46.緊張しているようです
ケーキと飲み物を頼んでから一言二言交わす。
すぐに飲み物が到着して、一口飲み物を飲んだ後、二人の間に沈黙が流れた。
「……」
「……」
珈琲を置いた後、どうすればいいか分からずに焦っていた。
今までこうして令嬢と二人きりでお茶をした事は何度もあるはずなのに、柄にもなく緊張して上手く言葉が出てこないのだ。
第一王子として育ってきた為、取り繕う事は慣れている。
初対面の人とも上手く話せる自信もあった。
そしてラヴィーニアの前でも、いつものように普通に話せると思っていたのだが……。。
フィンにデートと言われ、変に意識してしまい頭が真っ白である。
(いつものように話せばいいだけなのに、何故……)
緊張して固まっていると、いつの間にかラヴィーニアからは見えない席に座っているディーゴに気付く。
フリップボードに書き込まれる指示に従い、ラヴィーニアが好きそうな話題を振りながら、たどたどしくも会話を交わす。
時折ボードに暴言が書き込まれているのを無視しつつ、何とか会話を繋いでいた。
こうしてラヴィーニアと向かい合って会話をするなど、数年前には考えられなかった。
ラヴィーニアを敵視するキッカケは、幼い頃に些細なことで言い争いになった事が原因だった。
いつも彼女に言い負かされていた。
そしてカッとなり手を出そうとしたステファノに、容赦ない平手打ちが飛んだ。
誰にも殴られた事のなかった為、暫く衝撃で動けなかった。
そんなラヴィーニアは叩いた手のひらをハンカチで拭うと、溜息を吐いて去って行った。
このままではプライドが許さないと、悔しくてラヴィーニアに下らない悪戯を仕掛けてみるものの、自分がした事が五倍にも十倍にもなって返ってくるのだ。
悔しそうに顔を歪める姿を見て、ラヴィーニアは鼻で笑うと颯爽と去っていく。
令嬢にやられたともいえずに、結局泣き寝入りするしかなかった。
今までステファノがラヴィーニアに勝てた事は一度も無い。
そんな経緯もあり、婚約の話が出た時に拒絶反応が出て、ついつい余計な事を口走り、父の怒りを買ってしまった。
性格が変わったラヴィーニアについていくことが出来ずに、困惑した気持ちも大きかった。
ノアの件がキッカケで謝罪は出来たものの、今でも嫌われていると思われている。
ラヴィーニアと婚約しなければならないなど、考えられないし憂鬱で仕方がなかった。
(こんな日が来るなんてな……)
目の前には苺のショートケーキに目を輝かせるラヴィーニアの姿。
頬を押さえながら美味しそうにケーキを食べている。
そんな可愛らしい姿を見ていると、見た目は同じでも全く違う人物に見えてくる。
そして自分の前にもフルーツタルトが置かれた。
実は甘いものは得意ではないステファノは、メニューの中にある1番甘くなさそうなフルーツタルトを頼んだのだが、やはり食べる気は起きなかった。
フルーツタルトをどうしようかと悩んでいると、ディーゴがいる方向から音がして見てみると……。
『 これも食べるか? 』
チラリとラヴィーニアを見れば、ステファノとタルトを交互に見ながら、食べないのだろうか……と少し不安気に様子を伺っている。
「良かったら……これも食べるか?」
「……いいんですか?」
ラヴィーニアは嬉しそうにフルーツタルトを受け取った。
ホッと一息吐き出してからディーゴの方を見ると……。
『 鈍感 』 『 ヘタレ 』
と、血文字で悪口が書き込まれていた。




