60.ラヴィーニアside
「ごめん……ラヴィーニア」
「アルノルド様、わたくしは……」
「すみません……ラヴィーニア様ッ!私が、私がいけないんですっ!!」
「いいんだ、エレナ……全て君を愛してしまった俺が悪いんだ」
仲良く寄り添う自分の婚約者と、赤いチョーカーを首につけてアルノルドに寄り添う金色の髪の少女
(この女の名前、なんだったかしら?)
親同士が決めた結婚……確かにアルノルドが好きな時期もあったが、それももうどうでもいい事だ。
(慰謝料でも貰って何処かでゆっくり暮らしましょう)
これ以上、ラヴィーニアが抵抗したとしても、この二人の恋を更に燃え上げてしまうだけだろう。
「…………さよなら」
溜息を吐いて家に帰った。
これから悠々自適に暮らしていけるのなら、それも悪くないだろう。
家で紅茶を飲んで一息ついている時だった。
突然、地面がぐにゃりと歪んだ。
真っ暗な穴の中に落ちていくような感覚に目を閉じた。
そして、そのまま意識を失ったのだった。
ーーーー目が覚めると、目の前にアルノルドが立っていた。
「……いい加減、説教はよしてくれないか?」
「…………」
「ッ、そういう所がウンザリなんだよ!!!」
何処かで聞いた事のある台詞だと思った。
学園に入る前にアルノルドが自分に言った言葉そのものだった。
そもそも婚約者が居るのに他の女にうつつを抜かす、この男にうんざりしているのは此方の方である。
要領がいいアルノルドは家族に隠れてコソコソと裏切り行為を繰り返す。
アルノルドの母であるエヴァと、ルドヴィカを悲しませてしまう事は避けたいと黙っていたのだ。
そんな事を考えながら辺りを見回した。
(……信じられないわ。まさか、過去に戻ったとでもいうの?)
ラヴィーニアは確認の意味を込めて、アルノルドに何度か質問するが、エレナの存在も学園での出来事も何も覚えていないようだった。
何故、自分の記憶だけ残っているのだろう。
それから何も変化はなく学園に入学して、またエレナが現れて、同じ道を辿ると思っていた。
それなのに何も起こらない。
学園での日々は淡々と過ぎていく。
「ちょっと汚い手でお兄様に触らないでッ!!」
「ごめんなさいっ……ビアンカ様」
「……ビアンカ、やめてくれ」
「ステファノお兄様はどうしてこんな女にッ!!」
「エレナは、エレナは俺の心を救ってくれる唯一の存在なんだ……!」
見覚えのある人物に目を見開いた。
エレナと呼ばれた少女は以前、アルノルドと共に歩むと宣言していたのではなかろうか。
それが小花の髪飾りをつけて、王太子であるステファノに寄り添っていた。
気になって、すぐにエレナを呼び出した。
「……何でしょう?」
「貴女、アルノルドと結婚するんじゃなかったの?」
「あの、何言ってるんですか??ラヴィーニア様。アルノルド様はラヴィーニア様の婚約者じゃないですか」
嘘臭い笑顔を浮かべるエレナに不信感が積み上がっていく。
「……貴女は私の前で、確かにアルノルドと歩んで行くと言ったでしょう?」
「……」
「とぼけるのもいい加減にして頂戴」
「はぁ……」
語尾を強めて言うとエレナは面倒臭いのか、髪の毛を指で遊びながら溜息を吐く。
「何これ……?バグ?」
「……」
「取り敢えず、うざいんで話しかけないでもらえます?私……忙しいんで」
まるで話にならなかった。
睨みつけると嘲笑うようにエレナは去っていく。
今度は自分には実質的な被害は無かった為、仕方なく成り行きを見守っていた。
そこにはビアンカを踏み台にしてステファノと笑い合うエレナの姿があった。
そしてまた、ぐにゃりと地面が揺らいだ。
(何が起こっているの……!?)




