる男に何とも言えない複雑な表情を浮かべ短く言葉を残した。その表情は、癇癪を起してすぐに自らの落ち度を認められない少年のようで、端正な身目の青年の中に幼さを感じさせるのであった。



 いかがでしたでしょうか?


 ユウヒの新しい相棒のお披露目で驚きの声が上がる中、何やら不穏なやり取りがなされている様です。この先平穏には行きそうにない気配にユウヒはどう関わっていくのか楽しんで貰えたら幸いです。


 それでは、今日はこの辺で、皆さんの反応が貰えたら良いなと思いつつ、ごきげんよー

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