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08.こんな設定は聞いてません


どの対応がラヴィーニアらしいか、正解は分からない。

けれど今のラヴィーニアは蜜柑で、蜜柑がラヴィーニアなのだ。



「大丈夫……?」


「お、お嬢様……!?!?」


「早く片付けましょう、誰かが怪我をしたら大変だわ」


「「「!?!?」」」


「……は、はい!」



柔かに微笑んでいると此方を唖然として見つめている家族の姿……そんな理由も分からずにコテンと首を傾げる。



「……っ、ラヴィちゃん!!」


「やはりウチの娘は天使だったんだ……」


「…………?」



状況が良くわからないが、皆が納得してくれたなら良いだろう。


正直、全く性格が違う別人のフリをするのは、やはりしんどい。

呪われたという都合の良い設定があるのだからシナリオ以外ではラヴィーニアを演じなくても良いのではと思い始めていた。



「……っ痛!!」



割れた食器を片付けていた新入りの侍女が声を上げる。

どうやら破片を拾い上げながら、怪我をしてしまったようだ。


ダラリと流れる血を見て、ミーアが急いで救急箱を取りに行く。


止血した方がいいだろうと、自分のハンカチを持って怪我をした侍女の元へと駆け寄る。



「お嬢様ッ!いけません……ッ汚れてしまいます」


「それより貴女は大丈夫?早く血が止まれば良いけど……」



ハンカチで侍女の血が出ている指を押さえた。

こういう切り傷は、地味に痛いのだ。

ミーアが持ってきた救急箱からガーゼを貰い、止血していたハンカチを取った時だった。



「…………あれ?」



(怪我が、無い……?)


二度見、三度見と侍女が怪我をした場所を何度も確認していた。



「???」


「傷が……何故?」



ハンカチには確かに血が滲んでいる。



「お嬢様、何かなさったのですか?」


「何もしてないわ……」


「でも……怪我が!」



二人の様子に気づいたルドヴィカが此方に近付いてくる。

何が起こったか判らずに困り果てている姿を見て、ルドヴィカは声を上げた。



「…………"光魔法"の痕跡がッ!?」


「何だって!?」


「まさかっ……まさか、あの幻の光属性だと!?」


「光……?」



光属性は天からの贈り物と言われて、今まで見つかった人数が余りにも少ない為、未だに解明されていない魔法の一つである。

主に怪我を治せたり、病を癒したり国に迫る闇を払ったりと、とてつもなく重宝されている。


そんなディエの分かりやすい説明を受けていたのだが……。


(いや、待てよ……)


こんな設定があるなんて聞いていない。

そもそも、ラヴィーニアへの転生も聞いていない。

興奮する家族を他所に、気持ちはどんどんと冷めていた。


(やっぱり飼い犬ジョセフィーヌになりたかったなぁ……)


タイミングよく外でジョセフィーヌがワンっと吠えた。


もう乙女ゲームの世界を充分堪能したので元の世界に帰れないだろうか,

そもそも蜜柑は何がキッカケで此処にいるのだろうか。


もう色々と考えるのが面倒になり、頭の中は真っ白である。


(ああ、宇宙が見える……)



「……あら、ラヴィちゃん?」


「おぉ、大変だ!ラヴィが反応をしなくなったぞ!?」


「光魔法を使った反動かしら……?」


「姉上が属性落ちしなくて本当に……良かった」


「フィンは昔からラヴィちゃんが大好きだものね‥シスコンを通り越してド・シスコンよ」


「…………」


「どんなに冷たくされても、邪険にされても……毎日話しかけて、本当に健気だわ」


「うるっさい!!兎に角、王家に報告するんだろう!?」


「……そうね、面倒な事にならなければいいけど」



現実逃避をしていた為、気付かなかった。

これから更に面倒なことになるとは、この時はまだ思いもしなかったのだった。


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