62.ラヴィーニアside③
「今度は誰を選ぶのかしら……」
無数にある選択肢。
けれどラヴィーニアとビアンカの近くで起こる事は間違いない。
「わたくしの弟も狙われる可能性があるわ……あの子、顔はとても綺麗だから」
「またディーゴの可能性もあるんじゃないかしら?」
「そうかもしれないわね」
そしてエレナはビアンカの予想通り、またディーゴを選んだようだった。
ビアンカはエレナとディーゴが愛を育む様子を、心を押し殺して耐えていた。
それでもやはり、ディーゴが大好きなビアンカは我慢出来ずにエレナの前に立ちはだかった。
その度に落ち込むビアンカを励ましていた。
そんな時、今度はエレナから呼び出しを受けた。
「……何か用かしら」
「アハハ、貴女達の行動が余りにも面白くて」
「…………」
「一つ忠告しておくわ……貴女達に出来る事なんて何もないのよ?何をしても無駄なのよいい加減気づいたら?」
「…………」
「此処は乙女ゲームの世界だもの」
「……ゲーム?」
「あははっ!貴女がどう動いても私の思い通りになるのよ?本当、抵抗して馬鹿みたい……悪役令嬢である貴女達に何も出来る訳ないのに」
「……」
「さっさとディーゴルートを攻略しなくちゃいけないの!また前みたいになりたくなければ、邪魔だけはしないで頂戴。まぁ、無駄だと思うけど」
「…………調子に乗ってんじゃないわよ」
怒りを露わにすると、それを見下すようにエレナは笑った。
言いたい事を言って気が済んだのか、彼女は機嫌良く去っていった。
学園から帰った後、ビアンカを呼び出した。
そして禁書の一ページを開いて、ビアンカに見せた。
「わたくし、この禁術と呪術を使うわ」
「ラヴィーニア、何を考えているの!?禁術なんて使ったら貴女自身どうなるか……!」
「……これ以上、あの女の好きにはさせないわ。それに次はわたくしの弟が狙われるかもしれないもの」
「そんな事をしたら、貴女は……」
「この気持ちを、分かって欲しいとは思わないわ」
「…………でも」
「けれど、これ以上はプライドが許さないッ!!」
「ラヴィーニア……」
「わたくしを侮った事、死ぬほど後悔するがいいわ!!あの女の計画全てを潰してやる……ッ」
背後で轟々と燃える怒りの炎に、もう説得は無理だろうと悟ったビアンカは止める事はしなかった。
そして自分の考えるプランを話していく。
ビアンカは驚き、声も出ないようだった。
「上手く……いくの?」
「どうかしら」
「……そんな」
ビアンカは初めは戸惑っているようだった。
けれど手の平をギュッと握り込み、顔を上げた。
「わたくしも、一緒にやるわ……!」
「!?」
「貴女と一緒なら大丈夫だと思えるもの」
「……ビアンカ」
「これ以上、大好きなお兄様やディーゴが弄ばれるのは見ていられない……!」
「もう、戻れないわよ?」
「いいわ!だって、もう戻ることに飽きたもの」
「……そうね、その通りだわ」
「いつ実行するの……?」
「いつも地面が崩れて過去に戻るでしょう?だからその少し前がいいわ」
「分かったわ……!」
*
複雑な魔法陣を描き上げたビアンカとラヴィーニアはナイフを二本用意する。
「ラヴィーニア……わたくし、やっぱり怖いわ」
「大丈夫よ、ビアンカ……上手くいけば、全てが崩れる」
「えぇ……!」
「必ず成功するわ。何度も確認したもの」
二人は手を繋いで魔法陣へと入る。
ナイフで指を傷つけて、流れた血が魔法陣に吸い込まれていく。
呪文を唱え終わり、静かに息を吐き出す。
「……新しい世界はどんな世界かしら」
「きっと、面白い世界よ」
「ラヴィーニアも、今度は素敵な男性と出会えるといいわね」
「そうね」
「ディーゴより良い男性が見つかればいいけど」
「ビアンカなら大丈夫、わたくしを信じて」
「……貴女を信じてるわ」
「さよなら、ビアンカ」
「さよなら、ラヴィーニア」
「「新しい世界で、また会いましょう」」