40.バットエンドがやってきました
狭い部屋の中では逃げ場など限られている。
それよりも、アルノルドは女性に優しい設定ではなかったか‥?
こんなに荒々しい姿は見た事がない。
(ハッ……もしかして、これバッドエンドの流れ!?!)
ラヴィーニアの幸せの為に、アルノルドとヒロインが結ばれるハッピーエンドをループしていたが、過去に一度だけアルノルドルートのバッドエンドを見た事がある。
振り向かないヒロインに知らず知らずのうちに、夢中になっていく。
初めての経験にアルノルド自身もどうしていいのか分からずに戸惑い病んでいく。
ヒロインが拒絶的な態度を取り続けることで、ヤンデレ化するのでは無かったのだろうか。
その粘着質で恐ろしいアルノルドの姿を見ていられなくて、途中で電源を落としたのだった。
早く忘れようとしていた記憶が、今になって蘇る。
(ヒロインじゃないのに……!!何で!?)
そしてヒロインの役回りを何故かラヴィーニアがしているのだが……。
そもそもアルノルドに対して、拒絶的な態度を取り続けた覚えはない。
学園に入ってから全くといっていいほど関わりがなかった筈なのに、どうしてこんな事になってしまったのだろうか。
考えている内に、アルノルドはどんどんと近づいてくる。
画面越しでも怖かったシーンは、現実になると死ぬほど怖いものである。
「ち、近付かないで……っ!!」
「ラヴィ……」
「お、落ち着いて」
「…………僕は、落ち着いてるよ?」
アルノルドの目は虚で挙動不審だ。
とても落ち着いているようには見えない。
武器になりそうなものを探すが、それも見当たらない。
アルノルドに再び掴まれそうになり、ラヴィーニアの喉が引き攣る。
「ひぃ……!」
「……大好きだよ、ラヴィーニア」
アルノルドが手首を握り、抱きしめようとしたその瞬間ーー
「ーー目を覚ましてッ!!」
淡い光が二人を包み込むように満ちていく。
眩しさに目を閉じていたが、何の衝撃もない事に気づいて、恐る恐る瞼を開く。
すると瞳に光が戻ったアルノルドが唖然として此方を見ていた。
「!?」
「え……?」
先程の光は、子犬の怪我を治した時と同じ光だった。
どうやら侍女の怪我を治した時同様、無意識のうちに光魔法が働いたようだった。
アルノルドは何が何だか分からない様子で、周囲を見回して必死で状況を把握しようとしていた。
「???」
「…………アル、ノルド様?」
「えっと、ラヴィ……?」
「ッ!」
「僕は一体……何を」
キョロキョロと辺りを見回して、首を傾げるアルノルド。
まるで憑き物が落ちたようだ。
「僕は次の授業の為に移動しようと思って、それで記憶が途切れて……ラヴィも何してるんだ?」
「何って、アルノルド様が私を呼び出して……」
「僕が君を?母上から君に近付くなと言われているんだ」
「……!」
「こんな狭い所に二人きりはあまり良くないね。早く出よう……!」
互いに手を握ったまま暫く状況が分からずに戸惑っていた。
それに気づいたラヴィーニアがパッ……と手を離す。
二人の間に気不味い空気が流れる。
「何も覚えて、ないんですか……?」
「覚えてないって……何を?」
「私を教室から連れ出して、また婚約してくれって……」
「何それっ!?僕がそう言ったの……?どういう事?」
それは此方のセリフである。
アルノルドは今まで何をしていたのか、何を言ったのかは全く覚えていないようだった。
今までの出来事を話すと、アルノルドは顔を伏せて悲しげに答えた。