06.家族会議中です
家族会議だろうか……。
三人は真剣に話し合っている。
父であるディエは魔法省に務めており、魔法師達を日々支えている。
柔らかな笑顔と親バカな姿からは想像出来ないほどに腹黒く、きっとラヴィーニアがヒロインに対して愚かな行動を取らないのは、ディエの立ち回りの巧さや頭の良さを引き継いだからだろう。
母であるルドヴィカは、この国の中で最も風魔法が得意である為、敬意を込めて"緑の魔女"と呼ばれていた。
国でも優秀な国家魔法師として知られている。
コスタ家は火属性、アルノルドの母であるエヴァは"赤の魔女"と呼ばれている。
ルドヴィカとエヴァはとても仲が良く、その流れでラヴィーニアはアルノルドと婚約したのだった。
ゲームの裏側は、とても面白い。
当事者でなければもっと楽しめたのに、と思わざるを得ない。
そんな事を考えていると、柑橘系の良い香りが部屋中に立ち込める。
侍女のミーアから紅茶を受け取るとコクリと飲み込んだ。
これが噂のラヴィーニアが大好きな紅茶……優しい味の中に渋みがあって少し苦いが、まさかラヴィーニアと同じものを飲めるのは思わなかった。
「ミーア、ありがとう……とても美味しいわ」
「「「……ッ!!?」」」
「…………ッ……恐れ、入ります」
普段から淡々と仕事をこなし、表情一つ動かさないミーアの持っているワゴンがガタリと大きな音を立てた。
珍しく驚きの表情を浮かべている表情を見て首を傾げた。
「……?」
「コレは思ったよりも深刻だわ!!!」
「まるで別人じゃないか……っ!」
「でも記憶はあるようなんです……!確かに姉上は姉上ではないけれど、姉上で間違いないんですよ!!」
フィンが両親に必死に訴えている。
両親も心配そうに此方を見ていた。
「ラヴィ、質問してもいいかい?」
「はい、勿論です」
「一昨年、私がルドヴィカに怒られた理由は?」
「一昨年……?あぁ!娼婦に入れ上げてお母様に半殺しにされた事でしょうか?」
「そうそう……ルドヴィカは暫く口も聞いてくれずに、ラヴィは私に氷のような視線を…………ハッ!!」
父であるディエは頭は良いが、困った女性に滅法弱く、頼まれると断れないのでルドヴィカがいつも目を光らせている。
貴族の中では、ルドヴィカが怖すぎてディエに近付くものはいないが、稀に事情を知らない女性がディエに近付いて来ては誑かして、まんまと罠に掛かり金を搾取される。
そしてルドヴィカに半殺しにされるというルーティンが三年に一度程起こる。
それを考えるとルドヴィカと同様、ラヴィーニアも浮気性を引き寄せるのだろうかと思ってしまう。
「……」
「お父様、何をしているのですか……?」
ディエは何故か受け身のポーズを取って、目を瞑っている。
暫くすると片目を開けて、ラヴィーニアを見て口を押さえた。
「何故だ……!!ラヴィの愛のあるツンが無いッ!!」
「愛の…………アルツン?」
「信じられない……!父上を吹っ飛ばさないなんて」
「……興味深いわ!ここまで人格を変える呪……魔法があるなんて」
「…………あ、あの」
「ラヴィが随分と柔らかくなって……まるで昔に戻ったようだね」
「姉上はきっと、呪……魔法の影響で人格が変わってしまったんだ。だから記憶はあるけれど性格は……」
ここはラヴィーニアの中身は全くの別人である"蜜柑"だと言った方が良いのだろうか。
けれど言ったところで信じてもらえるかどうか。
迷っているうちに話はどんどんと進んでいく。
「おい……!魔法は、魔法はどうなったんだ!?ちゃんと使えるのか!?」
「魔法……」
この国の貴族は魔法が使える。
魔法の強さや珍しさで家柄が決まるといっていい程、魔法が重要視されている世界なのである。