52.心が痛みます
その能力のお陰で、この世界で生き残れているのもあるが、それを知ってもラヴィーニアはヘラヘラと笑っていられるだろうか。
(今更……嫌われたくないなんておかしな話だ)
ディーゴの能力を知っているのは、ごく僅かな人だけだ。
人の思考を読めるなど、畏怖の対象にしかならない。
「ディーゴはすごいのね!」
「は…………?」
「トランプに絶対勝てるでしょう?あとは悪い人を捕まられるもの!だからディーゴは影をしているのね」
「……!」
「まるでヒーローみたい!」
ヘラリと笑ったラヴィーニアに恐怖の感情は見えない。
それに嘘もついている様子はない。
(なんで、こんな……)
ラヴィーニアの思考回路は、やはり自分には絶対に理解出来そうになかった。
けれど、それが何よりも嬉しい事は確かだった。
諦めていた事を、こうして平然と受け入れてくれる。
グッと手を握り込んだ。
捨てたはずの感情を分け与えてくれるラヴィーニアが愛おしくもあり、同時に憎らしかった。
そんな彼女は腰が抜けたらしく、擦り傷だらけの肌とボサボサの髪でペタリと座り込んでいた。
「すぐに手当てしよう」
「え……!?きゃっ!」
ボロボロの制服を隠すように上着をかけて、軽々とラヴィーニアを抱き抱える。
初めはバタバタと暴れていたが「落とすぞ?」と言うとピタリと大人しくなった。
恥ずかしいのか、顔を覆っている。
「ディーゴ……お、重いからっ!自分で歩ける」
「別に重くない」
唸るラヴィーニアを無視して歩き出す。
そして誰にもバレないように、馬車へと乗り込んだ。
*
「お前にこんな怪我をさせて、懲罰もんだな……」
ガタガタと揺れる馬車の中、ポツリと本音が溢れた。
自分が居ない時に必ず起こる嫌がらせ。
光魔法を持つラヴィーニアを狙って動いているのは分かっていたが、証拠も掴めないし痕跡も辿れない。
全て煙のように消えてしまう。
目の前にある筈なのに追えない闇魔法に成す術もなかった。
なかなか尻尾を出さない為、わざと護衛から外れていた。
(だから反対だったんだ……ラヴィーニアを囮にするなんて)
少しでも遅れてしまえば、こうなる事は分かっていた。
しかし上からの命令でラヴィーニアを囮に使ったのだ。
目を光らせてはいたが、完全に後手に回ってしまい怪我を負わせてしまった。
命令に逆らえない自分が嫌になる。
けれど、アルノルドよりも酷い症状のエミリーを引っ張り出すことが出来たのは、作戦の成功と言えるだろう。
恐らく、アルノルドの場合は闇魔法を無意識のうちにラヴィーニアの光魔法が浄化した。
今回のエミリーの場合は、ラヴィーニアは触れておらず、光魔法で浄化もしていない。
という事は、闇魔法の痕跡は残ったままだ。
詳しく調べれば大本を引っ張り出せるかもしれない。
けれど、その為に犠牲にしてしまったラヴィーニアに捨てた筈の心が痛んだ。
「ごめん……本当に」
「え……?」
「…………俺のミスだ」
「ディーゴ、怒られるの?あの怖い国王様に……」
「まぁ……そうかもな」
ラヴィーニアに怪我を負わせたのは事実なので、果たして何を言われるのか。
上の理不尽さには、もう慣れてはいるが嫌味の一つや二つで済むことはないだろう。
「私……自分が転んだって言おうか!?」
「はぁ!?」
「それか突風が吹いてきて、それで……小さな葉っぱが沢山飛んできたとか!」
「あのなぁ……そんな怪我で言い訳出来る訳ないだろう。どう見ても風の魔法の痕跡がある。城の魔法師が見たら一発で嘘がバレるぞ」




