54.後悔しています
「エミリー様がいつからこうなっていったのか、教えて欲しいわ」
「……私がっ、覚えている限りの事をお話しします」
エミリーが体を震わせながら、今までの記憶がある部分を話してくれた。
ラヴィーニアに対しての憎しみで頭がいっぱいになっていった事。
黒いものが徐々に自分自身を締め上げていくような感覚がして、苦しくてたまらなかった事。
学園でラヴィーニアに風魔法を使った事は断片的にしか覚えておらず、もう一人の自分が勝手に動いているような感覚がして、止めようとしても止まらなかった事。
そこから意識が途切れて、気付いた時には王城で拘束されてラヴィーニアに治療を受けていたのだという。
それ以前もアルノルドと同じで、何度か記憶が曖昧になった事があるようだ。
「っ、言い訳に聞こえるかもしれません!!こんな事をした後です!!私の言う事なんて何も信じてもらえないかもしれません……でも、私っ、こんな事……望んでなかったッ」
「……エミリー様」
「本当に、ごめんなさいっ!!」
そう言ってエミリーは深く深く頭を下げる。
そんな彼女の肩に手を置いた。
「大丈夫……?」
「ラヴィーニア、様ッ……ごめん、なさい」
「私は……エミリー様の言葉を信じてます」
「……っ、ぅわぁぁっ」
泣き崩れるエミリーの背をさする。
周囲の魔法師が呆気に取られる中、静かにエミリーを抱きしめていた。
二人の周囲にはキラキラと淡い光が降り注ぐ。
どこからか「聖女だ……」と声が聞こえた。
エミリーは泣き疲れて腕の中で眠ってしまった。
その顔は安心しているように思えた。
まだ取り調べが必要との事で部屋から出た。
部屋の外で心配そうに待っていたフィンとビアンカの姿を見て、思いきり抱きついた。
「姉上……」
「フィン……エミリー様が」
「……うん」
「ッ何でこんな事に……可哀想で見ていられないわ」
「……ラヴィーニア」
望んで傷つけようとしているとは思えなかった。
エミリーの苦しい気持ちは痛いほど伝わって来たからだ。
涙を拭い、王城に来てから見ていないディーゴの姿を探す。
「ディーゴは大丈夫だったのかしら?ちゃんと私を守ってくれたわ」
「うん、姉上の要望はキチンと伝えられたから、ディーゴはあまり怒られなかったって」
「本当……?」
「本当よ!メリーが貴女にとても感謝していたわ。ディーゴを守ってくれてありがとうございます……って」
「良、かった……」
エミリーやディーゴの助けになれたら、これ以上嬉しい事はない。
安心してゆっくりと息を吐き出した瞬間に、視界がぐにゃりと歪んだ。
「姉上ッ!?」
「……ラヴィーニア!!」
体が重くなり、その場に倒れ込んだ。
*
『一つ忠告しておくわ……貴女達に出来る事なんて何もないのよ?』
『……何を言っているの?』
『何をしても無駄なのよ』
『は……?』
『…………いい加減気づいたら?』
『……』
『此処は乙女ゲームの世界だもの』
『……ゲーム?』
『あははっ!貴女がどう動いても私の思い通りになるのよ?本当、抵抗して馬鹿みたい……貴女一人で何も出来る訳ないのに』
『…………』
『我儘王女のビアンカもね……さっさとディーゴルートを攻略しなくちゃ。精々足掻けば?』
『…………』
『邪魔だけはしないでよ……まぁ、無駄だと思うけど』
『……調子に乗ってんじゃないわよ』
(これってラヴィーニア……?けれどラヴィーニアって私で、それにラヴィーニアと話をしている、もう一人って……まさか!?)