04.別人
視線を逸らし我関せずな人もいれば、面白そうに此方を見ている人もいる。
すぐさま庇おうとする千紘に静かに首を横に振る。
「……オイッ!なんとか言ってみろよ」
蜜柑は後ろ手で武器になりそうなものを掴む。
けれど、突然ぐっ……と首元を掴まれる。
(……女性に暴力を振るおうとするなんて最低ね)
一瞬だけ苦しそうな表情を浮かべた。
するとニヤリとした男子生徒の力が一瞬弱まった。
ーーーガンッ!!
一瞬で体を引き、体勢を整えてから腹部を蹴り飛ばす。
呻き声と共に、机と椅子に打つかりガラガラと音を立てる。
そして、倒れている男子生徒の隣に座り込んで男子生徒の首元に、周囲には見えないようにシャープペンシルを突きつける。
「……ひっ!!」
怯える男子生徒の耳元で小さく呟く。
「……二度と馬鹿な真似しないで頂戴、分かった?」
コクコクと頷く男子生徒の側から立ち上がり乱れたスカートを直す。
周囲は何が起こったか分からずに困惑しているようだった。
「ちーちゃん、パン買いに行きましょう」
「……」
千紘の手を握り、何事も無かったように歩き出す。
「お前……」
「……」
「…………誰だ」
「貴方の知らない誰かよ」
グッ……と千紘が体を壁に押し付ける。
そのまま押し返そうとするが、逃げられないように腕で塞がれてしまう。
ピタリと体が密着する。
単純な力で千紘に叶うわけもない。
「なぁに?ちーちゃん」
「……説明しろッ」
「奥手かと思ったけど、意外と積極的なのね」
「茶化すな……!ちゃんと答えろ」
怒りが孕む声……さすが蜜柑の事を毎日見ているだけの事はある。
そんな千紘の頬を手のひらで包み込んで唇の横に、そっとキスをする。
「……ッ!?」
「ふふっ……」
「な、にを」
「もう、貴方が好きな蜜柑は居ないの」
「!!」
「ごめんなさいね……でも嫌ならもう関わらないで頂戴」
スルリと力が抜けた千紘の腕の中から抜け出した蜜柑は売店へと歩き出す。
以前の蜜柑とは、かけ離れた態度と言葉遣い。
違和感を持つのは当然の事だろう。
千紘は何かを考え込んでいるように見えた。
*
無事に購買でパンを買えた。
二種類のパンを机の上に並べて見ていた。
先程の出来事のせいか、誰も蜜柑に近づいてくるものは居なかった。
暫く辺りを観察して分かった事だが、焼きそばパンはかぶりついて食べる食べ物のようだ。
焼きそばパンとあんぱんが入っている袋を開けて、中身を取り出す。
まず焼きそばパンを手に取り、遠慮気味に口を開けた。
(おいしい……!)
少々食べ辛いが塩辛い麺とパンが絶妙である。
続いて、あんぱんを指で千切って口に運ぶ。
(……甘い!)
甘いものはあまり好きではないが、このほんのりとした甘さは嫌いではない。
お昼を楽しんでいると凛が戻ってくる。
「……あれ?蜜柑が一人なんて珍しい~」
「………そうかしら?」
「えッ!?それに甘いパンは?惣菜パンなんて……」
「たまにはね」
クスリと笑った。
そんな様子をあんぐり口を開けながら見ていた凛は、再び女子生徒に囲まれていた千紘の元へと向かう。
「千紘っ、ちょっと、蜜柑……っ、話!話がッ!」
「……凛」
千紘がワタワタとする凛と共に輪から抜け出すと、不満そうな女子の声が聞こえる。
人気のない場所へと移動してから千紘に向かって問いかける。
「ッ、何アレ!!」
「俺も……わからない」
「あんなの蜜柑じゃない!!真逆じゃない!!」
「……あぁ」
千紘は凛が去ってから、いつも蜜柑に絡んでくる男子達と揉めたことを話す。
凛は何度も嘘だ、と首を振りながら話を聞いていた。
「……またアイツら蜜柑に!!で、そんな馬鹿共をあの蜜柑がボコボコにしたって言うの!?」
「…………そうだ」
「し、信じられない」
「朝からおかしかったんだ」
「……」
「……」
「別人よね……?」
凛の問いかけに千紘が静かに頷いた。
「……ていうか、千紘!いい加減に女子侍らすのやめてよ!私は彼氏いるから大丈夫だけど、蜜柑は……!一人にするべきじゃないわね!すぐに教室に戻りましょう」
「……あぁ」




