検査台から愛をこめて
ちょっとだけ変態度が強いため、念のためR15としました。楽しんで読んでいただけたらうれしいです。
今年もこの季節だ。俺はバリウム検査台に立つ。女性の検査技師がコップを渡してくれた。
「発泡剤です。ゲップをしないでくださいね」
これがまず第一の関門だ。胃を膨らませるための発泡剤だが、どうしても俺は我慢できずゲップをしてしまう。意識すればするほど、すぐに「ウェップ」と出てしまうのだ。みんな、どうやって我慢してる?
「ゲフ」
ほら、出た。技師が俺をじっと見る。
「出ちゃいましたね」
笑顔が怖い。またもう一包、薬と水の入った紙コップを渡された。
「今度は我慢してね」
よく見ると中々の美人で胸が大きい。俺だって我慢したいのだけれど、なのだけれど。
「グエェェップ」
また出ちゃった。そんな冷たい眼で俺を見ないでほしい。何かゾクゾクしてきた。あれ、俺って変?
「大丈夫ですよ。もう半分だけ飲みますか」
発泡剤を半分飲んで、とにかく意識しないように頑張る。俺は技師の胸のあたりをじっと見た。
「ではガラスの向こうの方から指示するので、頑張りましょうね」
うん、俺頑張る。この試練に打ち勝って、ボインの技師さんに褒めてもらうんだ。ガラスの向こうからマイクで指示する声が聞こえた。
「はい、では左手の方にあるバリウムを一口飲んでください」
バリウムはX線で胃の形がわかるように飲むドロドロの白い造影剤だ。大きなコップに2杯くらい飲まされていた以前の検査よりはマシだが、それでも中々の試練だ。少しだけ甘い感じがするのが益々嫌だ。でも褒めてもらうために無理矢理一口笑顔で飲む。笑顔で飲むと何か検査にいい影響が出るかというと、勿論ない。
「じゃあ、後に倒します」
検査台が後方に倒れて俺は仰向けに寝た状態になる。
「一周くるりと回ってみましょう」
ううん、あのボインの美人技師さんの指示で一周回ったりすると、それはそれでちょっと興奮するな。俺って変か?
「はい、今度は逆に回ってください」
はあはあ。
「はい、そこで止まって」
はいはい。ひいひい。
「検査台が少し傾きますよ」
うあっ。はひはひ。
「元に戻ります」
うえええっ。
「残りのバリウムを半分飲んでください」
おうおう。はあはあはあ。
俺はハヒハヒいいながら指示通り動いていく。またゲップが出る。
「ゲフッ」
技師がガラスの向こうで俺をにらんだ。
「しっかりしなさい、メッ」
おおう。わかりました。頑張ります。とにかく懸命に検査をやりとげて褒めてもらうんだ。
「残りのバリウム全部飲んじゃってください」
うううううううう。ぐぶぶぶ。
「じゃあ、右手の方の牛丼も一口頬張って」
ムグムグ。
「生卵もかけていいですよ」
はいはい。パカッ、ドロドロ。
「牛丼、全部食べちゃいましょう。」
むぐむぐむぐ、もう食べられない。技師の方をチラリと見る。
「食べてください」
冷たい眼のままもう一度繰り返される。うう。
もぐもぐ、ハアハアハア。
「はい、またそこで3周まわって、それからワンと鳴きましょう」
おうおう。おうおう。おうおう。
「ワン」
「台を倒します。完全に逆さになりますから墜ちないようにしっかりレバー持ってくださいね」
ああああああ。無理だ。ぐぐぐぐ。技師が冷たい眼で叱責する。
「墜ちるな」
うう。
「墜ちたら、最初からですよ」
何ですと。うううううううう。駄目だ。俺は頭から落下した。
午後の診察室、俺は椅子に座って審判の時を待っていた。俺の前には美人で巨乳で美人で何だかSっ気のある検査技師さんと、美人で眼鏡で泣きぼくろがある女医さんが並んで座っている。検査の結果の資料を二人で肩を寄せ合って眺めながら、時折こちらをチラチラと見る。
「ほら…あの。」「ウフフフ、いやだ」「根性無しだし」「フフ、でもちょっと可愛い」
コソコソと話しながら、俺を指さしたりする。俺は心細くなって問いかけた。
「あの…結果はどうだったんでしょう」
「勝手に口を開けない!」「黙ってなさい!」
同時に二人にきつい口調で怒られ、俺は思わず2滴程ちびった。
ようやく女医さんが口を開く。
「フフフフ、発泡剤を二包半とバリウムを人の2倍、それから牛丼を一杯食べたのね」
俺は頷く。
「はい、卵もかけました」
技師が俺のスネをハイヒールで蹴飛ばす。
「ぎゃっ」
「聞かれてないことは言わない!」
あおう。俺は黙って何回も頷いた。
女医さんがじっと俺の目を見て微笑みかける。
「よくわかんないけど、お腹は丈夫のようですね。フフフフフフ」
はああああああん。俺は昇天した。
こんな検査が受けてみたい!…っておかしいですかね?