42.仲直りしてください
「私は国王とステファノ殿下に報告して参ります。フィン様、後は任せます」
そう言ったディーゴは、瞬きをした一瞬で消えてしまった。
「彼は王家の影か……」
「ディーゴは今、姉上の護衛をしているんです」
「護衛……?」
「くれぐれも内密にお願いします」
「ああ、分かった。でもまさか自分が闇魔法の影響を受けていたなんて……本当に信じられない」
アルノルドが自分の手のひらを見て呟いた。
そんな時、フィンがハッと目を見開いた。
「光魔法も感じる……!!姉上、魔法使った!?」
「つ、使うつもりは無かったんだけど、アルノルド様が襲ってくるから逃げるのに必死で……ぎゃあああ、フィンだめぇッ!!」
風で浮かせた椅子やら机が、凄い勢いでアルノルドに向かって飛んでいくのを見て悲鳴を上げた。
アルノルドのすぐ側まで迫る椅子にギュッと目を閉じた。
「危ないな……」
「……ッ!?」
薄っすらと目を開けると、アルノルドはフィンの攻撃を防ぎながら平然としている。
フィンが次々に魔法で飛ばしている椅子を器用に炎で防ぎつつ、綺麗に積み重ねていく。
あまりの迫力に大分前から口がアングリである。
コスタ家は火の魔法を使う家系であり、国の中で一番強い火の魔法を使う。
特に赤の魔女であるエヴァの魔力の威力は凄まじく、一日で国を焼くほどだと言われている。
一属性をとことん極めて公爵の地位にいる珍しいタイプである。
アルノルドの兄も、兄の婚約者も火属性の魔法を使うのだ。
だから風魔法しか持たないラヴィーニアがコスタ家に嫁ぐのは相当なレアケースだったようだ。
制止によりフィンが攻撃をやめると、アルノルドも手を下ろす。
「チッ……」
「フィン……いきなり酷いじゃないか」
「姉上にもしもの事があったら……!!」
「ラヴィ、怖い思いをさせてごめんね」
アルノルドが此方の手を握り、もう片方の腕で腰を抱く。
「ラヴィが僕を闇魔法から救い出してくれたんだね……!」
「無意識、ですけど」
「ありがとう……ラヴィ」
「い、いえ……!」
「今は心がとてもスッキリしているんだ。全部君のお陰だよ」
「ちょっと!気安く姉上に触らないでください!!エヴァ様に言いつけますよッ」
「……それだけは勘弁してくれ」
アルノルドの顔に怯えが滲む。
やはりエヴァが怖いのだろうか……足が生まれたての小鹿のようにガクガクと震えているのが分かる。
そっと手を離すアルノルド。
どうやらエヴァから相当キツイお灸が据えられたようだ。
「……魔力の痕跡があるうちに、王城に向かった方がいいんじゃないですか?」
「そうだね……!フィン、すまないがコスタ家に風魔法で手紙を飛ばしてくれないか?」
「…………。分かりました」
「ありがとう、フィン」
「……いえ」
フィンが少し寂しそうにスッとアルノルドから目を逸らす。
もしかしてフィンは、本当はアルノルドと以前のように仲良くしたいのではないだろうか?
昔からアルノルドを慕っていたフィンにとって、彼と仲違いしたままだと辛いのだろう。
フィンが無理をしてアルノルドを嫌っているように見えた。
「フィン!」
「何ですか、姉上……?」
「っ、あのね……私、またアル様と友達に戻ったの」
「は……!?」
「仲直りしたの!まだ全部は許してないけど、これからは友達として付き合っていこうかなって」
「……え?」
「!!」
「だから無理にとは言わないけど、フィンもアル様と仲良くしてね」
「「…………」」
「……ね?」
アルノルドとフィンは顔を見合わせた後、少しだけ嬉しそうに頷いたのだった。