05.喜びの再会
「……」
「あんたさぁ、いい加減目障りなんだよね」
「彼女でもないのにいつも千紘君の側にいてウザイんだけど?」
「幼馴染だか何だか知らないけど、そろそろどっか行ってくんねぇ?まじで邪魔」
パンを堪能していると、いきなり呼び出されて人気がない場所へと連れ出された。
折角、食事を楽しんでいたのに邪魔されて、かなり不機嫌である。
「マリンちゃんごめんね!でもコイツが千紘と、いっつもベタベタしててさ」
「……」
「マジ、ふざけんなよ?」
それは此方のセリフである。
記憶にもない女子生徒。
初めましての状態で挨拶もなしに暴言とは無礼にも程がある。
「はぁ……」
何故、ラヴィーニアが転生した人物は、こうもトラブルメーカーなのだろうか。
次から次へと煩わしい事この上ない。
マリンと呼ばれた人物は、腕を組み静観していた。
その他の二人は何か意味の分からない事を喋り続けている。
先程のクラスメイトの男子生徒もそうだが、髪色から爪の色から派手である。
化粧も服装も向こうの世界のものとは、大分違うように思えた。
(興味深いわ。同じ服なのに、人によってここまで着こなし方が違うのね)
帰りに本屋とやらに寄ってみようと考えていた時だった。
「聞いてんのかよッ……!?」
此方に飛んできた腕を反射的に掴み取り、引っ張って体勢を崩してから地面に叩きつける。
それを見ていた女子生徒が悲鳴をあげる。
何かを喚いていたが今の自分にとっては、どうでもいい事だった。
「……痛ッ」
「酷いわ!何すんのよっ!」
「先に貴女達がわたくしに手を出してきたんでしょう?」
「!!!」
「ッ!!調子に乗るなよ、このブス」
「……調子に乗るなですって?そんなの此方の台詞だわ」
苛々していた為か元の口調に戻っていた事に気付かなかった。
それを聞いたマリンの手がピクリと動いた。
「貴女達、もういいんじゃない……?」
「でも、マリンちゃん!」
「私、この子と話したいんだけど……いいよね?」
「やばいよ、行こう……!」
「う、うん」
二人の女子生徒が去っていく。
冷たい印象はあるが、マリンはとても美しい少女だった。
マリンを睨みつけていると、彼女が徐に口を開いた。
「間違っていたら、ごめんなさいね」
「……?」
「新しい世界はどうかしら」
「っ!!」
「……ラヴィーニア」
マリンの口から出る言葉に目を見開いた。
「っ、ビアンカ……!?」
「えぇ、そうよ……!直ぐに会えたみたいでよかったわ」
「……良かったわ、本当に」
「隣のクラスで急に性格が変わった子が騒ぎを起こしたって聞いて……後で見にいこうと思ってたの」
「……そう」
「まさかとは思ったけれど、こんなに早く見つけられるなんて!!」
「記憶は?」
「勿論!でも不思議ね……貴女じゃないみたい」
「ふふ、そうね……貴女も以前と逆の見た目だもの」
「とってもクールでしょう?でも、まだ分からない事だらけなの」
「私もよ……でも元の子と性格が違いすぎるみたいで、もう別人ってバレたみたい」
「そう。私は余り喋らないようにしてたけど……あの子達、何のつもりで私を連れてきたのかしら?」
「牽制じゃないかしら?マリンって子、有名みたいじゃない?」
「そうみたいね……今日はスッピンなの?って言われたし、やっぱりメイクしなくちゃダメかしら」
「自分で出来そう?マリン」
「どうかしら……記憶にはあるけど侍女も居ないし、自信はないわ」
「そうね……知識はあっても初めての事ばかりだものね」
向こうの世界には、ないものばかりで心が躍っていた。
魔法に縛られていない自由な世界は、何もかもが輝いて見えた。
「魔法もない、身分もない、それに体も健康!何て最高なのかしら」
「……ね?言ったでしょう?成功するって」
「本当ね、貴女を信じて良かったわ」
若干の不安はあるものの、手に入れた新しい人生。
無事再会出来たことを喜び、二人は手を握りながら笑い合った。




