58.違いがありました
今すぐにエレナに怒りをぶつけたかった。
けれど今、エレナを責めたとしても何の解決にもならないだろう。
熱い気持ちを抑えながら必死に聞き返す。
「エレナ様は何故、そんな事を……?」
「はぁ……?」
「エミリー様は大切なお友達ではないんですか?」
「ねぇ……何言ってんの?エミリーはお助けキャラでしょう?邪魔なものを排除する為に動いてもらっただけよ」
「……!」
「便利よね、オトモダチって……」
その言葉があまりにも衝撃的で声が出なかった。
まるで使い捨てのようにエミリーを扱うエレナに対して、胸が張り裂けそうな程に苦しくなった。
「ぁ……」
「あははっ……本当のラヴィーニアにでもなったつもり?」
「……」
「ここは……私が恋愛を楽しむ場所なのよ?」
エレナは当然のように言った。
それは自分が見ている世界とは全く違うような気がした。
皆それぞれ感情があり、この世界に生きて生活をしている。
決して此処はエレナが恋愛をするだけの場所じゃないはずだ。
確かに自分も初めはシナリオ通りに動こうとした。
けれど、ここは乙女ゲームの世界だけれど、自分の動き方が変われば、合わせて周りも変化していく。
そう気付いた時から、もうここは"ゲーム"では無くなったのだ。
何故、同じ転生者であるエレナとラヴィーニアにここまでの差異が生まれてしまったのだろうか。
「それにしても、どうしてエミリーは貴女ばかりを狙ったのかしら……最近はビアンカが嫌いって、ちゃんと言っていたのに」
「狙うって……」
「私は特別な力を授かったの」
「……特別な、力?」
「ウフフ……とても便利な魔法なのよ」
自らの手を掲げたエレナは、うっとりとした様子で言った。
「いつ、特別な力をもらったんですか……?」
「いつだったかしら……フィンルートの時からじゃない?フィンルートの時は火と水属性を持っているんだけど、今回は邪魔者が多いから、きっと神様が授けてくださったんだわ」
アルノルドの時にはエレナは火の魔法を使っていた。
きっとそれは、アルノルドに合わせた属性だったのだろう。
どうやらヒロインが選ぶルートに合わせて、魔法の属性が変わるようだ。
(……闇魔法を使っているのはエレナで間違いない)
エレナはアルノルドが抱えていた闇を引き摺り出し、抑え込んでいる気持ちを掻き立てた。
しかしエミリーはエレナと長く居た事でアルノルドよりも強く影響を受けた。
エミリーの持っていた不信感や感情を増幅させて、ラヴィーニアやビアンカを攻撃させるように促した。
そして今、こうしてラヴィーニアを暗闇に引き引き摺り込み、閉じ込めている。
「……エレナ様は何を目的にしているんですか?」
「目的……?そんなのは隠しキャラのジューリオの為に決まってるじゃない」
「……!」
「ジューリオが出てくるまで、あとはフィンルートだけなのに……」
カリッ……と爪を噛む音と共に、恍惚とした表情は消えてエレナの顔には再び怒りが滲む。
「ジューリオに辿り着くためには、出てるキャラを全てクリアしなきゃいけないのよ?ほんと面倒臭い……」
自分はアルノルドルート、ビアンカはフィンルートしか知らなかった。
エレナの口振りからすると、全ルートを知っていて、クリアした事があるのだろう。
彼女は何回も何回も、この世界をゲームのように繰り返しているのだろうか。
「ふふ……これをクリアしたらジューリオは、私のモノよ?」
「…………」
そんな時、頭の中に一つの疑問が湧き上がる。
エレナはこの世界で何度も違うシナリオをクリアしているのだとして、攻略対象者と結ばれた後、この世界はどうなってしまうのだろう。




