57.翻弄されています
ステファノから貰った髪飾りに触れる。
手首にはジューリオがプレゼントしてくれた薔薇のブレスレット。
ディーゴに貰ったお守りのネックレスが首元にある。
(もしかして髪飾りとブレスレットとネックレスが、親密度が上がった時に貰えるアイテム!?!)
そして、ジューリオが隠しキャラだという事実が、エレナの口から明かされる。
確かによく考えたら、あんな輝くような顔のイケメンがモブな訳ないのだが……爆笑できる状況ではないが、笑ってしまいそうになった、、
怒りに震えているエレナは、どんどんと此方に迫ってくる。
「わ、私……ラヴィーニアが好きで、ルビールートしか知らないんですッ!!」
エレナを納得させるように必死に声を張る。
「そんなバカみたいな言い訳、信じるとでも思ってるの……?」
「本当なんです!」
「逆ハーでも狙っているつもり!?一人のルートをキチンと選んでいる私よりも悪どいわね!!」
「違っ……!」
「ッ、何とか言いなさいよ!!」
胸元を掴むエレナが怖すぎて泣きそうである。
エレナの大きな目に睨まれると怖くて萎縮してしまう。
どうしようかと思考を巡らしているが、答えが見つからない。
「ルート選択時からおかしいと思ってたのよ」
「だから、私は何も……!」
「これだけ物語を引っ掻き回しといてタダで済むと思ってんの!?!」
「……ひっ」
「いい加減にしなさいよッ!!」
エレナが落ち着くまで取り敢えず、様子を見ようと思っていたが、彼女の怒りは収まる気配はない。
暗闇の中では逃げ場もなく、一歩また一歩と後ろに下がるが、それに合わせてエレナも迫ってくる。
鋭い視線を向けたまま、胸元から手を離す。
瞳に光はなく苛立ちと怒りを滲ませている。
「ほんとウザい」
「……っ」
「邪魔ばかりして……」
「それは、フィンルートを知らなくて……!」
「……」
「だから私なりに、助けようと……!」
「それが邪魔だって言ってんのよッ!!!」
「ッ!!」
「アンタのせいでシナリオがめちゃくちゃ……あぁ、あと我儘王女のビアンカ!あの女、フィン様を狙ってんの丸わかりなのよ」
「……!!」
「関係ないくせにシナリオに出しゃばってきて本当許せないわ」
「ビアンカは……っ!」
「仲良しごっこはやめてくれる?それとも悪役令嬢同士、慰め合ってるだけなのかしら?」
「……!!」
エレナは腕を組み、見下しながら笑っている。
「次は、あの女を堕とそうかしら……」
「堕とす……?」
エレナの唇が綺麗な弧を描く。
「よくエミリーから逃げられたわね……ラヴィーニア。でもディーゴが間に合わなかったらヤバかったんじゃない?」
「!?」
エミリーから逃げられた……何故、エレナがエミリーの事を知っているのだろうか。
「アルノルドも使えなかったわ……まぁアイツは最初から期待してなかったけど」
「……!!」
「エミリーはいい感じに仕上がってたでしょう?」
徐々に言葉の意味が分かるのと同時に、怒りが湧いてくる。
何度もラヴィーニアに謝るエミリーの姿を思い出していた。
後悔して、涙して、エミリーは心に傷を負ったのに。
「でもディーゴに連れられて王城に行ってるんでしょう?」
「な、んで……」
「使える駒が無くなって残念だわ。便利だったのに」
心臓がドクドクと音を立てる。
(……何を言ってるの?)
ニタリと笑うエレナの言葉の意味が分からずに呆然としていた。
けれどエレナがエミリーを大切にしてない事だけは、ハッキリと理解できた。