たこ焼きの味
「たこ焼きは買えたか?」
「ええ、買えたわ」
俺たちは、木陰に入り座っていた。木下がたこ焼きの入ったパックを開ける。すると、美味しそうなソースの香りが俺たちの周りに広がった。
(なんて旨そうなたこ焼きなんだ!さっきまでかき氷とりんご飴しか食べてなかったからな………俺もたこ焼きが食べたい!!)
木下が美味しそうにたこ焼きを頬張る。俺はその様子を羨ましそうに見つめていた。すると、木下は俺の視線に気づいたのか、
「一つあげてもいいわよ」
と言ってきた。俺はもちろん、有難く頂戴することにした。
「ほんとか!?ありがとう!!」
「え、ええ。それじゃあ、あ、あー」
そう言って、木下は少し恥ずかしそうに自分の爪楊枝に刺さっているたこ焼きを俺の口元へと運んできた。
(何故木下まで……俺、自分で食べれるんですけど!!)
仕方ないかと俺は観念して口を開こうとすると、何やら聞き覚えのある声が近づいてきた。
「あー!いた!」
「見つけた。抜け駆けは許さない」
「くっ、良いところで」
(あの二人、どうしてここが分かったんだ?そして、木下は何で少し悔しそうな表情をしているんだ??)
こちらに走って来たのは、トイレの前のベンチで俺を待っているはずの希と竹森さんだった。やはり置いてきたことに少し怒っているようで、二人ともパンパンに頬を膨らませている。
「和樹君!待ってたのに酷い!」
「和樹、何も言わずに居なくなるのは良くないと思うな」
「ごめんなさい」
俺は直ぐ謝った。それはもう、最初から準備してたんじゃないかというくらい直ぐに。
すると、盛大に燃え盛っている二人の火を更に激しくするかの如く、隣でたこ焼きを食べていた木下が油を注いだ。
「仕方ないわ二人とも。彼は私を助けに来てくれたのよ」
(おい木下!そんなこと言ったらまた面倒くさいことになるだろ!それに、俺は偶々お前を助けただけだ!別に助けに行ったわけじゃねえー!!)
「和樹君、それほんとなの?」
「和樹、そんなわけないよね?」
二人からの圧がすごい。ものすごい勢いで詰め寄ってくる二人に、俺は後退るしかなかった。
「いや、偶々だって」
「「ほんとに!?」」
「ほんとだよ!!」
俺の必死の説得にようやく納得した二人は、やっと俺から少し離れてくれた。
「で、木下さんは今和樹に何をしようとしてたの?」
希は本題に入るかのように木下へそう言った。木下は、何故かギクッとしたような表情になっている。
「何のことかしら……」
「何の事って…私には、木下さんが和樹に」
「え?え?何のこと?希は何を言ってるの!?」
希の言葉を遮るように、竹森さんが会話へ入っていった。邪魔をされた希は怒ったらしく、また頬を膨らませている。
「もうっ!美海!邪魔しないでよ!!」
「邪魔って何を?」
「竹森さん、今回だけはお礼を言っておくわ」
「え?何?どうゆうこと??」
そんな三人の様子を眺めていると、後ろから健斗が声をかけてきた。
「よっ和樹!面白いことになってるか?」
「何がよっ和樹だ。何も面白くねえよ。てか、お前があの二人をここへ連れて来たんだろ」
「ご名答!あ、もしかして大事な二人の時間を邪魔しちゃったか?」
「だからそんなんじゃねえって」
「そうかそうか…ってもうこんな時間じゃねえか!」
色々しているうちにかなりの時間が経っていたようだ。時計を確認すると、花火が上がる時間まで残り十分ぐらいとなっていた。
「おーい!そこの三人ー!そろそろ花火上がるから行くぞー!」
健斗が三人に声をかける。場所は健斗が取ってくれているらしい。
(こいつ、こういうとこしっかりしてるよな。部長としての俺の尊厳がこいつのせいで日々失われていっている気がするな)
皆が健斗についていく中、俺が最後尾を歩いていると、何故か木下が寄ってきて俺にたこ焼きを差し出した。
「金城君。さっきあげられなかったから、これあげるわ」
「いや、ありがたいけど……俺、自分で食べられるぞ?」
先ほどと同じように、木下は爪楊枝に刺したたこ焼きを俺の口元へと持ってきていた。たこ焼きは、今にも俺の唇に触れそうなところまで来ている。
「何も言わずに食べて貰えるかしら。じゃないと、この熱々のたこ焼きを貴方の肌につけるわよ」
「な、それは困る」
「なら食べなさい」
「……分かったよ」
こうして、半ば強引にたこ焼きが俺の口の中へ入れられた。
「おい、熱いどころか少し冷たいじゃないか」
「……」
「何で無言なんだよ」
何も言わずに木下は前へ行ってしまった。いったい今のは何だったんだろうか。
木下から貰ったたこ焼きはもう温かくはなかったが、今まで食べてきたたこ焼きの中で一番美味しく感じた気がした。
――これより、花火大会を開催いたします――
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